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西島株式会社

-定年なし、自分で引退を決めるまで正社員として働ける会社-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • 能力開発制度の改善

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  • 定年なし
  • 処遇継続
  • 多様な勤務形態
  • 職場の風土づくり
西島株式会社のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1924(大正13)年
  • 本社所在地
    愛知県豊橋市
  • 業種
    生産用機械器具製造業
  • 事業所数
    1ヵ所

導入ポイント

  • 60歳、70歳を超えても深化する社員の技術力が会社の競争力の源泉
  • 管理職には若手や中堅を登用、50歳代で役職を降り「匠」として現場に専念
  • 社員は会社での生涯にわたるキャリア形成を真剣に考え自己研鑽
  • 従業員の状況
    従業員数 139人 / 平均年齢 41.8歳 / 60 歳以上の割合 14.4%(20人)
  • 定年制度
    定年年齢 定め無し / 役職定年 なし
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 該当せず
2023年02月01日 現在

同社における関連情報

企業概要

西島株式会社は1924(大正13)年、耕運機などの発動機を製造する「西島鐵工所」として創業した。戦後は発動機需要がなくなったため工具メーカーへの転身を図り、1945(昭和20)年には「豊橋工倶西島鐵工所」と改称した。ところが工具そのものよりも工具を製造する機械(旋盤や工作機)に注力することが企業成長につながると考え、専用工作機メーカーに踏み出した。1998(平成10)年に現社名に変更、創業100周年を迎える2024(令和6)年には新工場が完成する。組織は製造、営業、技術、管理の各部門からなる。

社員数は139人(非正規社員9人を含む)、うち、60歳未満は119人、60歳代前半は8人、 同後半は3人、70歳以上は9人 で あり、60歳以上の比率は14.4%、平均年齢は41.8歳である。

同社の製品は自動車業界向けの専用工作機械が多い。業界を超えて使用できる汎用機を量産するのではなく、顧客の特定用途向けに一品ものとして製作される。同社では「一流の製品は一流の人格から」をモットーにした全社員一丸となった製品づくり、受注後の設計・材料調達から組立試運転まで全行程の内製化による「自社一貫生産体制」により、製造工程のすべてのノウハウを自社に集積、そこから生み出される独自技術を強みとしている。

専用機製造で培った難削材の精密加工技術とノウハウを応用して2002(平成14)年には医療分野にも進出、子会社の西島メディカルでは人工膝関節を製造している。これまでは欧米人の体型や生活スタイルを反映した海外製品に頼らざるを得なかったが、西島メディカルの製品は椅子ではなく床に座るという日本人の生活スタイルに合わせて膝を深く曲げられる構造となっており好評である。

〈一流の製品は一流の人格から~エントランスを飾る看板~〉

雇用制度の背景

■定年のない会社

西島の経営理念は“一流の製品は一流の人格から”【一生元気、一生現役】、経営方針は「定年なし、学歴関係なし、技術に限界なし」である。同社の社長は経営者の役割は「企業を継承すること」と「社員の生活を守ること」と考えている。定年のない企業はこの両方を実現する。

同社が強みとする製品は顧客それぞれの要求に応じて作られる専用機械であり、顧客企業から再び同じ用途の機械を受注しても、前回と同じものを作ることはない。製造部門の社員は熟練技能や技術に加えて応用力が求められる。ベテラン社員の持つ総合力は長期間にわたって培われ深化する。社長は「技能は深まり、人脈が厚くなる」と評価している。同社に定年がないのは、社員に一生にわたる雇用保障と生活保障を約束することで安心感を生み出し、社員が不安なく働き、職務に専念し、一生をかけて技能や技術を高め、道を究めてもらうためである。「人材は労働力ではなく技術力」とする同社では、競争力の源泉である技術力を生み出しているのは高齢社員を始めとしたすべての社員である。

■会社を救った高齢社員

同社は過去に危機に見舞われた。1990年代半ばのバブル経済崩壊時、主要顧客であった自動車業界からの受注が激減した。たまたま地場産業である電照菊栽培の農業団体から機械製作の打診があった。高齢化していた農家の作業負担軽減のため、菊の下葉や茎の裁断から箱詰めをすべて自動化する「自動選花機」の開発であった。まったくノウハウがない分野にもかかわらず当時の60歳代社員がこぞって開発に参加、完成にこぎ着けている。

ベテランなしにはなし得なかった危機脱出は高齢社員の存在の大きさを知らしめるものとなった。それまでも事実上、定年はなかったが、これを機に、1995(平成7)年、同社は「定年なし」を正式に表明している。

■ベテランの強み

高齢社員を始めとするベテランの強みにはマニュアル化できないものが多い。ベテランには高度な技に加えて、作業の今後の進捗状況を左右する判断力、想定外の事態への対処力があり、これらの力は若手や中堅が及ばないだけではなく、伝承にも時間がかかる。製品の品質を高め、納期を厳守して顧客の希望に応えるために高齢社員の存在は欠かせない。

人事管理制度の概要

■人材育成

西島では景気や業況に関わりなく毎年新卒を3~4人、多い年では9人定期採用している。採用後、数ヶ月から数年の間隔で配置転換を繰り返す。OJTと研修も組み合わせて訓練し、溶接、板金、機械加工、組立てなどを一通りこなせる多能工(ゼネラリスト)を育成する。町工場の時代から、同社では社員に多様な業務を経験させていた。ひとりで何役もこなせる社員なしには経営は成り立たなかった。今もその方針は受け継がれている。また、配置転換を通して社員の適性を見極め、適性ありと会社が認めた分野(技術、組立、設計、管理等)で時間をかけて経験を積み、技術や技能を身につける。

同社では若手や中堅を国内外へ出張させ、原則として60歳以上は出張しない。若手や中堅は体力があり、体験や知識をおおいに吸収できる。出張も人材育成の一環であり、外に出すことで顧客ニーズや市場動向、ITなどの最新技術に触れさせ、自身の強みとさせる。

〈オーダーメイドの専用工作機械〉

同社の管理階層は工場長、部長、課長、課長補佐、業務補佐からなるが、20歳代・30歳代が課長に、40歳代が部長に登用される。若いうちに管理職を経験することで管理能力が身に付き、全社的観点から会社を見る力がつく。管理職はプレーイングマネージャーとして現場の仕事にも携わり、3年から6年で交代、50歳代は管理職から離れて現場に戻る。技術革新への対応力と現場感覚を低下させないためである。現場に戻ったベテランは「匠」として製造の第一線で本来の力を発揮するだけではなく、自身のノウハウのマニュアル化や後進の指導に励む。「ゼネラリストからマネージャーへ、そしてスペシャリストへ」が同社の人材育成方針である。

■賃金制度

同社の社員は引退するまで正社員であり、嘱託や再雇用になって身分が変わることはない。同社の賃金体系は基本給と諸手当からなる。基本給は年功を基本としつつ、50歳代で年功部分の昇給は止まる。その後の昇給は実績に基づいて決定される。なお、同社ではベテランが管理職を離れて現場に戻る際に管理職手当が支給されなくなるが、現場に戻り技術をさらに高めていくことで、会社はその技術を評価して対価を支払い、自己成長をモチベーションとして匠としての技術を極めて行ってもらう。

■評価制度

同社では人事考課を年2回行なう。人物査定(人間性)と能力査定(技術力)の二本立てであり、「相手の立場に立って行動したか」、「部下の成長に努めたか」など20数項目で査定を行なう。まず本人評価を行い、各段階の上司評価に社長評価を含めて7段階で絶対評価する。評価の観点は「求められた役割を果たしたか」、「半年前の自分と比べて今年どれだけ伸びたのか」であり、マイナスの査定は行わない。

■退職金制度

定年のない同社には退職金制度はない。退職金は支給されないが、前述のように役職離脱後も賃金水準が低下しないまま推移することから、生涯賃金は手厚い水準となる。

高齢社員戦力化のための工夫

■ベテラン社員は現場の仕事に専念

西島で働くベテラン社員は原則として出張や残業、夜勤がない。体力的負担の掛かる仕事から離れることで現場の仕事に専念させるためである。

■社員自らが決める引退

同社の社員の最高齢は80歳、過去には勤続66年の社員も在籍していた。定年のない同社の社員は自分の判断で引退を決める。引退を考え始めた社員に対して、会社は働き続けることが可能な方法を提案する。最終的には本人や家族が決めることであるが、高齢社員がいることで「経験を会社に還元してもらえる」と同社は考えており、働き続けることを粘り強く要請している。同社の願いを理解した家族が社員を励まし、本人が引退を考え直すこともあるという。現在、3世代がいっしょに働いている例もある。

■社長の積極的コミュニケーション

同社では社長が毎日2時間ほど掛けて会社の中を回り、社内で働く150人の一人ひとりと言葉を交す。単なる挨拶ではなく、仕事や生活に関することを聞く。また、今その職場で課題となっていることへの取り組み状況を尋ね、同僚間で食い違いがあればその場で両者から話を聴き、同社の方針に照らして解決策を指示している。

〈稼働する150台以上の機械のうち40台は自社製造〉

■高齢社員の表彰

定年制のない同社には勤続50年を超える社員が在籍する。同社では勤続50年と60年に表彰制度を設けており、それぞれ「50年クラブ」と「60年クラブ」のメンバーとなる。「50年クラブ」のメンバーの中には図面手書きの時代に入社し、その後のコンピュータ化では導入の実績を担った社員、中卒で入社して社員寮で生活し、加工の仕事を一筋で勤めてきた社員がおり、同社から24金の「勤メダル」が贈呈された。

健康管理・安全衛生・福利厚生

■健康管理体制の充実

長期間にわたって働いてもらうためには若いうちからの健康管理が欠かせない。西島では健康診断に際し、通常40歳以上が対象となる検査項目を全社員対象としている。また、全員が社員食堂で昼食をとるが、食費が安価であるだけではなく、減塩など健康管理を徹底したメニューとしている。

■新型コロナウイルスへの対応

新型コロナウイルス感染拡大時、店頭でマスクやトイレットペーパーが不足したが、同社では社内備蓄用物資を社員に配布した。社員の感染予防対策を確実にし、生活の不便を解消している。

■独身寮と社宅の提供

社員の生活安定が仕事で実力を発揮する大前提との考えから、同社では社員向けの独身寮や社宅を用意し、安価で提供している。住宅費などの負担を軽減させて財産形成を容易にし、30歳代で持ち家を実現できるようにしている。

■社員や家族を集めた行事の開催

新型コロナウイルス感染拡大前、同社では機会を捉えてさまざまな催しを開いていた。新入社員とその家族を招待した歓迎会、全社員や家族を集めて食事や音楽演奏を楽しむ家族会、年代別に集めて意見交換する飲み会などである。コロナ禍のため食事会等の行事は現在休止中であるが、コロナ禍解消後に再開する予定である。

制度改定の効果と今後の課題

西島では経営方針を広く捉え、性別や国籍も関係なく受け入れ、高齢者だけではなく、障害者や女性、外国人の活用にも積極的である。障害者は3人採用、健常者と同じ待遇で働いている。CAM(コンピュータ支援製造)室は女性パート社員が戦力の中心となっている。パート社員は多様な勤務形態を選べ、家事や育児と仕事が両立可能である。多様な人々が働きやすい仕組みが整っている同社では高齢者も働きやすい。そして、いつまでも働ける会社であることから、社員も同社での生涯にわたるキャリア形成を真剣に考えて実践しており、会社の技術力を高めている。

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