本文へ
背景色
文字サイズ

事例検索 CASE SEARCH

株式会社万葉福祉会

-世代間でライフスタイルに合わせ無理なく働けるしくみを構築-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • 能力開発制度の改善

下階層のタブがない場合、項目は表示されません

  • 70歳以降も継続雇用(運用)
  • 多様な勤務形態
  • 体力負担の軽減
  • 作業環境改善
株式会社万葉福祉会のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    2010年
  • 本社所在地
    熊本県八代市
  • 業種
    社会保険・社会福祉・介護事業
  • 事業所数
    7ヵ所

導入ポイント

  • 1人ではなく2人で行なうきめ細かな作業で、体力負担軽減と利用者へのサービス品質が向上
  • 若手だけではなく、新人の高齢者の手本にもなる高齢の職員の働きぶり
  • AIで勤務シフトを作成、高齢の職員が希望する勤務時間や休日を受け入れた配置が容易に
  • 従業員の状況
    従業員数 74人 / 平均年齢 56.5歳 / 60 歳以上の割合 36.5%
  • 定年制度
    定年年齢 70歳
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 運用により希望者全員を勤務延長
2021年08月31日 現在

同社における関連情報

企業概要

株式会社万葉福祉会は、2010(平成22)年に熊本県八代市で創業、社会福祉法人ではなく企業として介護事業を行なっている。創業者である現社長は、大学と大学院で社会福祉を学び社会福祉士資格を取得、卒業後は1年10か月ほど介護の現場で働いていた。その職場では人手不足から休みが取りづらく、人材育成も十分なものではなかった。福祉に携わる人たちの働く環境を変えなければ福祉サービスは立ち行かないと考え、独学で経営学や人事管理を学び、株式会社万葉福祉会を起業して、M&Aで創業した。

万葉福祉会では、福祉サービスのなかでも「看取り介護」と「認知症介護」に重点を置いている。「看取り介護」は、それまで積極的に取り組んでいる福祉事業者が地域に存在していなかったこと、そして万葉福祉会がサービスの信念としている「あきらめない介護」の実践として強化している。また、「認知症介護」は、福祉サービスで特に必要とされていながらも専門性が高く、人材育成も含め十分なサービス提供体制が地域で整っていないためであった。

現在は、住宅型有料老人ホーム、介護保険事業に加え、損害保険代理店事業と介護経営コンサルタント事業も行なっている。従業員は、正職員60名、パート職員14名の計74名である。年齢構成で見ると60歳未満47名、60歳代前半17名、同後半7名、70歳以上3名、全体の平均年齢は56.5歳である。また、女性職員が全体の8割を占めている。ちなみに年間の離職者は2~3名と福祉サービス事業者のなかでは非常に低い水準である。

雇用制度改定の背景

■経緯

創業者が経営を引き継いだ会社の定年年齢は60歳であったが、その時点で定年を65歳に延長している。定年延長は引き継ぎ前から在籍していた職員に歓迎された。その後、事業は拡大して2ヵ所目の施設が開設されたが、その立ち上げに貢献してくれた職員が定年に近づいた。まだまだ戦力として期待できるものが大きかったことから、会社は2017(平成29)年に定年を70歳へと延長した。

60歳代は後半層も含めて貴重な戦力と考えていた社長であったが、近隣の福祉事業所では60歳定年や65歳定年のところが多く、62~63歳の高齢者は65歳までしか働けないと考え、求人応募に躊躇しているようであった。「70歳定年」であればそのような高齢者も応募してくると考えたことも万葉福祉会の定年延長のきっかけである。

人事管理制度の概要

万葉福祉会では、ワークライフバランスに十分配慮した働き方を用意し、子育て世代に優しい福利厚生重視型の働き方を提案・提供することを人事管理の方針としている。
また、高齢の職員に対しては、それまで培ってきた経験や知識、技術や技能を活かし、若手や中堅の職員に伝えながら、これからも長くこの会社で能力発揮してもらえるしくみ作りに取り組んでいる。

■賃金制度

万葉福祉会の賃金制度は、職能資格給を中心として諸手当が加わる。また、介護福祉士などの国家資格のある者は、基本給が増加、夜間勤務のある者は、昼間のみの勤務者より賃金は高い。人事考課の結果により昇給がある。
70歳定年後の継続雇用者については、勤務延長してフルタイム勤務する者と、本人の希望に応じて勤務時間数を減らしたパートタイム勤務者がいるが、定年前の給与水準もしくは時間給換算した額と諸手当を支給している。
また、正職員に加え、パート職員にも賞与が支給されている。

■評価制度

万葉福祉会の評価制度では、勤務態度、技術習得度、仕事への取り組み方の3点から考課している。全員の評価結果を集計し、会社としての弱みが把握できれば次年度の研修計画に反映している他、個々人にはOJTを中心に能力向上を図っている。能力向上の対象は高齢の職員も例外ではない。

■教育訓練制度

万葉福祉会の職員研修は、高齢の職員も含め全員が対象である。全員共通の研修と部門別研修がそれぞれ月1回ずつ用意されている。外部研修にも職員を送り出している。

全員共通の全体会では、社長が自ら講師となり、会社のこれからの経営を講義する。地域の将来的な人口推移から予想される、これから必要とされる福祉サービスやそのために必要な人材について、年齢を問わず職員が理解できるように論理的に説明される。職員にとっては、自身のこれからの役割や期待されるものを考える機会ともなり、自己啓発のきっかけともなる。
部門別研修では、業務に直結する知識や手法を充実させている。介護の現場で働く高齢の職員も参加する研修では、体力を使わずにできる介護の方法を紹介し、高齢の職員は自身が無理なくできる作業方法を習得する。

万葉福祉会では、将来の経営幹部だけではなく、介護サービスの世界で起業しようと考える意欲ある職員も育てようと考えている。希望者のみを対象としているスキルアップ研修会を用意し、技術だけではなく介護保険の全体や組織をまとめるマネジメントが学べるようになっている。

■採用

万葉福祉会には、福祉関係の学校からの見学希望者も多く、これからの事業拡大に備えて新卒者も採用している。一方、会社では子育て世代1名に対して2名以上の子育て終了世代が採用されており、世代間の人数バランスもよい。高齢者の採用にあたっては「働く目的」を特に確認している。面談を通して応募者のモチベーションの高さ低さが分かるという。

高齢職員の戦力化のための工夫

万葉福祉会の高齢職員の働く意欲は、一般的に高い。もともと農村地域であることから地域特性として、年齢にかかわらず働く意識が強い。兼業農家も多く、介護の仕事と他の仕事を両立させ、生活全般の豊かさを追求した働き方を多くの高齢の職員が実践している。また、孫へのお小遣い稼ぎなども働く理由となっている。

■働き方のハイブリッドモデル

万葉福祉会では「働き方のハイブリッドモデル」を掲げ、「スタッフがライフスタイルに合わせて無理なく助け合う」しくみを提供している。例えば、子育てのため休みをたくさん取りたい人には希望する時に休みを取ってもらい、子育てが終わって助けられる人が働く。また、家族との時間を重視して早く帰りたい人には早く帰ってもらえるようにし、残業してでも稼ぎたいと考える職員に後を任せる(家族との時間を重要視するワークライフバランス型と燃える集団の共存)。日中の人手が足りない時は、週2回からでもパートで働きたい人が埋めるというスタイルである。これにより職員のストレスが解消され、プライベートが充実し、満足度向上につながる。

■1人ではなく2人で行なう作業

多くの施設では利用者のおむつ交換など体力を要する様々な作業を職員が1人で行なうが、万葉福祉会では2人一組で行なっている。一見するとコストがかかるように見えるが、単独作業では職員が無理な姿勢を余儀なくされて体力負担もかかる。2人作業であれば作業は短時間で終了して職員の体力負担も軽減され、他の作業に迅速に移れる。2人のダブルチェックにより安全性も高まる他、職員の協働作業は職員間のコミュニケーション向上にも効果がある。作業時の利用者の負担も軽くなり満足度も高まる。サービス品質が高まることで施設の評価が高まり、結果としてコストは吸収できているという。

■希望する勤務時間への配慮

万葉福祉会では、勤務日のシフト作成で職員からの希望を十分に吸い上げているが、勤務時間についてもできるだけ配慮している。特にパート職員に対しては、出勤時間を午前7時から10時の間で柔軟に決めており、家庭の事情に対応できるように配慮している。

■希望する休日が取れるしくみ

福祉業界では、職員が希望した日に休めるのは月に2日程度と言われることもあり、自分が休みたい日に休むには、職場グループ内で休日を交換するが、職場の人間関係によってはそれが難しいこともあるという。万葉福祉会では、各人が制限なく希望通りの休みを取れるように勤務シフト作成前に希望を吸い上げている。

■高齢の職員と若手のコミュニケーション促進

万葉福祉会では、高齢の職員が自らの知識や経験を若手に伝えるための研修会が開かれる。高齢の職員は講師となるが、会社は敢えてパワーポイントの教材作成を求めている。経験のない高齢の職員は作成に苦労するが、その時に若手に作成を手伝わせている。高齢の職員にとっては若手から新しい知識を得られ、両者のコミュニケーションも深まり、世代を越えたチームワークづくりにおおいに役立っている。

■若手の手本となる高齢の職員

利用者やその家族に対する高齢の職員の接し方は、非常に優れたものがある。家族に語りかける時には「間」を大事にし、「タイミング」を考えている。若手はなるべく多く語りかけようとするが、そっとしておいて欲しい時もある家族にとっては負担となる。高齢の職員の場合は、身内を介護した経験や看取った経験から、話し掛けられる側の心情も理解している。現場で高齢の職員のやりとりや振る舞いを間近に見ることで、若手もそのタイミングが分かり、自分でもできるようになる。経験豊かな高齢の職員の存在は大きい。

■新人の高齢者の手本となる高齢の職員

万葉福祉会で働く最高齢者は72歳、8年前に採用されている。以前は他の福祉施設で働いていたが60歳を超えて退職、その後再び働きたいと万葉福祉会に応募している。

また、万葉福祉会で入居生活相談員を務めている60歳代の高齢の職員は、以前勤めていた医院での入居相談員の経験を活かし、医療的ケアが必要なため施設入居が難しい利用者の入居案件を調整し、看護師や施設管理者の相談相手として活躍している。他方、通所介護職員の高齢の職員は、高齢利用者のレクリエーションや入浴サービスを担当、日曜大工が得意なことからレクリエーションで必要となる素材を自ら制作してくれる。
これら高齢の職員の意欲的な働きぶりが若手・中堅職員だけではなく、入社した高齢の職員の手本ともなっている。

健康管理・安全衛生

■用具や器具の改善

万葉福祉会では、年齢を超えて職員間で助け合える風土が定着しているが、重量物の運搬は近い距離でも台車を使わせ、なるべく高齢の職員ではなく若手が行なうことを励行している。

■視力低下への対応

高齢の職員のなかには視力が低下して細かい字を読みにくくなる者も現われるが、記録用紙などのサイズを拡大し、高齢の職員の負担にならないように配慮している。これは同時に記入時間短縮ももたらし、作業効率アップとなる。

■夜勤時の負担軽減

万葉福祉会の3つの施設では、24時間看護師が常駐しており、夜勤負担軽減のための工夫が図られている。利用者のベッドには生体バイタルモニターが設置されており、異変があれば看護師がすぐ駆けつけられる。施設からの呼び出しですぐ到着できる医師と看護師も待機している。また、施設間の距離が近く、隣の施設からも応援に駆けつけられるようになっている。

今後の課題

■デジタル化の推進

万葉福祉会では、業務のデジタル化が進んでおり、管理業務はもちろん、勤務表もAIでシフトを作成している。現場業務でもデジタル化を進めているが、働く人々の使い勝手を最優先に導入の可否を検討している。デジタル化は設備投資を必要とするが、多額の投資をした設備が技術革新のスピードの速さによって陳腐化しては経営の重荷になるため、慎重に検討している。

事例内容についてお役に立てましたか?

役に立った

関連情報
RECOMMENDED CASE