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有限会社近藤豆腐店

-製造現場機械化で高齢従業員の体力負担を軽減、品質と生産性も向上—

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫

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  • 75歳までの継続雇用(基準あり)
  • 配置や勤務時間に配慮
  • 新職場・職務の創出
  • 賃金・評価制度改定
有限会社近藤豆腐店のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1950年
  • 本社所在地
    奈良県天理市
  • 業種
    食料品製造業
  • 事業所数
    2ヵ所

導入ポイント

  • 前職がさまざまな高齢従業員を採用、適性を見極めて配置
  • 機械化がもたらした省力化に対応して高齢従業員を新規創出職務に異動
  • 従業員の仕事ぶりを工程ごとに数値化した評価で「見える化」
  • 従業員の状況
    従業員数 37人 / 平均年齢 50.0歳 / 60 歳以上の割合 29.7%(11人)
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 なし
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 ・希望者全員70歳まで再雇用 ・基準該当者は75歳まで再雇用
2021年08月01日 現在

同社における関連情報

企業概要

有限会社近藤豆腐店は、1950(昭和25)年に奈良県天理市で創業、現会長の父が戦後復員し、故郷の自宅近くの工場で細々と豆腐の製造販売を始めたことに始まる。現在、きぬ豆腐、もめん豆腐、おぼろ豆腐、揚げ物(うす揚げ、厚揚げ)、ひろうす(がんもどき)、ゆば、豆乳、おからパウダーなど多彩な商品を消費者に届けている。

現会長が経営を引き継いだ当時は、安価なアメリカ産大豆と「にがり」の代わりとなる「すまし粉」で作る豆腐が一般的であった。にがりを使うと豆腐は美味しくなるが、大量生産に向かなかったためである。「たくさんの家庭でおいしいものをいっぱい食べてもらえるのが何より」と考えていた現会長は「何とか美味しい豆腐を作りたい」と一念発起、にがりを使った豆腐作りに取り組んだ。試行錯誤しながら製造工程や道具に工夫を凝らし、特許を取るまでになった。

その後も美味しい豆腐作りのための取り組みは続き、昭和60年代には伊豆大島産のにがりを100パーセント使った豆腐の大量生産化、1997(平成9)年には国産大豆100パーセント化を実現して「国産大豆100パーセントのこだわりにがり豆腐」を発売、消費者から好評を博し、現在では大手スーパー、奈良のホテルや割烹にも取引を拡大、また、豆腐の製造販売にとどまらず、2000(平成12)年には豆腐料理店も開店した。従業員は37名、うち16名はパート社員である。全体の年齢構成は60歳未満が26名、60歳代前半が3名、同後半が3名、70歳以上が5名であり、全体の3割近くが60歳以上、平均年齢は50.0歳である。職種別で見ると製造25名、配送7名など、ほとんどが製造に従事している。

雇用制度改定の背景

■経緯

近藤豆腐店は、2019(令和元)年に定年年齢を60歳から65歳へ延長した。就業規則第52条には「従業員の定年は満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職する」と定められている。

定年延長の背景には人手不足があった。近藤豆腐店の豆腐の人気は高く、需要をまかなうために製造部門拡大と人材確保が必要だったが、若年者の応募は少なかった。一方、会社で働く高齢従業員の仕事ぶりは年齢を感じさせず、高齢従業員でもまだまだ働けると会長は考えていた。また、高齢従業員本人が働き続けたいという意欲も高かった。そこで高齢従業員にいっそう活躍してもらうために定年延長を決定した。

■継続雇用制度

定年延長と同時に継続雇用(再雇用)の上限年齢も延長した。就業規則第52条の②には「前項の定年退職者で継続して雇用を希望する者は全員、引き続いて満70歳に達するまで雇用を継続する」と明記され、希望者全員70歳までの継続雇用が保障されている。

加えて70歳以降の継続雇用についても75歳までを念頭に、会社の基準に該当する者を継続雇用することとした。雇用を希望する者で、職務遂行能力及び心身の健康、体力等を判断基準として認められた者は、1年ごとの契約によりシニア(パート)として再雇用される。

70歳を超える従業員は実際に在籍している。現在の最高齢者は75歳、大手商社を55歳前後に早期退職して入社している。前職の経験からチームの動かし方や中堅層に対する指導に優れており、会社にとってなくてはならない人材である。

人事管理制度の概要

■採用

近藤豆腐店では欠員が出ると募集し採用している。正社員でも中途採用が多い。採用にあたっては、意欲や能力を重視する。ハローワークを通じた採用活動では「高齢従業員が元気で働いている会社」を前面に出している。

職種によって特に求められるスキルもある。配送担当であれば顧客との対面となるため、コミュニケーション能力など対人スキルを重視している。必要となるスキルがあれば高齢従業員でも業務に支障はない。

近藤豆腐店に入社する高齢者の多くは、他社を定年退職した後に再就職している。前職は量販店やガソリンスタンド店員、商社などさまざまである。採用面接を通して適性を判断し、当初採用を予定していた職種以外で働いてもらうこともある。

■職務で異なる始業時間

近藤豆腐店の始業・終業時刻は、職場によって異なる。豆腐製造部門は午前4時から午後1時まで、揚げ物製造部門は午前5時から午後2時までと製造職場の朝は早い。出来上がった製品をピッキング(検品と包装)する職場と配送部門は、午前7時から午後4時までの勤務である。一方、事務部門は午前8時半から午後5時半までの勤務と午前10時から午後7時までの勤務に分かれる。いずれも8時間勤務である。

■賃金制度

近藤豆腐店の賃金のうち基準内賃金は、基本給と諸手当からなる。基本給は、本給(年齢にかかわらず固定)と勤続手当(勤続年数に応じて毎年昇給)であり、65歳まで昇給する年功給である。諸手当は、役付手当(副主任、主任、副長、店長、課長に支給)、製造と配送勤務者に支給される手当(豆腐製造手当、揚げ製造手当、配送勤務手当)、住宅手当等からなる。基準外賃金は、時間外手当、休日出勤手当、深夜手当、早朝勤務手当等からなる。ちなみに豆腐製造の第一人者である高齢従業員1名は業界団体の定める基準に該当する「豆腐マイスター」であり、特別手当が支給されている。豊富な知識を持つこの高齢従業員は、商品説明で顧客の心を掴んでいる。なお、継続雇用者の賃金は定年前の水準と変わらない。

■評価制度

近藤豆腐店が従業員に対して行っている人事考課は、「仕事の質」、「規律性」、「協調性」、「責任感」、「コスト意識」の5項目について10点満点で評価、自己評価と管理職評価を行ない、評価点に応じて処遇に反映させている。

また、各業務に従事する従業員の仕事ぶりを工程ごとに評価、「見える化」している。例えば製造従事者は、木綿豆腐や絹豆腐、湯葉それぞれの製造作業や終了後の清掃作業のレベルについて練習レベルから指導レベルまでの3段階でスキルが評価される。配送担当者は、配送トラックの運転や点検、洗車はもちろん、いくつもある配送ルートそれぞれの習熟度が3段階評価される。

これらの評価制度の一部は、試行段階のものもあるが、評価項目の見直しなどを進めながら充実を図っている。

高齢従業員戦力化のための工夫

■前職の経験を活かした配置

近藤豆腐店が経営する豆腐料理店は、豆腐のおいしさを伝えるだけではなく、顧客の嗜好を探るアンテナショップの役割もある。この店では高齢従業員が2名勤務している。調理を担当する高齢従業員は、もともと近藤豆腐店で製造担当として入社した。その後、前職が料理店経営であったことから、会社の要望で料理店に異動してもらっている。

■肉体的負担を考えた配置

豆腐の製造部門では40歳代の従業員が中心となっている。定番商品と季節商品合わせて30種類近くのさまざまな商品の生産量は日によって異なるほか、その日の気温や湿度で製造条件が異なり、瞬時に判断して作業しなければ不良品を出してしまう。責任の重い作業であり、また体力を使う作業も多いことから中堅従業員が現場の中心であり、高齢従業員はサポート役に回っている。

■多様な勤務形態

近藤豆腐店では、65歳以上の高齢従業員に多様な勤務形態を認めている。製造現場の始業時間が早いほか、顧客の求めに応じた時間指定配送があり、勤務時間帯が多様であることから、高齢従業員の要望に応えられる態勢となっている。

■作業機械化による負担軽減

揚げ物は揚げた後に冷まされ、袋詰めされる。これまでは冷却された製品を手作業で袋詰めしていたが、揚げ物の油で手は滑り、しかも前かがみの立ち仕事は作業者、特に高齢従業員には身体的負担が大きかった。また、一日平均3000個から5000個の袋詰め作業は経験の少ない初心者や高齢従業員にとって経験者より作業時間が長くかかり、手の炎症や痛みが生じることもあった。加えて販路も拡大して供給を増やさねばならなかったこともあり、効率化が求められていた。そこで揚げ物をパッケージ機械に載せれば自動で袋詰めする装置を導入、作業者は前かがみすることなく作業でき、負担が軽くなっただけではなく、商品の品質チェックに専念できるようになった。

また、今までは商品の検品をしながら、消費期限シールを台紙から1枚1枚はがして商品に手で貼っていたが、検品の時間がシール貼りに取られていた。現在は、パッケージ機械が自動で賞味期限を印字するため、作業者は検品作業に専念できるようになった。

これらの機械化により作業時の負担が大幅に軽減したことで、高齢従業員をはじめ従業員からは高く評価されている。また、作業者が検品作業にあてる時間に余裕ができ、商品の品質と安全性が向上し、顧客からの評価の向上にもつながっている。

■新職務の開発

製造ライン機械化によって、高齢従業員の作業負担は軽減したが、同時に省力化も実現し、従来の担当者には別の仕事を与える必要があった。当時、豆乳製品の売り上げが伸び、容器への充填作業を担当する業務が人を必要としていたため、高齢従業員を豆腐製造現場から豆乳製造現場へ配置転換している。

■誰でもできる作業への取り組み

近藤豆腐店では、製造部門の機械化を進めているが、作業の細かい点では人の判断に頼る部分がまだ多い。そこで各工程では綿密にデータをとって蓄積し、だれでも適切な判断ができるように取り組んでいる。

■高齢従業員からの提案の活用

配送部門では朝礼を始めた。他社に勤めていた時に朝礼がコミュニケーション効果を高めることを実感していた高齢従業員からの提案であり、早速始めたところ、効果があった。

■消費者でもある高齢従業員の意見の活用

作業にあたる高齢従業員からは商品に貼るシールの印字が小さいのではとの声もあり、印字の文字を拡大するなど改善している。近藤豆腐店では社内の高齢従業員の意見を消費者の意見とも考えて受け止めている。

健康管理・安全衛生

■作業環境の改善

工場では、照明をLED化して目に優しい照明にしながらコストを削減、また、原料運び出し時の台車を高さが調整できるものに変え、作業時の身体的負担を軽減した。

■職場の安全対策

揚げ物製品があるため油を使い、また、油を加熱するボイラーもある。油はね対策(作業時の長袖着用)、ボイラー横の安全板設置で安全を確保している。

今後の課題

■ベテランから若手への技能伝承

近藤豆腐店の製造現場の作業は熟練が必要である。揚げ物の場合、箸を使って一枚一枚を丁寧に揚げる。その間、揚げている時の音や香り、形の変化に注意しながら、熱の微調整だけで膨らませていく。このようにして角のある形がしっかりした、カリッと香ばしく美味しいお揚げになる。加えてその日の気温や湿度によってタイミングなどが変わってくる。新人が一人前になるまでには時間がかかる。

近藤豆腐店には作業一般のマニュアルは整備されているが、作業の微調整をマニュアル化するのは難しいという。会社では定年退職者に対して後輩指導で役割を果すことを期待している。ベテランからの技の伝承が不可欠であり、若手とベテランの効果的なチームワークがこれからも課題となる。

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