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伸和ピアノ 株式会社

-実質「定年なし」から定年制廃止へ-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • コンテスト入賞企業

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  • 定年廃止
  • 賃金・評価制度改定
  • 新職場・職務の創出
  • 作業環境改善
伸和ピアノ 株式会社のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1970(昭和45)年
  • 本社所在地
    千葉県千葉市
  • 業種
    ピアノの買取り・販売・修繕・調律・配送業務
  • 事業所数
    2カ所

導入ポイント

  • 安定して生活するには安定して働くことが重要であるという考えのもと、定年制を廃止。高齢社員のモチベーション向上につながった。
  • 各職場の難易度に応じた職務給を取り入れ、やる気のある従業員の給与をアップ
  • 「作業技術と能力給との相関関係」という客観的な指標を用いた公平な人事評価
  • 従業員の状況
    従業員数 122人 / 平均年齢 44.7歳 / 60 歳以上の割合 13.1%
  • 定年制度
    定年年齢 定め無し
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 該当せず / 内容 定年なし。現在の最高年齢者は81歳
2021年07月01日 現在

同社における関連情報

企業概要

伸和ピアノ株式会社は、1970(昭和45)年に創業し、ピアノの買い取り、販売、修繕、調律、配送などを主な業務としている。本社のある千葉市の他に営業拠点として関西支店(西宮市)と事業拠点として札幌営業所を展開している。
従業員数は122名、そのうち60歳以上の従業員は16名で、従業員の平均年齢は44.7歳である(2021年3月現在)。
採用状況については、中途採用を中心に毎年3 ~ 5名程度を採用している。近年、不定期ではあるが、特別支援学校やピアノ調律・管楽器リペアなど専門学校の新卒者を採用している。

定年制廃止の背景

■経緯

2016(平成28)年8月までの同社の定年・継続雇用制度は「65歳定年、希望者全員上限年齢なしの継続雇用(勤務延長制度)」であった。同社にとっては、業務を遂行する上で高齢従業員の経験、スキルなどは不可欠であることから、継続雇用に切り替わっても待遇は見直さず、定年前と同じ賃金水準を継続しており、短時間勤務を希望する高齢従業員に対しては時間比例による賃金制度を採用している。また、本人からの退職の申し出がない限り継続雇用を続けていた。このように実質「定年なし」の雇用制度であったが、創業者の「安定して生活するには経済的な裏付けが必要であり、その為には安定して働くことが重要である」という理念のもとに、高齢従業員の生活を一層安定させ、生涯現役として活躍できるようにするため、2016(平成28)年8月に定年制を廃止した(図表1)

図表1 雇用制度改定の概要
(図表1の出所) 伸和ピアノ株式会社のヒアリング調査をもとに執筆者作成。

人事管理制度の概要

■社員格付け制度の改正

同社は、2020(令和2)年11月、それまで「取締役部長-取締役課長」の2ランクであった社員格付け制度を、「取締役部長-次長-部長代理-課長」の4ランクに改正した。 これにより、従業員のモチベーション向上につながることを期待している。

■賃金制度と人事評価の改正

2021(令和3)年4月から賃金制度の全面的な改正を行った。まず、「基本給」は、全従業員一律とした。次に、勤続年数に応じた昇給制度(「勤続給」)を新設した。これにより、毎年定期的に昇給が実施される(定期的な昇給金額は、入社2 ~ 3年目は1万円とし、その後は段階的に緩やかなカーブを描いて、勤続16年目以降からは、退職まで毎年5千円昇給)。また、各職場の難易度に応じた「職務給」を設けた。

更に、管楽器修理部門、ピアノ修理部門、調律部門、ピアノ塗装部門など、技術を必要とする部門では、それぞれの部門に「作業技術と能力給との相関関係」という客観的な指標に基づく「能力給」を新設した。この制度は、個人の技術の向上を図り、会社の利益に大いに良い影響を及ぼす結果が得られると共に、個人の収入の増加も実現できるため、社員のモチベーションを更に刺激することになり、良い循環をもたらすと考えている。

以上は、技術系の仕事に携わっている従業員全員に機会が与えられており、同社は公平な制度であると考えている。また、個人的な技術評価の見直しは、半年毎に行われ、その結果は翌月の給与から反映される。

■諸手当制度

「皆勤手当て」「子育て支援手当」「禁煙手当」(煙草を吸わない従業員に支給)が全従業員を対象に支給されるほか、営業部門の従業員に対しては、「身嗜み手当」(散髪代など)を支給する制度を、10年以上前から導入している。 また、業績が良好の時に一時金(臨時賞与)を支給したこともある。

■定年制の廃止に伴う人事管理・退職金制度

65歳を迎えても、本人の希望する部門で希望する職種に従事しており、人事管理制度についても、それまでの役職を継続している(図表2)。退職金については、65歳以降も引き続き中小企業退職金共済の掛金の積み立てを行い、退職する時に支給される。

図表2 高齢従業員 (65歳以降) の人事管理制度の変化
(図表2の出所) 伸和ピアノ株式会社のヒアリング調査をもとに執筆者作成。

高齢従業員戦力化のための工夫

■高齢従業員の意欲・能力向上のための取組み

同社は長年蓄積してきた経験やスキルを活かすため、高齢従業員の仕事は、これまで担当している仕事を継続してもらう方針をとっているが、併せて蓄積してきた経験や知識を有効に活かすため、特別支援学校や各種専門学校から新卒入社した従業員や若手従業員の育成を担当させている。

また、特別支援学校の知的障害者のインターンの指導や、他社で長期間休職していた従業員が同社で採用となった時の指導を高齢従業員が担当したこともある。このような場面で、自分が培ってきた経験や知識が会社の役に立っていることも、高齢従業員の励みになっている。

■新職場・新職務の創出の取組み

同社には、倉庫内でピアノ等の積み下ろしなどを行う「倉庫内移動部門」があり、この業務は、特別な専門技術を要しないため、50 ~ 60歳代の中途採用従業員の力を活かせる職場となっている。

■作業環境の改善の取組み

同社は高齢従業員をはじめ、従業員が働きやすい作業環境の整備にも取り組んでいる。
例えば、ピアノ工房部門では、作業スペースに個人の専用ブースを設けて、このブースに必要な工具類や消耗部品を一式取り揃えたことで、無駄な歩行と体力の消耗を削減した。 また、工房内の天井照明をLED化したことで、作業効率の向上と、目の負担軽減を実現した。

(工房ブース)

健康管理・安全衛生

健康管理・安全衛生面についても多様な取組みをしている。健康管理については、全従業員が使用できるトレーニングルームの設置、休憩室に血圧計の設置、社内共有スペースに体組成計の設置といったことをしている。安全衛生面では、作業中の事故やケガを未然に防止するための労働災害防止活動として、2ヶ月ごとに勉強会を実施すると共に、「ヒヤリハットアンケート」などの結果を集計して、職場環境の改善を図っている。

一例として、作業者同士の衝突を避けるために防火扉の向こう側の状況がわかるカメラを設置したことにより、開いた扉に衝突する労働災害がなくなった。更には、工房内はエアコンが完備されており、温度管理を適切に行い、快適に働けるようにしている。また、作業で使用する有機溶剤などによる健康被害防止のために、年2回、社内の環境測定と、特定化学物質等健診を実施しており、国の基準を毎年クリアしている。

(専用台車作業)

今後の課題

高齢者雇用に関する今後の課題として、同社は主にピアノや管楽器の査定・買い取り・運搬業務を所管する営業部門における高齢従業員に対応した新職場・新職務の創出をあげている。

現在、同社で従事している高齢従業員の多くはピアノ工房部門、倉庫内ピアノ移動部門で、クリーニング・修理業務やピアノの積み下ろしなどに従事しているが、今後は、営業部門の従業員の高齢化が進むため、同部門の従業員が引き続き社内の別の部門で長く働くことができる職場・職務を創設する必要があり、まずは関東の比較的近隣の都市にピアノ・管楽器などの販売・買い取り・リペア店舗を段階的に展開することを検討している。

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