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株式会社石吉組(いしきちぐみ)

-高齢従業員に寄り添った労務管理で安心して働ける場を提供-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • コンテスト入賞企業

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株式会社石吉組(いしきちぐみ)のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1926(大正15)年 1969(昭和44)年(設立)
  • 本社所在地
    三重県志摩市
  • 業種
    建築・土木・海洋土木工事、介護事業
  • 事業所数

導入ポイント

  • 賃金原資の確保と賃金制度の改定
  • 定年後も高齢従業員の能力を活かせるよう新たな職務を創出
  • 事業部門の特性に応じて定年後の処遇を設定
  • 加齢に伴う勤務継続の見込みを高齢従業員自身が判断する目安として継続雇用の上限年齢を70歳に設定
  • 多様な勤務形態を整備し、各自の事情に合わせた働き方を可能に
  • 従業員の状況
    従業員数 111人 / 平均年齢 45.5歳 / 60 歳以上の割合 60~64歳(14.4%) 65歳~ (9.9%)
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 なし
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 定年後、基準該当者を70歳まで継続雇用
2025年02月01日 現在

同社における関連情報

沿革・理念

1926(大正15)年に三重県志摩郡(現在の志摩市)で創立。以来、土木工事を中心に海洋土木、建築工事、不動産へと事業を拡大。さらに2012(平成24)年からは鳥羽市に介護付有料老人ホーム「虹の夢とば」を開設し、介護事業も手掛けている。

雇用制度改定の背景

Q.異分野として参入した福祉事業部門で雇用管理上の課題などはあったのでしょうか。

従業員の高齢化もありましたが、離職率が高かったため、その解消のために人事管理面での改善が必要でした。

Q.制度改定のきっかけはなんでしたか。

65歳以降の高齢従業員は働く意欲も旺盛であり、業務遂行能力に大きな低下がみられることは少ないです。そういった人財を失うことは当社にとって大きな損失になるため、働く意欲のある方には引き続き活躍していただきたいと考え、2022(令和4)年4月に継続雇用の上限年齢を65歳から70歳に、2024(令和6)年4月に定年年齢を60歳から65歳にそれぞれ引上げました。社内の実情を踏まえて、実態に合うように制度を変えたもので、人手不足に対する危機感が主要因ではありません(図表1参照)

Q.継続雇用の上限年齢を70歳までにしたのはどうしてでしょうか。

建設事業部では現場での事故のリスクもありますし、福祉事業部でも個人差はありますが、施設内での転倒事故も発生しますので、各自が判断する一つのタイミングとして設定しています。このため70歳以降も運用による継続雇用は行っており、会社と従業員双方が勤務可能であると合意した場合は引き続き働いてもらっています。また、建設現場での作業が難しい場合には事務方として働いてもらうこともあります。

Q.定年や継続雇用年齢を引き上げたことによるメリットはありましたか。

従業員自身の選択肢が増えたと感じています。以前は65歳でその後のことを考える必要がありましたが、「ここまで働ける」「ここまで頑張れる」という一つの線引きが、従業員のモチベーションにも影響していると思います。

Q.一方で課題に対応したことはありますか。

賃金原資確保のため、65歳の定年時に基本給を減額し(福祉事業部は変更なし)、以降は緩やかな減額としました。

Q.制度改定が経営にもたらした効果はありましたか。

従業員の中で「この会社で長く働くことができる」との安心感が浸透し、特に福祉事業部では、2023(令和5)年7月時点での離職率が三重県にある介護施設の平均離職率の4分の1程度まで大幅に低下しました。

人事管理制度の概要

■賃金制度

正社員の給与については基本給と役職手当、その他手当で構成されており、年1回の昇給又はベースアップが定年まで実施される。定年後の昇給は、建設事業部はベースアップを設定。福祉事業部は定年前と同様年1回の昇給を認めることで労働意欲の低下を防止している(図表2参照)。

賞与は基本給×月数及び人事考課の結果から積算される正社員をベースに、定年後の建設事業部では正社員の90パーセント、福祉事業部では正社員と同様の取扱いをしている。介護業務は高齢であっても必要な能力を備えていれば、若い方との差は生じないと考えており、建設事業部とは異なる賃金制度を定めている。いずれの事業部門についても給与調査を常に実施することで、賃金が同業他社と比べ安くならないよう調整をしている。

■雇用制度

定年年齢は65歳、その後は一定基準のもとで70歳までの継続雇用を行っている。制度の定めはないが、70歳を超えても業務を行う能力が維持されている条件の下で年齢の上限なく再雇用を行っている。原則として、ラインの役職からは定年とともに離れるが、「総務部長」から「総務参事」といったように同格の役職として後進の指導を中心に担当業務に従事する。

■評価制度

建設事業部、福祉事業部共に業務の実態に則した独自の評価項目を策定しており、上司による「一次評価」と部門長による「二次評価」、役員による「最終評価」の3段階で行われる。結果のフィードバックとして上司との面談を実施し、目指すべきレベルなどを共有、評価は基本給及び賞与に反映される。この評価制度については正社員及び非正社員で共通の方法、基準をとっている。

高齢従業員戦力化のための工夫

■定期的な面談の実施

60歳以上の従業員に対して、人事評価に係る面談とは別に総務部主体で年2回の個別面談を実施している。面談では今後の働き方についての相談をしている。面談をすることで上司に話しにくいことも汲み取ることができ、また会社側からはその従業員にあった勤務時間の短縮や異なる業務への異動を提案する機会となっており、高齢従業員が安心して働ける環境づくりに繋がっている。なお、福祉事業部における再雇用後の契約社員やパート社員には30種類以上の勤務形態が整備され、個々の事情に合わせた働き方を可能としている。

■ペア就労による知識・技術の継承

高齢従業員の培った技能を若手従業員へ伝承するため、建設事業部、福祉事業部共にペア就労を実施している。結果として、若手従業員の技能向上に加え、従業員同士のコミュニケーションが円滑に行えるようになった。技能・技術の共有という点では高齢従業員から若手従業員に行われるだけではなく、デジタル機器の操作方法など若手従業員から高齢従業員へ行われるケースもあり、双方に好影響を与えている。

〈ペア就労の様子〉

■業務、職場環境改善への取り組み

従業員からの提案や意見、気づき等を会社側が汲み取るため、『声のポスト』を設置している。小さな問題であっても早期に解決することで、気持ち良く働ける環境づくりを目指している。最近ではいい意味で投函が減少し、職場内のコミュニケーションの改善が図られている。

健康管理・安全衛生

■健康管理

健康診断で2次検査を求められた従業員に対しては、必ず検査後受診報告をするように指示をしている。過去には悪性腫瘍の早期発見により、無事職場復帰した事例もあり、治療と仕事の両立支援をして、いつまでも働いてもらえる環境づくりを行っている。

■職場の安全衛生

建設事業部、福祉事業部共にそれぞれ安全衛生委員会の活動を行っている。夏場の現場における熱中症対策として、空調服の導入やその日の気温・湿度に応じて休憩時間を増やすなどの取り組みを積極的に行い、従業員の作業効率の向上に努めている。また、事務所内の電灯をLED化することで業務の効率性だけでなく、交換回数の減少により脚立を使用した作業がほぼなくなり、転落・転倒の危険防止につなげている。

今後の課題

定年や継続雇用上限年齢の引上げに伴い、高齢従業員の割合も増加していくため、健康面での配慮や業務負担を減らす対策を講じていく必要があると考えている。

図表1.雇用制度改定の概要
(出所)株式会社石吉組へのヒアリングをもとに筆者作成

図表2.継続雇用制度改定に伴う人事処遇制度の比較

  継続雇用制度改定前 継続雇用制度改定後
上限年齢 65歳 70歳
対象者 希望者全員 基準該当者
契約期間 1年更新 同左
基本給 建設事業部:定年時の20%減額
福祉事業部:定年時と変更なし
建設事業部:毎年5%減
福祉事業部: 改定前と変わらず
昇給 建設事業部:昇給なし
福祉事業部:昇給あり
建設事業部:ベースアップのみ
福祉事業部:改定前と変わらず
賞与 建設事業部:定年時の90%
福祉事業部:正社員と同率
同左
人事評価 年1回実施 同左
役職 原則、定年前と同様 管理職は定年前と同格の役職で後進を指導
労働時間 原則、定年前と同様 同左
本人希望を考慮した勤務形態の設定可能
福利厚生 正社員と同等 同左
 (出所)株式会社石吉組へのヒアリングをもとに筆者作成

出所:70歳雇用推進事例集2025

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