株式会社東京きらぼし フィナンシャルグループ
-複線型のキャリア制度の構築で働きがいのある舞台を実現-
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫

企業プロフィール
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創業2014(平成26)年
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本社所在地東京都港区
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業種銀行、その他銀行法により子会社とすることができる会社の経営管理
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事業所数
導入ポイント
- 働く意欲があって活躍できる社員には、適正な評価にもとづいた処遇で人材を確保
- 人事部門で人事制度改革チームを結成、重要プロジェクトとして制度改定を実施
- 人事制度(等級・報酬・評価・キャリア開発等)を刷新し、55歳での役職定年以降の報酬・処遇も柔軟化
- 正社員と同様に期待役割に応じたグレード給を設定
- 個々人のニーズに合わせた柔軟な働き方の整備
- キャリアデザインシートを活用したキャリア支援
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従業員の状況従業員数 4,455人 / 平均年齢 46.9歳 / 60 歳以上の割合 60~64歳 (11.1%) 、65歳~ (6.2%)
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定年制度定年年齢 60歳 / 役職定年 55歳
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 定年後は、希望者全員を70歳まで継続雇用
同社における関連情報
沿革・理念
2014(平成26)年設立。2018(平成30)年に子会社の東京都民銀行・八千代銀行・新銀行東京が合併し、きらぼし銀行が発足。パーパス「TOKYOに、つくそう。」のもと、金融の常識を超えてお客さまのあらゆるライフステージにおける課題解決にコミットし、地域の持続的な発展への貢献を目指す。

雇用制度改定の背景
Q.グループ全体の人事制度を整備するうえで基点となったトップのメッセージは。
当グループでは2018(平成30)年5月に子会社3行が合併しきらぼし銀行が誕生しましたが、合併当初はシステム統合や店舗統廃合等に経営資源を集中。経営陣から「新しく『きらぼし』として生まれ変わっている会社なので、我々が目指す姿、求める人材を人事制度で整理して、『きらぼし』に転職したつもりで取り組もう。」というメッセージが発信され、これを軸に人事制度改革に取り組みました。
Q.具体的なコンセプトは。
まず、社員一人ひとりが自らの価値を高め企業価値の向上に貢献することを柱としました。また、地域ビジネスのプラットフォーマーを目指すには創造性や多様性のある人材を提示する必要がありました。そこで、等級・報酬・評価・キャリア開発の部分を全て改定し、55歳での役職定年以降の報酬・処遇も柔軟化することで、人的資本の好循環を生み出す制度にしました。
Q.高齢者の雇用制度改定に関する焦点は。
これからの時代は年齢ではなく、働く意欲があって活躍できる方達には、適正な評価にもとづいた処遇を行うことにより、人材を確保して、当グループにも本人にもプラスになるように人事制度の改革に取り組みました。その考えのもと雇用制度の部分では、2021(令和3)年4月に継続雇用制度の上限年齢を65歳から70歳に引き上げましたので、法律ありきの経緯ではありません(図表1参照)
Q.人事制度の改定で苦労したことは何でしたか。
やはり短期間で制度設計から経営層、労使協議、社員説明を実行したことですね。人事部門のメンバーからなる人事制度改革チームを編成し、重要プロジェクトとして人事制度改定を行いました。「社員一人ひとりが自発的に市場価値を高めプロフェッショナルとなる、多様な価値観を認め合い、ポテンシャルを最大限発揮する」という目的のもと、どのような制度にすればこれらを達成できるか、経営層や労働組合と度重なる協議を行いました。
Q.改定による社員からの反応や効果は。
働く意欲があれば、70歳までの雇用延長はもちろんのこと、70歳まで社会保険に加入しながら働ける点、パフォーマンス次第ではグレードアップもできる制度である点について、社員から一定の評価を受けていると実感しています。
また、継続雇用の上限年齢が70歳まで広がったので、60歳代前半の方で即戦力になるような方の採用が増えました。入社するバックボーンとして、70歳まで働ける安心感もあるようです。
人事管理制度の概要
今回の雇用制度の改定は、人事制度改革の一環として行われた取り組みである。
■正社員
正社員の人事制度を確認する(図表2参照)。まず雇用制度について、定年制度は60歳で、55歳の役職定年制が設けられているが、ライン管理職の場合は、55歳以降でもその役割を担っている間は継続している。役割等級制度が用いられ、育成段階の「ベーシックステージ」と主に定型業務を担う「スタッフキャリア」、そして次のキャリアステージの「プロフェッショナルキャリアⅠ」、「プロフェッショナルキャリアⅡ・マネジメントキャリア」、55歳以降の正社員に適用される「S等級」が設けられている。
また、2023(令和5)年4月には、「スペシャリスト」体系を新設し、役員と同処遇を得られるようにした。
賃金制度について、基本給はグレード給で役割等級に対応した賃金テーブルが設けられている。55歳以降のS等級の賃金表には7段階のグレードが設けられ、55歳以降に期待される役割に応じたグレードに移行する。55歳到達時に役割が変らなければ、55歳到達直前のグレードに対応したS等級のグレードに移行する。
昇給は年1回、人事評価によって行われる。対象はベーシックステージのみで、昇給は積上方式である。スペシャリスト、マネジメントキャリア、プロフェッショナルキャリアⅠ・Ⅱ、スタッフキャリア、そしてS等級では人事評価結果により、グレードが上下する。
賞与は「グレード給×支給率×賞与メリット率」によって決まり、支給率は経営業績、賞与メリット率は人事評価によって決められる。人事評価は賞与に連動する「パフォーマンス評価」(年2回)とグレードに連動する「バリュー評価」(年1回)が行われる。なお、S等級の正社員は「パフォーマンス評価」のみである。人事評価の流れは、「自己評価-上長による1次評価-評価ミーティングによる2次評価」である。人事評価にもとづいた、グレードアップや賞与に社員から一定の評価を得ている。
■継続雇用制度
継続雇用制度は60歳で定年到達した社員を対象にした希望者全員の再雇用制度であり、定年前と同じく、引き続き専門性を活かしてフルタイムで勤務する「シニア社員」と、「シニアパート」の2つのコースが設けられている。雇用形態はシニア社員が無期契約社員、シニアパートは1年契約のパートタイム社員である。雇用上限年齢はシニア社員が65歳、シニアパートは70歳である。シニア社員は雇用上限年齢の65歳を超えて引き続き働くことを希望する場合には、シニアパートに切り替わる。
賃金制度について、基本給は期待役割に応じた賃金テーブルがシニア社員(9段階)、シニアパート(5段階)それぞれに設けられている。グレード給の支払い形態は、シニア社員が月給制、シニアパートは時給制である。正社員同様人事評価によりグレードが上下する。賞与は正社員と同じ年2回支給され、その決め方は、シニア社員は「グレード別固定額+賞与メリット額(率)」、シニアパートは「基準額+賞与メリット額」である。シニア社員のグレード別固定額は、グレードに対応した定額とし、シニアパートの基準額はパートタイマーと同じ算出基準が適用されている。
高齢従業員戦力化のための工夫
■キャリアデザインシートの活用
同グループは社員のキャリア開発に積極的で、様々な施策・取り組みを行っている。キャリアデザインシートはその代表的な取り組みで、一人ひとりが理想とするキャリア形成において必要な要素を自ら考え、それに対する自己研鑽の見える化を図ることで、自律型への変革を促すことを目的としている。具体的には、①Will(仕事を通じて実現したい「成し遂げたいこと」「キャリアイメージ」)②Can(能力・スキルの棚卸「強み・課題」「能力開発計画」)③Must(今年1年間で具体的に実践する「行動目標」)④Reflection(1年間の振り返り「前向きな変化」「自己研鑽のPR」)の4項目をシートに記入し、上司との面談などで確認している。このシートは同グループの全社員を対象にしている。
健康管理・安全衛生・福利厚生
■健康マネジメントの推進
2019(平成31)年1月に同グループは「きらぼし健康経営宣言」を制定して、社員とその家族の心身の健康保持・増進を目的に人事部門が主体となり、健康保険組合とも連携のうえ健康増進アプリの導入、人間ドック・脳ドックの補助、社内ラジオ体操など多様な活動や取り組みを推進している。こうした取り組みが評価され、2021(令和3)年以降、毎年「健康経営優良法人」として認定されている。
今後の課題
今後の課題として、同グループは55歳以降の役職定年後と60歳定年再雇用後の報酬水準の変化に対するモチベーションの維持を挙げている。なお、導入する企業が近年増えつつある65歳定年制について、社会動向の情報収集を行っている段階である。


出所:70歳雇用推進事例集2025