本文へ
背景色
文字サイズ

事例検索 CASE SEARCH

株式会社山新

-得意客を増やす売り場の顔は商品知識豊富な高齢社員-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • 能力開発制度の改善

下階層のタブがない場合、項目は表示されません

  • 75歳までの継続雇用(基準あり)
  • 技能伝承
  • IT 機器の導入による負担軽減
  • 作業環境改善
株式会社山新のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1869(明治2)年
  • 本社所在地
    茨城県水戸市
  • 業種
    その他の小売業
  • 事業所数
    28ヵ所

導入ポイント

  • 希望者全員70歳まで再雇用、特に必要とされる高齢社員は75歳まで再々雇用
  • 中途採用者は職歴や知識、経験が活きる商品の売場に配置
  • 情報端末使用で事務室と売場の往復を削減、重量物は昇降機で運搬し負担軽減
  • 従業員の状況
    従業員数 2,208人 / 平均年齢 47.4歳 / 60 歳以上の割合 18.5%
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 なし
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容  70歳以降は基準該当者を75歳 まで再雇用
2025年01月01日 現在

同社における関連情報

企業概要

株式会社山新は1869(明治2)年創業、150年以上の歴史を持つ。和家具の製造販売からスタートし、現在はホームセンター(28店舗)、家具・インテリア専門店(5店舗)、カー用品専門店(3店舗)、ペット用品専門店(3店舗)を運営する小売業の会社である。その中でも、祖業である家具・インテリア、ホームセンター、カー用品専門店、ペット専門店の4つの大型専門店が1 ヵ所に集まった複合ショッピングセンターを展開している。

現在の主力事業であるホームセンターは、家具だけでは将来経営が難しくなると予想した経営者が家具に代わる事業を探索していた折、アメリカ視察で訪れたホームセンターを見て事業化を決断し、地域密着型事業として開始した。

ホームセンターは全国チェーンの企業も多く、同社の営業エリアである茨城県、栃木県、福島県でも競争が激しい。競争相手の大手企業は大量仕入れによる低価格販売を武器とするが、同社は「急成長より継続性」、「全国制覇より地域密着」、「大きい会社よりいい会社」を信念に、農家の多いエリア(建築資材や農業資材・用品が中心の店舗)、商業系エリア、首都圏通勤者の多いエリア(一戸建てに住む客向けの家屋補修・修理用道具や資材、家庭園芸用品が中心の店舗)など立地地域に応じて品揃えやレイアウトを変え、ニーズに密着した顧客への対応や提案力で対抗している。社員数は2,208人(うち1,100人は嘱託、パート、アルバイト等の非正規社員)である。60歳未満は1,820人、60歳代前半は236人、同後半は146人、70歳以上は26人、平均年齢は47.4歳である。

雇用制度改定の背景

■売場を支える高齢社員

山新各店舗の売場は生活用品、リフォーム、建築資材、農業資材、園芸、電動工具、サイクル、自動車、ペット、家具など各部門にわたる。それぞれの売場には担当者が配置され、仕入れから商品・売場・売り上げの管理を担当する。

大型店舗の取扱商品数は約14万点にも及ぶ。同社のホームセンターで売場を担当する社員は、業務や取扱商品の多様さから、ある程度仕事を覚えるまでに約3年、お客様の質問に十分答えられるようになるまで5年程度かかるが、3年を超えた社員はそのまま定年まで働き続けることが多い。40歳代になればベテランとして力を発揮でき、その能力は60歳になっても落ちないと考えている。お客様が商品を使う場面を想定した社員の提案力は高い。社員は農家に出向いて栽培のノウハウを学び、農家のニーズを習得するなどしており、お客様に提案できる人材となる。ベテランの高齢社員はお客様から用途や予算、納期を相談されれば具体的で的確な接客対応ができる。

ベテラン高齢社員の強みは商品をよく知っていることである。お客様が持ち込んだ故障品を製造元に送って修理すると時間がかかる。同社の強みは持ち込まれたものを高齢社員がその場で修理して返却できるケースがあり、お客様に不便をかけずに済むことも多い。高齢社員や高齢パート社員に相談するつもりで訪れるお客様も多い。お客様からの信頼が厚い高齢社員は売場の顔として集客と売り上げに貢献している。

■経緯

同社で貴重な戦力となっている高齢社員については、今後、毎年20人から30人が定年を迎えると想定されている。元気で意欲があり、経験豊富な社員には販売の第一線で長く活躍してもらうだけではなく、後継者育成にも努めてもらうことが企業競争力強化に直結する。同社では2019(令和元)年度に65歳定年延長の検討を開始した。2020(令和2)年度には制度変更プロジェクトを発足、本社や店舗からメンバーを選出、毎月1回の頻度で半年以上にわたって定年延長にともなう課題を検討した。検討した課題は以下に見られるように多岐にわたった。

・定年年齢(何歳とするか)
・引き上げ回数(一度か段階的か)
・定年年齢の選択の有無
・対象者(管理職を含めるか)
・60歳以降の社員の仕事と役割
・60歳以降の社員の配置と異動
・60歳以降の社員の労働時間
・60歳以降の社員の評価と賃金
・退職金支給時期
・65歳以降の継続雇用

検討にあたっては60歳間近または60歳を超えた社員に意見を聞き、制度設計の参考とした。その結果、「体力面では若年社員より劣ることはあっても、知識・経験などは劣らない」との結論から、定年65歳、希望者全員70歳までの再雇用制度の方向性が示された。

2021(令和3)年、同社は定年を60歳から65歳へと延長した。また、定年後の継続雇用についても制度を改め、希望者全員を70歳まで、その後は会社の事情に応じて一部の者について75歳までと定めた。

■定年延長移行時の措置

同社では60歳定年の時代は継続雇用の上限年齢が65歳、その後は特に必要な者のみを再雇用していた。65歳への定年延長にあたり、同社では60歳到達間近の社員に2つのコースを用意した。60歳到達6ヵ月前の社員を対象にアンケートを実施し、正社員として65歳まで働くか、60歳定年扱いで退職金を受けとった後は「嘱託社員」として時給制で働くかを選択させた。

また、定年延長時にすでに継続雇用者であった者にも意向を確認し、その結果、6割程度は正社員に戻っている。正社員復帰は継続雇用より収入は増えるが労働時間が長くなる。それでも意欲が高い者は復帰を希望した。一方、部下の管理など正社員の責任の重さを理由に引き続き継続雇用に留まる者もいた。選択は個人の自由であり、同じ継続雇用者でも趣味や農業に時間を割く者は短時間、収入を増やしたい者はフルタイムに近い働き方をしている。

人事管理制度の概要

■採用

山新の新卒採用は年間30人程度、一方、中途採用も同程度で30歳代から50歳代が採用されている。同社への転職者の前職は多彩であり、その経歴が活きる売場に配属される。元農家であれば園芸、JA(農協)出身者は農業資材、電動工具メーカー営業経験者が電動工具の修理・販売など、それまでの経験が十二分に活きている。

同社では正社員以外の採用も多いが、非正規社員には「ステップアップ制度」が用意され、正社員への道が開かれている。パートやアルバイトとして3年以上勤務し、年2回の評価が基準に達していれば準社員への登用試験の受験資格が与えられる。準社員も同様な手続きで正社員登用試験への挑戦が可能である。なお、準社員は8時間勤務の「準社員1」と同6~8時間の「準社員2」に分かれる。職務の責任はパートと正社員の中間程度である。60歳以上は17人程度が準社員である。

■処遇

同社の人事考課は業績評価と職務評価からなる。前者はお客様への対応や提案力、お客様からの評価が含まれており、副店長が第1次評価者、店長が最終評価者である。前年度よりも業績が高まっていなければ評価は低くなる。後者は担当職務の責任の重さで評価する。どちらも年功要素はなく、評価成績如何では減給もある。60歳以降の職務はそれまでと変わらない。また、人事考課によって昇格降格がある。評価の中では若手社員の育成や指導の重みが増す。

■教育訓練制度

各売場の社員の商品知識や専門性を高め、また常に登場する新製品への対応のため、本社や店舗だけではなく、商品を製造したメーカーへ出向いての研修が行なわれている。前述のように商品を購入するユーザーの実際の使い方を知るために農家に直接出向いて学ぶこともある。新商品知識を学べるように、休憩室には新商品紹介コーナーを設けている。売場では専門知識に関する教育や指導は高齢社員に任されている。

■継続雇用制度

同社の就業規則には「定年到達者が引き続き勤務を希望した場合は希望者全員を定年退職日から満70歳まで期間契約社員として再雇用します」と明記されている。また、70歳到達者で知識・経験・技術・資格を有し、当人の退社が業務に支障をきたす場合は、アルバイトとして75歳まで1年更新で再雇用される場合もある。

高齢社員戦力化のための工夫

■体力負担の軽減

店舗には次々と新しい情報機器が導入される。かつては商品検索のために売場から離れた事務室のパソコンまで確認に行かねばならなかったが、今では売場で情報端末を操作して即座に検索可能となり、お客様を待たせることもなくサービスは向上している。高齢社員にとっては売場と事務所の往復がなくなり、肉体的負担も軽減している。なお、高齢社員も端末操作は無理なく行えるが、新しい機器の操作に手間取った場合は若手社員が高齢社員に教えることで解決している。また、売場では高齢社員が重い商品を頻繁に取り出すことがある。高い位置にある商品は脚立を使って取り出すが、高齢社員にとっては体力負担と危険を伴う。そこで2018(平成30)年から昇降機を順次導入、安全に高い場所にある商品も下ろせるようになった。ロボットスーツの導入も検討中である。

〈昇降機による高所作業ではヘルメットを装着〉

■カムバック制度

自身の通院や介護などでフルタイム勤務が難しくなる高齢社員に対しては勤務時間や日数について管理職と相談して変更できるようにしている。それでも勤務が困難になった場合、5年以内であればその理由が解決した後に再入社できる制度(カムバック制度)を創設した。正社員としての復職を原則とするが、正社員の勤務では負担が大きい場合は準社員で復帰できるなど柔軟に対応している。

健康管理・安全衛生

■各店舗で健康診断

山新では定年延長と継続雇用上限年齢引き上げを機に、社員の健康にいっそう留意している。労働災害発生防止と疾病予防対策も推進している。健康診断は検診車が各店舗に出向いて行っている。

■センサーやチャイムの設置

高齢社員の中には反射神経が低下している者もおり、店舗から控室に戻る際のドア開閉時にぶつかる可能性があった。そこでドア衝突防止センサーや、ドアが開く前にチャイム音とフラッシュで注意喚起する「ドアぶつかり防止チャイム」を取り付けた。

〈ドアノブの上にセンサーをつけ衝突事故対策〉

制度改定の効果と今後の課題

■社員の安心感と企業競争力強化を実現

定年延長により山新の社員は年金支給開始年齢までの収入確保が可能となった。加えて退職年齢と勤続年数が5年延びることで退職金も上乗せされるようになった。定年延長は社員の経済的安定を強化している。また、長く働けることで若手社員や中堅社員の安心感が生まれ、定着率がいっそう高まることで採用活動が有利になり、有望な人材の獲得に資することを同社は期待している。短期的に見れば定年延長により人件費負担が増し、業績にも影響がある。しかしながら長期的に見れば店舗力が高まり、顧客サービスの維持向上が十分期待できると同社は考えており、定年延長の効果に自信を深めているだけではなく、その効果をいっそう高めるための方策を常に検討中である。

事例内容についてお役に立てましたか?

役に立った

関連情報
RECOMMENDED CASE