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株式会社 建設相互測地社

-企業競争力強化に向け、強みが最も活きる任務に高齢社員を起用-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • コンテスト入賞企業

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  • 上限年齢なしの継続雇用
  • 世代間連携の強化
  • 技能・技術のマニュアル化
  • 柔軟な勤務形態
株式会社 建設相互測地社のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1969(昭和44)年
  • 本社所在地
    福島県郡山市
  • 業種
    専門サービス業(補償コンサルタント業)
  • 事業所数
    3ヵ所

導入ポイント

  • 高齢社員の多くが企業競争力を左右する高度な資格を取得
  • 後継者育成や管理体制強化に不可欠な作業手順書やマニュアルを高齢社員が整備
  • ドローンなど最新技術を活用して高齢社員の負担を軽減、労働災害を防止
  • 従業員の状況
    従業員数 34 / 平均年齢 53.8歳 / 60 歳以上の割合 47.1%(16人)
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 なし
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 定年65歳。希望者全員年齢上限なく再雇用
2023年02月01日 現在

同社における関連情報

企業概要

株式会社建設相互測地社は1969(昭和44)年に先代社長が測量業を登録して創業、その後、補償コンサルタント業として用地補償や測量調査で業容を拡大、国や地方公共団体の公共事業を支えてきた。公共事業で取得される土地の所有者に対して土地や建物の補償が必要となるが、補償金算定に必要な測量や調査は補償業務管理士が行う。同社の有資格者数は東北地方ではベスト5に入る。また、同社では河川管理に不可欠な基礎データ取得のため流量観測や採水等を行う水文観測業務も行なっており、国土保全に関わる業務で地域に貢献している。事業所は3ヵ所、組織は総務部、測量部、補償部、営業部の4部門、社員数は34人(すべて正規社員)、60歳未満の者は18人、60歳代前半9人、同後半3人、70歳以上4人である。社員の平均年齢は53.8歳、60歳以上の者の割合は47.1%である。

〈建設相互測地社外観〉

雇用制度改定の背景

■高齢社員の多くが高度な資格を取得

建設相互測地社は「知識・技術の宝庫である高齢社員は、会社にとって大きな戦力である」と考えている。同社の業務を支えているのは公的資格を持ち、知識や経験の豊富なベテランや高齢社員である。前述の補償業務管理士は、一般社団法人日本補償コンサルタント協会が8部門(土地評価、営業補償・特殊補償、事業損失、総合補償等)にわたって実施する研修を受講し、検定試験に合格した者が取得できる資格であるが、4年以上の実務経験者のみに受験資格があり、年1回行なわれる試験(筆記試験と口述試験)の合格率は低い狭き門である。業界ではこの資格の評価は非常に高い。同社では34人中23人が8部門中のいずれかの資格を持ち、平均で1人が3部門以上を取得している。

公共事業関連業務が多いことから、同社の社員は官公庁や関係者との折衝が多い。自社を含めた三者間での交渉では信頼を醸成しながら利害を調整し、事業を進めるための交渉力が必要となる。長年にわたってこの業務に当たり、実績もある高齢社員は先方から信頼されており、同社にとっては貴重な人材である。
なお、同社の最年長者は72歳で、専門的な知識や経験をもっているために65歳で入社し、調査業務や業者との打ち合わせ、業務全体のマネジメントを担当している。

■定年延長の取り組み

同社の定年年齢は長らく60歳であったが、2013(平成25)年に定年後の継続雇用制度を見直し、経過措置として段階的に上限年齢を引き上げた。2017(平成29)年には経過措置を廃止し、上限年齢を65歳に引き上げた。2018(平成30)年、同社は定年年齢を60歳から65歳に延長した。また、定年後も健康で働く意欲があれば年齢の上限なく継続雇用することとした。

定年延長の背景には高齢者雇用に対する社会的要請もあるが、資格を持つ高齢社員は同社の競争力の源泉であることから、「生涯現役」で実務の最前線で長く活躍して欲しいこと、また、新たに採用された若手社員の育成に力を発揮して欲しいという事情があった。なお65歳定年延長時、社内には60歳定年後の継続雇用者(65歳未満)も在籍していたが、職務も処遇も定年前とほぼ変わらぬ状態での勤務で、定年延長者と継続雇用者の間に実質的に差はなく、問題は生じなかった。

人事管理制度の概要

■採用

建設相互測地社では2021(令和3)年度、20歳代を4人新規採用しており、彼らを講習会に派遣するなど人材育成に努めている。採用された若手社員は人員が不足している分野に配属されている。現状では業務拡大のための配置ではなく、既存業務を支障なく遂行するための配置となっている。若手社員を早期に一人前の戦力とする必要があり、高齢社員からの技能伝承が求められている。

■教育訓練

同社では会社の将来を担う人材の育成を喫緊の課題と捉えている。地域全体で若者が少なくなっているだけではなく、専門学校の減少でこの業界に興味を持ち、知識や技術を身に付けようとする若者も少なくなっている。そこで現有戦力である高齢社員に長く活躍してもらう一方、若手社員には資格取得を奨励し、彼らが実力をつけて仕事に自信を持ち、同社で長く活躍できるしくみづくりを進めている。

補償コンサルタント業務をある程度こなせるようになるまで3年程度、ベテランとして信頼を得られるまでには10年程度を要する。若手社員育成のため、補償業務管理士検7定8部門の各部門ごとに、資格を取得した高齢社員が社内研修の講師を務め、若手社員の検定合格を支援している。

■賃金制度

同社の賃金は基本給と諸手当からなる。基本給は公務員の体系に準拠しており、役職に応じて等級が異なり、同じ役職であれば号棒が上昇する。年齢による昇給は31歳で止まり、その後は職能給部分で昇給(号棒が上昇)する。現在の制度は年功的要素が強いため、職務遂行や貢献度を反映させた賃金制度に改定すべく、現在、給与体系の見直しを進めている。

諸手当は管理職手当(部長、次長、課長対象)、役付手当(係長、主任対象)のほか、前述の補償業務管理士を含め、一級建築士や測量士、土地家屋調査士や行政書士等の資格取得者に支給される資格手当があり、賃金全体に占める資格手当の割合は大きくなっている。

■退職金制度

同社は特定退職金共済制度(特退共)に加入しており、退職金を定年時に支給している。

■継続雇用制度

会社の経営状況や業務量を前提としつつも本人の健康状態や意欲を確認し、問題がなければ上限年齢なく1年更新で再雇用されることが就業規則に明示されている。継続雇用者は更新1ヶ月前に面談で意思を確認される。職務は定年前からの仕事を継続することが多く、賃金はこれまでの実績をもとに個別に決定する。継続雇用に変わっても賃金は減額されない。継続雇用者の貢献度が高ければ定年後も役職が継続するだけではなく、昇進することもあり、役職者には役職手当が支給される。また、賞与も支給される。なお、同社では継続雇用終了時に退職金に相当する功労金を支給することもある。

高齢社員戦力化のための工夫

■高齢社員の役割の明確化

建設相互測地社は「若手社員への技術の継承」、「品質チェック機能と工程管理」の2つが高齢社員の役割であり、会社が期待するものであると社長自ら折に触れて高齢社員に伝えている。会社からの期待を受け止める高齢社員も「会社が自分を必要としている」と感じ、意欲が高まっている。

■高齢社員主導でマニュアル整備

同社では2002(平成14)年からISO認証取得に取り組んできた。顧客である発注者からの信頼を高めて「仕事を頼まれる会社」となるには提供するサービスの品質向上が欠かせなかった。また、入札条件となる総合評価点数を高めるにはQCD(品質、価格、納期)を高度化する必要があり、内部監査や管理体制を証明する国際規格であるISOの認証取得が急がれていた。

ISOでは職務や工程の「見える化」が求められるが、それらの詳細を知る高齢社員が作業の中心となった。その結果、若手社員への技術継承や技能伝承のテキストともなる「作業手順書」、「マニュアル」、「業務フロー図」が完成、社内で共有データベース化された。現在では社内のパソコン等でいつでも、誰でも、また、社内だけではなく現場からも閲でき、研修等の体系的教育だけではなく高齢社員から若手社員へのOJTも容易となった。
なお、2002(平成14)年に完成した「作業手順書」は同社にとって大きな意味を持つ。従来、若手社員への指導はベテランの作業を見て覚えさせることが中心であった。しかしながら各ベテランのレベルには差があり、誰に師事したかで若手社員が身に付けられるものに差が生じる恐れがあった。作業手順書は優秀なベテランの技を集めており、これを活用することで教育や指導のレベルや質が確保され、どの若手社員に対しても高度な育成を効果的に行えるようになった。

■高齢社員と若手社員のペア就労

同社では若手人材育成の目的で高齢社員と若手社員を組み合わせて仕事をさせる。各部門の長は若手社員に習得させたい内容と高齢社員が強みとしている専門分野を考慮して組み合わせを決めている。
測量業務では若手社員と高齢社員がペアで現地に向かい、若手社員は体力が必要な作業やドローン操作を担当、高齢社員はドローンが撮影した画像分析を担う。若手社員は現場で高齢社員の高度な分析に触れる一方、高齢社員の指導の下、現場で実践的課題に挑戦することもできる。新しい技術に強い若手社員と豊富な経験を持つ高齢社員の組み合わせから生まれるチームワークは、世代間のコミュニケーションも円滑にしている

■柔軟な雇用形態制度

2011(平成23)年に導入された「継続雇用者の働きやすい柔軟な雇用形態制度」により、継続雇用者はフルタイム勤務に加えて短時間勤務や隔日勤務も選択できる。継続雇用者の中には自治会などの地域活動や兼業農家の仕事、年齢から来る体力的負担等の事情から勤務時間軽減を望む場合があり、柔軟な雇用形態は高齢社員のニーズに合致し、彼らの意欲を高めている。なお、短時間勤務者では賃金が減少するが、時間給で見ると定年前より増額されている。

健康管理・安全衛生

■健康診断の充実

社員が会社の戦力であり続けるために、建設相互測地社は健康を重視している。全社員対象の人間ドックに頸動脈超音波診断を加え、動脈硬化の早期発見に努めているほか、40歳以上の社員には5年ごとに脳ドックを実施している。また、職場には血圧計を置き、社員はいつでも測定できる

■ドローン活用による負担軽減と安全確保

同社の社員は測量や川の流量測定のため現地に出向く。測量・測定機器を抱えて山奥の現場まで徒歩で進むこともあり、高齢社員には体力的負担が大きい。また、急斜面や崖下など危険な場所もある。そこで同社では早くからドローンを導入し、実用化に努めてきた。ドローンを操作すれば人間が危険な場所に足を踏み入れることなく画像や流量を測定し必要なデータが収集できる。効率的に作業が進み、体力負担軽減や安全確保につながっている。

■時間単位の有休取得

有給休暇取得率向上を目指し、同社では2014(平成26)年から時間単位での取得を認めている。

制度改定の効果と今後の課題

■復職制度の検討

建設相互測地社では過去、親の介護を理由に定年後の継続雇用を申し出ない者がいた。同社では雇用継続の観点から、今後同様の理由を申し出てくる者に対しては介護保険制度を活用しての雇用継続を促す考えである。なお、同社では病気を理由に退職した者が復職した例があり、現在は制度化していないものの、介護についても同様の対応を検討している。

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