本文へ
背景色
文字サイズ

事例検索 CASE SEARCH

株式会社 大津屋

-賃金等の処遇はそのままで、70歳定年制を導入-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • コンテスト入賞企業

下階層のタブがない場合、項目は表示されません

  • 73歳継続雇用を明文化(基準あり)
  • 世代間連携の強化
  • 多様な勤務形態
  • 作業環境改善
株式会社 大津屋のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1963年 (昭和38年)
  • 本社所在地
    福井県福井市
  • 業種
    飲食料品小売業
  • 事業所数

導入ポイント

  • 運用で「73歳までの継続雇用」だったところを就業規則に明文化
  • 全従業員との面談やペア就労による意欲・能力向上の取り組み
  • 最新の機器や調理設備の導入による作業の平準化、機械化を進め従業員の作業負担を軽減
  • 従業員の状況
    従業員数 338人 / 平均年齢 43.6歳 / 60 歳以上の割合 26.0%
  • 定年制度
    定年年齢 70歳
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 定年は70歳で、就業規則により73歳まで継続雇用。その後、運用により上限なし。現在の最高年齢者は76歳
2025年01月01日 現在

同社における関連情報

企業概要

株式会社大津屋は1963(昭和38)年に設立の酒造会社(前身となる会社は1573年創業)であったが、1981(昭和56)年からコンビニエンスストア事業を行い、現在では、福井県内に12店舗を展開している。地元の食材を活かして昔懐かしいを再現する「店内調理」などで、他店との差別化を図りながら業容を拡大してきた。
従業員数338名(正規130名、非正規208名)に占める60歳以上の従業員は88名(約26%)と高齢化が進んできている。採用は、新卒に加え、中途採用も実施しており、毎年、新卒5名程度、中途者10名程度を採用している。

雇用制度改定の背景

■経緯

2019(令和元)年5月までの同社の定年・継続雇用制度は「65歳定年、運用による73歳まで継続雇用(再雇用制度)」であった。65歳の定年年齢に到達した従業員は、希望する者全員を継続雇用する制度である。少子高齢化が進むなか、採用難による人手不足の状況も重なり、長年の仕事経験を持つ高齢従業員が年齢に関わりなく働ける環境整備に迫られており、当時、70歳を超えて継続雇用のもとで活躍している高齢従業員がいたこともあって、実態に即した雇用制度の整備を目的として、2019(令和元)年6月に「70歳定年制」を導入し、運用で行っていた73歳までの継続雇用を就業規則に規定した。

■雇用制度改定の課題と工夫

高齢になると業務知識、能力、経験、体力などに個人差が大きくなることもあるため、70歳定年制導入に対して懐疑的な意見もみられた。そのため、面談、人事評価、店長とのコミュニケーションなどを通じて高齢従業員へのフォローを的確に行うことを従業員に丁寧に説明することで社内の理解を得た。

人事管理制度の概要

■雇用制度改定前

社員格付け制度は、職能資格制度と役職制度からなる。職能資格制度は大きく「総合職」と「一般職」にわかれ、それぞれ6等級から構成される。
新卒採用者、中途採用者とも採用後は一般職の等級に格付けられるが、「総合職社員登用試験制度」(応募資格は、原則として40歳未満の一般職社員)を設け、試験に合格すれば総合職に登用される仕組みになっている。
役職制度は「事務職」と「販売職」とに分けて職制が設けられ、事務職の職制は、「部長・副部長・主任」の3ランク、販売職は、「コーチ・コーディネーター・主任」の3ランクである。販売職のコーチは事務職の部長相当、コーディネーターは店舗の店長クラス、主任は店舗内の部門(例えば、惣菜など)の責任者で、コーディネーターと主任は正社員(一般職)の他にパートタイム社員がつくこともある。

賃金制度について、月例給は「基本給」に、「職務手当」「役職手当」などの諸手当が加わる。基本給は等級別号俸給で、総合職、一般職ごとの等級に対応した賃金表の金額が支給される。昇給は人事評価結果に基づいて号俸が変わる。なお、昇給は定年まである。
賞与の決め方は「基本給×月数×係数」で、月数は会社の業績により、係数は人事評価結果により、それぞれ決められる。
人事評価は、能力評価と業績評価からなるコンピテンシー評価を実施している。能力評価は年1回、業績評価は年2回行われる。能力評価は昇給昇格に、業績評価は賞与にそれぞれ反映される。評価手続きについては、職場責任者による1次評価が行われ、その後、役員または社長による最終評価が行われる。

役職定年は設けていないが、特に店舗では若手従業員に店長の経験を積ませるため、ベテラン従業員は適切なタイミングで店長を外れ、新しく店長に就任した若手従業員のサポート役を担当することもある。
退職金は、継続雇用後も引き続き掛金の積み立てが行われ、退職時に支給される。算定方法は「基本給×係数」であり、係数の決め方は総合職と一般職で異なる。
65歳の定年に到達した従業員は、運用による73歳までの継続雇用(再雇用制度)に切り替わる。継続雇用されるには、原則として人事評価の結果が一定基準を満たしていることを条件としているものの、これまで希望者全員を継続雇用に切り替えている。継続雇用は1年契約である。

継続雇用者の人事制度については、社員格付けは定年時の役職、等級を継続する。役職は外れ、後進の指導を中心にしながら定年時の担当業務に従事する。賃金制度については、正社員の制度が引き続き適用され、水準の見直しも行われない。人事評価制度は正社員の制度が適用される。退職金は、継続雇用の切り替え後も引き続き掛金の積み立てが行われ、継続雇用を終了した際に支給される。勤務時間はフルタイムの他に短時間・短日勤務を選択することができ、その場合の支給額は時間比例で算出される。
また、短時間勤務には、「ナイター社員」(夜間専門スタッフ)、「ハーフ社員」(原則4時間勤務)、「ほっとスタッフ」(自分の就労可能な時間を登録)など多様な形態もあり、これらの働き方を選択する場合、待遇はパートタイム社の待遇(時給制、賞与なし)となり、退職金はパートタイム社員への切り替え時に支給される。

■雇用制度改定後

70歳定年制導入に伴う人事管理制度の見直しは行われず、正社員化した65歳以降の人事管理制度は、65歳未満の正社員の人事管理がそのまま継続される。
継続雇用制度については、73歳までの継続雇用(再雇用)を就業規則に明文化するとともに、運用により73歳を超える継続雇用(再雇用)を実施した。なお、73歳を超える継続雇用の場合には半年ごとの契約更新が行われ、その際には健康面の確認が行われる。人事管理について、それまでの仕事と働き方に変更がない場合は、引き続き同じ賃金制度、人事評価などが継続されるが、退職金については73歳の時点で支給される。

高齢従業員戦力化のための工夫

■高齢従業員の意欲・能力向上のための取組み

同社が実施している高齢従業員の意欲・能力向上のための主な取組みは「全従業員との面談の実施」「高齢従業員と若手従業員のペア就労」「店舗における最新機器導入による作業の標準化」の3点である。同社は、パートタイム社員・アルバイトなどの非正規雇用労働者を含む全従業員との面談を年2回実施しており、高齢従業員もその対象としている。面談ではコンピテンシー評価シートをとに本人の希望・要望の確認、役割および知識の習得度の話し合いが行われている。高齢従業員にとって役割や責任が明確になり、モチベーションの向上につながっている。

高齢従業員と若手従業員のペア就労について、高齢従業員に若手従業員への作業方法や接客マナー等の指導役を担当させ、高齢従業員の業務経験、作業方法、接客マナーを若手従業員に伝承させている。
店舗における最新機器導入による作業の標準化については、AIを活用した惣菜自動会計システム、自動釣銭機など、店舗に最新機器を導入して、作業の平準化を図っている。これによって、作業負担が軽減され、精神的な負担が軽減された。機器の操作が苦手な高齢従業員に対しては時間をかけて操作方法を研修したことにより、高齢従業員が活躍できる場が拡がった。

■作業環境の改善の取組み

同社が販売している惣菜の多くは、大型の調理設備を使っての自社製造である。そのため、調理作業には体力と注意力が求められ、担当している高齢従業員にとって肉体的、精神的負担が大きかった。そこで、同社は、煮炊き・撹拌機、真空包装設備、冷却装置、蒸気殺菌設備など、最新設備を積極的に導入し、調理作業の標準化、機械化を進めて高齢従業員の負担を軽減した。

■福利厚生の取組み

福利厚生面の取組みとして、各種イベント、旅行等の行事の拡充を行っている。多店舗展開の課題の1つに従業員同士の交流不足がある。同社は各種行事を積極的に行うとともに、その対象を全従業員としている(コロナ禍の間は休止)。世代間を超えた交流が社内に促進され、コミュニケーションの活性化につながっている。また、高齢従業員は働く上で年金、介護、税金などの不安が多いことからこうした不安をいつでも相談できるよう体制を整えている。

今後の課題

高齢者雇用に関する今後の課題として、同社では高齢従業員が持つ経験、スキル等の後進への継承をあげている。人手不足が続くなか、高齢従業員に貴重な戦力として活躍してもらうために、同社は働く環境の整備に取り組んでいる一方、同社の将来の中核を担う若手従業員の育成も経営課題の1つである。そのためには、先に紹介したように高齢従業員と若手従業員のペア就労のように高齢従業員が持つ経験、スキル等を後進に継承していくことが今後の課題となる。

図表1 雇用制度改定の概要 図:改訂後正社員の定年は65歳から70歳、継続雇用上限年齢は再雇用制度(運用)で73歳から「なし」に
(出所) 図表1 株式会社大津屋のヒアリング調査をもとに執筆者作成。
図表2 高齢従業員 (65歳以降) の人事管理制度の変化
  雇用制度改定前(~2019年5月) 雇用制度改定後 (2019年6月~)(注1)
社員区分 継続雇 正社員 継続雇用
名称 再雇用制度 再雇用制度
定年年齢
(継続雇用上限年齢)
73歳 70歳 規定:73歳
運用:上限年齢なし
 対象者  定年退職者  変更なし  定年退職者
 仕事内容  定年前の仕事を継続  変更なし  変更なし
 役職  一律の役職定年年齢は定めていないが、定年前から職場の状況に応じて役職を外れている  変更なし  変更なし
 基本給(月齢給)  定年前と同じ  変更なし  変更なし
 昇給  昇給あり(現役正社員と同じ)  変更なし  変更なし
 手当  定年前と同じ  変更なし  変更なし
 人事考課  定年前と同じ  変更なし  変更なし
 退職金  継続(継続雇用終了時に支給)  変更なし  変更なし
 労働時間  原則、フルタイム勤務(短時間・短日勤務も可)  変更なし  変更なし
 

事例内容についてお役に立てましたか?

役に立った

関連情報
RECOMMENDED CASE