本文へ
背景色
文字サイズ

事例検索 CASE SEARCH

有限会社わが家

-年齢を問わず地域の女性が働きやすい職場を目指す-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫

下階層のタブがない場合、項目は表示されません

  • 70歳以降も継続雇用(運用)
  • 人材育成プログラム
  • IT 機器の導入による負担軽減
  • 多様な勤務形態
有限会社わが家のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    2004年
  • 本社所在地
    長野県上伊那郡宮田村
  • 業種
    社会保険・社会福祉・介護事業
  • 事業所数
    5ヵ所

導入ポイント

  • 高齢従業員も「人材育成プログラム表」で1年後の姿を目標に立て、結果で評価・処遇
  • 高齢従業員にも教育訓練の機会を与え、IT機器の操作法を習得
  • 3世代家族で孫の世話をする高齢従業員の職場復帰を助ける「育孫(いくまご)休暇」
  • 従業員の状況
    従業員数 48人 / 平均年齢 50.0歳 / 60 歳以上の割合 33.3%
  • 定年制度
    定年年齢 70歳
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 運用により希望者全員勤務延長 上限なし
2021年10月31日 現在

同社における関連情報

企業概要

有限会社わが家は、2004(平成16)年に女性2人で創業した福祉サービスを担う民間企業である。わが家の立地する長野県上伊那郡宮田村は、人口約9,000人、高齢化率は約3割に達している。公務員として長年にわたって福祉に携わってきた創業者は、行政や社会福祉法人によるサービスの限界を痛感、民間企業によるサービスで高齢者や障がい者の福祉の充実を目指そうと起業にいたった。

その後事業を拡大し、通所介護のみならず、小規模多機能型居宅介護、小規模多機能型居宅介護サテライト事業所、住宅型有料老人ホームなど、5つの事業所を擁している。そのなかには高齢者や障がい者の生活全般への貢献を目指して開設した飲食や雑貨等の複合商業施設も含まれる。「私たちはこの村の福祉のよろずやでありたい」が同社の理念(社是)である。

従業員は、正社員19名、パート社員29名の計48名、正社員の約3割は宮田村在住者である。全体の年齢構成をみると60歳未満32名、60歳 代 前 半 1 名、 同 後 半11名、70歳以上4名であり、平均年齢は50歳である。正社員だけでみると60歳代1名、50歳代1名、40歳代2名、残りは30歳代(特に30歳代後半に集中)である。従業員の多くは女性である。また、60歳以上の従業員は、他職場での勤務経験者が大半である。

雇用制度改定の背景

■経緯

わが家の定年年齢は、2013(平成25)年4月から70歳となっている。就業規則第34条に「従業員の定年は満70歳とする。定年の時期は満70歳になった誕生日の属する月の末日とする」と定めており、定年後は希望者全員が年齢の上限なく継続雇用の対象となる。

2004(平成16)年の創業時、わが家の定年年齢は60歳であった。その後、従業員の中に定年年齢に到達する者が現われた。本人の仕事ぶりや健康に問題がなかったことから、2010(平成22)年9月に定年年齢を65歳に延長した。その数年後、今度は65歳に達する者が現われたが、やはり業務遂行上の問題はなかったことから、2013(平成25)年4月に70歳への定年延長を実施している。なお、正社員であれば70歳まではフルタイム勤務となる。

70歳への定年延長は、わが家の経営戦略に合致するものとなっている。会社が立地する伊那地域では地域が求める福祉サービスがいまだ十分に提供されていないとわが家では考えており、会社の規模拡大と、それに伴う人材の充足は大きな課題である。会社ではこれからも正社員・パート社員の採用を増やして地域ニーズに応えたいと考えているが、より重視しているのは、現在在籍する正社員・パート社員が引き続き会社に貢献できる仕組みをつくることである。

人事管理制度の概要

■賃金制度

わが家の賃金は、所定内賃金である基本給と諸手当、所定外賃金である超過勤務手当(時間外労働手当・休日労働手当・深夜労働手当)からなる。諸手当の中には役職手当に加え、後述のように毎年評価される職務遂行実績が反映される手当もある。また、福祉サービスの特性から宿直手当がある。なお、現在わが家では賞与支給はないが、支給実現を目指して会社の業績向上に努めている。

■キャリアパス制度

わが家では、一人ひとりの従業員との面談を通して年間目標を設定させ、評価し、処遇に反映している。従業員は「人材育成プログラム表」に1年後の自分の姿をイメージして記入するだけではなく、8項目(法人の理念、チームワーク、接遇、経営、人材育成、セルフマネジメント、リスクマネジメント、地域との関わり)について目標を設定する。その後、定期的に行なわれる面談で目標達成度や達成のための方法が確認され、年度末には自己評価し、上司による3段階の評価を通して確定する。全従業員が同じ8項目で評価されるが、各項目の目標の詳細は職位上昇とともに難易度が高くなる。「地域との関わり」で例示すると以下のように高度化していく。

・お客様、地域、関係機関の人を知る
・お客様、地域、関係機関との関係を作る
・ 必要な場所(会議・仕事・イベント)に出向くことができ、関係を作る
・ 外部への営業を行い、繋がりを作ることができる
・ 困った人を見捨てない、お互い様が言える関係づくり
・ 「わが家さんで良かった」と言われる関係性

各項目は4段階評価(非常によくできた?まったくできなかった)であり、総合評点が次年度の手当(職務遂行実績にかかわる手当)に反映される。この手当は、1年間の仕事ぶりを評価して決定しているため、評価によっては次年度に減額されることもある。また、評価の累積は退職金算定にも反映されている。

この「人材育成プログラム表」により、高齢従業員を含め従業員一人ひとりの立場や役割が明確になっただけではなく、意識付けもできた。また、この「人材育成プログラム表」を通じた面談によりコミュニケーションが図られ、高齢従業員の働く意欲が高まったという。

高齢従業員戦力化のための工夫

現在の最高齢者は、82歳のパート社員で、長年農業に従事していたが、わが家の従業員の紹介で81歳になってから入社し、10時から14時まで勤務している。また、わが家の従業員の多くは女性であるが、女性はライフステージの各段階で多様な役割を負っている。その点で若い女性従業員にとっては高齢従業員の知恵や経験が参考になる。また、妊娠中や子育て中の女性従業員がそれまでと同様の仕事や役割を遂行しにくくなった時、高齢従業員が代わって行うことがわが家では日
常のこととなっている。

高齢従業員の力を活かして助け合える体制がわが家には出来ており、そのメリットは大きいという。このように会社に貢献している高齢従業員をいっそう戦力とするために、わが家では以下のような取り組みを行なっている。

■経験が活きる部署への配置

わが家が持つ事業所のなかでも小規模多機能型では少人数で業務を担当するため、一人ひとりの従業員には多様な業務遂行が求められる。そこで経験豊かな高齢従業員を配置している。高齢従業員にとっても、自身のこれまでの経験が活かされるので、仕事に取り組む意欲も高くなっている。

また、わが家の事業所は、それぞれに規模や形態が異なることから、ある職場で働いていた高齢従業員が何らかの理由で職務遂行が難しくなっても、他職場への異動で再び意欲的に仕事ができる。

■高齢従業員の知恵の活用

サービス利用者である高齢者の食事は、若手従業員も調理するが、惣菜など高齢者の嗜好に合ったメニュー作りには高齢従業員の知恵と経験が欠かせない。そこで高齢従業員が若手従業員にノウハウを伝承している。また、わが家では外国人も働くようになり、管理職が彼らの相談に乗っているが、日本に慣れていない彼らの生活上の相談相手として高齢従業員は頼りにされることも多く、良き助言者となっている。

■IT機器の導入

サービス利用者の情報を手書き入力することは、手間がかかるだけではなく、記入漏れや誤記の恐れもある。一方、収集した情報をデータベース化して分析できれば、個々の利用者に最適なサービスを提供できる。現在、わが家ではタブレットに音声入力で情報を取り込めるようにしているが、高齢従業員のなかにはアレルギーを感じる者もいるという。若手従業員や中堅従業員だけではなく高齢従業員にも実際に操作してもらう必要があり、高齢従業員の理解と使い方習得が欠かせない。高齢従業員の多くはスマートフォンを日常使っているため、そのレベルで機器が操作できることを伝えながら、普及に努めている。

■高齢従業員が学べる機会の充実

わが家では、現場で働く60歳以上の高齢従業員にも座学やOJTを実施している。福祉サービスの担い手として求められる公的資格の取得機会は高齢従業員にも与えられている。わが家に入社してくる者のなかには、福祉サービス未経験者もおり、外部研修への派遣やオンライン研修受講の機会を提供している。外部研修の中には、公共交通機関だけでは移動できないものもあり、高齢従業員の場合は自ら運転するなど移動の負担が大きくなるため、社内研修や近隣地域の研修に限定している。

■管理職によるコミュニケーション

わが家では、正社員・パート社員すべてに対し、管理職による年間4回程度の面談を設けている。経営者にその内容が伝えられるが、自身も頻繁に各事業所に出向き、高齢従業員に声を掛け、話を聴いている。高齢従業員から「その一言でやる気が出た」と言われることもあり、上司による頻繁なコミュニケーションは欠かせない。

■食事会開催によるコミュニケーション

わが家では「第2号被保険者の会」と称した食事会がある。「第2号被保険者」とは、介護保険の被保険者のうち40歳以上65歳未満を意味するが、正社員だけではなくパート・アルバイトを含めた全従業員を年一回会社が慰労する会である。この食事会では、参加者が自分の仕事上の経験を話すことも多く、それが次世代にノウハウとして引き継がれる(コロナ禍により、ここ2年間は中止)。

■地域との良好な関係による人材確保

わが家では、かつて働いていた地域の元従業員が復職することがある。また、従業員の紹介で採用されることもある。地域に根ざす存在になることが人材確保に有効であるとわが家では考えている。

■育孫(いくまご)休暇

わが家が立地する伊那地域では、3世代家族が多く、年齢を問わず、どの世代も働いている場合が多い。働く高齢者のなかには、子ども世代から孫の世話を求められることもあり、時として、高齢者が仕事を続けられなくなることもある。高齢従業員からの要望をきっかけに、わが家では「育孫休暇」(通称「おマゴちゃん休暇」)を制度化し、長期間の無給休暇を用意した。本人の希望に応じていつでも復帰できる制度である。また、同社では子連れ出勤を認めているが、同様に孫連れ出勤している高齢従業員もいるという。

健康管理・安全衛生

■安全への配慮

事業所のなかには構造上段差が存在する職場もあり、過去には転倒事故もあった。そこで通路に段差がある場合は床のマットの色を変え、段差の存在が分かるようにした。色によって注意喚起することで効果があった。

■夜間の負担軽減

視力低下も起きやすい高齢従業員の負担を軽減するため、業務や研修が夕方に及び、帰宅で夜間に運転することのないよう、夕方以降に開催を余儀なくされた会議には高齢従業員の出席は求めず、会議の記録を翌日に配付している。

今後の課題

■柔軟な働き方のいっそうの実現

現在わが家では、パート社員には短時間勤務や育孫休暇などを通して多様な働き方ができる仕組みを整えているが、高齢従業員だけではなくすべての従業員が、その時々の状況に応じて仕事と生活が両立できる働き方のいっそうの実現を目指している。

■高齢従業員のキャリアパスの充実

高齢従業員は、必ずしも生計維持のための収入確保が目的に仕事をしているわけではない。自分の人生に与えられた時間を有効に使いたいがための就労という面も大きい。わが家ではキャリアパス制度を通じて仕事に対する従業員の取り組みを動機づけているが、高齢従業員の特性に応じたキャリアパスの構築と充実を図りたいとしている。

事例内容についてお役に立てましたか?

役に立った

関連情報
RECOMMENDED CASE