株式会社トーケン
-自社生え抜き高齢者と他社定年者の積極的活用で「多柱経営」推進-
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫
- 能力開発制度の改善
- コンテスト入賞企業

企業プロフィール
-
創業1970(昭和45)年
-
本社所在地石川県金沢市
-
業種総合工事業
-
事業所数5か所
導入ポイント
- 改定の契機:経営管理体制強化と若手人財の育成強化を、内外からの高齢者を起用し戦力化
- 高度な専門知識を持つ大手ゼネコン出身の高齢技術者を受け入れて自社の技術力を強化
- 意欲の高い生え抜き女性高齢者を多柱経営の社会貢献事業に起用
- ICTを駆使し高齢者が本社から現場指導、移動による負担軽減にて効率化
- 改定の効果:内部人財の高齢者も活躍できる職場環境と風土づくりを推進、内外の高齢者の技術 ノウハウの伝承により競争力強化を実現
-
従業員の状況従業員数 85人(2024年2月1日現在) / 平均年齢 41.0歳 / 60 歳以上の割合 60~64歳 4人 65~69歳 3人 70歳以上 4人
-
定年制度定年年齢 65歳 / 役職定年 なし
-
70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 ・希望者全員 ・ 70歳以降は基準該当者を上限年 齢なく雇用
同社における関連情報
企業概要
株式会社トーケンは1970年に地場大手メーカーの建設子会社として設立された。その後1975年に株式会社トーケンに社名を変更し、現在にいたる。資本金7000万円、従業員数85名、売上高約100億円の建設総合サービス業である。 建設本業(社屋や工場、商業施設、病院等)、開発・不動産事業(商業店舗開発、宅地・工業団地開発)、賃貸管理(賃貸マンション管理)、グリーンビズ事業(屋上・壁面緑化)、高齢者施設紹介事業(高齢者施設の相談・紹介)、植彩インテリアBuddy事業(障がい者就労支援)などからなる「多柱経営」を推進し、地域に貢献する「地域スーパーゼネコン」として地歩を固めている。
従業員の平均年齢は41.0歳、全従業員85名のうち、60歳以上の者は11名(60歳代前半4名、同後半3名、70歳以上4名)である。最高齢者は76歳である。
雇用制度改定の背景
トーケンの定年年齢は65歳、定年後は希望者全員70歳まで再雇用することを就業規則で定めている。加えて70歳に到達した高齢者は希望すれば年齢の上限なく再雇用されている。トーケンの高齢者雇用の特徴は企業競争力強化を目指して高齢者を内外から起用していることである。
■技術力向上のため外部出身高齢者を起用
トーケン創業者に請われ、大手ゼネコン定年後に社長で入社した現会長が直面したのは多くの問題を抱えた会社の姿であった。当時のトーケンの技術力は弱く、実際の工事では下請け業者に対する管理監督力が乏しかった。工事の品質不良も自社で見つけることができなかった。トーケンの課題は技術力・管理力・企画力(提案力)・与信力の向上と人財育成であった。
技術力向上と人財育成の担い手として現会長の出身ゼネコンや同業の人財が獲得の対象となった。 現役人財には定年退職後にトーケンに入社してくれるよう掛け合い、OBに対しては即入社を要請した。入社した者は技師長に任命して機械・電気設備、品質管理等各部門の指導役とする一方、若手を指導する企業内カレッジの校長を委嘱した。 家庭の都合や東京在住等でフルタイム勤務が難しいOBには週数回や月数回の出社を条件に顧問として招聘し、専門技術の伝承を託した。
■社内の女性高齢者を社会貢献事業に起用
技術力強化や人財育成とともに事業複業化や社会貢献・地域貢献もこれからのトーケンには欠かせないと現会長は考えていた。そこでトーケン生え抜きのベテラン社員である60歳代の女性を起用した。トーケンが新たに進出した事業は高齢者介護施設紹介事業と障がい者就労支援事業である。
高齢者介護施設紹介事業ウチシルベ(2012(平成24)年開始)は高齢化社会が進む中、自宅での介護が難しくなった高齢者や家族が施設選びに困っている現状を知ったことがきっかけで始まった。県内数多くの介護施設を実地調査して介護サービスの内容、料金、食事対応内容、医療体制等の詳細を把握、これらのデータをもとに要望に沿った施設を直ちに選び出して紹介している。年間約300件の相談を受けるようになり、それまでは建設事業のみが知られていたトーケンのイメージが変わりつつある。ウチシルベのセンター長を務めるのは69歳の女性であり、ウチシルベ開設とともに賃貸管理部主任からウチシルベのマネージャーとして抜擢、その後、センター長に就任している。自身も介護を経験して介護問題に関心が高かった。介護問題の悩みを持つ相談者に施設紹介の相談員として応えるほか、高齢者施設のセミナー講師としても活躍している。
障がい者就労支援事業Buddy(2021(令和3)年開始)は多柱化の一環として開始したグリーンビズ事業(屋上・壁面緑化)と有機的に結びついている。セラミックス素材であるグリーンビズに植栽したインテリア商品を社会福祉法人の就労支援施設の障がい者が制作しており、作業所はトーケン小松本社内にある。トーケンが社会福祉法人とパートナーシップを結んでの社会貢献事業である。トーケンの担当責任者は60歳代前半の女性である。トーケンでは長年にわたって経理を担当し、経理課長や総務部次長を歴任した。現在の担当になって初めて障がい者と関わるようになったが、人生経験の深さで障がい者に接し、障がい者が作業所で働きやすい環境の整備に注力している。
人事管理制度の概要
■新卒採用とリファラル採用制度
地域での企業イメージ向上によりトーケンでは現在は毎年5名程度の新卒採用が可能となり、離職率も地場企業と比較して低い。後述するように教育訓練制度も充実している。一方、未だに専門技術者に依存せざるを得ない分野やテーマも存在しており、トーケンではこれからも知識や経験豊かな高齢者の獲得に力を入れるべく2021(令和3)年からリファラル採用制度を開始した。トーケン社員や業界関係者を通じて友人や知人、知り合いを紹介してもらう制度である。この制度により2名が採用され、設備部長(61歳)と設計顧問(67歳)として活躍している。
■教育訓練制度(トーケンアカデミー)
以前のトーケンは、せっかく採用しても満足な教育訓練制度もないまますぐに現場に配属され、工事の知識や対応する能力不足から自信を喪失し、すぐ辞めてしまう状況もあった。そこで外部出身の高齢者を校長に迎え「トーケンアカデミー」を設立した。
アカデミーでは新入社員が安心して現場監督としてスタートできるように校長が必要なカリキュラムを組み、入社後5か月間にわたって実施している。
アカデミーで学ぶ若手社員にとっては教わる内容が直接現場で活きるだけではなく自身のキャリア形成に必須のものとなり、技術者としての自覚や意識の向上につながる。加えて同期の絆も醸成され、アカデミーの講師も含め社内につながりが出来ることで職場や会社への定着効果につながっている。
■処遇と人事考課
トーケンの給与体系は基本給(年齢給と職能給)と諸手当(役職手当、資格手当等)からなる。 年 齢 給は40歳 代まで定期昇給し、職能給も含めれば定年まで昇給する。資格手
当は主に建設関係の国家資格取得者に支給される。賞与は夏と冬の2回に加え決算賞与もある。加点主義を原則とする人事考課は一次考課(管理職)二次考課(部門長)、代表者評価の3段階で行ない、考課結果は部門長との面談で本人へフィードバックされる。
■継続雇用制度
60歳定年時のトー ケン社員は定年以降も継続雇用で働く者が多かった。 継続雇用後の仕事ぶりにも遜色はなかったことから、2021(令和3)年に65歳への定年延長を実施し、同時に70歳までの希望者全員継続雇用制度も実施した。これにより高齢期に近かった従業員や当時の継続雇用者のモチベーションも向上した。
継続雇用後もそれまでのキャリアを活かして引き続き後継者育成に努めてもらうほか、仕事ぶりから適性を考えて新規事業(福祉関連)や社会貢献事業に起用するなどの工夫を凝らしている。継続雇用者の希望によって週4日勤務や短時間勤務も可能である。賃金や賞与などの処遇は与えられた役割と貢献度をもとに社長と会長で決定する。なお現在は70歳までの選択定年制度を検討中である。
高齢従業員戦力化のための工夫
■技師長・顧問制度
大手ゼネコンを定年退職した技術者を技師長や顧問として招く「技師長制度」、「顧問制度」は2008(平成20)年から導入した。これら高齢者は技術者としての専門性が高く、トーケンに不足している技術や管理手法ノウハウの伝承と人財育成(特に建設技術者としての自覚の教授)に努めている。技師長は設備(76歳)、品質(72歳)、校長(70歳)、また顧問は地質(77歳)、安全(73歳)、設計(68歳)の面々が日常業務に加えて社内研修会の講師として指導し、各分野のレベルアップに貢献している。技師長と顧問の処遇は社長と会長が決定する。
■トーケンアカデミーによる技能伝承
トーケンアカデミーで校長を務める高齢者(技師長)は建設関連資格を数多く持ち、建物の診断業務も担当している。技師長は講師として自身の知識や経験を伝えるだけではなく、育成計画やカリキュラム、教材作成を担う。また、これから各種資格(二級建築士や一級建築士、一級施工管理技士)取得を目指す若手に対して受験勉強についても指南している。
■「胎動塾」で高齢者の経験を伝承
2008(平成20)年に始まり、全社員の前で若手も高齢者も発表する「胎動塾」も活用されている。胎動塾は「企業が成長するも停滞するも人」という信念から、社員に意識改革を促すとともに、自ら学び自己研鑽する場となっている。 現在はリモート形式で各事業所や現場からも参加できるほか、動画配信も行なわれている。
胎動塾ではベテランや高齢者は若手発表者にアドバイスする一方、多様な年代層の意見や意識を知ることができ、年代を超えたチームワーク醸成につながる。高齢者の発表テーマはさまざまであり、ある高齢者(部長職)は自身が担当した2つの現場工事の失敗例とトーケン初の超大型物件工事の成功例を発表するなど、教訓を若手や中堅に伝えている。
健康管理・安全衛生・福利厚生
トーケンは2014(平成26)年から金沢本社と小松本社の2本社制となった。 本社間、また建設現場と本社間の情報共有円滑化のためにIT活用を強化した。 現場にライブカメラを設置して遠方の現場に移動せずとも状況が把握できるほか、テレビ会議システム、社内オンライン通話、タブレットによりコミュニケーションが充実している。これらのIT活用により高齢者は移動することなくもう一方の本社で働く社員へ適時適切に指導できる。また現場ライブカメラについては、ズーム機能(60倍ズーム)や解像度に優れていることから、高齢者は現場映像から状況を把握・分析して現地の監督者に適切なアドバイスが出来るようになった。 高齢者にとっては移動にともなう体力負担が軽減されるだけではなく、現場作業の危険回避にもつながっている。
健康管理の取り組みでは人間ドック受診費用を全額会社負担としたほか、定期健康診断にはがん検診や歯科検診も追加するなど取り組みを強化した結果、2019(令和元)年から5年連続で経済産業省の健康経営優良法人認定を受けている。
制度改定の効果と今後の課題
地域スーパーゼネコンとして、その地位をいっそう強固なものとするには継続的な人財育成が欠かせないとトーケンは考えている。トーケンアカデミーで育つ若手だけではなく、現在の技師長や顧問の指導によって中堅社員の実力を高め、将来の技師長を育成する取り組みも進められている。一方、大手ゼネコン各社の定年延長により、60歳代の優秀な外部人材の獲得が難しくなりつつある。今後、トーケンでは、内部人財活用に力を入れることで次代を担う組織力強化に努めていく。