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大和ハウス工業株式会社

-60歳台社員を戦略的に再配置、シニアの意欲と貢献度も向上-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫

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  • 配置や勤務時間に配慮
  • 新職場・職務の創出
  • 多様な勤務形態
  • 研修制度の充実
大和ハウス工業株式会社のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1955年
  • 本社所在地
    大阪府大阪市
  • 業種
    総合建設業
  • 事業所数
    73ヵ所

導入ポイント

  • 61歳以降の働き方と職場、職務は本人の意向を最優先に時間をかけて決定
  • 若手や中堅を後方支援する部署に経験豊かなシニア社員を重点配置
  • 65歳定年後は、健康で意欲があり、基準に該当すれば年齢上限なく再雇用
  • 従業員の状況
    従業員数 18,424人 / 平均年齢 40.5歳 / 60 歳以上の割合 5.2%
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 60歳
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 上限なし 基準該当者
2021年04月01日 現在

同社における関連情報

企業概要

大和ハウス工業株式会社は1955(昭和30)年に「建築の工業化」を企業理念に創業、鋼管構造による「パイプハウス」、プレハブ住宅の原点である「ミゼットハウス」を開発し、日本の住宅産業をリードしてきた。現在は建築事業(戸建て住宅や賃貸住宅等の住宅系、商業施設や物流施設等の建築系)に加え、都市開発事業、海外事業、環境エネルギー事業、医療・介護ロボット販売事業などを広範に展開している。事業所は本社(本社/東京本社)、本店(本店/東京本店)、全国に37ヵ所の支社、32ヵ所の支店があり、さらに9 ヵ所の工場を擁する。従業員は1万8424名、うち、60歳代前半は654名、同後半は254名、70歳以上は53名であり、社員の平均年齢は40.5歳である。

雇用制度の内容

■経緯

大和ハウス工業の高齢者雇用施策はすでに20年近い取り組みの歴史がある。2003(平成15)年に60歳定年後の「嘱託再雇用制度」を導入、2013(平成25)年には定年延長を実施、「65歳定年制」が実現した。その後も取り組みは続き、2015(平成27)年には65歳定年後の再雇用制度である「アクティブ・エイジング制度」を導入、年齢上限のない高齢者活用が始まった。大和ハウス工業の65歳への定年延長の背景には将来的な少子高齢化による労働力不足や高齢者雇用に対する社会的要請への対応もあるが、自社の豊富な人材をさらに活かすことで企業競争力を強化する目的があった。

大和ハウス工業が他社に先駆けて60歳定年後の再雇用制度を導入した後、解決すべき課題が浮上した。一級建築士など希少な国家資格保有者は市場価値も高く、定年後に他社から高額の報酬でスカウトされることがあった。また、社内に残る再雇用者は仕事と処遇のバランスが釣り合わないと考えて意欲が低下する者が見られた。長年培った経験や知識で高レベルの業務が担当できる高齢従業員を社内で十分活用できていないと考えた会社は「65歳定年制」を導入、60歳代前半層を社員化して処遇改善に努めた。

この結果、60歳代前半層は「不安定な雇用(嘱託)から安定的な雇用(職員)へ」、「硬直的な処遇から能力や実績が反映される処遇へ」、「やってもやらなくても同じ制度からやれば報われる制度へ」と変革された。

60歳から65歳への定年延長に際し、その時点で再雇用されていた65歳未満の者には再び正社員に復帰するか、またはそのまま再雇用者として働き続けるかを選択させた。多くは正社員に復帰している。一方、60歳から企業年金が受け取れることもあり、独立するなど新しいことに挑戦する者もいる。

■65歳定年制

大和ハウス工業では新たに正社員化された61歳以降の者について、「61才以降(60才に到達した翌年度以降)の処遇に関する内規」を作成、60歳までの従業員とは異なる処遇とすることで戦力化を図っている。

61歳以上の従業員には以下の4コースが用意されている。なお、各コースの割合は理事コースが約1割、シニアマネージャーコースは数パーセント、メンターコースが1割強、プレイヤーコースは約7割となっている。

・理事コース
余人を持って代えがたく役職定年の例外となる者が対象で支店長や本社部門長などの役割を担う。「常務理事」、「理事」、「副理事」の3ランクがあり、業績によって昇格は可能である。報酬は60歳到達前と同水準となる。一例としてA支店の支店長がその支店の理事・支店長となる。

・シニアマネージャーコース
会社の指名により61歳以降も課長、室長、本社グループ長などの管理職を継続する。役職も呼称もそれまでと変わらず、報酬も60歳到達前と同水準である。1年更新であり、後継者が育成されれば他のコースに移る。

・メンターコース
一定ランクのライン長経験者の中から事業所長や部門長の推薦に基づき、かつ役員が推挙した者が在籍する。伝承や育成の対象者となるフォロワーに対する業務支援を行ないながら、自身が培ってきた人脈・経験・知識を伝承する。「シニアメンター」の呼称で働き、メンター手当が支給される。実例としてB支社C事業部の工事部長が本社・安全管理部のシニアメンターとして業務にあたる。

・生涯現役コース(プレイヤーコース)
管理職格の「シニアエキスパート」、主任・一般職格の「シニアスタッフ」の名称で営業、設計、工事、アフターサービス、管理等、現場のベテランプレーヤーとして現業の第一線で活躍し、成果を出してもらう。職種毎の成果給(販売促進手当、完工手当)は60歳以前と同様に支給される。D支店E営業所の営業所長がD支店の営業推進部・シニアエキスパートに、F支店G営業所の設計課長がF支店の品質保証部・シニアエキスパートに、また、H支店I営業所の工事担当者がH支店I営業所の工事担当者(シニアスタッフ)となる例がある。

■61歳以降の働き方決定までのプロセス

大和ハウス工業のシニア人材活用は周到な準備のもと、時間をかけて進められる。本人の希望を最優先に、本人の今までの経験や持ち味が活きる部門への再配置が最も望ましいことから、人事部では日常からその可能性がある職場の開拓に努めている。

・ライフデザインセミナー
60歳に到達する年度の5 ? 7月にグループのリゾートホテルで1泊2日の日程で行なわれる。役職定年後の人事制度について説明があり、これからのキャリアデザイン(シニア社員としての心構え)、マネーデザイン(年金や老後の資金計画)、ヘルスデザイン(健康管理)を考えてもらう。

セミナーの冒頭では人事部長からシニアの主要な役割は後輩育成であることを説明し、自覚を促している。また、外部講師の講演もあり、「役職定年後に年下の上司へどのように仕えるか」、「いかにして今までと変わらずに会社に貢献するか」などがテーマとなる。参加者からは「これからの仕事人生について、セミナーを受けて初めて自分のこととして考えた」との感想が多数出てくるという。

・希望調書作成
7月には上司との面談の場で本人が希望する職種や勤務地をそれぞれ第3希望まで記した「希望調書」が作成される。面談では特に会社に伝えたいことを聴いている。健康問題の有無や、老親や家族の介護のために郷里に帰って働きたいのかなどを記入してもらう。

・再配置の調整
9月から12月にかけて、人事部に集められた希望調書をもとに各事業部と再配置の調整が行なわれる。勤務地については本人希望により持ち家や家族の所在地を優先している。本人に配属先が内示されるのは12月末、正式決定は翌年2月である。60歳到達直前の3月に業務引き継ぎが行なわれ、役職定年となる。

・60歳到達記念品贈呈と特別休暇
60歳到達者には最大30万円分の旅行券とギフトカードが贈呈され、最初の1 ヶ月間(4月)は特別休暇として出社の必要はない。本人にはこれからのキャリア開始の準備期間となる一方、配属される職場では受け入れ体制を準備・確立する期間ともなる。シニア社員としての勤務開始は5月である

■65歳以降の再雇用制度

2015(平成27)年に導入された「アクティブ・エイジング制度」は65歳定年以降の「嘱託再雇用制度」である。査定結果等の要件を満たせば年齢上限なく働き続けることが可能であり、本人の意欲を重視している。再雇用の要件は、健康状態、勤務態度、職務遂行能力などを総合的に勘案している。勤務は週4日のフルタイムとなり、月額20万円の給与に加え、賞与も業績評価と個人評価のうえで支給される。企業年金も受け取れる。

65歳以降も働きたい社員は多い。退職してから何をすべきかで悩む者もいるという。65歳定年到達者の半数以上が「アクティブ・エイジング制度」を選択しており、最高齢者は72歳で設計を担当している。

人事管理制度の概要

■賃金制度・評価制度

大和ハウス工業の社員は全国社員(G職)と地域社員(L職)に分かれる。全国社員は会社のあらゆる業務を行なう者で勤務地を全国とし、地域社員は会社のあらゆる業務を行なうが勤務地は特定の住所地からの通勤圏内に限定される。

60歳までの社員の基本給は職能給と資格給であり、管理職には役割給も支給される。残業手当は残業実績に応じて支払われる。61歳以降のシニア社員の処遇は、「61才以降(60才に到達した翌年度以降)の処遇に関する内規」に定められており、基本給は職能給に一本化され、残業30時間分のみなし残業手当も含まれる(超過残業分は別途支給)。なお同社では目標管理制度を導入しており、61歳以上の社員もその対象であり、半期に一回は上司と面談している。

■企業年金制度

大和ハウス工業には企業年制度があり、65歳からの終身支給である。以前は60歳からの支給であったが、公的年金同様、高齢化による受給者の増加、会社負担分の急増が予想されたため、定年延長とともに支給開始年齢も引き上げられた。年金払い込み年数が延びることで将来受け取れる年金は増加する。また、60歳で退職しても繰り上げ受給できるようにしており、社員からの不満は出なかったという。

高齢社員戦力化のための工夫

■シニアが活躍できる場の開発

人脈を活かして情報を収集する「営業推進部」、施工現場が安全であるかを確認する「安全管理部」、出来上がった物件の品質をチェックする「品質保証部」など、大和ハウス工業の部門のなかにはシニアの経験が大きく活きる部門が存在する。

一例として、60歳の役職定年前は営業所長だった者がその後は営業推進部の「シニアエキスパート」として勤務、所長時代の人脈と経験によって顧客との関係構築や情報収集を担当し、情報は若手営業社員に伝え、自らの経験の伝授のため同行営業も行なっている。

他の例では役職定年前は10名の工事監督者を管理していた工事部長が安全管理部の「シニアメンター」に就任、指導役として担当エリアの現場を巡回し、安全面のチェックと指導を行なっている。その豊富な経験から若手工事監督者からは「生き字引」として頼られる存在となっている。

現在、会社ではこれらの部門にシニアを重点配置する一方、これまで在籍していた若手や中堅を営業や建築など最前線に移している。最前線は若手や中堅、後方支援部門はシニアという役割分担が明確となった。

■職務に応じた手当の支給

61歳以上の社員が所属する各コースでは、業務に応じた手当が用意されている。後継者育成が中心となるシニアメンターには「メンター手当」、上位技術者(技監、技術主幹)に認定された者に対しては上位技術者手当が支給される。

■社員意識調査の実施・活用

大和ハウス工業では4年に1度、社員意識調査を行なっている。調査から得られた声を踏まえて人事制度の改定や充実を図っている。

健康管理・安全衛生

■オンライン産業医の活用

大和ハウス工業では各事業所で契約する産業医に加え、社員の健康管理にオンライン産業医サービスも活用している。海外を含む職場や自宅から、時間外や休日でも相談が可能である。

今後の課題

大和ハウス工業ではシニア活用を「コスト」ではなく「投資」として捉えている。65歳までの正社員化に加えて65歳以降もアクティブ・エイジング制度で働く高齢者は多く、人件費負担は増える。しかしながらシニア社員は高度な業務を遂行しつつ後進の育成にも貢献しており、会社は投資のリターンを享受できている。大和ハウス工業ではこれからもシニア活用を高度化し、人材に対する投資効果を高める仕組みつくりを推進していく。

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