株式会社東急コミュニティー
ー定年後65歳まで勤務延長、最長75歳まで継続雇用ー
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫
- コンテスト入賞企業
- 高齢者採用
- 高齢社員研修
- 勤務延長と再雇用を併用

企業プロフィール
-
創業1970年
-
本社所在地東京都世田谷区
-
業種不動産賃貸業・管理業
-
事業所数55か所
導入ポイント
- 高齢者を積極的に採用し、高齢社員を対象とした研修を実施。資格取得も推奨
- 介護などのために退職した社員のための再入社制度(プロキャリアパス)あり
-
従業員の状況従業員数 13,544名 うち正社員4,571名 / 平均年齢 56.3歳 / 60 歳以上の割合 59.7%
-
定年制度定年年齢 60歳 / 役職定年 有 / 期待する役割 図表1参照 再雇用者は59歳時の4~6割(考課により上下) / 定年後の賃金体系 職務給+成績給 / 戦力化の工夫 高齢社員を対象とした研修制度
-
70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 一定条件の下、最長で事務員70歳、技術員72歳、管理員75歳
同社における関連情報
企業概要
株式会社東急コミュニティーは、東急不動産ホールディングスグループの大手不動産管理会社で、マンション約87万戸、ビル約1,600棟と、業界でもトップクラスの管理規模・管理実績を有する。
社員は、事務や営業を担当する「事務員」、管理と建物の改修・工事を担当する「技術員」、ビル・マンションの管理を担う「管理員」からなる。管理員が最も多く、約7,400名である。管理員の入社時の年齢は高く、60歳以降入社する者が多い。事務員は約3,600名(うち正社員2,800名)、技術員は約2,100名(うち正社員1,700名)である。新卒のほか、中途採用も行っており、30代から40代の者が多い。
新卒の採用者数は、2021年が114名(事務員 57名、技術員 57名)、2022年が113名(事務員 75名、技術員 38名)である。
一方、60歳以上の者も積極的に採用しており、2022年度の採用者数は1,581名である。60歳以上は、管理員として、契約社員という社員区分で採用し、67歳までは受け入れる。
「労働環境No.1」を掲げて、社員の働きやすさ向上に取り組んでおり、「健康経営優良法人」に6年連続認定を受けているほか、子育てサポート企業を認定する「くるみん」認定や、女性活躍推進法に基づく「えるぼし」(最高評価である3段階目)認定を取得している。
勤務延長・継続雇用延長の背景
同社は、2017年10月より、60歳到達者を対象とした勤務延長制度を設けた(同社では、「定年延長制度」と呼んでいる)。また、2018年4月以降、職種別に、継続雇用延長の上限年齢を引き上げた。
その背景には、人材不足がある。マンション・ビルの管理には、高い技術力や専門的知識が必要である。社員から、長く働きたいという声があったことに加え、勤務延長制度を設けることにより、高い技術力や専門的知識を有する社員に引き続き働いてもらいたいと考えた。
また、管理員については、60歳以降に嘱託社員として入社する者が大半だが、雇用の上限年齢を見直すことにより、優秀な人材の確保をねらった。
同業他社や、同社のグループ企業にはこのような制度はない。経験・知識などを有する社員に力を発揮してもらうとともに、社外から人材を確保することをねらって、他に先んじて勤務延長や継続雇用延長を行うこととした。制度を理解したうえで利用してもらえるよう、周知期間を約1年設けた。
勤務延長制度の内容
勤務延長制度は、技術職及び事務職の正社員を対象としている。60歳が定年年齢だが、一定の要件を満たす者を対象に、勤務延長を認める。
同社では、SS、S、A+、A、A-、B、Cの7段階で人事評価を行っているが、このうちA以上の評価を受けており、かつ、懲戒事項に該当せず、勤務態度に問題がないこと等が条件となる。これには、対象年齢層の社員の約8割が該当し、実質的には65歳定年にかなり近い状態である。
勤務延長となった場合は、処遇面は、59歳以前と変わらず、正社員と同じ扱いである。異動はもちろん、住居の移動を伴う転勤もある。
同社には役職定年がある。課長、部長ともに57歳だが、優秀な者には、そのまま役職についてもらうこともある。これは、60歳を過ぎて勤務延長になってからも同じである。
60歳以降、再雇用でなく、勤務延長を選んだ場合であっても、退職金は60歳で支給する。退職一時金と確定拠出年金が半々である。
なお、勤務延長を選択した社員は2018年4月から2023年3月までに94名である。
65歳以上の継続雇用制度の内容
同社は、希望者全員を対象とした65歳までの継続雇用制度を有している。通常、技術員は70歳、管理員は72歳を雇用限度年齢とするが、さらに、一定の要件を満たす者について、最長で事務員は70歳、技術員は72歳、管理員は75歳まで契約社員として継続雇用できる。
なお、65歳を超えた継続雇用のための条件は、健康で、懲戒自由に該当しておらず、勤務態度にも問題ないこと等が含まれる。
フルタイム勤務のほか、週3日勤務、1日5時間勤務など柔軟な働き方も可能である。賃金単価は、60歳以降再雇用で働いた場合と変わらない。
引き続き、人事考課の対象となり、それにより、賃金水準及び賞与額は上下する。
59歳以前の賃金制度
基本給の構成をみると、管理職は役割給+職能給+成績給であるが、一般職(非管理職)は職能給+成績給である。なお、役職定年後は、役割給部分がなくなり、職能給+成績給となる。これにより、賃金は役職定年前の7 ~ 9割となる。
その他高齢者雇用促進につながる取組
高齢社員を対象とした研修制度
高齢になってから、他業種から、管理員として入社する者が多いことから、研修には力を入れている。新規採用者を対象に、「導入研修」、入社6 ヶ月の者を対象に「フォローアップ研修」、入社1年半以上の者を対象に「スキルアップ研修」を行っている。この3つの研修は必須である。各研修とも、安全面の教育には時間を取っている。また、マンション住民の高齢化が進んでいることから、「フォローアップ研修」には「認知症サポーター講習」を含めている。
同社には、資格取得を援助する制度があるが、いわゆる59歳以下の正社員だけでなく、高齢社員も対象となっている。管理員は、管理業務主任者資格があると業務理解が深まるため、資格取得が推進されているが、管理業務主任者資格取得後に、マンション管理士資格に挑戦する者も多い。
社内マイレージ制度
同社では、2017年10月より、健康促進活動や会社への貢献活動に対し、ポイントを付与する「社内マイレージ制度」を実施している。正社員から嘱託社員、パートまで全社員が対象で、付与されたポイントに応じて、グルメや日用品、旅行などの商品と交換することができる。「健康促進運動」として、マラソン・ウォーキング大会などのイベントへの参加のほか、健康診断数値の改善等が対象となる。また、会社への貢献活動としては、お客様からの感謝状やマンション居住者主催のイベントへの参加などが対象となる。導入後、社員からは健康促進などに向けてやる気が出たとの声があがっている。
危険予知訓練(KYT)
管理員の業務災害防止、疲労防止策の一環として、軽いストレッチ運動からなる「作業前2分間体操」を推進している。また、危険予知訓練(KYT)にも力を入れており、危険予知訓練シートにより、具体的な危険ポイントを示し、安全への意識向上を図っている。
プロキャリアパス制度
同社では、全社員を対象に、退職時に一定条件を満たす者については、退職後5年間を上限として再入社試験の一部(筆記試験)が免除される「プロキャリアパス制度」を設けている。
勤続3年以上で、退職前直近の考課が標準以上などの要件を満たす者については、退職理由を問わず、対象となる。制度を導入した2015年10月以降に、201名に発行し、14名が入社している。これには60歳以上の者も含まれている。
今後に向けて
勤務延長制度導入により、勤務延長を選んだ社員の「契約社員だから」という遠慮がなくなって仕事への取組みが積極的になり、周囲に良い影響を及ぼしている。継続雇用の上限年齢を引上げたことにより、契約社員のモチベーションもアップしている。
現在は、勤務延長と継続雇用を併用することにより、それぞれについて、社員の受け止め方や運用状況、課題の有無などをみているところである。勤務延長を選んだ社員の働きぶりなどをみたうえで、将来的には、完全な65歳定年とすることも視野に入れている。

(出所)株式会社東急コミュニティーのヒアリング調査をもとに執筆者作成。