株式会社 南光(なんこう)
-長年培った技術を次の世代へつなぐ高齢社員-
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫
- 能力開発制度の改善
- コンテスト入賞企業
- 上限年齢なしの継続雇用(基準あり)〈運用〉
- 賃金・評価制度
- 技能伝承
- 作業環境改善

企業プロフィール
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創業1971(昭和46)年
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本社所在地鹿児島県鹿児島市
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業種金属製品製造業
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事業所数6か所
導入ポイント
- 改定の契機:長年培った技術の伝承への期待
- 本人の希望を重視し、上限年齢なく再雇用〈運用〉
- 制度改定のポイントと狙いを社員に説明
- マンツーマンの指導で技術を伝承
- 改定の効果:技術の伝承、変化する顧客ニーズへの対応
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従業員の状況従業員数 236人 (2023(令和5)年6月現在) / 平均年齢 43.2歳 / 60 歳以上の割合 16.9%(40人) (内訳)60~64歳 26人 65~69歳 13人 70歳以上 1人
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定年制度定年年齢 65歳 / 役職定年 定年で役職は外れる
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 ・希望者全員 ・ 70歳以降は基準該当者を上限年 齢なく雇用〈運用〉
同社における関連情報
企業概要
日本の南の地から光り輝く企業となり、社会へ貢献できる企業を目指すことが社名の由来である株式会社南光は1971(昭和46)年創業の会社で、金属・非鉄金属の加工を始め、セラミックなどの難削材と呼ばれる素材の加工技術を有しており、建築関連・装置関連・プラント関連・自動車関連とあらゆる分野の仕事に関わる企業である。 社員数は236人(うち非正規53人)、年齢構成は60歳未満196人、60歳代前半26人、同年代後半13人、70歳以上1人、平均年齢は43. 2歳、60歳以上の社員は全体の16.9%である。なお、職種は、技術職、技能職、事務職、営業職で構成されている。
鹿児島県、宮崎県の計6工場ではそれぞれが異なった分野の製品を製造しており、同社で一括受注の後、各工場の得意分野(プラント分野、セラミック加工分野、自動車関連分野)を活かして工場間で連携して製作している。

雇用制度改定の背景
■経緯
制度改定以前、同社には高い技術力をもった熟練の高齢社員が多数おり、長く働いてもらうことができれば、それまで培った技術を今後も発揮、若い世代への伝承ができるのではないかという意見が幹部会議で上がっていた。そこで、各事業所に社長自らが出向いて現場の声を確認した。また全社員へのアンケートを行ったところ、高齢社員からは定年後の生活資金や年金の給付年齢引上げ等から「長く働きたい」との声が、技能習得中の若手社員からは「高齢社員の技術をもっと学びたい」との意見が寄せられ、会社と社員の想いが合致していたため、定年年齢を60歳から65歳に引き上げ、65歳以降は希望者全員70歳まで継続雇用する再雇用制度を導入した。
制度改定にあたっては、各事業所で説明会を開催してその狙い(熟練工としての技能伝承とスキルの維持・向上)を伝えた。 あわせて、部門長面談等で個別ヒアリングを実施し、制度改定目的の理解促進に努めた。
■多方面で活躍する高齢社員
制度改正以後、多くの高齢社員が役職者や技術者として活躍している。 同社では現状、役職定年を設定していない。それは現在の役職者が技術力、人間力等を含め社員を牽引している代えがたい存在となっているためである。 会社としては働ける限り働いてほしいと考えている一方、役職者以外のモチベーションに関わってくることから人事考課制度を見直し、社員一人ひとりの評価が可能な制度改定を進めている。
高齢者は若手社員や障害のある社員、外国人技能実習生(以下「若手社員等」という)の指導役としての役割も担っており、マンツーマンで指導している。 一例として、面談により設定したスキルアップ目標の習得度を、円グラフで表したスキルマップを用いて、技術の習得度が一目で分かるように工場内に設置、共有している。このスキルマップを用いて、若手社員等のスキル習得度や目指すべき到達点を確認しながら指導に当たっている。また、母国を離れ、仕事だけでなく、私生活での不安を抱える外国人技能実習生に対しては、食事に誘い相談に乗るなど、仕事以外でも支えている。
なお、高齢社員が作業手順書を作成したことで、当該高齢社員が不在でも作業工程が滞らないように改善がなされた。 現在は作成した作業手順書を若手社員によって動画化する
ことを検討している。

人事管理制度の概要
■評価と処遇
同社の役職は「班長-係長-課長-次長-部長」の役職であり、定年時に役職を外れる。賃金制度の基本給は職能資格制度と連動した年齢給と職能給からなり、月例給は等級表により決定する基本給及び役職手当等の諸手当で構成されている。評価制度については、基本給に反映される能力評価と賞与に反映される業績評価があり、評価の流れは、部門長による「一次評価」と役員による「二次評価」、役員会による「最終評価」を経て決定する。
評価のフィードバックとして目指すべきスキルレベルを上長と社員で相談する。
前述のとおり、人事考課制度の見直しを行っている段階であり、令和3年度より社内プロジェクトチームを発足し、2部門において試験運用を行い、全社展開を推進している。具体的には、厚生労働省の職業能力評価基準をベースにスキルを見える化し、社員の能力把握や評価の給与反映をより明確にすることで従業員のモチベーション向上を図ることを目的としている。
■継続雇用制度
定年は65歳、その後希望者全員を70歳まで継続雇用している。さらに、70歳以降の社員についても本人の希望や勤務状況を鑑み、上限年齢無く継続雇用している。継続雇用後は後進の指導を中心に担当業務に従事する。65歳以降の賃金体系について、基本給については、本人と部門長による面談を経て、部門長による「一次評価」と役員による「最終評価」により決定し、評価に応じて、定年時の支給額から3パーセント程度のアップ・ダウンがある。ダウンの場合は面談において改善点を指摘、研修の受講を促している。昇給については、部門長判断で個別対応調整が行われている。賞与については、正社員と同様の基準で支給している。
高齢従業員戦力化のための工夫
■作業負担の改善
重量のある金属を旋盤へ容易に設置するため、小型のクレーンを設置している。筋力や腰に不安がある高齢社員の腰痛防止、労災防止につながっている。また、旋盤にLED照明を設置することにより、精密な作業にあたる高齢社員の作業を助けている。そのほかにも工場には様々な作業設備の工夫が見られ、こういった設備は外注せず、金属加工を得意とする同社社員で内製している。内製のためのアイデアは高齢社員の長年の経験が活きている。

■社員表彰
社員のモチベーションアップの一環として、社長から社員に対し、表彰を行っている。 優秀キャリアアップやMVP賞など、一人ひとりにフォーカスした賞がある。 その他に永年勤続の賞として入社から10年、20年、30年ごとに賞があり、永年勤続表彰式にて表彰される。
■手厚い面談制度
定年前の社員を対象に上長との個人面談を設けており、現在よりもさらなるスキルアップを目指すようにしている。
継続雇用中の高齢社員も他の正社員同様に3か月に1度、部門長面談を実施しており、期待している役割や技術伝承等の進捗確認をしている。
■長年培った技術力の横展開
定年まで設備の改修や設計等を行ってきた高齢社員が、継続雇用をきっかけに支援部門に異動したことにより、長年培った設備の改修や設計等の技術力を活かした課題の改善や生産性向上が実現した。同時に高齢社員のモチベーションアップにも繋がった。
健康管理・安全衛生・福利厚生
■作業環境の改善
本社第二工場では、空調が整備されており夏場の作業においても作業者の熱中症リスクを低減している。また、空調の設置が難しい工場においては、大型ファンの設置や空調服、クールベストを整備することで熱中症の対策を施している。 その他の熱中症対策として、工場内に冷蔵庫を設置しており、いつでも冷たい飲料で水分補給ができる。
検査工程ではLED照明を個別に設置し、作業の効率化や視力低下のリスクに対応している。
その他、通路に人感センサーで点灯するLED照明の設置、床面のクリーナーを導入することによりで転倒によるケガ防止に取り組んでいる。
■安全衛生
各部門の代表者が出席する安全衛生委員会を開催している。工場内には、防災対策情報板を設置し、地震や火災の際の対応方法、非常口や消火器、非常ベルの場所を示したレイアウト図を掲示することで緊急時の対応に備えている。また個人やグループ単位で考えた創意工夫案を毎月提出してもらうようにしており、評価に応じて会社から報奨金を支給している。
■短時間勤務制度
社員本人がおかれている状況を考慮しながら労働条件を決められるよう短時間勤務制度を導入している。
■健康管理
社員の体力づくりや他の事業所とのコミュニケーションを図る目的で、全社員とその家族が集まる運動会を毎年開催している。高齢社員も参加できるようにグランドゴルフなどの競技も用意されている。
制度改定の効果と今後の課題
長年培った技術力をもつ高齢社員に長く勤めてもらうことは、顧客の変化するニーズに対応するためには大変重要であり、高齢社員の「自分の技術力を伝承したい」という気持ちを実現することは同社にとっても大きなメリットになっている。一方、制度改正によって働ける年齢も上がったが、加齢に伴い持病を抱える社員も多くなるため、定期健康診断で再検査対象になった社員を中心に保健指導等を有効活用し、予防・健康増進を積極的に進めていく必要がある。今後の取り組みとして、日々欠かせない戦力として生産性を上げているベテランの技術者をものづくりの現場から切り離し、将来的には社員の教育や技術の伝承に注力できる体制づくりへの移行を目指している。