イオン九州株式会社
-合併を機にお互いの良い制度を取り入れ、社員がより長く働くことのできる制度を構築-
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫
- コンテスト入賞企業

企業プロフィール
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創業1972(昭和47)年
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本社所在地福岡県福岡市
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業種卸売・小売業(各種商品小売業)
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事業所数
導入ポイント
- パートタイマーの定年を70歳に引き上げ
- 年齢を問わない教育や資格取得の機会が充実、試験に合格するとキャリアアップも可能
- 正社員は65歳定年後は自身のライフスタイルに合わせた働き方の選択ができる
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従業員の状況従業員数 28,600人 / 平均年齢 49.4歳 / 60 歳以上の割合 32.2%
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定年制度定年年齢 65歳
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 定年65歳。就業規則等により一定条件のもと、70歳まで再雇用。特定の職種にかぎり、雇用延長あり
同社における関連情報
企業概要
イオン九州株式会社は、「九州でナンバーワンの信頼される企業」を目指して総合小売業のイオンや食品スーパーのマックスバリュ等の店舗を展開する企業である。
1954(昭和29)年に株式会社福岡大丸を創立し、1972(昭和47)年に株式会社福岡大丸とジャスコ株式会社との業務提携契約により福岡ジャスコ株式会社を設立、1989(平成元)年に九州ジャスコへ商号を変更。以降の吸収合併により2003(平成15)年にイオン九州株式会社に商号を変更した。その後も吸収合併を繰り返し現在に至るまで成長してきた。
制度変更の背景
同社は過去合併を繰り返してきたことか¥ら、合併毎に年齢構成比が高年齢者に偏る傾向が見られた。このままでは、新入社員を継続採用しても定年退職する人数のカバーできず、業務拡大ができなくなるという危機感を抱くようになった。この問題を解消するために正社員の65歳まで定年延長、70歳までの再雇用制度を導入するなど雇用制度の見直しを行ってきた。
制度の内容
■正社員の賃金制度
以前は、職能資格制度を採用しており、試験により昇給・昇格する制度としていた。試験は毎年度初めに職能資格ごとに課題図書・試験範囲が発表され、筆記・面接試験に合格するとことにより次の職能資格に登用される仕組みで、誰でも受験できることにしていた。
2021(令和3)年2月に、上記職能資格制度に職務等級制を加えたハイブリッド型の処遇制度を導入した。これまでは職能資格に重きを置き処遇を決定していたため、同じ職位で同じ仕事をしているにも関わらず職能資格の差により賃金にも差が出る等の不公平感があった。この問題を解消するために、登用の仕組は残しつつ、現在している仕事に対しても給料に反映できる制度に改定した。
■定年再雇用制度
正社員については、65歳定年退職者が健康状態、出勤状況、勤務態度など一定の基準を満たす場合、70歳まで1年契約の嘱託社員として勤務できる制度を2018(平成30)年9月に導入した。
同制度は、再雇用後の勤務地を本人の希望するエリアの店舗とすることができ、勤務時間についても、フルタイム、1時間短縮、2時間短縮、3時間短縮の4種類から選ぶことができる制度である。
定年再雇用後は、原則、店舗勤務となり、自身の状況に応じた勤務地・勤務時間の選択により働き続けることができる。賃金については月給制となっており、2種の職能資格(主任専門職・店担当)と上記4種の労働時間の組み合わせによる8種類の区分により支給額が決定される。
また、人事評価があり、評価結果は再契約の更新に反映される。制度導入後、8割の社員がこの働き方を選択し、定年前のスキルを新たな職場で活かしている。
■定年延長(パートタイマー )
2019(令和元)年9月にパートタイマーの定年を65歳から70歳に延長した。処遇の引き下げ等はなくそのままとしている。パートタイマーの賃金については、2種類の職能資格ごとの資格給に、部門給、能力給、地域給などが加算される。
人事評価については、年1回実施され、職能資格ごとに設定した評価項目により5段階に評価され、評価結果は賃金の一部である能力給等に反映される。 評価結果が処遇に反映されるため、高齢社員の働くモチベーションにつながっている。
■継続雇用制度(シニアアルバイト制度)
スキルが必要で採用が難しい職種において、70歳に達した社員(嘱託社員・パートタイマー )を75歳を上限に勤務延長する制度を2020(令和2)年2月に導入した。対象者は、健康で働くことができることを前提として、4つのグループ(農産・水産・畜産・デリカ)で現在勤務している者または勤務経験者で、社内・外の資格(薬剤師やイオンビューティケアアドバイザー等)を有する者となっている。
同制度については、契約期間が半年の時間給制社員となり、月の所定労働時間が86時間以下になるようにしている。2020(令和2)年の延長者の実績は144人となっており、現在の70歳以上の社員数は、約630人となっている。
同制度利用者について、現在はパートタイマー社員のみであるが、今後2018(平成30)年導入の定年再雇用嘱託社員が70歳に達するため、70歳以降も働く社員が増加する見込みである。

制度導入時の課題・工夫
■合併
合併を繰り返してきた同社は、そのたびに、各会社と人事制度をすり合わせる必要があった。
過去の合併時の人事制度の見直しでは同社よりに合わせることが多かったが、2020(令和2)年9月にマックスバリュ九州株式会社と合併した時にはお互いの良い制度をとり入れた。例えば、正社員の定年再雇用制度についてはマックスバリュ九州株式会社になく、合併前の65歳以降の社員は時間給制社員になるしかなかったが、新制度により65歳以降も嘱託社員として以前の制度より良い待遇で70歳まで勤務できるようになった。また、パートタイマーの70歳定年に関しては2020(令和2)年3月にマックスバリュ九州と合併した株式会社レッドキャベツにはなかったため、レッドキャベツの社員については合併前に比べ、より長く働けることになった。
新しい制度を構築するなかで、各社の良い制度をとり入れることにより、社員がより長く働くことのできる制度を構築してきた。
■労使協議
70歳以降の再雇用制度(シニアアルバイト制度)の導入時に、健康面の基準について、労働組合間の協議にて議題にあがった。高齢社員の体調については個人差があるため基準を定めるのが困難であった。高齢社員でなくとも通院等している社員がいるなか、高齢であることを理由に別途基準を定めることは難しいため、健康で働くことができるかどうかは原則自己申告によりその後の経過については半期ごとの面談にて確認を実施するよう協議を重ね制度を制定した。
また、労働組合に対して丁寧に事前説明を実施し、社員に対する説明会は労働組合と会社側と両方で実施するなど、制度導入をスムーズに行えるようにした。
高齢社員戦力化のための工夫
■セカンドライフセミナー
仕事が中心だったそれまでの生活と比べ、大きな変化が訪れるセカンドライフに向けて、今からできる準備を伝えるセカンドライフセミナーを実施している。対象者を限定せずオンラインで開催することにより、幅広い年代の方が参加し、セカンドライフについて計画する必要性や資金準備の考え方について学んでいる。
■年齢を問わない教育・資格取得の機会
教育の場として、二日市にある教育センターでは、専任の技術トレーナーとして水産・デリカ・畜産等のトレーナーを配置しており、現場と同じ設備環境で年齢に関係なく訓練を受けることができる。
資格取得のための自己啓発に関して、一定額を上限として、費用(書籍代、通信教育)の半額を補助し、「全従業員へのお知らせ」にて周知を行っている。また、鮮魚士(3,2級)、ベビーアドバイザー、チェックアウト2級などの資格取得に関するセミナーへの参加について、年齢・雇用区分に関係なく受講資格がある。職種により異なるが、資格取得により手当がつき、合格者には名札に資格が明記されるため、資格取得の促進に加えモチベーションアップにもつながる。
■安全衛生
産業医の巡回による作業場チェックを実施し、内容を安全衛生委員会で報告することにより、都度改善している。具体的な改善として、バックルームの整理整頓・定位置管理、階段踏み外し防止の蛍光テープの貼り付け、暗いバックルームでの作業時の蛍光灯点灯、売り場へとつながるスイングドアの内開きの徹底等を行っている。
高齢社員の労働災害発生率は若年社員に比べて高くその多くが転倒であることから重点的に対策を行っている。
■健康管理
健康管理への取り組みとして、健康相談室を設置し、専任の保健師が健康診断受診率の向上、優先度の高い社員への保健指導強化、メンタルヘルスに関わるストレスチェック受診率の向上、禁煙の推奨等を行っている。社員の高齢化に伴い、健康管理対策はより重要になる。自己責任のみに委ねるのではなく、組織として取り組むことが重要となるとの考えから、健康経営宣言企業として、社員の健康管理に取り組んでいる。
今後の課題
定年再雇用制度等について、社員に十分に理解してもらえるよう制度の周知を図り、より長く元気に働くことを応援する会社風土づくりを目指していく。