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株式会社恵那川上屋

-和菓子に欠かせぬ地元の栗生産を守り、多方面で高齢者を活用-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • 能力開発制度の改善
  • コンテスト入賞企業

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  • 70歳までの継続雇用
  • 評価・処遇制度を見える化
  • 機械化・自動化による負担軽減
  • 「フィードフォワード」による人材育成
株式会社恵那川上屋のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1964(昭和39)年
  • 本社所在地
    岐阜県恵那市
  • 業種
    食料品製造業
  • 事業所数
    16か所

導入ポイント

  • 改定の契機:和菓子製造や顧客対応に優れた高齢者のノウハウの長期的活用と若手人材育成
  • 和菓子づくりに欠かせない高齢者の熟練を機械化・自動化して作業者の疲労を軽減
  • 熟練のノウハウを上手に伝えきれない高齢者から中堅社員が話を引き出して若手に伝承
  • 高齢者も多いパート社員の評価・処遇制度を改善、「見える化」して納得性が向上
  • 改定の効果:機械化・自動化で高齢者の負担が軽減、働きやすい職場を実現
  • 従業員の状況
    従業員数 298人 (2023(令和5)年6月現在) / 平均年齢 41.2歳 / 60 歳以上の割合 14.8%(44人) (内訳)60~64歳 19人  65~69歳 10人  70歳以上 15人
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 なし
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 ・希望者全員 ・ 70歳以降は基準該当者を上限年 齢なく雇用
2024年04月01日 現在

同社における関連情報

企業概要

 株式会社恵那川上屋は1964(昭和39)年創業、和菓子や洋菓子の製造販売を行なっている。 従業員は298名(正規151名、非正規147名)、うち60歳未満254名、60?64歳19名、65?69歳10名、70歳以上15名であり、60歳以上者は全体の14.8パーセントを占め、平均年齢は41.2歳である。

 同社の看板商品は地元岐阜県恵那地方の栗を使った栗菓子であり、「栗きんとん」をはじめとする商品は名高い。同社にとって地元産の栗は欠かせないが、栗の安定供給が危ぶまれる状況にある。生産農家の高齢化で生産の継続が難しくなり、また、栗の収穫で収入が得られるのは秋に限られ、他の作物生産によって通年で収入を得られるしくみなしには農業の後継者育成が難しくなりつつあった。

 そこで同社では栗の調達だけではなく栽培にも関わる。背の低い栗(超低樹高栽培)の品種を自社で開発、新品種は収穫時の体力負担が軽減され、高齢者も容易に収穫作業が行なえる。収穫された栗は同社が買い取りを確約、農家の収入安定につながっている。また、栗の収穫時期以外に栽培できる作物として同社はトマトに着目、一般のトマトと差別化するためにおやつ感覚で食べられる甘いトマトを開発し、栽培を委託することで栗農家が通年で収入を得られるようになるビジネスモデルを構築中である。

 これからも安定して地元で栗菓子が作れる基盤として農業分野にも進出した同社であるが、草刈りや栗拾い、剪定等の作業では同社の高齢従業員も働いている。

雇用制度改定の背景

 65歳定年後、希望者全員が70歳まで再雇用され、会社が必要と認めればその後も年齢上限なく再雇用される。定年延長は2017(平成29)年に実施された。 定年延長前、社員は60歳定年の後、希望者全員65歳まで再雇用、パートは65歳定年であった。高齢者でも働きぶりや成果に大差がなく総人件費の上昇も許容範囲内であると総務部門は試算、経営陣に上申し定年延長が決定した。

人事管理制度の概要

■採用と教育

 新卒採用は年間10?15名、中途採用では50歳代以下での採用が多い。現在、マネジメント層を対象にコミュニケーション、リーダーシップ、社会情勢理解を目的とした研修を実施している。また、「チームビルディング研修」も実施、パート社員も参加している。

■賃金制度

 賃金は基本給と役職手当からなる。基本給は職能資格給である。職能等級制度は5段階の責任等級からなる。年1回の人事考課を反映した定期昇給は65歳まで続く。

 菓子製造では製菓衛生士、大量の栗の皮を処分する作業では小型移動式クレーンや玉掛けの資格が必要となり、これら公的資格所持者には資格手当が支給されている。なお、同社では菓子製造に欠かせない砂糖を種子島で自社精製しており、担当する熟練社員は社内資格である「砂糖杜氏」の肩書きを持ち、資格手当が支給される。

 退職金は中小企業退職金共済事業本部(中退共)に加入している。

■継続雇用制度

 65歳定年を迎えた者は嘱託社員として70歳まで再雇用される。処遇の前提となる社員格付けは定年時の職位と等級が反映する。人事考課も行なわれて一時金に反映され、定年後も賞与がある。

■パート人材の活用

 パート社員の定年は65歳、勤務成績・状況を勘案して継続雇用を会社が判断する。最年長者は81歳、資材管理(販売促進用)で働く30年勤続のパート社員である。20歳代で同社に正社員として入社後、結婚や育児で退職、その後、再びパート社員として復職している者もいるほか、正社員で復職する場合もある。パート社員の多くが65歳定年後も仕事を継続しており、収入確保と健康維持を目的に食材栽培、生産、販売、運送等、多方面で活躍している。正社員が働きやすい環境づくりとして同社では短時間勤務制度を用意しているが、高齢者はパート社員として短時間勤務している。

 パート社員を対象に2019(令和元)年に評価・処遇制度を改定、パート社員の役割と責任分担を明確化した。その内容はクラス制パート社員を対象に2019(令和元)年に評価・処遇制度を改定、パート社員の役割と責任分担を明確化した。その内容はクラス制度、人事評価制度、時給制度からなる。クラス制度ではパート社員の仕事ぶりをもとに基本ができる「スタッフ」と後輩指導と段取りができる「リーダー」の2クラスに分けている。人事評価制度ではパート社員一人ひとりの成長や頑張りを確認、時給制度では時給算定根拠を詳細化(クラス給、地域給、繁忙加給-シフトが埋まりにくい時、職能給-早番手当)、納得性の高いしくみを「見える化」している。

 栗の収穫や栗きんとんの生産販売が集中する8月から11月までの繁忙期は過去に自社でパート社員として勤めていた地元高齢者を期間限定社員として招集する。20名ほどがその要員であり、時給は常用パート社員より高い。

 社員に新規パート社員を紹介してもらう制度があり、紹介された者が実際に採用された場合、紹介した社員と採用されたパート社員双方に報奨金が支給される。トマト栽培作業にあたる4、5名の高齢者もこの紹介制度で新規採用している。同社で勤務経験のある地元住民も多く、人手が必要になった時に会社が声を掛ければ応じてくれる。

高齢従業員戦力化のための工夫

■高齢者の強みが活かせる部署へ配置

 高齢者がその強みをいちばん活かせる職場に適材適所で配置している。同社の販売店は観光客が多い店舗と地元住民の利用が多い店舗に分かれる。来店する地元住民は冠婚葬祭用に菓子を購入することが多い。店員には接客マナーはもちろんのこと、熨斗紙、包み方、宛名書き、使用文具など多くの決まり事に通じていることが求められる。 そこで同社では地元客の多い店舗には地元出身の高齢パート社員を重点配置している。店舗の高齢社員は若手への見本となっている。

■高齢者の熟練を機械化、負担を軽減

 栗きんとんの製造工程では栗の皮むき作業の負担が大きい。熟練者の手作業が必要な作業であるが、負担軽減のために機械化を進めている。また、栗の色を識別する作業も重要で熟練が必要であるものの作業者には視力に負担がかかる。そこで、色合いを識別できる装置を導入して作業者の視力低下を防止している。形が崩れやすい栗きんとんの包装作業も商品の見栄えに大きく影響する重要な作業であるが、手先を使う繊細作業は作業者の負担となる。そこで機械化による包装自動化を進めて疲労軽減を図っている。

<改善前:目視による栗の色彩識別作業>
<改善後:視力低下防止で導入した色彩選別機>

■フィードフォワード

 「フィードフォワード」を重視している。これは未来への働きかけの重視、目標に向けて意識的に取り組んでいく姿勢であり、高齢者が自身の経験やノウハウを若手中堅にアドバイスしながら伝え、サポートする。 高齢者は若手の考えや意見を否定するのではなく同調しながら仕事に対する責任感を伝えていく。

■高齢者の強みを後進に伝承

 販売店マニュアルを活用して入社から3年間の教育を行ない、技術と技能を伝承している。マニュアルは高齢者のノウハウを収めている。一方、若手向けの研修では高齢者も講師となるが、教えるのが苦手な高齢者にはファシリテーターとして中堅が入り、高齢者から話を引き出し、受講者の理解を助けている。

■始業時間や休憩時間の配慮

 店舗の開店前に商品を届けるため製造部門は早い時で午前4時、通常は午前5時半から始業する。朝早い作業は高齢者の多くにとってはライフスタイルに合っている。 一方、社員の疲労回復を考え、昼の休憩以外に午前と午後それぞれ10分休憩を設けている。この休憩時間は有給扱いである。

■高齢者に無理をさせないIT対応

 高齢者の多くはITには慣れていないが、製造現場で必要とする場面は少なく、高齢者が対応を迫られることはない。販売現場でキャッシュレス決済確認などの作業があるが支障はない。店舗が多く職場が点在しているため情報共有を目的にグループウエアを導入、スマートフォンでアクセス可能なため、高齢者が戸惑うことはない。なお、従業員はグループウエアに提案や意見を投稿するが、ITに違和感のない若手からの発信が多く、高齢者から少ないのが現状である。高齢者の知恵を高齢者自らまたは若手の力を借りて発信してくれることを会社では期待している。

健康管理・安全衛生・福利厚生

■健康診断の充実

 定期健康診断で再検査が必要となった者は産業医が受診を促している。新型コロナウイルス感染防止のため対策本部を立ち上げ、具体的方針とガイドラインを策定、注意喚起は高齢者も見ているグループウエアで行なった。

■労働災害防止

 菓子の製造現場では機械化とバリアフリーで労働災害発生を防いでいる。また、工場の照明も改善、手もとが見やすくなった。立ち作業では作業者の身長に合わせて台を置き、疲労の少ない姿勢での作業が可能となった。

 トマト栽培では夏場に高温となるハウス内での作業を極力避け、外でできるように工夫して熱中症防止に努めている。ハウス内作業を行なう場合は作業場所を白板で掲示して作業者の居場所が分かるようにしており、見通しの悪い死角での事故防止につなげている。

■表彰制度

 正社員は勤続5年以上の者が5年ごと、またパート社員は勤続10年以上の者が5年ごとに永年勤続表彰を受ける。

制度改定の効果と今後の課題

 定年を65歳に延長し、定年後も希望すれば上限年齢なく働ける仕組みを導入したことが、労働力の安定的確保につながっている。現在、高齢期におけるキャリアサポートの一貫として、55歳到達時に新たな研修を計画中である。55歳から65歳までの10年間を展望し、その間で必要となるキャリアを自身で考えさせるのが目的である。さらに65歳定年後の再研修も必要と考えている。このように定年後の再雇用期間も含め、従業員の長期にわたる一貫したキャリア形成の実現を同社では目指している。

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