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野中建設株式会社

-高齢者の技を若手に伝え、佐賀の風景をこれからも守る-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • コンテスト入賞企業

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野中建設株式会社のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1948(昭和23)年
  • 本社所在地
    佐賀県佐賀市
  • 業種
    土木工事・舗装工事
  • 事業所数

導入ポイント

  • 豊富な経験と技能を持つ高齢従業員が人手不足解消と次世代人材育成に不可欠と考えた経営者の決断
  • 「まだまだ働きたい」と考える高齢従業員からの要望
  • スマートフォンアプリを活用し、会社に戻ることなく現場や休憩室から会議に参加可能、肉体的負担を軽減
  • 安全衛生会議やヒヤリハット選手権の開催により安全衛生意識や労働災害防止を多面的に啓発
  • さまざまなイベントを開催して世代を超えたコミュニケーションを促進
  • 従業員の状況
    従業員数 37人 / 平均年齢 48歳 / 60 歳以上の割合 60~64歳 13.5%、65歳~27%
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 なし
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 希望者全員 70歳 / 70歳以降は基準該当者を上限年齢なく雇用
2025年02月01日 現在

同社における関連情報

沿革・理念

1948(昭和23)年に野中組を創業。1988(昭和63)年に野中建設株式会社を設立。佐賀県内を中心に公共工事や民間工事を請け負っている。
企業理念として「野中建設にかかわるすべての人を笑顔にします」を掲げる。

雇用制度改定の背景

Q.制度改定のきっかけは何でしたか。

人手不足解消と若手への技能伝承を進めるためでした。当社は1948(昭和23)年創業で100年企業を目指しています。実現には技術力強化と若手中堅従業員の育成が課題となります。高齢従業員の活用なしには実現しないと考え、定年延長をトップダウンで決断しました。2019(平成31)年に定年を63歳から65歳へ延長しました(図表参照)。当時、従業員の平均年齢は50歳以上が45パーセントを占めていました。

Q.定年延長の具体的内容を教えて下さい。

当社の定年年齢は60歳から63歳へ、そして65歳へと延長しました。63歳定年時は65歳まで希望者全員を再雇用していました。現在は希望者全員を一律70歳まで再雇用しています。定年前の面談では再雇用時の処遇は定年前と変わらず、給与も下がらないことを説明します。70歳以降は本人の希望を聞き、適性と業績を評価して、1年ごとの更新としています。その際の最も重要な判断材料は健康です。

Q.課題となったことは何でしょうか

再雇用者の賃金を下げないため人件費の増加につながることが課題でしたが、高齢従業員が若手の指導にあたってくれるので長期的には会社に利益をもたらします。また、病気や現場での体調不良、ケガなど健康や安全面も課題でしたが、対策を施すことで克服できると考えました。

Q.高齢者の実際の働き方を教えて下さい

当社の仕事は全体の6割から7割程度が公共工事、残りが宅地造成等の民間の工事です。公共工事は山間部でも行なわれます。土木工事は体力が必要と思われがちですが、実際は機械化され体力負担も少なく、高齢者でも働けます。ただし、屋外の仕事ですので暑さや寒さ、雨や雪の問題はあります。現在の最高齢者は78歳です。72歳でがんになりましたが克服しました。会社を訪れた時に「元気なら戻って来んね」と声を掛けたところ復帰してくれました。体調に合わせて勤務しています。

Q.高齢従業員の優れている点を教えて下さい。

作業には知識や経験といったノウハウが必要です。コンクリートの打設は教科書で学べますが、コンクリートを押し固める道具の使い方、コンクリートを打つ量、打ち上がったコンクリートをきれいにする補修方法は経験がものを言います。また、高齢従業員は翌日の天候を考えて工事を進めます。翌日に雨が降って工事箇所が崩れることがあれば、工事をやり直さなければなりません。そうならないように雨が降る前にどこまで工事を進めておくかという先を見る力、無駄な時間と費用を掛けまいとする責任感が高齢従業員の強みです。

Q.従業員の皆さんの受け止め方は。

当社の60歳以上のベテランは「慣れ親しんだ佐賀の風景をいつまでも守りたい」との思いを強く持っています。65歳の定年を迎える時は、ほとんどが引き続き働きたいと再雇用を希望します。定年延長と再雇用で「まだまだ働きたい」という意識が「まだまだ働ける」安心感につながっています。70歳以上でも働けますが、現場に迷惑をかけるので引退すべきと考える高齢従業員もいます。ところが現場からは高齢従業員を辞めさせないで欲しいという要望が上がってきます。

〈山間部での施工現場〉

人事管理制度の概要

■採用と職種構成

同社の職種は建設技術者(現場監督、正社員)、建設技能者(重機オペレーターと作業員、正社員と臨時社員)、事務職(正社員、パート)からなる。中途採用の従業員は業界未経験者の入社も多く、他社の定年退職者も受け入れている。採用にあたっては「現場の仕事で体力はそれほど使わないが、暑さや寒さはある」と説明している。

■賃金・退職金制度

賃金は基本給と諸手当からなる。管理職(部長、副部長、課長)には役職手当がつく。なお同社は役職定年がない。諸手当は通勤手当、配偶者手当、子ども手当、住宅支援手当に加え、職務に応じた手当として石工手当(六角ブロック人力積み)、法面ロープ作業手当、大型運転手当、河川巡視手当(大雨時の河川巡視)、遠方現場手当、除雪手当等がある。また、職務遂行能力に応じて職位手当(職能資格)、能力手当(技術レベル)を支給している。
退職金は定年時もしくは退職時の支給を選択することができる。なお、退職時の支給を選択した場合は継続雇用期間も退職金の積み立てが行われる。

■評価制度

従業員の働きぶりを評価して処遇に反映することが必要と考え、令和5年度から人事考課制度を開始した。試行錯誤を経て、同社の現状に応じた考課項目や評価方法で実施、評価結果を「見える化」している。個人面談で会社が「この点をもう少し頑張って欲しい」と指導する際の裏付け資料として活用している。

高齢従業員戦力化のための工夫

■ペア就労による技能伝承

高齢従業員と若手従業員をペアにして作業させている。豊富な知識や経験を強みとする高齢従業員は毎回異なる現場の状況に応じて効率的な作業の進め方を伝授する。若手は段差や溝を飛び越えてケガをすることがあるが、安全に敏感な高齢従業員は若手の不注意な行動を戒める。

■スマホアプリの活用

従業員はスマートフォンを活用して会社に文書を送り、現場や休憩所から会議に参加している。工事記録の写真も従来の黒板を使用せず、スマートフォンに変更している。以前は会議のつど現場から本社に戻しており、その間は作業が中断し、仕事の段取りに影響していた。現在は会社に戻る必要がなく、移動時間が節約でき、移動時の事故の心配もない。新型コロナウイルスまん延時は対面会議を避けることもできたため、コロナ対策にもなっていた。また、スマートフォンアプリの活用で日報入力、勤務シフトの変更や有給休暇の申請も可能となり、情報共有が早くなった。

健康管理・安全衛生・福利厚生

■働き方改革で休日増加、熱中症対策を充実

高齢従業員も現場作業となるが、夏場は涼しい山間部での作業に配置するなど健康維持に努めている。また、時短勤務や有給休暇取得を励行している。建設業全体で働き方改革に取り組んでいることから発注主の理解も進み、工期に余裕が生まれ、時短勤務の実施や休日増加が可能となった。特に週休二日制は作業者の体力回復に顕著な効果がある。熱中症対策として効果のある空調服は好みがあるため、送風ファンの部分を会社で購入し貸し出している。

■安全衛生や労働災害防止を啓発、実践

現場監督者は体力のいる作業や高所作業を高齢従業員にさせず、また、高齢従業員だけで作業をさせない。また、毎月1日に安全衛生会議を全従業員で開催、ヒヤリハットの情報交換や熱中症対策を周知しているほか、「ヒヤリハット選手権」を年2回開催、それぞれが体験した経験を報告させている。従業員全体への周知の際は個人名を出さずに事例を紹介、情報提供者には手当を支給している。建設業労働災害防止協会佐賀支部に依頼し社内安全教育研修も実施、慣れによる不注意の事故防止や安全作業意識の向上を啓発している。なお、非正規も含め全従業員が国の労災保険に加え、業務中のケガの他、病気にも対応した民間保険会社の任意労災保険にも加入している。

■イベントでコミュニケーション促進

世代を超えて社内のコミュニケーションを促進するためさまざまな行事を行なっている。バーベキュー大会やモルック大会(フィンランド発祥のゲーム)、釣り部の活動が盛んである。社長発案のバックホウ栓抜き大会は重機のアーム先端に取り付けた栓抜きでビンの栓を抜く競技であり、業務に直結する重機操作技能を競う。なお、新型コロナウイルスまん延中の2020(令和2)年5月、コロナ対策給付金を全従業員に2万円支給した。

〈バックホウ栓抜き大会〉

今後の課題

同社は「野中建設にかかわるすべての人を笑顔にします」を企業理念に社員の家族が入社したくなる会社を目指している。土木工事の評価ランクは佐賀市S級、佐賀県A級であり、その裏付けとなる技術力をこれからも維持するために高齢従業員の力が欠かせない。高齢従業員が屋外で重機とともに安全安心に作業できる環境つくりがこれからも課題である。

図表.雇用制度改定の概要
(出所)野中建設株式会社へのヒアリングをもとに筆者作成

出所:70歳雇用推進事例集2025

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