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医療法人積仁会 岡部病院

-昭和30年から65歳定年制を実施、高齢者雇用のノウハウが充実-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫

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  • 70歳以降も継続雇用(基準あり)
  • 配置や勤務時間に配慮
  • IT 機器の導入による負担軽減
  • 技術・技能のマニュアル化
医療法人積仁会 岡部病院のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1944年
  • 本社所在地
    石川県金沢市
  • 業種
    医療業
  • 事業所数
    5ヵ所

導入ポイント

  • 馴染みの看護職員が患者を長年にわたって担当、高齢化した患者から厚い信頼を獲得
  • ベテラン看護職員のノウハウは今日の看護マニュアルにも息づいている
  • ITで高齢者の負担軽減、ITは高齢者への充実した研修体制と個別指導のうえで導入
  • 従業員の状況
    従業員数 472人 / 平均年齢 46.6歳 / 60 歳以上の割合 15.7%(74人)
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 60歳(余人をもって代えがたい場合は継続することもある)
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 70歳(基準該当者)〈1年更新〉 70歳以降(基準該当者)〈1年更新〉【運用】
2021年09月07日 現在

同社における関連情報

法人概要

石川県金沢市の医療法人積仁会は岡部病院を中心に「おかべグループ」を構成している。岡部病院は、1944(昭和19)年に前身となる金沢脳病院として開設以来精神科医療の拠点として地域に貢献してきた。理念は「誠実」であり、自分の家族や友人に自信と安心をもって紹介できる病院、施設づくりを目指すことを運営規範としている。多職種による医療・福祉を推進し、一人ひとりの健康な力(ウェルネス)を最大限発揮できる生活の実現のため、岡部病院のほか、介護老人保健施設、共同生活支援事業、訪問看護、地域包括支援センターを整備している。1997(平成9)年には社会福祉法人も設立し、小規模特別養護老人ホーム、小規模多機能型居宅介護、認知症グループホーム、障害者就労継続支援事業、就労移行支援事業を整備している。

職員 は472名、年齢構成で見ると60歳未満が398名、60歳代前半が38名、同後半が17名、70歳以上は19名、45歳から55歳の職員が多く、平均年齢は46.6歳、60歳以上の者の割合は15.7パーセントとなっている。パート職員は23歳から75歳までと幅広い年齢層が働いている。

患者の入院期間が長くなりがちな精神科病院では外科や内科と異なり、患者と職員の関係は長期的なものとなる。精神科の看護職員には患者と密接なコミュニケーションをとることが求められる。食事や投薬など患者の納得がなければ事は進まないだけではなく、場合によってはトラブルも生じかねない。患者が看護職員の指示に従うのは日頃の信頼関係が基礎にあり、岡部病院の看護職員には、患者と長期的な人間関係や信頼関係が築ける人間性が求められる。

雇用制度の内容

■65歳定年制

岡部病院の就業規則第15条には「職員の定年は原則満65歳とし、定年に達した日の翌日をもって自然退職とする」と定められている。岡部病院は、前身の金沢脳病院を改組して1958(昭和33)年に発足したが、当初から定年年齢は65歳であった。

65歳定年制の背景には精神科病院特有の事情があった。病院のなかでも外科や内科は身近な存在のため、看護学校新卒者は就職先として選ぶことが多い。一方、精神科は馴染みがないだけではなく、従来は隔離病棟など閉鎖的イメージが強く、就職先として選ばれることは多くなかった。

人材確保のため岡部病院では中途採用に力を入れる一方、他の病院よりも定年年齢を高くして現職者がより長く働ける仕組みづくりに努めてきた。同様の事情から、65歳定年を迎えた後も働ける仕組みとして70歳までの継続雇用制度を設けていた。近年ではメンタルヘルスの重要性が高まって心療内科への通院も当たり前のことになり、精神科のイメージも改善され、若手の就職先として選ばに必要があると認めたものについては、別に定める継続雇用規程により満70歳を限度として嘱託採用することがある」と明記している。継続雇用規程によれば、その対象者は、仕事に対する意欲がある健康な者であり、希望者はほぼ該当する。1年間の雇用契約を更新しながら満70歳に達するまで続く。なお、原則フルタイム勤務であり、夜勤もある。

70歳以降の継続雇用は、本人が希望し、意欲と健康に問題がなければ同様に更新される。岡部病院では高齢者の活用方針として「働ける間は元気に働いて活躍していただくアクティブシニア」を掲げており、働きやすさを考慮して配置や時間に対して柔軟な対応をしている。過去には82歳の看護師も在籍していた。

人事管理制度の概要

■賃金制度

岡部病院の賃金体系は基準内賃金(基本給、諸手当)と基準外賃金(時間外手当、休日出勤手当、夜勤手当、当直手当等)からなる。基本給は職種給と能力給からなり、職種別の賃金は号俸と等級で決定、能力給部分は習熟度評価結果が反映する。また、役職者には役職手当が支給される。昇給は年1回、能力等級要件の習熟度、人事考課、経験年数を勘案して決定される。なお、60歳以降の昇給はない。また、介護等に関して国家資格を持つ職員には資格手当を支給している。
継続雇用者の賃金については職種毎に一律としている。

■習熟度評価と人事考課制度

岡部病院では、職員満足度を高めるために評価に透明性を持たせた等級習熟度評価制度を導入している。能力給決定の基礎となる習熟度評価結果では、各職種に求められる業務を細分化し、各業務につき、それができているかいないかで判定する。看護師の場合、その項目は30以上ある。

人事考課は求められる行動特性を自己と考課者で評価し合うことで職業人としての成長を促している。60歳までが対象であったが、最近は個人の成長を促すツールとして60歳以上も対象としている。

■役職定年制

岡部病院では、60歳になった職員は余人を持って代えがたい場合を除き、原則として役職離脱し、その後は後継者育成が主要な任務となる。同じ職場での勤務も多い。

■退職金制度

65歳定年制の岡部病院であるが、退職金支給規程により60歳で退職金を清算している。職員個々の高齢期の資金計画に柔軟に対応している。

高齢職員戦力化のための工夫

岡部病院の患者は入院期間が長く、また、退院しても自宅や施設からの通院で岡部病院との繋がりがある。その間に患者は高齢化するが、患者が若い時から高齢期になるまで同じ職員が担当することも多く、お互いに高齢者となった職員と患者の間に築き上げられた信頼関係もあってコミュニケーションが容易になる。

このように高齢職員は病院にとって欠かせない人材であり、より長く働いてもらうためのさまざまな取り組みが行なわれている。

■高齢職員配置の工夫

岡部病院の病棟は6つある。高齢ではない患者が入る病棟での職員の主な仕事は見守り中心であり、肉体的負担は少ない一方、高齢の患者が入る病棟では入浴や排泄の介助が必要となり、職員の体力負担もある。そこで職員の年齢も考慮しながら配置を決定している。

■勤務時間の配慮

岡部病院で働く高齢職員は主に看護師や看護補助が多く、最高齢の75歳のパート職員は2名、うち1名は40歳頃に他病院から転職してきた。正規職員として働いた後、現在は週4日出勤して午前8時半から午後3時まで勤務している。もう1名は社会復帰施設の生活支援員で、週5日勤務である。病院では勤務形態や勤務時間について、高齢職員の体調や事情に応じて日常から弾力的な運用をしている。

■夜勤の軽減

岡部病院では、定年後も働く高齢職員に管理職が面談して要望を聞き、高齢職員の夜勤回数や早朝勤務、深夜勤務の軽減などを行なっている。高齢職員からは「年齢を問わず安心して働き続けられる」、「将来の不安がなくなったし、元気な間はいつまでも働き続けたい」と好意的な声が多い。

■十分な研修を行なってIT導入

岡部病院では、2016(平成28)年、業務効率化のために電子カルテを導入した。導入時は、IT担当のスタッフ2名が講師となって研修会を実施し、高齢職員が問題なく操作できるように対応した。集団研修だけではなく個別にも教育の機会を作ることで高齢職員の習熟度を高めたほか、操作は慣れであることを啓蒙しながら取り組むことを促している。なお、精神科の病院では生活療法的な治療が多く、機材を駆使しての業務は多くはない。そのため新しい機器導入にともなう問題が生じることは多くはない。

■高齢職員の知見をマニュアル化

岡部病院では、ベテラン看護師の知識や経験を若手・中堅職員に伝承するため、「看護手順マニュアル」がある。マニュアルは、若手職員研修時のテキストとなるだけではなく、患者に対する職員の看護サービス水準の平準化と高度化に寄与している。

■研修への参加

岡部病院では、教育委員会を設置して各種の研修を実施し、高齢職員に対しても研修参加を促している。新しい技法などを学ぶことに熱心な高齢職員もおり、自主的に研修会に参加している。なお、高齢職員が研修会に参加する場合、主催する教育委員会はテキストやスライドの文字を拡大し、イラストを多用するなど見やすさを工夫している。

■研究発表会で高齢職員が発表

岡部病院では、毎年度末にグループ全体で研究事例発表会を開催している。年齢、グループ内の事業所を問わず誰でも発表でき、毎年多くの研究、事例発表に参加している。岡部病院からは65歳の看護師が若年の職員とチームを組んで発表しており、世代間のコミュニケーション促進につながっている。

■中途採用者の経験活用

外科や内科の病院と違い、精神科勤務の職員は同じ患者に長く接することで関係も深まるだけではなく、その患者が回復していく過程を見守れることがやりがいになる。このやりがいを求めて岡部病院に転職してくる看護師も多い。高齢になった患者は合併症を患っていることが多いことから、看護職員には精神科以外の知識も求められる。その点で外科や内科の他病院勤務の後に岡部病院に転職してきた看護職員の力も活きる。

健康管理・安全衛生・福利厚生

■作業の機械化

車椅子に乗った患者の体重測定や寝たきりの患者の入浴では、看護職員が患者の体を抱える必要があり、肉体的負担は大きい。岡部病院では車椅子に乗ったまま体重測定できる測定器やベッドへの移乗支援機器、機械浴室を導入、職員が担当する作業の軽減を図っている。また、食事介助等人手の必要な場面ではスポット的に人員を導入することで職員の負担軽減を実現している。

■バリアフリーと動線短縮

2015(平成 27)年から 2018(平成 30)年の病棟改築で建物の中央にスタッフルームを配置し、それまでの直線的な動線が円形の動線に変わった。また、バリアフリーと照明のLED化も進めた。これにより転倒事故が大きく減少した。

■通勤時の安全対策

通院・通勤用マイクロバスを1日9便運行して、車の運転が難しくなった高齢の患者、職員の来院支援をしている。また、冬の降雪時の出勤援助のために消雪装置や除雪車を整備し、若手職員が除雪にあたっている。

■定期健康診断の受診奨励

衛生管理者による定期検診の受診勧奨、外部保健師による個別保健指導を強化し、職員の健康づくりを促進している。

■休憩室設置

病棟の改築により休憩室が整備され、ソファー等の家具を置くなど、休憩時間に気兼ねなく休めるようにした。

今後の課題

岡部病院は、患者の健康な力が最大限に発揮され、自立と社会復帰に注力するため、いつでも入院でき、早期に退院できる体制を構築している。現在、入院枠を減らす一方、退院後の生活訓練施設の整備や在宅療養に必要な訪問介護にも力を入れている。それには職員の協力が必要であり、これからも高齢職員の確保は大切な要素、資源になってくる。

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