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医療法人成雅会泰平病院

-「100歳まで働ける環境づくり」実現に人事制度と職場環境を改革-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • コンテスト入賞企業

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  • 70歳以降も継続雇用(基準あり)
  • 賃金・処遇制度改定
  • 職場の風土づくり
  • 技術・技能のマニュアル化
医療法人成雅会泰平病院のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1976(昭和51)年
  • 本社所在地
    福岡県糟屋(かすや)郡
  • 業種
    医療・介護
  • 事業所数
    6ヵ所

導入ポイント

  • 家族の介護などで勤務継続が難しくなる高齢職員を助ける「ハーフタイム勤務制度」
  • 全職員が意欲をもって働けるよう、能力と役割に応じた賃金・評価制度を導入
  • 接遇やマナーが身についた高齢職員のノウハウをマニュアル化して研修教材に活用
  • 従業員の状況
    従業員数 299人 / 平均年齢 48.0歳 / 60 歳以上の割合 25.8%
  • 定年制度
    定年年齢 65歳
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 70歳まで希望者全員  70歳以降は、基準該当者を パート職員として年齢上限 なく継続雇用(運用)
2021年11月01日 現在

同社における関連情報

法人概要

医療法人成雅会泰平病院は、1976(昭和51)年開業の「泰平老人病院」が母体である。その後、介護老人保健施設、認知症対応型共同生活介護グループホーム、小規模多機能ホーム、介護付有料老人ホーム、居宅介護支援事業所へと事業を拡大し、現在にいたっている。「誠心・誠愛・誠優・誠笑」を理念に地域住民に利用しやすい施設として地域医療の中核的存在となっている。

職員は正職員231名、パート職員68名の計299名である。全体の年齢構成をみると60歳未満222名、60歳代前半34名、同後半28名、70歳以上15名であり、平均年齢は48.0歳である。現在、理事長のリーダーシップのもと、「100歳まで働ける環境づくり」を目指し、人事制度の改革が進められている。

雇用制度改定の背景

■経緯

定年年齢が60歳であった時、泰平病院では、地域ニーズに応えるべく医療に加えて介護事業を拡大してきたが、職員の増員が必要となっただけではなく、優秀な人材の確保が課題となっていた。泰平病院では新規職員の採用に努めたが、採用した新人を育成するには、彼らを指導し教育できる人材も不可欠であった。その役割を果たせるのは現在泰平病院で働いているベテラン職員であり、彼らにより長く働いてもらうことが望ましかった。

そこで定年年齢引き上げと再雇用の上限年齢引き上げが検討され、令和元年、65歳への定年延長を実施した。同時に定年後も働くことを希望する者は全員、70歳まで再雇用することとした。ちなみに70歳以降は、運用として、労使で合意した者は、年齢の上限なくパート職員として再雇用しており、実質的に本人から退職の申し出がないかぎり雇用を継続している。現在は、就業規則第13条に「職員の定年は満65歳に達した日の属する年度末とする」、同14条に「職員が定年退職後に再雇用を希望し、解雇事由または退職事由に該当しない者については、嘱託として再雇用する」と定めている。

嘱託再雇用については「嘱託職員規定」を改定し、「・・・原則として満65歳に達した日の属する期間の末日をもって終了する」から「・・・原則として満70歳に達した日の属する期間の末日をもって終了する」と改めた。なお、泰平病院では60歳定年となっていたこれまでも、退職後に働くことを希望する者に対しては再雇用を行っていた。65歳への定年延長は実情に即したものであったが、就業規則に「65歳」と明記することで、法人の方針を職員に明確にする効果もあった。

■定年延長の経過措置

60歳から65歳への定年延長に際し、泰平病院では55歳以上の者を対象に退職金支給の経過措置を用意した。60歳時点で退職金を受け取れるようにすることで、該当者が60歳定年を前提とした生活設計や資金計画を考えていた場合でも対応できるようにした。

■外部からの採用年齢引き上げ

60歳定年で継続雇用上限年齢65歳であったそれまでは、パート職員としての採用も上限年齢は65歳であったが、継続雇用上限年齢が70歳となったため、パート職員についても65歳以上の採用を積極的に行っている。

人事管理制度の概要

泰平病院の定年延長は、優秀な人材に長く働いてもらうための仕組みつくりであったが、単に定年年齢だけを延長するのではなく、処遇や教育訓練制度も合わせて改定し、高齢職員も含めた全職員が意欲を持って長く働くことができ、かつ優れたサービスを利用者に提供できる能力をさらに身につけてもらうことを目指した。これらの取り組みにより、利用者が増加して収益性も高まり、職員の処遇向上とともに設備投資や教育訓練投資の原資を充実させることが可能となり、経営の好循環が実現する。

■賃金制度

泰平病院の医師など管理職については、年俸制で処遇されている。月給制の一般職員については、これまでの賃金制度は基本給と各種手当(役職・通勤・夜勤等)で構成され、基本給は年功給部分と能力給部分があった。また、職員の職種が多岐にわたり(看護師、介護福祉士、薬剤師、理学療法士等)、それぞれの格付けなどが異なり複雑化していた。

改正された賃金制度は、従来の年功主体型から能力と役割に応じた「ハイブリッド等級制度」に変わり、どの職種についても等級(格付け)を7段階(1等級から7等級)として役職(主任、課長、部長等)と対応させ、かつ、人事考課によって上位等級に昇格できるようにした。例えば、非管理職は担当職の名称で1等級から3等級に位置づけられ、新人は1等級からスタートする。

なお、定年後再雇用の職員では、フルタイム勤務者は定年時と変わらぬ額の給与が支給され、パートタイム勤務者では、定年時給与を時間給に換算して支給される。

■評価制度

泰平病院の職員の処遇は、上記の等級に対応しているが、その等級ならびに昇格は「育成主体型評価制度」で決定する。人事考課は「スキルアップシート」を用いた能力向上度評価と、「業務実践スキル評価シート」による業務実践度評価で行なわれる。

「スキルアップシート」は全職種共通であり、職務に対する「基本姿勢・規律」や自己啓発を含めた「教育・研究」などの面で細かく考課する。各項目につき5段階で自己評価と上司評価を行う。また、「業務実践スキル評価シート」は職種別に用意されており、各人の専門性を5段階で評価する。上位等級ほど高い専門性を求められ、それが達成されているかを評価する。考課項目のひとつである「計画の立案」について見れば、新人は「指導を受けながら計画立案ができる」が考課基準であるが、より上位の等級であれば「明らかな問題にそって計画・立案できる」ことが求められる。

各項目の評価は点数化され、自己評価と上司による評価を通して確定する。昇格については、年間の総合評価の結果が一定の基準を満たしていれば最短で翌年に昇格する場合もある。標準的には一定の成績を常に上げて数年で昇格し、それに対応する役職に昇進する。

高齢職員戦力化のための工夫

■技能伝承の担い手としての高齢職員

高齢職員の優れている点は利用者一人ひとりに応じた接遇、常に笑顔を絶やさない対応であり、若手職員にその姿勢を習得してもらうことが期待されている。接遇やマナーは最重要のスキルであり、ベテランの作成したテキストやプリント資料を用いた研修が実施されている。医療福祉現場の経験が浅い若手職員も多く採用されるなか、マニュアルの充実は喫緊の課題となっている。ベテラン職員の経験を集積したマニュアルの作成は管理職を中心に進められており、高齢職員の知識や経験が数多く盛り込まれている。ノウハウ吸収のためにも高齢職員が長く職場で働き続けられることが求められている。

■外国人技能実習生の指導役・相談相手

泰平病院では、外国人技能実習生の採用が始まっているが、母国を離れて不安の大きい実習生が安心して働けるよう、生活経験豊かな高齢職員が講師役とともに生活相談の相手として活躍している。

■勤務時間の工夫

これまで高齢職員の退職理由として多かったのは「家族の介護」であった。勤務と介護の両立が実現できればベテラン職員の退職を防ぐことができることから、「ハーフタイム勤務制度(半日勤務)」を導入した。利用する高齢職員も多く、介護に限らず、趣味の時間確保や体力回復なども目的として活用されており、高齢職員の雇用継続につながっている。

■高齢職員向けの教育訓練

前述の人事考課を通し、自分に足りない、または向上させたい能力や知識が明らかとなるが、それをきっかけに研修に積極的になる高齢職員も多い。泰平病院では、高齢職員に対しても教育訓練や研修参加の機会を提供している。

■アンケートを活用した改善

泰平病院では、さまざまなアンケート調査実施により、職員が快適に働き続けられる風土づくりに活かしている。「職場生活等に関するアンケート」によって各職場の課題を探り、改善点を特定、改善活動を実施する。また、「退職事由アンケート」は退職者を対象に実施され、退職事由が職場風土や人間関係に起因することが判明すれば、その改善につなげている。有能な職員が不本意な理由で退職するのは泰平病院にとって損失であり、アンケートを起点とした改善活動は効果を上げている。

健康管理・安全衛生

■介護支援用ロボットの導入

入所者がベッドから車椅子へ移動する際などの移乗作業は、職員にとっては体力負担が大きく、腰痛発生の可能性も高まる。そこで介護支援用ロボットを導入した。職員はこれを装着し作業にあたる。体力負担が軽減されるだけではなく、余裕を持った作業ができるようになり、サービスの質向上にもつながっている。なお現状では装着のしづらさがあり、使い勝手が必ずしも良好ではない。そこでメーカーに要望して改善を進めている。

■用具や器具の改善

泰平病院では、高齢職員の体力負担軽減のため、設備や器具の改善に努めている。給食を運ぶ運搬車は高齢職員が動かしやすいものに替え、体力負担を軽減している。これにより、高齢職員でも容易に作業できる。

■安全対策

院内照明のLED化、院内各所の段差解消に取り組んでいる。利用者の安全確保のために優先して行なわれているが、同時に職員の安全対策となり、高齢職員が働きやすい職場の実現にもなる。

■利用者にも配慮した熱中症対策

高齢職員の健康維持のためにはエアコンの利用が欠かせないが、高齢の利用者はエアコンの強風を好まない人もいる。そこで職員が風に当たれるように壁掛け扇風機を設置している。

■夜勤の軽減

高齢職員のなかには夜勤の負担が重いと訴える者もいる。泰平病院が擁する多様な事業所のなかには夜勤が少ない職場もあり、異動を通して負担軽減につなげている。

今後の課題

■職員の年齢バランスの維持

各種サービスを提供している泰平病院では若手、中堅、高齢者のそれぞれを必要としており、高齢職員だけでは機能しない。肉体的負担の多い職場がなくなることはなく、若手職員も不可欠である。年齢層のバランスが適度に保たれねばならず、高齢者雇用だけを進めることは現実的ではない。泰平病院では若手職員採用と高齢職員雇用のバランス維持に努めている。

■IT化の推進

現在の業務の多くは紙媒体で行なわれており、サービス水準向上のためにもデータ化が急がれている。そのため高齢職員にもIT機器操作を習得してもらう予定である。高齢職員向け研修の企画や実施方法を検討中である。

■役職定年制導入の検討

定年延長によって泰平病院で働く高齢者は増加したが、年齢による役職離脱は制度化されていない。そのため将来的にはポスト不足も懸念される。人材育成には実際に役職に就けて経験させることが必要であり、次代を担う中堅層の能力開発が課題となる。そのため、将来的には役職定年制の導入も検討されている。

■定年の廃止

泰平病院が現在進めている「100歳まで働ける環境づくり」の実現に向け、人材育成制度や処遇制度、人事考課制度が改定されてきたが、その延長線上として定年延長も視野に入っている。現在、その実現の可能性、対処すべき課題の洗い出し、さらなる制度改正が検討されている。

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