社会福祉法人白鷹会
-高齢者のライフステージに合わせて最善の働き方を提案-
- 70歳以上まで働ける企業
- 戦力化の工夫

企業プロフィール
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創業1956(昭和31)年
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本社所在地山形県西置賜郡
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業種幼保連携型認定こども園経営・放課後健全育成事業・ 一時預り事業他
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事業所数
導入ポイント
- 就業規則を改正、正規、非正規職員を問わず、定年なくいつまでも働けることを周知
- 今までの働き方が難しくなった高齢職員には職務や勤務形態に関する選択肢を用意、話し合いで解決策を実現
- 「知恵を絞れば高齢になっても働ける場所を生み出せる」との信念で検討を重ねた経営者の姿勢
- 社会保険労務士等専門家の助言を受けながら定年廃止の具体策を検討、実施
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従業員の状況従業員数 55人 / 平均年齢 47歳 / 60 歳以上の割合 60~64歳 (5.5%)、65歳~ (14.6%)
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定年制度定年年齢 定め無し / 役職定年 なし
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70歳以上継続雇用制制度の有無 該当せず
同社における関連情報
沿革・理念
山形県西置賜郡白鷹町で幼保連携型認定こども園「愛真こども園」「よつばこども園」の2園を運営している。保育理念として「夢いっぱい、力いっぱい、にこにこと」、福祉理念に「愛いっぱい心向きあい育てあい」を掲げている。

雇用制度改定の背景
Q.定年廃止のきっかけはなんでしたか。
職員として長く働いてくれる人たちは皆、経験が豊かです。その強みをずっと活かしてもらいたかったからです。山形では新卒がなかなか採用できません。経験者を中途で採用するのも限界があります。社会の将来の方向は定年廃止であろうて決断し、就業規則も変えました(1998(平成10)年4月)。
Q.懸念はありませんでしたか。
外部の方から「定年廃止はリスクが高いのではないか」と言われたこともありました。安全や健康の点で高齢職員が働き続けることのリスクも考えました。定年がなければ1日8時間労働でいつまでも正規職員として雇用しなければならないのかという心配もありましたが、社会保険労務士さんから「本人と話し合って業務内容や処遇を変えながら働いてもらうことは可能です」と言われ、「それなら定年なしで続けられる」と確信しました。
Q.どのように制度改正を進めていきましたか。
最初に理事長と現場を預かる管理職で意見交換しました。理事会にも構想を諮って意見や助言をもらいました。その後も管理職と頻繁に意見交換してまとめました。法人の方針がまとまってから就業規則の変更を職員に周知するため面談を行ないました。面談では本人の体力面や家庭環境に合わせて勤務時間や職務の変更が可能になることを知らせました。
Q.定年廃止で変わった点を教えて下さい。
本人の希望に応じて働き方を変えながら勤務を続けられるようにしました。こども園では子どもたちの安全が第一です。職員には緊張感が求められます。抱っこや走り回る子どもを追いかける体力も必要です。フルタイム勤務の高齢職員のなかには心理的負担や体力的負担がきつくなって仕事が続けられなくなると感じる人がいます。その場合は本人が希望すればパートタイムの非正規職員に移り、正規職員であるクラス担任を補佐する仕事に回ってもらいます。非正規職員も定年がないため、本人が希望する限り仕事を続けられます。
Q.高齢職員の実際の働き方を教えて下さい。
70歳まで正規職員としてフルタイムで勤務していた方がいます。長年、園長を務めました。退職をお考えのようでしたが、朝であれば短時間のパートが可能とのことでしたので7時から9時までの早朝保育を担当してもらっています。また、読み聞かせが得意な園長経験者で64歳までフルタイム勤務だった方には、月給制の嘱託職員(子育て支援アドバイザー )として1日6時間の時短勤務をお願いしています。「これからはこの仕事をこの賃金でお願いしたい」と本人にお伝えして了解を得ました。
Q.高齢職員の存在は大きいのでしょうか。
他の職員の手が回りにくいところをしっかり守ってくれるのが高齢職員です。保護者が子どもを迎えに来た際、担任は保護者の対応をするため子どもから目が離れます。その間、子どもを見守る高齢職員がいることで安全や安心が確保できます。また、こども園は朝7時から夜7時まで開いています。正規職員だけでは仕事が回らないと危惧していました。今は保育資格を有する非正規職員の高齢者が朝や夕方以降に仕事に入ってくれるので正規職員に負担をかけることはありません。
Q.職員の皆さんの受けとめ方はいかがですか。
高齢職員からは自分が必要とされていることを実感しながら働けるとの声がありました。高齢職員以外からも評価されています。以前は親の介護に直面した正規職員がフルタイム勤務では困難となり、定年前でも辞めざるを得ないことがありました。現在は時短勤務の職員になって仕事を続けてもらい、再び正規職員に復帰して長く勤めることも可能です。健康であれば働き方を変えながらいつまでも働けるという安心感があるようです。
Q.定年廃止がもたらした効果は何ですか。
高齢職員はこども園の保育サービスの評価を高めています。3世代家族が減っているため家庭で祖父母と接する機会が減っていますが、高齢職員は昔ながらの遊びを教えるなど子どもたちの「おじいちゃん」や「おばあちゃん」の役割を果たしており、子どもたちもすぐなついてくれます。また、子育て経験者からのアドバイスは若手保育職員の力を伸ばしてくれますので人材育成に大きく貢献しています。

Q.これからの方針を教えて下さい。
こども園で働いている高齢職員の多くはいつまでも子どものそばで仕事を続けたいと考えています。体力など本人の問題、育児や介護など家庭の問題で仕事を続けるのが困難なことが起こりますが、「知恵を絞れば高齢になっても働ける場所を生み出せる」との信念で、これからも定年のない働き方を追求していきたいと思います。
人事管理制度の概要
■職員の職種と雇用形態
雇用形態は正規職員(法人が求めるすべての業務をフルタイムで担当できる者)、月給制嘱託職員(役割や勤務時間が正規職員より少ない者)、時給制臨時職員(本人が希望する職務のみ担当する者)、時給制パート職員(短時間勤務の者)の4形態であり、どの雇用形態も定年はなく、希望する限りはいつまでも働ける。また、本人から希望があれば面談を経て法人が雇用形態を変更することも可能である。
正規職員は管理職(園長と副園長)、事務員、保育教諭・保育士、調理員からなる。保育の現場では正規職員がクラス担任、嘱託職員や臨時職員、パート職員が保育補助として配置されている。また、用務員はパート職員である。
■賃金制度
正規職員の賃金体系は基本給と諸手当(扶養手当、管理職手当、職務手当、時間外手当、通勤手当等)からなる。基本給は4つある職種(管理職、事務員、保育士、調理員)に応じた職種給で支給される。公務員俸給表に準じており、月給制職員は人事評価をもとに原則として毎年1号俸ずつ昇給する。賞与は基本給に一定率を掛けた額が年間3回(6月、12月、3月)に分けて支給される。月給制職員は法人が加入する共済から退職金が支給される。パート職員は担当職務と人事評価を考慮して時間給が決定される。
高齢従業員戦力化のための工夫
■得意分野で力を発揮
保育士免許を持つ高齢職員は豊富な経験と実績で保育の仕事を続ける。園庭や飼育しているポニーの世話をする用務員は長年その仕事に従事、園舎の隅々まで熟知しており、施設面から安全対策を担っている。

■負担に配慮して職務を変更
子どもの世話で体力負担をきつく感じるようになった高齢職員から相談があれば、給食の配膳や下膳、室内の消毒等、負担の軽い職務に変更して対応している。これらも子どもの健康や安全のためには欠かせない仕事であり、高齢職員が担当することで担任はクラス活動の仕事に専念できる。
■インカム装着で持ち場を離れず情報伝達
保育現場の職員はインカムを装着しており、その場で情報交換ができる。呼び出されてその場を離れ、子どもが取り残されてしまう危険がない。移動の回数も減らせ、高齢職員の体力負担が軽くなる。
■さまざまな場で高齢職員のノウハウを伝授
高齢職員はいままで多くの子どもたちを見ており、現在預かっている子どもがこれから起こしそうな問題を予測して先回りの対応ができる。そのノウハウを非正規の高齢職員も参加する会議や休憩時間中に若手職員に伝えている。ヒヤリハットの経験もこのような場で共有している。
■高齢職員にも研修機会を提供
高齢職員も保育に関する最新の手法や技術に触れることができるように、若手や中堅職員とともに研修に参加している。新しい知識が長年の経験と結びつくことで強みが増し、それが実際に発揮されている。
健康管理・安全衛生・福利厚生
白鷹会のこども園は子どもの安全と健康を第一に考え建物や遊具から危険性を排除し、室内や屋外の熱中症対策を施している。各所に配置したモニター映像は事務室からも常時見られるようにし、通路の段差をなくし、ベランダにはサンシェードを張って直射日光を防いでいる。これらの取り組みは高齢職員を始めとした働く人たちの安全と健康維持にもつながっている。また職員間で声がけを徹底し、お互いの体調確認に努めている。
今後の課題
白鷹会では若手から高齢者までバランスのとれた職員構成を維持するため、高齢職員に偏るのではなく若手保育職員の採用に努めている。その若手職員の育成に高齢職員の果たす役割は大きい。また中堅職員にとっては高齢職員の働きぶりや生き方は自分の将来をイメージするうえでの参考となる。
少子化の進むなかでこども園を取り巻く環境は厳しさを増す。これからも保護者から選ばれるこども園であり続けるには職員自らが研鑽して保育の質を高めることが欠かせない。白鷹会の定年のない働き方は職員に安心感を与え、心身に余裕を持って子どもたちに向きあえる環境となっている。
出所:70歳雇用推進事例集2025