株式会社ファンケル
-「働けるうちは働きたい」という意欲の高い社員のための「アクティブシニア社員制度」-
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫
- 能力開発制度の改善
- 上限年齢なしの継続雇用(基準あり)
- 賃金処遇制度改定
- 役職任期制
- キャリアサポート

企業プロフィール
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創業1981(昭和56)年
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本社所在地神奈川県横浜市
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業種製造業
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事業所数国内162カ所
導入ポイント
- 定年を65歳に引き上げ、併せて上限年齢なしの再雇用制度を導入
- 役職定年制、役職任期制を導入して、管理職ポスト問題を回避
- セカンドキャリア研修でキャリアの棚卸しを実施
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従業員の状況従業員数 2,255人 / 平均年齢 40.9歳 / 60 歳以上の割合 4.5%(101人)
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定年制度定年年齢 65歳 / 役職定年 役職別に設定。併せて役職任期制も実施
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 上限なし 基準該当者
同社における関連情報
企業概要
株式会社ファンケルは、1981(昭和56)年に設立した化粧品・健康食品の研究開発・製造および販売を行っており、本社のある神奈川県をはじめ、国内162カ所の事業拠点を展開している。
社員数は2,255人、 社員の平均年齢は40.9歳である。社員構成の特徴については、年齢別には40歳代が多く、社歴が浅いこともあり60歳以上が101人(4.5%)と少ない。雇用形態別には正規社員907人、非正規社員1,348人である。非正規社員は、契約社員から無期労働契約に転換した直営店舗で販売業務に携わるエリア正社員を中心としている。
採用状況については、同社は総合職を対象にした新卒採用、店舗スタッフ等を対象にしたエリア正社員の新卒・中途採用をそれぞれ行っており、新卒採用は約70人を例年採用している。


雇用制度改定の背景
■経緯
2017(平成29)年以前のファンケルの定年・継続雇用制度は「60歳定年、65歳までの継続雇用(希望者全員)」であった。社歴約40年の同社では創業期から働いている社員が引退時期に差しかかる中、そうした社員から「働けるうちはいつまでも働きたい」という意見が寄せられていた。少子高齢化が進む中、定年延長を実施する企業が増えるなど、高齢者の就労環境の整備が社会的に要請されつつあった。そこで、同社は働き続けたい人、働いてもらいたい人を長く雇用できる制度の構築をねらいとした上限年齢なしの継続雇用制度の導入を2017(平成29)年4月に、65歳への正社員の定年年齢の延長を2020(令和2)年4月にそれぞれ実施した。図表1は「上限年齢なしの継続雇用制度と65歳定年延長」の実施前と実施後を比較したものである。

■制度改定に向けた課題とその対応
今回の一連の制度改定は、同社のグループ会社全体で実施した取り組みである。たとえば、65歳定年延長については、経営層の承諾を得てから準備に取りかかり、2019(令和元)年秋頃から社員代表との協議を進めた。一連の制度改定は、経営層の理解を得てから動き出したこともあり、大きな問題はなくスムーズに進んだ。
人事管理制度の概要
■定年延長に伴う人事管理制度の対応
定年延長に伴う人事管理制度の対応については、第1に60歳代前半層を対象にした賃金表を新たに設けた。同賃金表は59歳以前の賃金表の水準を見直したもので、60歳到達時の社員格付け制度の等級ランク(役割等級ランク)に対応した60歳前半層用の賃金表の等級ランクに格付けされ、新定年年齢まで人事考課に基づく昇降給が行われる。第2に役職定年制と役職任期制を新たに導入した。役職定年制は、役職別に定年年齢を設け、役職定年に達した管理職は役職を離れるとともに、役割等級がマネジメント職から役職定年者用の等級に移り、一般社員としてライン業務に従事する。賃金制度については、引き続き人事考課結果に基づいて昇降給を行う。役職任期制は全役職者を対象とし、3年に1回再任の判断を行っている。
■正社員
正社員の人事管理制度の概要を確認すると、賃金制度については、基本給は社員格付け制度の役割等級制度と連動した「役割給(等級別号俸制)」である。人事考課結果に基づいて昇降給を年1回行っている。なお、定年延長後も昇給は新定年年齢まで行っている。役職者には役職手当も支給している。賞与は基本給に会社の業績と勤務成績に基づいた係数を加味して支給している。この賞与の決め方は60歳代前半層も同じである。退職一時金と退職給付制度からなる退職金制度については、新定年年齢の65歳まで掛金を積み立てる。
人事評価については、役割評価と業績評価(目標管理)の2種類を行い、評価結果は、役割評価は昇給に、業績評価は賞与にそれぞれ反映させている。
評価の流れについては、課長による1次評価、部長による2次評価、そして部門長による最終評価となっている。評価の際に行う面談では上司と本人との間で評価理由の共有、今後の目指すべき方向性などの確認を行っている。
■継続雇用制度
同社が実施する継続雇用制度は、「アクティブシニア社員制度」という再雇用制度で、65歳の定年到達者を対象に一定の基準を設けて継続雇用に切り替えている。雇用形態は1年契約のパート社員である。業務内容は本人と相談しながら個別に決めている。賃金制度は基本給(時給制)のみで、昇給は行わない。高齢社員の働き方の希望は多様であり、週4日勤務とか1日5時間勤務など、本人の希望に柔軟に対応できるようにしている。
高齢社員戦力化のための工夫
■高齢社員に期待する役割
ファンケルが役職定年によって一般社員となって定年まで働き続ける60歳前半層に期待する役割は、引き続き戦力として活躍することに加えて、次世代を育成することである。高齢社員が長年にわたり蓄積してきたスキル・知識や経験を次世代に継承してもらうようにしている。
■年代別キャリア研修
自律的なキャリア形成を目的として、全正社員に対して年代別のキャリア研修を実施している。そのうち50歳以降を対象にした研修では、60歳以降のキャリア、あるいは正社員を退職した後も含めた長期視点でのキャリアを考えるプログラムを実施した。その際、アクティブシニア社員が登壇し、自身の正社員時代のキャリアの積み重ね方をはじめ、何を達成したか、アクティブシニア社員に切り替わってからの変化、雇用形態が変わってから留意した点、周囲との関係性の変化について語ってもらった。
■継続雇用者に対するキャリアサポート
同社が継続雇用者を対象に実施する主なキャリアサポートは各職場の上長を通した日常的な仕事を通したコミュニケーションと定期的な面談(One on Oneミーティング)である。継続雇用者として働く場合の心構え、働き方の切替えなどについて生の声を聞く機会を設けている。
健康管理・安全衛生
■常勤の保健師による健康管理
ファンケルでは、6人の常勤保健師が全社員の健康状態を個別に管理しており、健康状態に何か問題があれば、会社に報告する体制をとっている。継続雇用者に対しても同様の対応をとっている。健康に生涯働いてほしいという思いがあるので、毎年の健康診断結果や体調を見て、契約の更新についても相談する仕組みとしている。
制度改定の効果と今後の課題
■制度改定の効果~会社と社員の信頼関係の強化
ファンケルで働き続けることができる雇用制度が整備され、社員にキャリア形成の選択肢が増えたことにより、会社と社員との信頼関係が強化できたと同社は考えている。
■今後の課題
現在、高齢社員は少ないため、現時点で課題はみられていない。しかし、現在最も人数の多い年齢層である40歳代が10年後に定年年齢に近くなった場合、現在の制度が維持できるかが課題と同社は考えている。