滝沢ハム株式会社
-日本一のハムを作る工場の各部門でシニア従業員が強みを発揮-
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫
- エルダー2024年12月号

企業プロフィール
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創業1918(大正7)年
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本社所在地栃木県栃木市
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業種食肉及び食肉加工品の製造販売
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事業所数
導入ポイント
- 会社の強みである高級品質の製品づくりに不可欠なベテラン人材の確保
- 若手従業員への技術・技能伝承ができる熟練人材の長期的確保
- 定年後再雇用の上限年齢を65歳から70歳へ引き上げ
- 後継者不在部門の管理職は再雇用後も引き続き管理職として任務遂行
- 技術を持つ経験者は60歳以上の者でも積極的に採用
- 誰でも70歳まで働けるという安心感がシニア従業員に浸透
- 現在の管理職が責任を持って後継者を育成するための権限と時間を提供
- 商品開発や環境保全など経営に不可欠な業務を遂行できる人材を確保
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従業員の状況従業員数 675人 / 平均年齢 45.9歳 / 60 歳以上の割合 60~64歳 12.4% 65歳以上 13.9%
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定年制度定年年齢 60歳 / 役職定年 なし
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 希望者全員を70歳まで継続雇用
同社における関連情報
■企業プロフィール
1918(大正7)年、食肉加工会社として創業。おいしさと品質を追求して、ていねいなものづくりを貫き、1976(昭和51)年にヨーロッパの権威ある食肉加工コンテストで日本初の金メダルを受賞。以来、数々のコンテストで200個以上の金メダルを獲得してきた、いわば「ハムの金メダリスト」である。

■専門家の視点・取組みのポイント
雇用制度改定の背景
Q.制度改定のきっかけは何でしたか。
当社ではお肉のおいしさを皆様に知ってもらい、日本の食肉文化をさらに豊かにしたいと考えています。おいしさで日本一の会社を目指しています。製品づくりには専門技術や熟練技能を持ったベテランは貴重な人材で欠かせませんが、若年中堅層の就職希望者が減少しており、健康上の問題がなければシニア従業員にはまだまだ活躍してほしいと考えました。そこで働ける年齢を延長して希望者全員70歳まで再雇用としました。
Q.シニア従業員の仕事を教えて下さい。
全従業員700人のうち400人が製造現場で働いています。多くのシニア従業員が現場で製品づくりに携わっています。最近では外国人実習生も増えています。熟練技能を持つシニア従業員が体力のある若手外国人とコンビを組み、お互いをカバーしています。シニア従業員は彼らに仕事を教え、分からないことは相談に乗ります。この業界は昔からの慣習で水曜日と日曜日がお休みですが、平日に通院できるのがありがたいそうです。60歳で定年を迎えた後もほとんどの方が70歳まで再雇用で働いてくれます。
Q.シニア従業員の強みを教えて下さい。
製造現場のシニア従業員は長く製品づくりに携わっているため仕事が正確です。また、製品を作る機械を長年扱っているため機械の癖も分かっており、機械の調子が多少悪くなっても自分たちで修理することもできます。言葉の壁がある外国人実習生にもシニア従業員が根気強く教えています。
Q.制度改定への受け止め方は。
70歳まで働けるという安心感が皆さんに定着しています。仲間や若い子とおしゃべりができる、皆に囲まれて楽しい、会社に来ればやるべきことがあるのでうれしい、だから仕事に来るのが楽しいと話してくれます。
人事管理制度の概要
■組織と採用
組織は食肉本部、生産本部、営業本部、管理本部の4本部制であり、全従業員約700人のうち生 産 約400人、営 業 約170 ~ 180人、管理約100人、食肉約60 ~ 70人の配置である。従業員は正社員、契約社員(1年以内の有期、無期)、専任社員、嘱託社員、アルバイトからなる。採用は新卒、中途ともにあり、製造業経験者や業務上必要な資格を持つ者は60歳超でも採用している。契約社員として60歳超の業務未経験者も入社するが、当初は単純作業を教えながら仕事の幅を広げてもらう。
■賃金・退職金制度
賃金は基本給と諸手当からなり、基本給は年齢給と職能給で構成される。職能給は勤続年数と職務遂行能力(職能等級)に応じて決定される。職能等級は1~9等級の9段階であり、資格手当の支給基準は、3等級以上が手当の支給対象である。管理職手当は役付手当として部長、副部長、課長、課長代理、係長、主任等に支給される。昇給は人事考課をもとに年1回、賞与は基本給をもとに出勤率と人事考課(仕事の質量、責任制、積極性、協調性の各項目について5段階評価)結果を考慮して計算する。退職者には退職金と確定給付企業年金が支給される。
■継続雇用制度
これまでの制度では定年は60歳、その後は希望者全員を65歳まで再雇用していた。65歳以降は健康上の問題がなく、特別な技術や技能等で職場に貢献でき、後進育成も主要任務とすることを条件に熟練社員として70歳まで再雇用、さらに特に会社が重要とする人材は個別案件として審査、75歳まで勤務延長とする制度を設けていた。
実際には65歳以降も勤務を希望する者が大半であり、また、人手不足の状況では経験や技術を持つ人材を失うことによる損失が非常に大きかったため、希望者のほとんどが70歳まで再雇用されていた。2023(令和5)年、実態を反映させて誰もが確実に70歳まで働ける安心感を提供してシニア従業員の意欲向上につなげるため制度改定が行われた。
制度改定後、60歳定年は変わらないものの希望者全員70歳まで再雇用となり、定年時に人事部が面談を実施、今後の働き方や意識を確認している。再雇用希望者は「定年後再雇用に関する自己申告(何歳まで働きたいか、希望する業務、勤務時間短縮を希望するか、健康状態)」を提出する。65歳以上は体力や健康状態の個人差が大きくなるため1年ごとに状況を確認して契約を更新、70歳
以上の者は労災リスクが高まるため職場での注意喚起、産業カウンセラーによる認知度チェックも実施している。
再雇用者の賃金は60歳時賃金を基準に計算する。役職定年がなく、再雇用後も後継者が育つまで部長や課長をそのまま続ける場合がある(嘱託社員)。この場合、賃金はそれほど低下しない。製造現場の監督職も同様であるが、役職を下りた後はトレーナーに位置づけられて後進育成を担当する。再雇用者には人事考課がなく定昇もないが、ベースアップで賃金が増額される場合がある。賞与のかわりに手当金が支給され、退職時は餞別金が支給される。
高齢従業員戦力化のための工夫
■シニア従業員が技能伝承
現在90人以上の外国人実習生が在籍しており、仕事を教えるのはシニア従業員をはじめとしたベテランである。51歳で入社、ローストビーフの製造一筋で仕事をしてきた75歳のシニア従業員は熟練の技が追随を許さない。できあがった製品は真空包装するが、包装できるギリギリの大きさの肉を見極め、真空包装時に空気が入らないように包装に傷や穴がないかを素早く確認している。扱う肉は3キロ程度の重さがあるが、体に負担がかからないよう力の入れ具合を工夫するだけではなく、日常から体のケアに努めている。安全には細心の注意を払い、機械の調子がおかしい時はあえて停止させる。このベテランとペアを組み、その仕事ぶりを見ている外国人実習生からは「分からないことを丁寧に教えてくれるので助かる」と感謝されている。
■シニア従業員が商品開発
50歳で入社した68歳のシニア従業員はかつて料理人であったが家族と過ごす時間を大事にしたいと転職し、現在は商品開発を担当している。工場では前職のレストランの100倍を一度に生産するため、量産工程を工夫した方式を検討する。ペアを組む若手は「試食で味の足りないものが何かすぐ分かる人」と尊敬している。
■シニア従業員が環境保全
食品製造業では排水処理や廃棄物処理は重要な機能であり、環境対策保全室が設備点検を担当している。現在72歳の排水処理施設メンテナンス担当者は他社を定年退職して12年前に再就職、前職でも排水処理を担当していた。知識と技術を活かして活躍しており、会社は業務を一任、ノウハウの移転と後継者育成も依頼している。
■仕事の進み具合で早めの退社が可能
再雇用者もフルタイム勤務が基本であるが運用に柔軟性を持たせている。その日の仕事の進み具合によってはシニア従業員が早めに退社することがある。一方、お歳暮の時期は超繁忙期であり残業も行う。
■肉体的精神的負担の軽減
重量物を運ぶ仕事やスピードが必要な仕事は若手、技術や知識が必要な仕事はシニア従業員が担当するという役割分担が職場で浸透している。
■コミュニケーション改善のための研修
世代間のコミュニケーションの行き違いで心の健康をそこなう従業員を生まないため、全従業員が専門家によるハラスメント研修を受講している。部下をサポートする上司、若手や外国人実習生に仕事のやり方を教えるシニア従業員が相手に掛けるべきねぎらいの言葉や声掛けのタイミングなどを学び、コミュニケーションの円滑化促進につなげている。
健康管理・安全衛生・福利厚生
■労働災害防止へ注意喚起
製造現場ではつまづきや転倒、転落や機械操作中の事故が想定されるため、日常から注意喚起に努めている。
■孫も預けられる保育園
2011(平成23)年に保育園を設置、従業員の子どもを預かっているが、孫の世話をしている従業員もいるため孫を預かることもある。
■全員参加のバーベキュー大会
年に1~2回バーベキュー大会を開き、全従業員参加で親睦を図っている。
今後の課題
これからも人手不足は続くため新卒採用と中途採用に努める一方、現在働く従業員がより長く働ける仕組みづくりに取り組んでいる。70歳を超えて働くシニア従業員も増えつつあることから、定年延長や定年後再雇用の上限年齢引き上げも検討課題となる。
出所:70歳雇用推進事例集2026
