株式会社アドスマイル
-高齢者のニーズ、ライフステージに合わせた多様な働き方を支援-
- 70歳以上まで働ける企業
- 戦力化の工夫
- 能力開発制度の改善
- コンテスト入賞企業
- 上限なしの継続雇用(基準あり)〈運用〉
- 配置や勤務時間に配慮
- 柔軟な勤務形態
- 職務創出

企業プロフィール
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創業平成29年(2017年)
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本社所在地奈良県橿原市
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業種飲食店
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事業所数9か所
導入ポイント
- 改定の契機:外食産業界の慢性的な人手不足への対応と職場定着率の向上を図るため
- 上限年齢なしの継続雇用制度の導入
- 個々の希望に応じた柔軟な採用配置と勤務形態
- 高齢者の強みを活かした職務創出
- 改定の効果:人手不足の時間帯(早朝、深夜時間帯)を高齢従業員が戦力として活躍
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従業員の状況従業員数 464人(2023(令和5)年6月現在) / 平均年齢 27.0歳 / 60 歳以上の割合 6.3%(29人) 60~64歳 9人/65~69歳 8人/70歳~ 12人
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定年制度定年年齢 70歳
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 70歳以降は基準該当者を上限年齢 なく雇用〈運用〉
同社における関連情報
企業概要
株式会社アドスマイルは、日本でファーストフード・ハンバーガーレストランチェーンを経営するフランチャイザーの加盟店として、奈良県南部を中心に9店舗を展開。ハンバーガーレストランの運営、デリバリーサービスを提供している。また、職場に集った従業員が年齢を超えて互いに影響し合い自分らしさを発揮する職場を目指すとともに、地域社会とのつながりも重視し、地域の雇用機会の創出に努めている。
従業員数は464人、そのうちパート・アルバイトは451人である。各店舗の従業員数は営業時間、営業形態、売り上げ規模によって異なっているが、60名以上在籍している店舗もある。なお、60歳以上の従業員は29人(6.3%)であり、平均年齢は27歳である。

雇用制度改定の背景
■経緯
外食産業界は慢性的な人手不足であり、同社では、その打開策として高齢者をパート・アルバイトとして積極的に雇用してきた。以前は、学生などがその主流であったが、今は年齢幅も広がり、様々な社会経験をもつ高齢者の人材も集まってきている。 そのような中、有期労働契約から無期労働契約に転換する者(転換後の定年は正社員就業規則に準じて60歳を適用。その後は意欲、健康上に問題がなければ上限年齢なく再雇用。)が年々増えてきたこともあり、無期労働契約に転換したパート・アルバイトの高齢従業員が、安心して長く働ける雇用制度の整備が急務となっていた。
そこで、同社は2020(令和2)年6月に正社員就業規則の定年を60歳から70歳に引き上げるとともに、無期労働契約に転換したパート・アルバイトの高齢従業員も70歳まで働ける仕組みを導入した。
人事管理制度の概要
■タイトルアップ(昇進)による評価制度
雇用形態は、正社員、短時間正社員、勤務地(店舗)限定正社員、パート・アルバイトとなっている。
正社員とパート・アルバイトによってそれぞれ職制を設けている。 正社員は採用後、「マネージャートレーニー」から始まり、「セカンドアシスタントマネージャー(食品管理担当、機器メンテナンス管理)」、「ファーストアシスタントマネージャー(人材育成管理)」となり、最終的に店長として店舗運営の責任者となる。昇格するためには、フランチャイザーのプログラムに則り、課題をクリアすることが必要である。
パート・アルバイトは「トレーニー」から始まり、「クルー」、「トレーナー(トレーニング習得者)」「マネージャー(時間帯責任者)」と昇進を目指していく。昇進するためには、課題をクリアすることが必要であるが、昇進(タイトルアップ)に必要な要件(製造ポジションであればハンバーガーを調理できるようになる等)が一目で分かるように「ロードマップ」を作成しており、人材育成を管理するとともに、働く高齢従業員のモチベーション向上にも繋がっている。マネージャーとして活躍している60歳以上の高齢従業員も各店舗に複数名在籍しており、アルバイト経験が少ない若手従業員に指導を行うなど欠かせない戦力となっている。
■賃金制度
正社員の賃金体系は基本給と諸手当(家族手当、役職手当、その他手当)で構成されており、昇給は年に1回実施されている。 定年後の継続雇用者についても、原則、定年前と同等の賃金体系・処遇である。
パート・アルバイトについては、時給制であり、職種ごとに時給を決定しているが、職種ごとに決められた時給だけではなく、半年に一度、店長が人事評価シートをもとに勤務成績、勤務状況を確認し、良好であれば昇給する。
■安心して働くための雇用支援制度
同社は高齢者の有期労働契約者に特化した無期雇用転換制度を設けている。対象者は平成25年4月1日以降に締結された契約に係る期間が通算5年以内かつ勤続6か月以上で満50歳以上の有期契約労働者で、所属長が推薦し、本人が転換を希望のうえ面接及び筆記試験に合格した場合、無期雇用または正規雇用に転換する。転換後の定年年齢は正社員就業規則に準じて70歳となっており、高齢従業員が安心して働くための選択肢の一つとなっている。
高齢従業員戦力化のための工夫
■個々の希望に応じた採用配置と勤務形態
同社は、年中無休、早朝6時から深夜0時まで営業する店舗や24時間営業の店舗があるため交代シフト勤務制を採用している。
そのため、同社は採用時に応募者本人の健康状態や家庭の事情、希望の業務等をしっかりヒアリングして、週単位または月単位でシフト勤務を組み、本人が希望する時間帯や業務に沿った勤務スケジュールを提供している。これにより、趣味や地域ボランティア活動等との両立を目指しながら働きたい高齢者、副業で夜間だけ働きたい者、介護や子育ての合間に働きたい者などさまざまな人材を確保している。
また、応募者本人が希望する働き方が求人店舗に沿わない場合でも、各店舗の店長同士が定期的にコミュニケーションを取って店舗に必要な人材等の情報共有を行っているため、本人の希望と合致する店舗で採用となったケースもある。
なお、55歳以上のパート・アルバイト従業員には、採用後においても、本人の体力低下や健康状態により、雇用契約時の勤務時間より1日1?3時間の範囲で勤務時間を短縮する対応がとられている。
■未経験の高齢者でも働ける人材育成
店内業務は細かく分業化されており、職場ポジションが確立されている。職場ポジションには、フロントカウンターエリア(レジ担当)、フロアエリア、キッチンエリア、ドライブスルーエリア及びデリバリーがある。 採用後、教育係のトレーナーが、フランチャイザーのトレーニング教材を使用して指導にあたる。特に高齢従業員に対しては、本人の経歴や経験に合わせて仕事ぶりにも目を配り、良い働きをした場合や何かが上達した場合には、すぐ褒める「即時フィードバック」を行うなど未経験者として働く不安の解消に努めている。
■高齢者の強みを活かした職務の創出
高齢従業員の育成方針は、自身の強みや経験を生かして、いきいきと働けるポジションで活躍していただくことであり、前述の職場ポジション以外にも本人の経験や知識を活かした職務を創出している。
例として、植栽の剪定に長けた高齢従業員には、店舗植栽の剪定を任せ、職場の環境美化活動に貢献している。その他にも、モーターバイクの運転経験のある高齢従業員がデリバリー担当の若手従業員の指導役となり、配達エリアとなる生活道路や街中での運転上の注意点について帯同してレクチャーするなどして、労災防止に努めている。

■高齢者の知識・経験を評価
同社が実施している独自の取組みとして、店舗ごとの季節限定商品の販売促進コンテストがある。 同コンテストは、季節限定商品を販売促進するためのアイデアを実行して売上げに貢献できるかを競うもので、売上貢献度の高い店舗や優秀な従業員に対しては報酬もあるため、高齢従業員のモチベーションアップに繋がっている。
過去、同コンテストでベテランの高齢従業員が若手従業員に商品の盛り付け方や来客者に商品を注文してもらうための声掛けの仕方を積極的にアドバイスし、その内容が経験に基づくポイントを捉えていたことが評価され、本人が表彰を受けたことがある。このことは店舗内でのいい刺激となっている。
健康管理・安全衛生・福利厚生
■健康管理の配慮
同社は従業員の採用面接で店長やファーストアシスタントマネージャーが、勤務条件の希望の他、本人から事前に聴取すべき事項は漏れなくヒアリングするようにしている。その際に健康状態の事情を申し出た高齢従業員については、日頃から注意して観察することにしている。そのうえで顔色や体調の変化が見られ、休憩が必要と思われるときは、規定の休憩時間以外でも休むように促している。また、投薬が必要な高齢従業員に対しては、勤務時間中でも投薬を忘れることがないように投薬時間を設けるなど健康管理に配慮している。
■安全衛生対策の工夫
日々の衛生状況は店舗内の温度管理、手洗い管理(ハンバーガー調理担当者は最低1時間に1回以上)、従業員の体調管理においてやることをリスト化した「管理項目リスト」をもとに従業員自身が確認を行う。これにより、マネージャーは、各従業員の管理状況を把握しているが、特に体調不良や手指に切り傷がある従業員には、食品に触れる作業は不可とし、衛生管理を徹底している。
また、店内清掃や整理整頓の工夫については、従業員からも意見を求められているが、高齢従業員ならではの経験から発案されるアイデアは、積極的に取り入れることにしている。例えば、前職での安全衛生の知識や経験を活かし、店内のスペースを適切に空けるレイアウト案が店舗内で採用され、日々の店内清掃や整理整頓作業の時間短縮に効果を上げた店舗もある。
制度改定の効果と今後の課題
高齢従業員は無断欠勤もなく、人手不足の時間帯となる早朝や深夜時間の勤務にも柔軟に対応できる方もおり、安心して仕事を任せられることから、貴重な戦力となっている。今後は、定年を迎えて70歳を超える高齢従業員が増加していくことが考えられることから、本人が希望する勤務形態や健康状態に合わせた職務創出、再雇用年齢の上限設定など70歳以降も高齢従業員が長く安心して働ける制度づくりを検討する必要がある。
また、年代や経験が様々な人材を育成するマネージャーにも相応の経験・知識・リーダーシップが求められることになる。
