前原製粉株式会社
-高齢社員の知識と技能を活かし「日本一美味しい製品を作る」職場を目指す-
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫
- コンテスト入賞企業
- 上限年齢なしの継続雇用制度
- 多様な勤務形態
- 賃金・評価制度改定
- 作業環境改善

企業プロフィール
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創業1954(昭和29)年[設立]
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本社所在地兵庫県姫路市
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業種食料品製造業
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事業所数1ヵ所
導入ポイント
- 高齢社員の短時間勤務制度を導入し、賃金制度も見直し
- 健康管理、安全衛生、福利厚生に力を入れ、高齢社員のストレスを軽減
- タブレットの導入や設備の機械化により作業負担を軽減
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従業員の状況従業員数 152人 / 平均年齢 50.0歳 / 60 歳以上の割合 25.7%(39人・・・60~64歳 5人 , 65~69歳 16人 , 70歳以上 18人)
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定年制度定年年齢 65歳 / 役職定年 なし
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 定年65歳。就業規則により希望者全員を年齢の上限なく継続雇用。
同社における関連情報
企業概要
前原製粉株式会社は、明治末期より、姫路で家業形態により、穀粉業として主に寒晒(白玉粉)を製造していた。1933(昭和8)年に「赤穂義士」にちなんだ「義士印」を商標登録し、1954(昭和29)年に法人化、工場形態となり、穀粉の本格的生産を開始し、1965(昭和40)年には包装餅の生産も始めた。
現在は白玉粉やきな粉などの和粉(わごな)、包装餅、鏡もちなどの製造を行っている。姫路市に本社を置き、そのほかに駐在営業として東京や岡山など4 ヵ所でそれぞれ在宅勤務により営業業務を行っている。社員数152人のうちパート・アルバイトが78人となっており、78人のうち約半数が60歳以上である。また、製造現場を支えているのは高齢社員が約半数を占めるパート・アルバイトであるため、同社において高齢社員が主要な戦力となっている。また、「社員の幸福と成長 能力・人格面での成長を全員が目指し、個人が尊重される風土を作る」という経営理念に基づき、障害者雇用にも取り組んでおり、2019(令和元)年には障害者雇用優良事業所等の全国表彰式において社員が優秀勤労障害者として機構理事長賞を受賞している。
制度改定の内容
■定年・継続雇用制度
高齢化時代の到来を見据え、将来的に定年延長は時代の要請とされることを予見して、2017( 平 成29) 年 に、 以 前 の60歳定年、その後65歳まで希望者全員継続雇用する制度を、65歳定年、その後年齢に関わりなく希望者全員継続雇用する制度に改定した(図表参照)。
継続雇用制度について、現時点では継続雇用対象となるのが数年後ではあるが、高年齢者雇用安定法の改正や将来を見据えて定年延長と併せて継続雇用制度の整備を行った。
■短時間勤務制度
就業規則を改正し、55歳以上でフルタイム勤務である正社員・契約社員を対象として1あたり1時間短縮して勤務できる短時間勤務制度を2021(令和3)年1月に導入した。また、以前からフルタイム以外の勤務を希望する社員がおり、勤務パターンを固定化せずに本人の希望に応じて個別に半日勤務にするなどの対応も可能としている。
■賃金制度の見直し
以前、60歳定年に達し継続雇用に切り替わった場合は、一律2割減としていたが、昇給も含め個別の対応とすることとした。背景として、対象者が少なく一律の制度にするのは難しいと判断したためである。
人事管理制度の概要
■社員の種類
前原製粉における社員の種類は、正社員、契約社員(有期・無期)、嘱託社員(継続雇用者)、パート・アルバイトの4種類である。契約社員のうち、有期雇用労働者は中途採用者、無期雇用労働者はパート・アルバイトから転換した者として基本的には分類している。
■正社員・契約社員
賃金について、基本給は主に年齢・勤続年数と人事評価結果により決定され、ほかに役職、家族、通勤、営業手当などが支給される。定年(65歳)まで昇給があり、人事考課に基づき年1回昇給する。また、賞与については、基本給×3 ヵ月をベースに勤怠状況(出勤日数など)で上下する仕組みとなっており、業績が大幅に落ちることがなければ月数については基本的に3 ヵ月で毎年固定である。
退職金は定年(65歳)到達時に支給される。人事評価制度について、職務習熟度、パフォーマンス、個人目標が評価項目となっており、所属長による1次評価及び社長による最終評価で評価が決定し、評価結果は基本給に反映され、上司から面談などで本人にフィードバックされる。
パフォーマンス評価は5段階で評価され、仕事内容や協調性などが評価項目となる。個人目標評価については、毎年部門ごとの目標を個人レベルに落とし込んで目標設定を行う。契約社員の人事管理制度についても、基本的には、上記と同じだが、個人目標がないなどの違いがある。
■嘱託社員(継続雇用者)
継続雇用者の職位は、定年到達時に個別に検討し、そのまま維持される場合もある。基本給も定年到達時の金額をもとに個別に検討し、昇給は勤怠、仕事状況を評価して決定される。体力が低下し以前と同じレベルの仕事ができないと評価される場合は昇給を見合わせることがある。人事評価は正社員と同じように実施することとしている。
■パート・アルバイト
賃金については、兵庫県の最低賃金より高めの金額を設定しており、勤務成績のほかにプラス要素があれば昇給することもある。昇給や繁忙期に労働時間が長くなってしまうことにより、年収が増加し扶養家族から外れてしまうことが危惧される場合は年間の労働時間を調整することにより対処している。また、パート・アルバイトにも、2009(平成21)年から、退職金制度が導入されており、年間労働時間の区分ごとに月あたりの積立額が違い、退職後に支給される仕組みとなっている。
退職金導入について、正社員にあってパート・アルバイトにないという不公平感を解消するために導入を決意した。退職金に関わらず基本給や社会保障関係などコストはかかるが、求人募集時にプラス要素になるなどのメリットもあるほか、会社の重要な戦力となって長年働いたパート・アルバイト社員への相応の報酬であると考えている。
高齢社員戦力化のための工夫
■総合相談窓口の設置
社員からの様々な相談について受け付ける「総合相談窓口」を設置し、社内掲示によりPRを行っている。相談応対者は全管理職と産業医、社会保険労務士となっており、年金や社会保険、健康、仕事上の要望など様々な相談を受け付けている。特に高齢社員の場合は年金や収入に関する相談が多い。また、社外の産業医や社会保険労務士にメールや電話などでも相談できることから、社員も安心して相談できる体制となっている。
■社内認定有資格者制度
会社独自の社内認定資格は、目視検査員・食味官能検査員・測定機器社内検査員、ホルマリン燻製作業員など14種類あり、ISО取得の取り組みをきっかけに、高齢社員やベテランの社員が有する技能・技術等も参考にして、体系化し作成した。
品質管理強化の目的から、資格認定に合格した者でないと当該作業に従事することはできず、有資格者が講師となって教育をしている。有資格者は、社外資格と併せて一覧にして社内掲示している。当制度は、社員の能力開発やキャリア形成、若手社員への技能伝承などの際に基本的な一つの指標としても利用している。また、社外の資格取得にかかる費用は会社が負担しており、会社側から資格取得を促すのが基本ではあるが、取得を希望する者がいれば、同じく負担している。
■タブレットの導入・指導
高齢社員にも使いやすいタブレットを導入し、ОJTで実際に使用しながら指導を実施した。使用用途は、タイムカードや有給休暇申請などの勤怠関係のほか、製造現場での製造日報や不良品数管理、温度管理、賞味期限管理などで活用しており、毎日の業務で使用しているため、高齢社員を含めたほとんどの社員に普及している。
タブレットでは紙に記入するよりも大きな字で見ることができるので高齢社員にとって大きなメリットがあり、入力時にはセルに選択肢を用意することにより手間を省くことなどができるようになった。ペーパーレス化により記録類の保管の手間・労力も削減できたのでタブレット導入の満足度は高い。

■作業場の改善
仕入れ品の中には1袋当たり20㎏以上の品物もあることから、重量のある原料を搬送するためのバキュームリフトの導入や原料投入場所への昇降台の設置、原料米投入の際に投入口までフォークリフトによる搬送、製品包装過程でのベルトコンベア導入など、高齢社員の体力低下や負担軽減を図るための改善を行った。
■高齢者の採用
80歳の高齢者を採用した実績がある。 当社員は現在(2022(令和4)年)82歳で週4日程度、9時から15時まで勤務しており、職場の掃除や洗濯などの業務を行っている。
健康管理・安全衛生・福利厚生
■健康管理
健康診断において、法定診断項目に加え、大腸がん検診を追加した。また、腰痛体操や検診情報、禁煙対策など、高齢社員向けの健康管理情報を掲示している。
■安全衛生
作業現場によっては高温になる現場もあるため、夏季には熱中症対策として水に溶かして使用するタイプの熱中症対策の粉末およびペットボトル水を支給している。
■福利厚生
高齢社員もよく利用している休憩室をリニューアルした。男女別にし、各部屋に畳と給茶機(みそ汁あり)を設置するなどの改善を行った。また、コミュニケーションの場として、年に1回全社員対象の懇親会(新年会)や年数回に職場、部門ごとの懇親会を実施している(コロナ禍の間は休止)。
今後の課題
数年後継続雇用対象となる正社員がいるほかその次の50歳代の正社員への対応についても引き続き個別に検討していく。直近のストレスチェックの結果などから高齢社員の満足度は比較的良いことから、次は若年社員への対応も検討していく。
また、前原製粉の「日本一美味しい製品を作る」という確固たる理念を支えているのは高齢社員の豊富な知識と技能であることから、高齢社員が十分にその能力を発揮できる職場作りを重視しながら、総力で一層の高みを目指していく。
