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株式会社新潟アパタイト

-能力を活かして働ける職場作りを目指す-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • コンテスト入賞企業

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  • 70歳以降も継続雇用(基準あり)
  • 作業スキルの「見える化」
  • 多様な勤務形態
  • 職場の風土づくり
株式会社新潟アパタイトのロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1988(昭和63)年
  • 本社所在地
    新潟県上越市
  • 業種
    電気機械器具製造業
  • 事業所数
    3ヵ所

導入ポイント

  • 経営が困難だった時代も今も「人が会社にとって何よりの財産」を実践
  • 社長自ら従業員の状況や要望を把握し、迅速に解決策を検討・実施
  • 高齢者のみならず、すべての従業員の負担が軽くなる職場改善や設備の工夫を実践
  • 従業員の状況
    従業員数 95人 / 平均年齢 47.0歳 / 60 歳以上の割合 20.0%
  • 定年制度
    定年年齢 70歳
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 定年は70歳で、運用により一定条件のもと年齢の上限なく再雇用。
2020年07月31日 現在

同社における関連情報

企業概要

株式会社新潟アパタイトは、自動車やカメラ、医療機器用部品などに使われる精密ばね製品の組み立て・検査・トレー梱包・ピッキング等の電気部品製造と技術者派遣を行う企業である。創業は1988(昭和63)年、自社工場と取引先企業の工場内、計3カ所で操業している。

従業員は、正社員21名、パート社員74名の計95名、また、年齢構成をみると60歳未満76名、60歳代前半12名、同後半4名、70歳代前半3名であり、平均年齢は47歳である。従業員の多くは女性である。現在の最高齢者は76歳、前職はホテル従業員だったが60歳で新潟アパタイトに入社している。本人は「働けるうちは働きたい」と語っている。

同社には過去に困難を極めた時代があった。リーマンショック時は仕事がなくなった。この時には社長は、従業員を高速道路のサービスエリアの芝刈りやスーパーの試食販売コーナーに派遣して、畑違いの仕事をしてもらうなど、雇用を守るためにあらゆる手を尽くした。そのような歴史もあり、会社の経営方針は「人が会社にとって何よりの財産」「能力を活かして働ける職場作りを目指す」と定めている。最近も新型コロナウイルスの影響が取引先企業に及んだため、新潟アパタイトもその影響を受け売上高は減少したが、すでに回復している。

なお、同社は、障害者雇用にも熱心に取り組んでおり、2015(平成27)年に就労継続支援A型事業所「With You」を開所し、2019年には就労継続支援B型事業所「Be With You」も設立しており「Be With You」については、全国トップレベルの工賃を支払う事業所となっている。

雇用制度改定の背景

■経緯

新潟アパタイトの定年年齢は70歳である。就業規則第33条に「従業員の定年は、満70歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする」と定めており、定年後は、運用により、基準(健康で働く意欲のあること)に該当する者が年齢の上限なく継続雇用の対象となる。

定年年齢は、2014(平成26)年に65歳から70歳に引き上げられた。当時、同社で働く従業員のなかに65歳に達する者がいたが、仕事ぶりには何の遜色もなかった。リーマンショック時の苦労も知るこの従業員に、会社はこれまで通り仕事を続けてもらうべきと考えていたが、その状況を社会保険労務士に話したところ、「それならば定年引き上げを考えてはどうか」とのアドバイスがあった。定年延長を行っても生産性を落とさずにできる作業があるかを検討したところ、治具の開発や作業工程の工夫で対応可能であることが分かり、定年延長を決断している

この定年延長は、新潟アパタイトの経営方針に合致するものでもあった。

人事管理制度の概要

■賃金制度

新潟アパタイトの賃金は、基本給・手当・割増賃金からなる。基本給は全体の約9割を占め、年功的に上昇、最低賃金と地場の水準を考慮して改訂される。手当は役付手当と通勤手当からなり、役付手当は工場長やリーダー、サブリーダーに支給される。また、日常業務で創意工夫を提案した従業員に対しても報償として手当を支給している。

退職金は、基本給と勤続年数をもとに計算し、普通養老保険を活用して支給する。

■評価制度

一般従業員には担当業務の難易度に応じて手当が支給される。担当業務は「作業スキル一覧表」によって4段階(①経験があるが1人ではできない、②通常の作業ができる、③高難度の作業ができる、④高難度な作業ができて人に教えることができる)に評価され、「認定証明書」が与えられる。工場にはこの作業スキル一覧表が掲示されている。各人の作業スキルを「見える化」し、それに処遇を結びつけることで納得性が得られ、不公平感がない。加えて「見える化」されたスキル水準により、自分に足りないものが分かり、これから習得すべきスキルが明らかとなる。

ちなみに最高レベルに到達した従業員は「指導者」として認定され、教え手としての役割が期待される。さらに、「指導者」となった高齢従業員のなかから特に選ばれた者は「伝道師」として指導にあたっており、彼らには手当も支給されている。

新潟アパタイトでは、従業員と社長の面談を四半期ごとに行なっているが、作業スキル一覧表をもとに従業員側の個人採点と会社側の採点を比較し、最終評価を決定する。評価の際、会社は当人が少しでも前に進む姿勢が見られれば積極的に評価している。特に高齢従業員の場合は「急がず、慌てず、緩やかに右肩上がり」になってくれれば良いと考えている。なお、高齢になって能率が落ちても、それまでの評価を下げることはない。

■短時間・短日数勤務制度

定年後の継続雇用者やパート従業員に対しては、短時間・短日数勤務制度を用意し、就業規則に規定している。この制度では、1日の勤務時間が2時間(2名)、3時間(6名)、4時間(3名)、5時間(パート従業員の3割)、5時間半(パート従業員の5割が対象)の働き方を用意しているほか、短日数勤務者では常勤者の4分の3以内の日数で対応している。若年・中堅従業員は、子育てや介護のため、高齢従業員も通院など自分の生活に合わせて利用しており、利用者の満足度は高い。

高齢従業員戦力化のための工夫

■設備の工夫

主要業務である検査工程では、顕微鏡を使い数センチに満たない細かなばね製品の傷や変形だけではなく、変色もチェックする。全数検査が求められ、かつ、出荷に間に合わせるため時間との勝負でもある。常にクレームゼロを目指し、不良品を取引先に納入しないため厳重に行なわれている。

ところが50歳を超えると視力低下が起きがちで、不良品を見逃す可能性が懸念された。そこで拡大画像を見られるようにして、小さなばねでも容易に不良品の有無を判断できるようにした。さらに、ばねの変形を検査する工程では、不良品が電気を通すことを利用した新しい治具を開発して目視検査を省略し、視力が低下した高齢従業員でも担当できるようした。これらの改善は高齢従業員のみならず、あらゆる作業者の負担を軽くするものとなった。

■配置の工夫

日常から従業員一人ひとりの状況や要望に応じた取り組みに努めている。作業スキル一覧表を活用した能力向上に努める一方、加齢による体力低下でそれまでと同様の職務遂行が難しくなった従業員から要望があれば、職場改善や職務変更を検討・実施する。社長や管理職は従業員の入社前の職歴にも通じており、あらゆる可能性を考え、「能力を活かして働ける職場作りを目指す」という経営方針を実践している。ある高齢従業員は、午前中伝票整理、午後は工場での検査・梱包作業を担当している。終日の検査・梱包業務では体力負担が大きすぎること、前職が事務職であったことを会社が考慮しての措置である。

■職務の開発

以前は外注していた工場内の清掃作業を内製化し、高齢の従業員が中心となって担当している。清掃担当者は、それまで工場で作業をしていたことから構内の事情に詳しく、他の従業員が業務をしやすいように整理整頓を行なってくれるため、生産性向上にも貢献している。同様に取引先工場の清掃作業も請け負うことで、自社高齢従業員の新たな職場開発となっている。

■迅速な対応

常に各従業員の話を聴き、仕事ぶりを観察し、社長が率先して取り組み、迅速に対策を講じている。ある従業員は、高齢になって視力が低下し、ばね製品の検査の仕事が難しくなったと社長に申し出た。一方、配送部門では、1台での配送では取引先を回りきれず、2台必要との声が社長に届いていた。そこで社長自ら配送を体験して増車増員の必要性を確認、検査業務が難しくなった高齢従業員に配送業務への異動を打診し実行した。結果、高齢従業員の要望に応えながら、人手不足だった業務での課題を解消した。

また、取引先工場内に派遣された従業員から、職場の冷房があまり効いていないという連絡があり、経営陣がその日のうちに確認し、熱中症対策の用具を使用しての勤務が可能であることを確認し実行している。

■ノートを通した情報交換

従業員は、毎日のミーティングに加え、ノートに記入する。その内容はその日の業務で感じたことや改善のヒントなど多岐にわたる。ノートは従業員の間でも回し読みされている。管理職は最低でも週2回は内容を確認し、従業員の要望を知ることができている。

■若手と高齢者を交えた委員会の開催

従業員と管理職がともに業務運営を考える委員会を開いている。従業員メンバーは、2ヶ月交替でその都度3名選出され、メンバーの年齢層も工夫し、若手従業員と高齢従業員がともに話し合えるようにしている。建設的提案が出ることも多く、コミュニケーション充実だけではなく、業務改善にも役立っている。

■若手と高齢者のコミュニケーション促進

従業員間のコミュニケーションは、世代間ギャップの解消にもつながっている。若手と高齢者間のコミュニケーションでは、高齢者の知恵が若手に伝えられるだけではない。孫の相手をしている高齢者にとって、孫世代を子どもとして育てている若手従業員の意見やアドバイスは役に立ち、これをきっかけに両者のつながりが深まるという。

■経営者・管理職の積極的コミュニケーション

会社の取り組みに対して従業員からは、「年を取り、体力や視力の低下は避けられないが、自分の努力に加えて、社長や管理職が寄り添って自分たちの話を聞いてくれ、どのような作業なら可能なのかを同じ目線で考えてくれ、すべての従業員に事情を説明して周知してくれるのがありがたい」との声が寄せられており、会社に対する従業員の信頼感は高まっている。

健康管理・安全衛生・福利厚生

■懇談会や食事会の開催

コロナ禍以前は、年数回懇談会や食事会を開いていた。従業員の大半を占める女性が企画し、取引先からのクレームゼロが継続すれば100日ごとに食事会をレストランで開催したほか、レストランからケータリングしての社内開催もあった。社長も出席し、従業員からのさまざまな要望を聞く機会となっていた。状況が変わった現在は、従業員で相談した結果、お弁当や家庭で楽しめるオードブルなどのお持ち帰りを実施している。

今後の課題

■定年延長

新潟アパタイトでは、現在の70歳定年の妥当性について常に再検討している。かつて70歳を前に退職した高齢者がいたが、会社が70歳定年と明記していたことがきっかけだったのではと会社は考えている。当人の仕事ぶりは問題なく、会社としてはまだ働いてもらいたかったため、年齢で区切ることの問題が残るとする。一方、高齢者増加によって従業員の健康問題が一層の課題となることも会社は理解している。

従来から新潟アパタイトでは、高齢従業員のみならず、すべての従業員の負担軽減に向けた職場改善と設備改善・開発を行なってきたが、従業員の意見を聞きながら今後も継続して取り組んでいく。

■事業多角化

「人が会社にとって何よりの財産」を経営方針としてきた新潟アパタイトであるが、今後の経営環境変化のなかでもこの方針を堅持するためには、新たな取り組みが必要であると考えている。近い将来、検査や梱包など現在の業務の多くが自動化省力化される可能性が高く、それが現実になった時、会社の業務内容が変化せざるを得ないという。そこで製造業から幅を広げての事業多角化を検討中である。雇用を守りながら、かつ、従業員一人ひとりが「能力を活かして働ける職場作り」の実現のためである。

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