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株式会社りそなホールディングス

-個人の多様な生き方や働き方に応える選択定年制を大手行で初導入-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • 能力開発制度の改善

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  • 選択定年制度
  • 多様な勤務形態
  • 複線型人事制度
  • 賃金・評価制度改定
株式会社りそなホールディングスのロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1918年
  • 本社所在地
    大阪府大阪市
  • 業種
    銀行業
  • 事業所数
    326ヵ所(有人店舗)

導入ポイント

  • 60歳から65歳までは定年を自分で決められる選択定年制
  • フルタイム社員もパートタイム社員も時給換算で同額の基本給を支給
  • 複線型人事制度では19のコースを用意、専門能力を持つ高齢社員も各コースで強みを 発揮
  • 従業員の状況
    従業員数 27,829人 / 平均年齢 40.3歳 / 60 歳以上の割合 9.3%
  • 定年制度
    定年年齢 65歳
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 基準に該当する者を70歳まで継続雇用
2021年08月31日 現在

同社における関連情報

企業概要

株式会社りそなホールディングスは、わが国5大銀行グループの一角を占め、傘下にりそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらいフィナンシャルグループ(傘下に関西みらい銀行とみなと銀行)を有する日本最大の信託併営商業銀行グループである。特に中小企業と個人分野に厚い顧客基盤を持ち、首都圏と関西圏を中心に全国に800を超える店舗(有人店舗)を展開している。従業員は、全体で27,829名(うち非正規従業員は9,343名)、従業員の平均年齢は40.3歳である。

りそなホールディングスは、女性活躍に関する取り組みを評価され、2013(平成25)年には経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」に選定されるなど、ダイバーシティへの取り組みの歴史が長い。

以下に紹介する選択定年制などの新人事制度もダイバーシティに積極的に対応したものでもある。ダイバーシティを単に男女や年齢の違いから来る多様性に限定せず、価値観や考え方の多様性も含めてとらえ、それらを尊重し、働き方に対する一人ひとりの考え方の違いに応えられる多様な選択肢の提供が推進されている。りそなホールディングスでは、これらの取り組みが社員の可能性を引き出して企業への貢献となり、企業価値が高まると考えている。

雇用制度の内容

■65歳までの選択定年制

りそなホールディングス傘下のりそな銀行と埼玉りそな銀行は、2021(令和3)年、定年を60歳から延長し、65歳までの間で自由に選べるようにした。選択定年制は大手銀行で初の採用となった。

りそなホールディングスは、毎年グループ従業員の意識調査を行なっているが、「何歳まで働きたいですか」との質問に対して「65歳を過ぎても働きたい」とする回答が増えていた。会社ではグループ全体の年齢構成バランスや人件費負担の観点から70歳までの雇用機会提供の可能性を検討した。

その結果、高齢者雇用により従業員のモチベーションが高まること、高齢化が進む日本においては高齢者雇用を積極的に進める必要があり、むしろ早期に取り組むことで高齢社員の知識や経験を取り込んだ組織づくりが可能となり、グループと傘下銀行の競争力向上に繋がるとの判断から、2019(令和元)年の継続雇用上限年齢引き上げを経て、2021(令和3)年の定年延長を決断した。

「選択定年制」導入の背景には「年齢にとらわれない評価・処遇と適材適所の登用・配置」という基本的な考え方がある。一律に65歳まで定年を引き上げるのではなく、個人の多様な生き方に応じて選択できる制度の実現が基礎となっている。

■継続雇用制度

りそな銀行と埼玉りそな銀行では、2019(令和元)年から定年後の継続雇用の上限年齢をそれまでの65歳から70歳に延長している。今回の選択定年制導入により、従業員によって定年退職時の年齢は異なるが、その後の継続雇用では 70歳まで働く選択肢が用意されている。継続雇用の対象は、就業規則に定めた基準に該当する者で、健康状態、出勤状況、勤務態度などを総合的に勘案して決めている。

従来の定年制度では、定年到達者の約8割はその後も継続雇用され、新制度の下では、対象者の約9割は65歳での定年を希望している。

継続雇用時の職務は、原則的にそれまでと変わらず、今までの経験や知識で培われた強みを引き続き活かして会社に貢献してもらう。なお、継続雇用者の職務等級は、定年到達時の職務等級に基づき決定する。基本給は継続雇用者向けの賃金表が適用され、働き方に応じて月給制もしくは時給制となる。賞与も職位に基づく標準額をもとに上司が査定して支給する。定年以降の賃金も業績に応じて昇給は可能であるほか、賞与も60歳代以降についても業績に応じて支給される。

人事制度の概要

■複線型人事制度

2021(令和3)年、りそな銀行と埼玉りそな銀行では人事制度を複線型に刷新した。従来、従業員は3つのキャリアフィールド(ソリューション系、カスタマーサービス系、企画スタッフ系)から自身の希望するキャリアを選択していたが、新制度ではその分野が19コースに細分化・拡充された。それまでの大まかなキャリアの括りを変え、従業員の個々のキャリアの専門化と高度化の実現を目指している。金融機関の業務は、店舗を中心としたビジネスから金融とITを融合したフィンテックに移行しており、対応できる人材育成が喫緊の課題となったためである。

新制度で用意された19のコースのなかには、DXスペシャリストやITスペシャリスト、データサイエンティストなどデジタル人財育成を目指したキャリアや、企業法務人財やリスク管理人財、監査人財など経営管理や企業ガバナンスの専門人財向けのコースも用意されている。この複線型人事により、高齢社員にも新しい分野にチャレンジできる機会を提供している。

分野の細分化は、専門性の高さに応じた処遇を反映しやすくしている。これまでも市場価値の高い高度人財が活躍しており、貢献に応える処遇が求められていたが、従来は専門性に応じた処遇差を大きくしておらず、貢献度の反映が難しかった。今回の制度改正で19コースに拡大したことにより、各分野で発揮している専門性の高さに応じて位置づけることが可能となり、貢献度に応じた処遇が容易となった。

■多様な社員形態

従業員は、社員(正社員)、スマート社員(限定正社員)、パートナー社員(パートタイマー)に区分され、運転手など庶務社員も存在する。社員間の違いは、業務範囲と勤務時間の違いによる。社員(正社員)は業務範囲と勤務時間に限定がなく、遠方への転勤や異動、時間外勤務や休日勤務があるなど責任や負担が大きい。スマート社員では業務範囲と勤務時間のどちらかが限定、パートナー社員は両方が限定されており、社員(正社員)に比べれば負担は小さくなる。

各社員が担当する職務については、難易度や職責の大きさによって19段階の職務等級に細分化され、年功的な要素はない。また、上位の職務等級への昇格も年功的には運用されていない。人事評価は、3種類の社員すべてで共通化されており、定年後の社員の評価も共通である。

従業員は、自身のキャリア形成を目指した働き方や、生活と両立できる働き方が選択できる。パートナー社員からスマート社員や社員(正社員)への登用制度が用意され、上司の推薦や試験、面接による選考でキャリアアップは可能である。また、社員(正社員)、スマート社員、パートナー社員間の転換は、一定条件の下本人の申告で可能となっている。

これらの制度は、就職、結婚、出産、復職など人生の各段階で働き方を変えることが可能となり、仕事と生活のバランスを調整できる。また、高齢社員の場合は、フルタイムからパートタイムに移行して余暇や介護、地域活動に時間を充てたいという要望に応えることが可能で、仕事もそれ以外の活動も意欲的に取り組めるようになる。

■賃金制度

従業員の処遇は、責任や負担の大きさによるもの以外で異なることはない。社員、スマート社員、パートナー社員いずれも同一の職務等級・勤務形態であれば時給換算で同額の職務給(基本給)が支給されている。

■評価制度

人事評価制度は、社員に求める価値観と行動基準に即した行動がなされているか評価する「バリュー評価」と、半期ごとに行なわれる目標設定の達成度を評価する「業績評価」からなる。バリュー評価は主に給与に、業績評価は賞与に反映される。賞与は業績に応じ全体の資金量が確定、部門業績等に応じた部門ごとの配分額が管理職に提示され、管理職が部下を査定して決定する。査定結果は本人との面談時にフィードバックされる。

■役職定年制

役職定年年齢は定められていないが、下の世代が育った時点で役職から外れるため、50歳代半ばくらいで経験を活かしてサポート役に回ってもらうことが多い。会社では、役職を外れて以降の役割の変化に対応した働き方や、その際に強みとなるものをそれ以前から自身でイメージして身につけ、引き続き一担当者として活躍してもらうことを期待している。

■教育訓練制度

りそなホールディングスでは、全世代の従業員に自身のキャリア形成を考えさせ、必要なサポートは会社が行なっていくとしている。この方針のもと、入社時と入社3年目、5年目、38歳、48歳、57歳前後でキャリアアップのための研修を実施している。

定年到達にはまだ年数のある48歳で実施されるセミナーでは、それまで培ってきたスキルの棚卸しを行ない、その後のキャリアを考えるきっかけとしている。60歳到達を目前とした時期(57歳もしくは58歳)に行なわれる研修では、高齢期の社員に会社が期待する役割は経験やノウハウを活かした組織貢献や若手・中堅社員の育成であることを伝え、60歳を超えて実際に活躍している先輩の事例を紹介、今後の生活をイメージしての人生設計と自身の働き方について考える機会としている。

■退職金制度

退職金は自身の選択した定年時に受け取る。退職金の算定方式は給与・賞与に乗率を掛けて毎月の積立額を計算するが、乗率は各積立時の職位に応じて異なる。

高齢従業員戦力化のための工夫

りそなホールディングスの高齢者雇用推進の背景には、今後予想される労働力不足時代に専門能力を持った人材を確保する意図がある。加えて高齢者が「70歳まで働ける」という安心感から意欲を持って会社に貢献してくれることを期待している。

■高齢従業員の配置

70歳を上限としているりそな銀行・埼玉りそな銀行の継続雇用制度では、実際に70歳まで働く意向の高齢従業員もおり、多くは65歳以降もフルタイムで勤務している。自身のキャリアを活かして働き続けたいと考える高齢従業員が多いという。現在の最高齢者は67歳が数十名おり、支店や事務センター等で勤務している。継続雇用者はその豊かな経験を活かして活躍しており、戦力強化につながっている。

りそなホールディングスは、全国に多くの勤務地と職場があるため、継続雇用者が定年前と同じ職場で仕事を続けることは少ない。そのため管理職だった者が同じ職場で非管理職として働くことも起こりにくい。

■役割と処遇の均衡

りそな銀行・埼玉りそな銀行の60代従業員は、定年前の正社員と継続雇用者がともに働いている。両者には勤務形態や役割の違いから処遇に差が設けられているが、各人が担当する役割の大きさや責任の重さと処遇に不均衡が生じないように常に見直している。

■従業員に対する啓発

りそなホールディングスでは従業員に対し、実年齢にとらわれず、自身のキャリアを充実させて欲しいとしている。わが国企業の定年延長は 55歳から60歳へ、60歳から65歳へと常に5歳刻みで進められてきた。りそなホールディングス傘下のりそな銀行・埼玉りそな銀行も65歳を5年延長した70歳を一つの節目とした。キャリアが長くなる中で、今後高齢従業員に求める役割はより大きくなると会社は考えており、従業員にはキャリアプランを再構築する取り組みが求められている。

健康管理・安全衛生

■負担の軽い勤務形態

60歳を迎えて定年退職し、継続雇用者として働き続ける場合に残業はなく、また、指定日勤務や半日勤務も選択できる。自身の体力や生活面の事情に応じて勤務することが可能である。

今後の課題

65歳までの選択定年制と70歳までの継続雇用が本格化するこれからは、それぞれの職場で高齢従業員が若手や中堅の従業員とともに仕事をする場面が増えてくる。一部には世代間のコミュニケーションギャップを懸念する声もあるという。異なる世代がそれぞれの強みを出しながら仕事を進めていく風土作りに向け、会社ではさまざまな施策を検討中である。

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