有限会社 小川商店
-高齢者雇用により事業領域の多角化と安定を実現-
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫
- コンテスト入賞企業

企業プロフィール
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創業1688(元禄元)年 1965(昭和40)年 (設立)
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本社所在地島根県大田市
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業種石油・小売、運輸、自動車整備
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事業所数
導入ポイント
- 定年後の賃金ダウンによるモチベーション低下とこれに関連する高齢従業員の賃金・評価制度の見直し
- 定年の引き上げと併せて、基本給の構成に年齢給以外の職務給を新設し、会社が求める能力や人物像を明示
- 評価結果が昇給に反映されるように見直し
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従業員の状況従業員数 72人 / 平均年齢 53歳 / 60 歳以上の割合 60~64歳(16.7%) 65歳~ (20.8%)
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定年制度定年年齢 66歳 / 役職定年 なし
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 定年後は、基準該当者を75歳まで継続雇用
同社における関連情報
沿革・理念
1688(元禄元)年に屋号「たばこや」として温泉津町にて創業。かつては、廻船問屋、宿場等時代によって様々な商いを行っている。現在は地域のインフラ事業の担い手として、石油・運輸・不動産・飲食等多角的に事業を展開している。

雇用制度改定の背景
Q.制度改定のきっかけは何でしたか。
制度改定の必要性を意識し始めたのは2013(平成25)年ごろでした。当社は運輸業務、ガソリンスタンド、飲食店等の事業を多角的に展開し、地域に必要なインフラを支える数々のサービス提供をしています。そのためには、従業員の増員を計画的に行う必要がありますが、地域の人口減少が止まらず、若手従業員の採用は困難になっていました。「10年後に戦える組織になれるのか」と中長期ビジョンを考えたときに、労務構成上非常に危ういと感じていました。特に運輸部門では体力や健康のほか、安全管理の徹底が求められる部署であり、経験を積んだ高齢従業員が長く働ける雇用制度を整備する必要があると考えました。今では当たり前になっている『働き方改革』が世間に浸透していない時期でしたが、このタイミングで着手しないと後手に回ると思ったのがきっかけです。
Q.制度改定の進め方とその課題は。
当社で顧問契約している社会保険労務士に、JEEDを紹介してもらい、企画立案サービス※を利用しました。
課題は、高齢従業員のモチベーションの低下でした。再雇用の賃金は在職老齢年金、高年齢者雇用継続給付などの公的給付を活用して決めていましたが、仕事内容は定年前と同じものを引き続き担当していたこと、また、会社が求める人材像や必要な能力を従業員に示していなかったため、賃金を決める仕組みが従業員にわかりづらいものとなっていたことも影響していました。そこで、定年年齢の引き上げにあわせて賃金・評価制度の見直しを行いました。
Q.改定による従業員の反応は。
基本的には「希望すれば75歳まで再雇用される」ので、体力の続く限り安心して働ける職場として感謝されています。また、賃金の改定では基本給を年齢給と職務給に見直しました。特に職務給は「同じ仕事をしていれば、年齢に関係なく基本的には同じ給料」であり、「評価結果が昇給額に影響する」ことになるので、従業員の納得性が高まり、会社が求める人材像と期待する成果が明確になったことで、従業員のモチベーションが向上しました。
Q.高齢者雇用の推進がもたらした好影響は。
高齢者雇用により事業領域の多角化と安定性を両立させていきながら地域の課題解決に繋げていけるようになりました。一例としてスクールバスの運転手やゴミ収集の作業員が高齢化により不足していると行政から相談を受けたことがありました。これに対し、運輸部門の高齢ドライバーのセカンドキャリアとすることで、結果的に地域の課題解決と高齢従業員の活躍に繋がりました。高齢ドライバーにとっては体力的な負担軽減や地域貢献としてやりがいにもなっており、スクールバスを利用していた卒業生からお礼のお手紙をもらったりもしています。また、一日でも長く子供たちを見守りたいと健康に気を使い始める高齢従業員もいます。
Q.高齢者雇用で大切にしていることは。
年齢を重ねるごとに体力の低下や親の介護等が理由で、働きたい『けど』働けない。そんな『けど』を拾い上げることが我々の一番のミッションだと思っています。『けど』を解決するため、会社としては、一人ひとりに合わせた労働条件や働き方の提案をしています。

人事管理制度の概要
■正社員
定年年齢は66歳であるが、60 ~ 65歳までの定年を選択することも可能であり、年度末に社長と本人との面談にて定年時期の確認が行われている。
賃金制度について、基本給は年齢給と職務給からなり、職務給は業務内容ごとに賃金表が設定されている。昇給は年1回、人事評価によって行われる。賞与は「基本給×賞与係数(月数)」によって決められ、賞与係数(月数)は経営業績による固定部分と人事評価によって決まる部分に分かれている。人事評価はコンピテンシー評価で、年1回部門長との面談が行われる(図表2参照)。
■継続雇用制度
継続雇用制度は、66歳の定年に到達した基準該当者を対象とした再雇用制度で、雇用上限年齢は「70歳」「75歳」「年齢の上限なし」の3段階が設けられている(図表1参照)。なお、「年齢の上限なし」については運用により再雇用が行われている。契約期間は1年で、雇用形態は嘱託社員、継続雇用者が担当する業務は定年前の業務を引き続き担当するが、本人の希望があれば職種を転換させている。
役職者は一律に役職を外れることはせず、働き方、働く時間、責務によって個別に対応している。
賃金・評価制度は原則として、正社員と同じ仕組みが用いられるが、具体的には本人の要望を踏まえながら個別に対応して決めている。勤務時間はフルタイムを原則に本人の希望により柔軟な勤務ができるようにしている。
高齢従業員戦力化のための工夫
■働きやすい組織づくり
同社は、社内の風通しを良くし働きやすい組織づくりを心掛けている。例えば、従業員が直属の上司に遠慮なく意見を言えるよう、各部門長に部下とのコミュニケーションを積極的にとることを徹底させているほか、仕事の進め方に関するものや作業環境、安全確保に関するもの等の業務改善の提案を、社長にメールやSNSで直接できるようにしている。従業員から寄せられた提案は社長と現場責任者の状況確認、従業員へのヒアリングの後、可能な限り速やかに決定している。また、提案内容が仕事の進め方に関するものであれば、提案者の賞与や賃金に反映される制度があり、モチベーションアップにつながっている。また、一定額の改善経費の決裁を現場マネージャーに権限委譲しており、速やかな改善を可能にしている。
■新たな職務創出による働きがいの提供
同社は、第三者承継や公共事業の受託など新たな事業領域の拡充を図り、それに合わせて高齢従業員の就労機会の創出を進めている。例えば、加齢により大型車両の運転が困難になった運送部門の高齢従業員をスクールバスの運行業務や不燃ゴミ・リサイクルゴミの収集運搬業務などへ転換させている。このほかにも、ペア就労による若手従業員への指導役を担当する等、高齢従業員の活躍の場を創出することで、意欲の向上や働きがいの提供につなげている。
健康管理・安全衛生・福利厚生
同社は、インフルエンザワクチン接種費用を全額会社が負担するなど健康管理対策を推進するとともに、運輸部門でのタイヤ交換に関する安全対策を徹底するため、部署の朝礼でヒヤリハットの事例、脱輪の事故事例を紹介するなど、安全衛生にも力を入れている。
今後の課題
今後の課題として、退職時期とその後のキャリアを挙げている。今回の制度改定により、生涯現役の雇用環境を整備することができた。しかし、運輸部門においては年齢を重ねるごとに健康問題や体力の低下等による交通事故の発生が懸念される。同社では、最終的な退職(勇退)の在り方を検討している。その一つとして、退職後の地域内での活躍の場を提案していきたいと考えている。

図表2.定年前後における人事処遇制度の比較
正社員 | 継続雇用者(再雇用制度) | |
---|---|---|
定年年齢 (雇用上限年齢) |
66歳 | 75歳 (以降は運用により上限年齢無し) |
雇用形態 | 正社員 | 嘱託社員 |
労働時間 | フルタイム勤務 | フルタイム勤務、短日・短時間勤務 |
継続雇用後 の職務内容 |
——— |
定年前と同じ
(本人希望により職種転換あり)
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基本給 | 【構成】年齢給+職務給 【支給形態】日給月給制 |
【構成】原則、正社員と同じ 【支給形態】原則、正社員と同じ |
昇給 | 人事評価をもとに決定 | 原則、正社員と同じ |
賞与 | 【支給回数】年2回 【算出方法】基本給×月数 |
原則、正社員と同じ |
人事評価 | 【評価領域】コンピテンシー評価 【実施時期】年1回 【手続き】部門長との面談 |
【評価領域】原則、正社員と同じ 【実施時期】正社員と同じ 【手続き】正社員と同じ |
出所:70歳雇用推進事例集2025