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第一貨物株式会社

-各事業所に対して定年制度改定を丁寧に説明、移行期は選択肢も用意-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫

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  • 人件費を抑制した定年延長
  • 研修の充実
  • 技能伝承
  • 作業環境改善
第一貨物株式会社のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1941(昭和16)年
  • 本社所在地
    山形県山形市
  • 業種
    116か所
  • 事業所数
    道路貨物運送業

導入ポイント

  • 改定の契機:労働力不足解消とドライバーの「2024年問題」への対応
  • 定年延長による総人件費増加と経営の両立が可能な人事管理制度への変革
  • 厳選されたドライバーOBが各支店を巡回、現役ドライバーの運転技術と安全運転を指導
  • 60歳・65歳到達時にドライバー研修を実施、身体能力の現状に気づかせ改善を指導
  • 改定の効果:高齢期も高い運転技術を維持して安全運行するドライバーの確保
  • 従業員の状況
    従業員数 5,595人 (2023(令和5)年8月現在) / 平均年齢 46.1歳  / 60 歳以上の割合 15.9%(888人) 内訳 60歳~64歳 533人 65歳~69歳 252人 70歳以上 103人
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 なし
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 上限なし 基準該当者
2024年04月01日 現在

同社における関連情報

企業概要

 第一貨物株式会社は山形市に本社を置き、東日本に多く拠点を持つ運輸業の企業である。従業員は合計5595名(正社員4589名、臨時社員(パート社員)1006名、2023(令和5)年8月末時点)である。年齢構成をみると高齢者は60歳代前半533名(正社員408名、臨時社員125名)、60歳代後半252名(正社員7名、臨時社員245名)、70歳代前半103名(すべて臨時社員)、他の年齢層も見ると60歳代785名に対して、10歳 代106名、20歳 代642名、30歳 代875名、40歳 代1458名、50歳 代1626名となっており、中高年社員の比率が若年層
よりもかなり高くなっている。

 運輸業である同社はドライバーの人数が多く、全国各地を結ぶ長距離ドライバー約1000名、各拠点を起点に配送に従事するセールスドライバー約2000名を擁している。一方、事務系社員は約900名である。多くの運輸業者と違い、同社は全国で300社程度に限られる「特別積合せ事業」(不特定顧客から貨物を積み合わせ、荷物の集約拠点間を定期的な幹線輸送で行う運送事業)を担っており、このサービスは人手を必要とする作業が多い。人手不足が慢性化するなかで同社にとってドライバー確保は常に課題となっているが、ドライバーの長時間勤務が2024(令和6)年から抑制される「2024年問題」が目前であり、業務遂行に必要なドライバーの増員が喫緊の課題となっている。

 一方、運輸業を取り巻く環境は厳しい。燃料や人件費等の経費が上昇しているにもかかわらず荷動きは必ずしも回復していない。ドライバーをはじめとする労働力確保は売上高とコストを常に注視しながらの取り組みとなっている。

雇用制度改定の背景

■高齢者の長期雇用で労働力不足を解消

 同社では2005(平成17)年に定年を60歳から62歳へ、2007(平成19)年に63歳へ、2016(平成28)年に65歳へと延長している。62歳、63歳への定年延長は年金支給開始年齢引き上げに対応するものであった。

 65歳定年延長は労働組合も長年にわたって要求していたが、社員数の多い同社では定年延長に踏み切った場合のコストアップも大きく、簡単には踏み切れない事情もあった。一方、業務量に対する正社員の不足が顕著となり、その解決も急がれた。社員で担当できない業務を外注で補うことは可能であったが、その経費も上昇していた。

 長年にわたって同社で働いてきた経験豊かな社員に引き続き業務を担ってもらうことが有力な解決策であったことから、社員の長期戦力化実現のための定年延長と定年以降の再雇用制度の充実を人事部で検討、労働組合とも協議しながらコストを抑制して定年延長を実現する方策を役員会へ提案、65歳定年延長が最終決定された。

■定年延長説明会と選択定年制の創設

 制度改定にあたっては社員に対する説明も丁寧に行なった。新制度の説明会を各支社単位で実施し、社員からの質問に答えた。社員のなかには63歳定年を前提としたライフプランを考えていた者や体力に不安を感じていた者もいたことから、定年延長時に「選択定年制」も併設している。選択定年制適用者は厳密には定年退職者ではないが、定年退職扱いとなり、退職金に差がでないように配慮している。退職金制度についても一部改正し、定年延長による経費上昇の抑制を図った。

人事管理制度の概要

■多様な職種

 社員は事務職(総合職、準総合職、地域職)、整備職(車両整備)、運行職(ドライバー)、運行補助職、集配職、運送作業職、ロジオペ職(物流センター内作業)、区域職からなる。役職は一般職、監督職、管理職に区分される。管理職の役職定年はないが、若手中堅社員の構成比率が低く管理職育成が途上であり、役職ポストの閉塞はない。

■採用と教育訓練制度

 同社では高卒・大卒の新卒採用が年間100名前後、中途入社が250 ? 300名となっている。現在、採用の中心は新卒に移行しつつあり、メンター制度等により若手の離職防止に努めている。

 採用後の教育訓練は事務職について入社時と昇進・昇格のタイミングで行なっている。現状、ドライバー等の技能職には入社時以外に同様の研修がないが実施を検討中である。

■賃金制度と評価制度

 同社の賃金は基本給(職能給と資格級)と付加給(役職や勤務地で決定)、業績給、割増給、その他手当からなる。一般職は56歳まで、管理職は定年まで定期昇給がある。57歳以降は諸手当を含めた賃金カーブが徐々に低下する。なお、賃金ダウンによる意欲低下を防ぐため2016(平成28)年と2022(令和4)年の制度改定で減額率を緩和した。

 職能資格制度に基づく職能給は年一回の人事考課、資格給は年一回の昇格基準審査(上司推薦と試験)で昇格・昇給する。評価は所属長による査定であり、半期ごとに本人の自己評価後に上司と評価について面談する。評価結果は定期昇給に加えて賞与にも反映される。

■継続雇用制度

 定年退職予定者との面談を退職3か月前に行なっている。「65歳再雇用面談表」を用い、再雇用基準要件、再雇用後の就業条件を提示、本人が確認する。この時点で具体的な職務内容や求められる要件が明確化されている。その上で希望者は要件を満たしていれば70歳まで臨時社員として再雇用される。現状、再雇用希望者は定年退職者の約半数であり、事務職では定年後に作業職へ異動する場合もある。

 再雇用者の雇用形態はすべてパート社員であり役職はなく、原則退職時賃金を時間給換算した賃金が日給月給制で支払われる。時間給は毎年仕事ぶりを評価して昇給することがある。賞与と退職金はない。

 70歳以上の再雇用は事前に人事部長に相談し承認を得ることとしており、運転職以外が対象となる。現在、70歳以上の高齢者は荷さばきや運転指導員を担当している。

高齢従業員戦力化のための工夫

■ドライバーの仕事と処遇

 同社の運転職(ドライバー)は約3000名である。ドライバー不足への対応として高齢者や女性を対象に4、5年前から募集を強化しており、女性ドライバーはここ数年で20名以下から80名(うち長距離1名)となった。最近はコロナ禍の影響で他業種出身者がドライバーとして応募してくることもある。また、毎年5 ? 10名程度の事務職が希望してドライバーへ異動する。なお、同社のドライバーは入社3 ? 6か月以内にフォークリフト操縦資格を3日間の講習で取得する。現場ではフォークリフト作業が必要な場合がある。

 セールスドライバーは各拠点の営業範囲で配送を行なう日勤であり、朝出庫して昼にいったん戻り、17 ? 19時には帰社する。長距離ドライバーはいったん出庫すると帰着は数日後となることが多く負担は大きい。長距離ドライバーの賃金はセールスドライバーよりも大幅に高くなるが、経験と体力が必要であることと負担の大きさからワークライフバランスを考える若者は敬遠しがちである。同社では2024年問題への対応としてドライバーの拘束時間軽減を進めている。セールスドライバーが5 ? 10年務めてから希望して、または他社経験者が入社して長距離ドライバーとなることもある。

 ドライバーなど技能系の職能資格は技能2・1級、技師補、技師の4段階である。昇格には満たすべき要件があり、各資格は8年程度の滞留年数もある。また、本人の努力を評価して格付ける「ライセンスランク」でも処遇が変動する。

■強みを活かして後進育成

 「積付指導員制度」があり、任命された65歳以上の運行職OB3名が各拠点をそれぞれ年に1度回り、数日間にわたって運転技術や積付のマンツーマン指導を行なっている。積付指導員は運行職として長年勤務し、人事部長面接で能力が優秀と認められた者のみが任命される。

 また、「安全監査員制度」は管理職OB6名が各拠点を回って法令遵守状況をチェックする。安全監査員は管理職として長年勤務し、人事部長面接で能力優秀と認められた者のみが任命されている。

 同社が開催する運転技能競技大会は積付、運転技量、フォークリフト、学科試験、日常点検等さまざまな競技種目に若手が挑む。その指導は高齢者が行なっており、技能伝承の場となっている。

■高齢者向け研修の実施

 高齢者は60歳到達時に2日間の「シニアドライバー研修」を受講する。年間50名程度が参加する。受講者は路上講習、運転適性検査、体力テスト、座学で自身の技術を客観的に把握し、今後に活かす。研修では結果をもとに所属長が面談と添乗指導でフォローアップしている。なお、再雇用時にも2日間の「再雇用運転者研修」を実施している。参加者からは「身体的に劣ってないと思っていたが、指摘を受けて参考になった」との感想が寄せられており、高齢者自身に気づきがあり、自ら作業方法を改める効果がある。

■無理なく働ける仕事への異動

 事業所長は高齢者の健康や疲労の状況を常に把握しており、労働時間や業務内容の調整を行なっている。ドライバー業務が負担と感じるようになった高齢者には近距離ドライバー業務か集配・荷さばきへ、または事務職への異動を会社が提案する。業務の変更は賃金が下がることもあるため、本人の納得を得てから実施する。63歳頃から長距離ドライバーを辞退する高齢者が現われ、65歳以上の長距離ドライバーはほぼいない。長距離ドライバーでなくなることでプライドを失うと考える高齢者はいない。同社の業務のひとつであるロジスティクスオペレーション業務は物流センター内での作業であるが、この事業の拡大が高齢者の職域拡大につながる。

健康管理・安全衛生・福利厚生

■作業環境の改善

 ドライバーの腰痛防止のため、朝は腰痛予防体操を行なっている。現場の一部作業者は会社が斡旋しているファン付きベストを着用、熱中症対策として塩飴が配布されている。ドライバーは荷物追跡のための帳票読取用のスキャナー付きスマートフォンを持つ。

 以前用いていたハンディ型機器は文字やボタンが小さく視力に負担がかかったため、機器を更新した際にボタンや文字を大きく改良した。

<貨物追跡システム>

■車両安全装備の充実

 ドライバーの事故防止のため車線逸脱防止機能や死角センサー等の車両装備を充実させている。また前述のように高齢者対象に教習を行ない、加齢による身体能力低下を自覚させ、事故予防に努めている。

■表彰制度

運転技能競技大会を実施しプロドライバーとしての技術向上と安全意識や順法精神の高揚を図っているほか、運転無事故者を表彰している。

制度改定の効果と今後の課題

 制度改定に伴い、高い運転技術を持ったベテランドライバーを確保することが可能となり、後進の育成に貢献している。

 一方、同社では70歳への定年延長も検討課題となっている。現在進めている施策についても賃金等の処遇のいっそうの向上に向け職能資格制度を見直すこととしている。また今後、70歳までの就業確保措置が義務化されることを想定し、健康管理や安全衛生のあり方を検討中である。

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