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株式会社猪股建設

-生涯現役で働ける処遇でシニア従業員のモチベーションが向上-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • 能力開発制度の改善
  • コンテスト入賞企業

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株式会社猪股建設のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    昭和17年(1942年)
  • 本社所在地
    栃木県大田原市
  • 業種
    土木・鉄道土木・建築・舗装
  • 事業所数

導入ポイント

  • 豊富な実績と経験で高品質の工事を遂行し、若手に技術伝承するベテラン技術者を確保
  • 若年者採用がむずかしいため、現有人員をできる限り長く雇用して人手不足に対応
  • 70歳またはそれ以上の年齢まで働くシニア従業員の意欲維持と向上
  • 高齢期も働くシニア従業員が、高度な業務で貢献できる仕組みづくり
  • 定年延長を契機に、外部人材も積極的に採用して自社の戦力を強化
  • 定年後も仕事が同じであれば賃金水準は変化なく、シニア従業員の意欲が向上
  • 年齢にかかわらず資格取得を奨励、シニア従業員も新たな資格でより高度な業務に従事
  • 定年の早い他社から経験や技術、資格を持つ優秀な人材を獲得、各所で活躍
  • 従業員の状況
    従業員数 72人  / 平均年齢 50歳 / 60 歳以上の割合 60~64歳 .8.3% 65歳 以上 19.4%
  • 定年制度
    定年年齢 70歳 / 役職定年 なし
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 年齢の上限なく継続雇用
2026年02月01日 現在

同社における関連情報

■企業プロフィール

創業以来「安全」「品質」に最善をつくし、建設工事の施工を行ってきました。常に「高品質」のものを提供することとし、技術力向上に努めています。安定した経営基盤を確立し、事業の継続的な発展を通じて「企業価値の向上」に努め、「地域社会」に貢献し、社会から信頼される企業となることを目標としています。

■専門家の視点・取組みのポイント

難易度の高い土木工事を数多く手掛けてきた同社にとって、シニア従業員は不可欠な戦力であり、その知識や経験は会社に残すべき貴重な財産です。定年延長でより長く働いてもらい、定年後の処遇を変えないことでやる気を引き出し、若手育成にも励んでもらっています。

雇用制度改定の背景

Q.定年を70歳に延長した理由は。

当社は1942(昭和17)年の創業以来、建設工事において安全と品質に最善を尽くし、地域社会に貢献する企業をめざしてきました。社内には土木、鉄道土木、建築、舗装などさまざまな分野で国家資格を持つ技術者が揃っています。ところが従業員の約半数は50歳を超えており、次代を担う人材が少ないことが課題です。若手の採用はなかなか大変です。そこで最初に取り組んだのが、現在在職している従業員の生涯現役化でした。高度な技術を持つ人材は、会社の財産です。できるだけ長く、第一線で活躍して欲しいと思っていました。(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の助成金を得て、2018(平成30)年に65歳から70歳へと定年延長し、70歳以降も条件を満たせば年齢上限のない勤務延長を可能にしました。

Q.定年延長に対するシニア従業員の反応。

65歳定年の時も再雇用で働いてもらうことが多く、70歳を超えた人もいましたが、70歳定年を制度化したことで「65歳を超えても今までと同じ給料をもらえてうれしい。やる気が出る。」とシニア従業員には喜ばれました。

Q.シニア従業員の強みとは何でしょうか。

当社は技術者集団です。一例ですが、鉄道専門業者の協力会社として施工条件の厳しい鉄道関連施設の工事を行っています。鉄道の工事はシニアの持っている高度な技術力が必要で、受注できる会社は限られます。新幹線の工事は安全面で特に厳しい要求があります。当社では新幹線の工事管理者は16名在籍しています。工事は元請と協力し、当社からは鉄道工事に慣れたシニアの現場監督・シニアの技能者を派遣して、工事を手掛けています。工事管理者の資格は本人にとってもプライドです。

Q.定年延長の効果はありましたか。

土木部には60代が5名、70代が3名おります。当社は大手ゼネコンからの下請け工事も多いため、現場での調整や連携、進捗管理が重要です。シニア従業員が現場でリーダーシップをとり、安全第一で高品質な工事を実現しています。社外からの採用にも効果がありました。大手ゼネコンをはじめ県庁や市役所を定年退職した人たちが入社してくれました。公務員出身のシニアは、熱中症対策マニュアル作成に力を発揮してくれました。今まで当社には出来なかったことやなかったものが得られました。社外出身のシニアに感謝しています。

Q.若手の育成にも効果がありましたか。

建設業の魅力は自分たちが作ったものが「目に見えるかたち」として残ることです。その感激や満足感をシニア従業員はたくさん持っており、若手に伝えたいのです。また、自分の経験に基づいて、若手の悩みを聞きながら教えています。若手を育てるのが得意なシニアは人の話を丁寧に聴き、言葉の掛け方や使い方がうまいです。シニア従業員は人材育成の主役です。

Q.シニア従業員への思いを聞かせてください。

78歳の従業員が体力低下を理由に退職しました。その時、「半世紀以上、3代に渡り、お世話になりました。」と言われました。ご家族からも長く働けたことを感謝されました。70歳定年でいったん退職後に復職した方も2名います。当社最年長で土木現場で働く75歳の方は、まだまだ働きたいと言います。40歳で入社した現在72歳の方も現場第一線です。60歳を超えてから鉄道の資格を取った方もいます。賃金は定年にせよ再雇用にせよ、経営者が一方的に枠をはめてシニアのやる気を削いではいけないと思います。生涯現役で働ける処遇があれば、モチベーションの維持は可能です。お互いに納得した働き方をこれからも追求していきます。

人事管理制度の概要

■採用と職種構成

職種は土木・建築技術者、現場技能者、営業・事務職員で構成される。技術職は一級建築士、一級建築、土木、電気工事、管工事施工管理技士等の国家資格に加え、鉄道の工事管理者(新幹線・在来線)、鉄道の重機械運転者等の高度な資格を持つシニアが多数在籍している。新規採用(中途含む)は2024(令和6)年に3名、うち65歳が1名、2023(令和5)年に4名、うち62歳が1名とシニアも採用される。一級建築士の資格を持ち他社を定年となった60歳のシニア、60歳退職後しばらく働いていなかった61歳のシニアが入社してそれぞれ現場の施工や総務で実力を発揮している。

■教育訓練制度

同社の人材育成は全国建設産業教育訓練協会が制定したキャリア形成過程(守備範囲の拡大から中核技能者へ、さらにマスターへのキャリア形成)を参考に経験年数と必要スキルの体系化に取り組んでいる。また、年齢を問わず資格取得を奨励、技能講習への参加も積極的に呼びかけており、外部講習受講費用や資格試験受験費用は会社負担としている。資格を取得した従業員には資格手当を毎月支給している。若手従業員は「資格のあるなしで仕事を任される範囲が違うので、将来を見据えて絶対に取りたい。」と意欲が高まり、50、60代の従業員も「資格を取得すれば技術者として活躍できる範囲が広がる。」「資格手当は定年後も支給されるので、今年合格できるように頑張る。」と学ぶ意欲を高めている。

■賃金・退職金制度

賃金は基本給、役職手当、資格手当、その他手当からなる。基本給は毎年昇給する。役職定年はない。人事考課は年1回、賞与は各人の勤務成績と会社業績を勘案して決定する。定年後も役割や任務が同じであれば正社員と同じ待遇としている。退職金は会社から支給する退職慰労金に加え、会社が加入している建設業退職金共済制度と中小企業退職金共済制度から支給される。退職金は実際の退職時に支給され、71歳での退職者は71歳時点で退職金を受け取る。

〈舗装工事の様子〉

高齢従業員戦力化のための工夫

■ペア就労による技能伝承

シニア従業員は、現場で若手に実践的な技術を伝承する。若手の力を伸ばす効果が得られるだけではなく、シニアと若手の両者がコミュニケーションを通して互いに学ぶ姿勢の風土が生まれる。現在はドローンによる3次元測量データを掘削作業に活用するなど、ICT(情報通信技術)が現場で不可欠となりつつある。さまざまな工事の経験から獲得したノウハウを伝えるシニアに対し、ICTに抵抗感のない若手は最新技術や操作法をシニアに伝える。

■無理なく働ける勤務形態

従業員の健康状態に応じて短日数勤務等、無理なく働ける勤務形態も用意している。シニアがフルタイム勤務から離れる場合はフルタイム時の賃金を時給換算して支給している。

■精神的負担の軽減

社長面談を通してシニア従業員の体調面や仕事をする上での課題や問題点、要望を把握している。役職定年がないため管理業務を継続して担当可能であるが、負担に感じる場合は役割を外して実力が発揮しやすい職務に変更している。

健康管理・安全衛生・福利厚生

現場作業では労働時間を原則として8時から17時まで、休憩時間は昼食時間を含めて90分と長めにしている。

作業前点呼で体調と安全注意事項を十分に確認し、熱中症対策として空調服の支給や水分補給の徹底、冬場は防寒対策服を支給している。安全対策では現場の施工検討会(安全注意事項の周知、工事関係者への工事内容の周知、未熟練者や高齢者に配慮した人員配置)と現場作業における日々の安全管理活動(安全朝礼、KYミーティング、現場パトロール)、施工中の災害防止対策の臨機応変な対応に努めている。

永年勤続表彰制度により勤続10・20・30・40年の従業員には記念品を贈呈している。

また、社員旅行(2025(令和7)年は大阪万博)や忘年会等を開催している。

〈安全朝礼の様子〉

今後の課題

国土交通省はICTの全面的活用で建設生産システム全体の生産性を向上し、魅力ある建設現場を目指す取り組み(i-Construction)を推奨している。実際に成果を出すにはシニアの持つ技術力と若手が得意とする最新設備の活用が不可欠となる。技術やノウハウを提供するシニア、最新システムに組み込む若手という役割分担で強い建設業が実現する。シニアと若手がともに教え合い、学び合う同社の風土は新しい時代に立ち向かう建設業の姿を示している。

図表.雇用制度改定の概要
(出所)株式会社猪股建設へのヒアリングをもとに筆者作成

出所:70歳雇用推進事例集2026

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