本文へ
背景色
文字サイズ

事例検索 CASE SEARCH

株式会社 ルネックス

-顧客情報の全社的共有へ、高齢従業員の知識をデータベース化-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • 能力開発制度の改善
  • コンテスト入賞企業

下階層のタブがない場合、項目は表示されません

  • 多様な勤務形態
  • 世代間連携の強化
  • 技術・技能のマニュアル化
  • 地域や社会への貢献
株式会社 ルネックスのロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1971(昭和46)年
  • 本社所在地
    鳥取県倉吉市
  • 業種
    メガネ・補聴器・光学機械小売業
  • 事業所数
    5ヵ所

導入ポイント

  • 高齢従業員の持つ顧客情報を若手従業員がデータベース化する協働作業で世代間連携を強化
  • 高齢期の仕事と生活のバランスを保てる「短時間勤務制度」を導入
  • 企業の地域貢献・社会貢献・国際貢献事業に高齢従業員を起用
  • 従業員の状況
    従業員数 40人 / 平均年齢 46.0歳 / 60 歳以上の割合 10.0%
  • 定年制度
    定年年齢 65歳
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 定年は65歳。希望者全員70歳まで継続雇用。70歳以降は運用により会社が 認めた者を再雇用
2021年08月31日 現在

同社における関連情報

企業概要

鳥取県でメガネの専門店を展開する株式会社ルネックスは、1971(昭和46)年に有限会社メガネの太田として倉吉市で創業、以後、株式会社に組織変更して米子市や鳥取市に進出、現在は5店舗を擁する。幅広い世代のニーズに応えた機能・デザインのメガネを揃えている他、補聴器の販売では専門資格を持った販売員が、高齢の顧客に使い方の練習や聞こえ方の微調整などきめ細かなサービスを行っている。また、地域貢献事業として各店舗内に併設された「コミュニティープラザ百花堂」では、地域で活躍する作家の作品を中心に文化・芸術を紹介し、地域住民が交流できる場となっている。

従業員は正社員32名、パート社員8名の計40名である。年齢構成をみると60歳未満36名、60歳代前半3名、同後半1名、平均年齢は46.0歳である。業容拡大に向け、新卒採用も強化している。

メガネ販売店には、視力の程度、また乱視や遠視など状況もさまざまな顧客が訪れる。一方、補聴器は5年程度で買い換えが必要となるほか、メンテナンスも欠かせない。顧客が来店した際には、的確に要望を聴き取りながら、専門知識による助言で顧客に安心感と信頼感を与え、リピーターになってもらうことが欠かせない。接客技術が優れ、商品知識が豊富、かつ補聴器利用者に多い高齢者と話が通じやすい高齢従業員の存在は大きい。

雇用制度改定の背景

■経緯

ルネックスでは、創業時の定年年齢は60歳であった。この間、定年に達した者で希望する者には65歳までの継続雇用を行なっていたが、就業規則によらず運用で行なわれていた。その後、1990(平成2)年5月から、60歳定年、65歳までの継続雇用を就業規則に明文化したが、会社として今後の定年延長の可能性を考えていた時、社会保険労務士から「従業員が安心できるので定年を延長し、就業規則に明記してはどうか」とアドバイスを受けた。そこで2020(令和2)年に65
歳へ定年を延長、就業規則に明記した。それにともない定年後の継続雇用も70歳まで延長され、同じく就業規則に明記している。

ルネックスの就業規則第44条では「従業員の定年は、満65歳に達した後の6月末日(決算締日)とし、その日をもって退職する」とされ、同条の2には「前条により従業員が定年に達し、引き続いて雇用を希望した場合は、1年間の雇用契約を締結して雇用する。以後契約が満了する際に就労希望を確認し契約を更新し、満70歳に達した後の6月末日(決算締日)を上限として継続雇用する」と明記している。さらに同条2の②では「満70歳に達した後の6月末日後において、本人がさらに雇用を希望し会社が認めた場合は、その後も雇用する場合がある」とも定めている。

ルネックスでは「60歳になっても、65歳になっても、70歳になっても、本気さえあれば現役続行ができる」を理念として掲げている。65歳定年と70歳までの継続雇用、さらには70歳を超えての雇用の可能性を会社が明言したことで就業意欲の高まった高齢従業員を会社は長く活用でき、一方、若手従業員や中堅従業員も「この職場で末長く働ける」という安心感が生まれ、会社への貢献度が高まっている。

■雇用制度改定の工夫

ルネックスが定年延長を決定した際、会社や従業員の間に懸念が生じなかった訳ではない。高齢従業員がそのまま働き続けることが、店舗業務等で生産性を落とすことにならないのか、また、高齢従業員が役職者であった場合、定年後もそのまま役職にとどまることで若手従業員の昇進機会が奪われるのではないかというものである。

会社は、全従業員に就業規則を配付して説明会を実施、経営者が直接説明して従業員と意見交換を行った。経営者からは、高度な接客のノウハウを身につけた高齢従業員が会社の競争力の源泉として貴重であること、高齢従業員に長く働いてもらうことで、その知識や経験を若手や中堅の従業員に伝え、仕事に対する真摯な態度など手本になれることなどメリットの方が大きいと判断して定年延長を決断したことを説明して従業員の納得を得た。

人事管理制度の概要

■賃金・退職金制度

ルネックスの賃金は、基本給が中心である。手当では役職手当はあるが、資格手当に相当するものはない。業務上必要となる業界内の資格もあり、取得者に手当を支給することも検討している。賞与は年2回支給されている。また、退職金は65歳の定年時に支給され、定年後の賃金はそれまでの基本給水準が維持される。なお、退職金については継続雇用後の70歳での再支給も検討課題である。

■評価制度

ルネックスの人事考課は、約30項目について評価される。視力や聴力検査で必要となる機械操作の習熟度を10段階で評価するもの、一般的な職務遂行能力を5段階で評価するものからなる。考課結果は昇給と賞与に反映され、賞与の場合は2割程度の差がつく。

■教育訓練制度

ルネックスでは、従来、会社が必要に応じて従業員にトップダウンで研修受講や資格取得を求めていた。必ずしも長期的観点での人材育成ではなく、従業員の側からすれば受け身的なものであった。

従業員一人ひとりのキャリア形成を各人が自分のものとして自覚して取り組むには風土改善と意識改革が必要と考えた会社は、全従業員の研修を開始した。その取り組みのなかで会社は高齢従業員を活用、若手従業員の育成のための研修会やロールプレーイングには商品知識や接客ノウハウが豊富な高齢従業員を講師として起用した。その結果、どの従業員も一定水準以上の知識・技法を習得し、顧客サービスの質が向上している。

高齢従業員戦力化のための工夫

■勤務時間の工夫

ルネックスの各店舗は、独立店舗もあれば大型商業施設のテナントもあり、職場環境や営業時間はそれぞれ異なる。各店舗の従業員は6 ~ 7名であり、店長はその制約のなかで、ワークライフバランスの観点からその時々の高齢従業員の要望に応じて各人の勤務時間やシフトを柔軟に決定していた。この工夫は長年にわたって行われていたが、規定にはなく運用に任されていた。

そこで柔軟な働き方が選択できるように制度として設けたのが「短時間勤務制度」である。60歳以上の従業員は、1日3時間の範囲内で、また、労働日数については3分の1以内の短縮が可能であることが就業規則に明記され、制度として保証されるようになった。

ルネックスで働く最高齢者(67歳)は、通院の必要もあることから週4日勤務(フルタイム勤務)である。一店員としてメガネと補聴器の接客を担当しているが、ベテラン接客術を若手従業員に伝承し、若手従業員からの信頼も厚い。

■若手向け教育訓練への高齢従業員起用

前述の若手対象の教育訓練では、高齢従業員が講師として起用されているが、高齢従業員にとっては技能伝承という重要業務に起用されていること、役割を担った自分が会社から期待されていることなど「やりがい」、「働きがい」が得られ、高齢従業員の意欲向上につながっている。

■高齢従業員が持つ知識の取り込み

顧客が頻繁に来店するサービス業であれば、従業員も顧客の顔を覚えての接客が容易となるが、メガネは買い換えサイクルが3年半と長く、その間に顧客が来店するとは限らないため、次の来店時に顧客満足度を高めるための工夫が必要となる。ルネックスでは「顧客カルテ」を作り、顧客のさまざまな情報を蓄積しているが、長年接客している高齢従業員の知識を十分に取り込んでおらず、また、各店で保管されていたことから、顧客が違う店舗に来店した場合には店舗間での頻繁な連絡を余儀なくされ、顧客対応が十分ではなかった。

ルネックスでは「マイ顧客」から「生涯顧客」への転換によるサービス品質を目指し、どの店舗でも、また若手従業員でも必要な情報を簡単に検索できる仕組みを構築することとした。これまで高齢従業員が知識として蓄積していた「過去の接客内容」、「顔の特徴」、「来店履歴」、「ブランド品など所持品」、「今後の提案」などの重要情報が全社的に共有される意義は大きく、また高齢従業員にとっては自分の持つ顧客情報が会社への貢献として評価されることで「やりがい」につながる。

■若手従業員と高齢従業員の協働による風土醸成

顧客カルテ作成にあたってはITや情報機器操作に抵抗がない若手従業員がデータ化やマニュアル化を担当、高齢従業員が入力データの内容となる知識や情報を提供した。その過程で両者の距離が縮まり、他の面でも高齢従業員がノウハウを若手従業員に提供し、若手従業員がそれを抵抗なく受け容れる風土が醸成されている。若手従業員の相談に乗り、指導もする高齢従業員は、自身の存在感を感じられ、働きがいも強まっている。

■年齢を問わず実績で配置

ルネックス各店の店長は多くが50歳代であるが、定年を迎える店長を必ず交代させることは考えていない。店長は店舗運営、売り上げ管理、部下管理を担当するのはもちろんのこと、メガネや補聴器の商品知識が店員より豊富であることも求められる。短期間で育成は出来ず、状況によっては継続雇用者から店長が起用されることも考えられる。

■社会貢献事業への高齢者起用

ルネックスでは、さまざまな社会貢献事業を行ない、高齢従業員を起用している。地域貢献を目的に各店舗内に併設された「百花堂」では高齢従業員2名が専任で勤務し、自身の経験と地域での人脈を活かして催し物を企画、顧客のみならず地域住民の交流の場となっている。

また、ルネックスの会長が代表を務めるNPO法人では、度が合わなくなって使われなくなったメガネを修理して老眼鏡に再生し、タイに寄付する国際貢献事業を行っているが、毎年、経営者と従業員、定年退職者などが現地を訪れて簡易視力検査を行い手渡ししている。

健康管理・安全衛生

■休憩室の整備・充実

ルネックスの従業員の仕事は立ち仕事が多い。当初、休憩室のある店舗は本店に限られていたため、他の店舗でもリラックスできる休憩所が望まれた。整備された休憩室は、顧客からは見えないが、すぐに売場に直行できる構造である。昼の休憩に限らず、まとまった時間が取れればくつろげるようになり、リフレッシュの後に業務に向かえるようになった。

■健康対策

社内健診が行なわれても健康管理は従業員任せであった。そこで各店舗の休憩室に血圧計や体重計を設置、健康管理を意識しやすい職場に改善した。また健康診断結果から健康改善事項や再検査事項が明らかになった際は、再検査結果の報告を従業員に求めるようにした。

今後の課題

■マニュアルの充実

ルネックスでは、高齢従業員をはじめとするベテラン従業員のノウハウをマニュアル化してきたが、取り込めていない部分も多い。顧客の視力の状況や、具体的にどのようなメガネが欲しいかなどニーズを探るための問いかけは、用意された質問票で行なうが、実際の顧客とのやりとりは、答が質問から外れながらも重要な情報が得られることが多い。そのやりとりがうまく出来る高齢従業員のノウハウを盛り込みたいと会社では考えている。そのため、文書化されたマニュアルに加えて動画を制作することで、経験の少ない若手従業員でも実践力が向上できるものへと充実を急いでいる

■社員カルテ導入の検討

ルネックスでは、人材育成強化の観点から「社員カルテ」導入を検討中である。導入により一人ひとりの従業員のこれまでの業務経験、受けてきた教育訓練、人事考課結果が一覧化され、これから配置や研修を通してフォローアップすべき内容を上司が適切に判断できるようになる。高齢従業員による若手従業員への技能伝承の際にも社員カルテが有効な情報源となることが期待される。

事例内容についてお役に立てましたか?

役に立った

関連情報
RECOMMENDED CASE