株式会社 平和タクシー
-社員の健康状態を個別管理し、早期対応に努める-
- 70歳以上まで働ける企業
- 戦力化の工夫
- 能力開発制度の改善
- コンテスト入賞企業
- 採用難への対応
- 職域拡大・職場創出
- 助成金の活用

企業プロフィール
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創業1971年
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本社所在地宮崎県宮崎市
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業種道路旅客運送業
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事業所数
導入ポイント
- 社員の疾病の有無、既往症、治療・通院歴などの情報を一覧化し、健康管理に活用。
- 「65歳超雇用推進助成金」を活用し、2017年4月に定年を60歳から66歳に引上げ。
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従業員の状況従業員数 58名 / 平均年齢 66.7歳 / 60 歳以上の割合 89.6%
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定年制度定年年齢 66歳 / 役職定年 無 / 期待する役割 同じ / 定年後の賃金体系 同じ / 戦力化の工夫 運転免許更新時の不合格者への対応
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 基準該当者を上限なしで継続雇用
同社における関連情報
企業概要
平和タクシーは宮崎市内で営業するタクシー会社である。創業は1971年。2014年に市内でタクシー事業や中古自動車販売業などを展開する「日の丸タクシー」グループの傘下となり、同グループ代表の山元良一氏が三代目代表取締役に就任した。現在、市内に2つの営業所を持つ。
社員数は2017年4月1日現在58名である。タクシー業界の例にもれず高齢社員が多く、50代が約1割、60代前半が約15%、60代後半が約半数、残りは70歳以上となっており、60歳以上が約9割を占める。
同社ではハローワークや有料求人広告媒体を活用して、社員を採用している。60歳以上に限定した求人も積極的に行っている。近年の採用実績をみると、2014年が6名、2015年が3名、2016年が5名となっている。2016年に採用した社員5名のうち、4名は60代、1名は50代となっている。
応募者の中にはタクシー業務が未経験の者もいることから、採用後、業務に必要な第二種運転免許を取得させている。
定年引上げの背景
同社では2017年4月1日から定年を66歳に引き上げた。引上げ前の定年は60歳であったが、健康状態に支障がない限り、希望者全員を継続雇用しており、仕事内容、処遇は定年前と変わらなかった。
先代の社長の時代から同社を訪問していた高年齢者雇用アドバイザーは、定年の引上げを助言していたが、実態として、既に定年を過ぎても働いている社員も多く、就業規則の変更に伴う手間も大きいことから、改定には消極的だった。
契機となったのは、現在の山元社長就任後の2016年に創設された「65歳超雇用推進助成金」である。
行政が熱心に取り組んでいることも後押しした。
定年・継続雇用制度の内容
同社では、66歳に達した日の属する年の末日を定年としている。66歳以降も、役職、賃金とも変わらない。
実態として、すでに60歳を超えて働いている社員も多かったが、正社員として、契約更新なしに働くことができるようになったことから、社員からは、歓迎されている。
同社では、定年後も、健康状態が良好である等の基準を満たす者を上限年齢なしに継続雇用している。現在の最高齢者は78歳である。継続雇用後の賃金水準は、仕事内容、労働日数・時間が変わらない限り、定年前と同水準である。

健康管理と安全の強化
背景
同社は、「若年者の採用が困難」というタクシー業界の特性上、高齢者を積極的に活用せざるを得ない状況にある。
60歳以上の割合が全社員の約9割、平均年齢も66.7歳という状況の中、山元社長が最優先課題と位置づけたのは、社員の健康管理だった。
山元社長が健康管理に積極的に取り組むようになったのは、病気で亡くなった乗務員の葬儀に出席したことがきっかけだった。「健康診断で有所見だったにもかかわらず、二次健康診断を強く勧めなかったことが悔やまれてならない。社員の葬儀には何度か出席したことがあるが、その都度精神的にこたえる。このような思いはしたくないので、社員の健康管理には力を入れていきたい」(山元社長)
社員別健康管理の実施
同社では、社員の健康管理の一環として、社員ごとに、疾病の有無、既往症、治療・通院歴等を一覧化した「健康情報管理表」を作成している。
留意して取り扱わなければいけない情報が載っていることから常務が管理しており、3か月ごとに更新している。健康状況が思わしくない社員に対しては、個別に面談の機会を設け、治療や精密検査の受診を勧めている。重篤な疾患で社員が入院した場合は、診断書の提出を義務づけている。乗務員の場合、医師による就労許可が下りなければ、乗務を認めない。
2015年には、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が提供する「健康管理診断システムチェックリスト」を活用し、自社の健康管理体制を見直した。
同リストは、①「健康診断と事後措置」、②「健康管理体制」、③「健康教育、疲労対策」、④「メンタルヘルス」、⑤「その他重要な産業保健活動」の5項目について、それぞれ実施状況を確認し、高齢者の健康維持・増進に向け、現状を整理し、検討すべき問題点を明らかにするために開発されたものである。
安全月間目標の設定
同社では、年度当初に安全月間目標を設定している。
月ごとに「新入児童の交通事故防止」、「過労運転による事故防止」といった目標を事業所内に掲示することで、乗務員に、改めて安全運転を意識してもらうこととしている。
併せて、年3回の健康管理キャンペーンも設定している。2017年度のキャンペーンは、「保健師による健康相談(3月)」、「過労・熱中症予防対策(83月)」、「メンタルヘルスセルフケア・ラインケア(10月)」となっている。
事故防止の徹底
労働安全衛生法で毎月1回の開催が義務づけられている安全衛生委員会では、事故防止や健康管理を議題に対応策を検討している。
乗務員が事故を起こした場合は、(独)自動車事故対策機構(NASVA)の「運転者適性診断」を受けさせている。これは、自動車運送事業におけるドライバーを対象に、運転時の長所や短所といった癖を様々な観点から測定するとともに、癖に応じたアドバイスを提供するというものである。同社では、診断結果をもとに事故を起こした乗務員と面談を行い、今後の配置について相談する。退職を勧奨することはないが、一部の乗務員は診断結果を踏まえてみずから退職を申し出る者もいるという。
今後は、事故を起こしていない乗務員にも診断を受けさせることを検討している。
高齢社員を活用するための工夫
運転免許更新時の不合格者への対応
高齢乗務員の中には、深視力(対象を立体的に視る力や遠近感)の衰えから、第二種運転免許の更新時に不合格となる乗務員がグループ全体で毎年1名程度みられる。同社では、不合格となった乗務員の一部に対してもできるだけ新たな活躍の場を用意するよう努めている。
これまでの例として、営業所において運行管理者に代わって点呼などの業務を行う運行管理者補助者に不合格者を選任したことが挙げられる。運行管理者補助者に選任するためには、16時間の基礎講習を修了させる必要があるため、会社の費用で受講させている。
現状は、すべての不合格者に対して、新たな職務を提供することは難しいことから、今後は、新規事業を開拓するなどして、受け皿をさらに広げていきたいと考えている。
透析患者の送迎
同社では、約6年前に透析患者の送迎業務をスタートした。当初はタクシー乗務と兼業の乗務員5~6名がローテーションで行っていたが、患者へのきめ細やかな対応が求められることから、現在は1名の乗務員がほぼ専属となっている。今後は、送迎先の医療機関をさらに拡大していく予定である。
中古自動車販売会社の設立
山元社長は、今後、日の丸タクシーグループが設立した軽自動車専門の中古車販売会社「サンクス」で高齢者の職域拡大を図りたいと考えている。
現在、サンクスでは販売担当者が4名、自動車整備士兼洗車担当者が2名、事務担当者1名が働いている。このうち、自動車整備士兼洗車担当者は、日の丸タクシーグループに所属する別のタクシー会社と兼務となっている。
今後、健康状態に不安がある等の理由でタクシー乗務を続けることが困難になった元乗務員を洗車や購入した自動車の引き取りの業務に充てるなど、高齢者の職域拡大が期待される。

社員の能力開発
同社では、毎年度、乗務員の月別教育計画を作成している。教育内容は、月別に①法令遵守・事故防止、②乗客の安全・基本的心構え、③営業・接客待遇、④服務規律・生活指導-の4つの観点でそれぞれテーマを定め、実施している。
柔軟な勤務シフト制の導入
同社では、初代社長の時代から、社員を大切にする風土が醸成されてきた。その表れの一つとして、乗務員の希望に応じて午前中の勤務のみを認めるなど、柔軟な勤務シフト制を導入している。こうした取組みが功を奏してか、社員の定着率は同業他社に比べて良好だという。
今後の課題
同社が現在課題と考えているのが、高齢乗務員の引退時期をいかに見極めるかである。そのため、点呼時など機会を捉えて各社員の変化を的確に把握していきたいと考えている。健康状態に問題があることがわかった場合は本人と面談し、今後の身の振り方を相談することにしている。
機構の健康管理診断システムチェックリストを活用することにより、社内の健康管理体制は整備されつつあるが、メンタルヘルスに関してはどのように手をつけたらよいか悩んでいる。身体面での健康管理に比べてデリケートな側面が強いことから、今後、時間をかけて検討する必要がある。