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英興株式会社

-定年年齢・再雇用の上限年齢を引上げ、人事管理制度はそのまま-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • コンテスト入賞企業

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  • 70歳以降も再雇用(基準あり)
  • 処遇継続
  • 技能伝承
  • 作業環境改善
英興株式会社のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1947(昭和22)年
  • 本社所在地
    京都府京都市
  • 業種
    窯業・土石製品製造業
  • 事業所数
    9拠点

導入ポイント

  • 高齢従業員と若手従業員がペアを組み技能伝承
  • 作業手順の「標準化」「映像化」「高齢従業員と若手従業員のペア就労」による効果的な技術伝承
  • 高齢従業員も参加した5S活動の全社的な展開
  • 従業員の状況
    従業員数 94人 / 平均年齢 44.1歳 / 60 歳以上の割合 13.3%
  • 定年制度
    定年年齢 65歳
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 定年は65歳。希望者全員70歳まで継続雇用、70歳以降、年齢上限なしの 再雇用(運用)〈基準あり〉
2021年08月31日 現在

同社における関連情報

企業概要

英興株式会社は、1947(昭和22)年に設立の石英ガラス製品の加工・販売事業を展開する企業で、国内トップクラスの加工技術を持つ。本社をはじめ国内に2カ所の製造拠点、7カ所の営業拠点を展開している。

従業員数105名で、雇用形態別には正社員102名(残りの3名は継続雇用の嘱託社員 )、 年齢別には60歳以上の従業員14名の構成となっており、従業員の平均年齢は44.1歳である。

採用状況については、同社は中途採用中心で、ほとんどの従業員が中途採用者である。また、営業拠点の従業員は現地採用を原則としている。同社は、取引先との関係を長期にわたって維持するため、取引先の担当を替えることはしていない。そのため、営業社員の営業拠点間の人事異動は行われていない。また、毎年5名程度の中途採用を行っており、その中には他社で定年を迎えた者もいる。同社は他社で培った技術・専門能力を持つ者の中途採用に積極的であるが、技術・専門能力を持っていなくても高い意欲が見られれば採用して、OJTによる教育訓練を通して戦力化している。

雇用制度改定の背景

■経緯

2018(平成30)年11月までの同社の定年・継続雇用制度は「60歳定年、規定による65歳までの継続雇用(再雇用制度)、運用による65歳超の上限年齢なしの継続雇用(再雇用制度)」であった。65歳までの再雇用制度は、60歳の定年年齢に到達した従業員の中から希望する者全員を継続雇用する制度である。同社の製品は、顧客からの完全個別受注の多品種少量生産であるため、加工作業は機械化が難しく、ベテラン従業員による手加工と機械加工で行われている。事業を継続するには、現在主力として活躍しているベテラン従業員の経験と熟練が不可欠であるため、彼ら(彼女ら)の蓄積された技術の活用と後進への技能の伝承が必要であり、高齢従業員が長く働き続ける職場環境の整備を目的として、2018(平成30)年12月に定年年齢と、規定による再雇用制度の雇用上限年齢をそれぞれ5歳引き上げ、「65歳定年、規定による70歳までの希望者全員継続雇用(再雇用制度)、運用による70歳以降の上限年齢なしの継続雇用(再雇用制度<基準あり>)」とした。図表1はその全体像をまとめたものである。

図表1 雇用制度改定の概要
(出所) 株式会社英興のヒアリング調査をもとに執筆者作成。

■雇用制度改定の課題と工夫

同社に労働組合はないため、今回の雇用制度改定に際しては、従業員との意見交換を通じて制度改定を進めた。その際に大きな課題はなく、65歳まで正社員として働くことができる環境が整えられることに好意的な意見が寄せられた。

人事管理制度の概要

■雇用制度改定前

社員格付け制度は、役職制度のみで、営業部門は「部長-所長・課長-主任」の3ランクから、工場は「工場長-マネージャー-リーダー-サブリーダー」の4ランクからそれぞれ構成される。

賃金制度については、月例給の「本給」に、「職能給」「役職手当」「扶養手当」などの諸手当が加わる。本給は年齢給で、年齢別に金額が設定され、定年まで毎年昇給が行われる。職能給は、能力の高さに応じて決まる賃金で、社長による能力評価に基づいて支給する金額が決められている。

賞与は年2回支給され、その決め方は個別に前期の支給額を参照しながら人事評価結果をもとに経営層が決めている。半期ごとの会社業績による原資をもとに、支給額全体の4割部分を人事評価の反映部分としている。

人事評価については制度を設けておらず、日ごろの働きぶりなどを社内ヒアリングをもとに社長が相対評価で決めている。こうした人事評価は年2回行われ、評価結果は職能給と賞与に反映する仕組みがとられている。

役職定年は設けていない。定年退職とともに役職を離れる。継続雇用者(再雇用者)として引き続き同社で働く場合、役職者は一般の嘱託社員として、定年時に担当していたライン業務に従事する。

退職金は、民間保険会社の企業型確定拠出年金制度を活用して定年時に支給している。

規定による65歳までの再雇用制度は60歳の定年に到達した従業員を対象とした継続雇用制度で、継続雇用を希望者する者は、全員継続雇用に切り替わる。継続雇用は半年契約である。

再雇用者の人事制度について、先に紹介したように役職者は役職を外れ、後進の指導を中心にしながら定年時の担当業務に従事する。賃金制度については、正社員の制度が引き続き適用されるものの、本給と職能給の水準の見直しが行われる。人事評価制度は、正社員の制度が適用される。退職金は、再雇用者用のものが用意され継続雇用終了時に支給される。勤務時間は、フルタイム勤務を基本とするものの、短時間・短日勤務を選択することができ、その場合の支給額は時間比例で算出される。

運用による65歳超の再雇用制度は、65歳までの継続雇用終了者を対象とした継続雇用制度で、本人と会社のニーズが一致した場合、半年契約の再雇用が引き続き行われる。人事制度、賃金制度は65歳までの継続雇用制度が継続され、65歳以降も引き続きそれまで担当していた業務をフルタイム勤務で行う場合、待遇は変わらない。退職金も65歳までの再雇用制度のものが継続される。

■雇用制度改定後

定年年齢、および規定による継続雇用制度の上限年齢の引上げに伴う人事管理制度の見直しは行われず、正社員化した60歳前半層の人事管理制度は、60歳未満の正社員の人事管理が継続され、再雇用制度についても同様に改定前の人事管理制度が継続された。具体的には、65歳定年、規定による70歳までの希望者全員継続雇用(再雇用制度)、運用による70歳以降の上限年齢なしの継続雇用(再雇用制度<基準あり>)である(図表2)

図表2 改定後の高齢従業員 (60歳以降) の人事管理制度
(出所) 株式会社英興のヒアリング調査をもとに執筆者作成。

高齢従業員戦力化のための工夫

■後進への高齢従業員の技術伝承の取組み

同社が実施している後進への高齢従業員の技術伝承の取り組みは「加工作業手順の標準化・統一化」「加工作業の映像化」「高齢従業員と若手従業員のペア就労による技術伝承」「高齢従業員による若手従業員のスキル習熟度評価」の4つである。

第1の「加工作業手順の標準化・統一化」については、製造工程には火炎加工(手作業)、切断、マシニング加工、レーザー加工、旋盤加工、洗浄、アニール等の作業工程があり、それらをどのような順番・タイミングで行うかで要する時間が大きく異なる。これまで加工の手順が熟練の高齢従業員ほど自分のやり方に固執して教え方が統一されていなかった。そこで、作業手順を標準化・統一化して最適な工程表を作成し、職場での共有化が可能になった。

第2の「加工作業の映像化」については、例えば、バーナーの火の色、バーナーを入れる角度等を撮影し、それにナレーションを入れた動画を技術伝承の補助ツールとして活用している。この映像化を通して効果的な技術伝承が可能になり、こうした作業の映像化を他の作業にも展開していくことを同社は考えている。

第3の「高齢従業員と若手従業員のペア就労による技術伝承」については、熟練の高齢従業員が若手従業員とペアを組み、円滑に指導できる体制を整備した。高齢従業員は「工程表」と「映像化」された補助ツールをもとに作業工程の勘所を若手従業員に伝えることで効果的な技術伝承を行うことが可能になった。なお、同社は、技術を引き継いでほしい人を選んでペアを組んでいるが、相性も考慮して定期的にペアの見直しや変更を行っている。

第4の「高齢従業員による若手従業員のスキル習熟度評価」については、加工作業で進めている技術伝承の中でペアを組む若手従業員の作業ごとのスキルの習熟度の評価を、高齢従業員に行わせている。この評価結果は給与などには反映されないものの、若手従業員にとってスキルの習熟度を把握することが可能になるとともに、高齢従業員の指導意欲が高まり、モチベーションの向上につながっている。

■作業環境の改善の取組み

作業環境の改善の取り組みについては、高齢従業員も参加した5S活動を実施している。従業員は石英ガラスを持って移動するため、足元が見えづらく転倒する恐れがあることから、使用したガス管の収納など床を整理して転倒防止を図った。また、加工工程では酸水素ガスを燃焼させるので職場が暑くなる傾向にある。そこで、同社は、工場に空調設備を完備するとともに電動ファンつきの作業服を支給して作業に取り組ませている。

健康管理

健康管理面の取り組みでは、年2回の健康診断を実施していることに加えて、保健師の指導で一般に高齢者に多い持病(高血圧症・高脂血症)の管理制度を導入した。こうした取り組みにより高齢従業員の体調のリズムが安定し、生産性の向上につながった。

今後の課題

高齢者雇用に関する今後の課題として、同社は高齢従業員の活躍できる場を管理部門や営業部門にも拡大することをあげている。現在、高齢従業員の多くは技術部門に所属しているため、技術部門を中心に高齢従業員の戦力化の取り組みを進めてきた。今後は管理部門や営業部門にも高齢従業員が活躍できる職場づくりを拡充することを今後の課題として同社はあげている。

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