社会福祉法人 紹隆会
-職務を3つに分類、強みが発揮できる仕事に高齢者を配置-
- 70歳以上まで働ける企業
- 戦力化の工夫
- コンテスト入賞企業

企業プロフィール
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創業1948(昭和23)年
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本社所在地香川県高松市
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業種幼保連携型認定こども園及び保育所運営
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事業所数
導入ポイント
- 若手や高齢の保育士が揃うことで園児が幅広い世代と触れ合える園の良さの維持と強化
- 高齢職員の体調や家庭環境に変化があっても職務や勤務形態を変えながら仕事が続けられるしくみや風土つくり
- 保育理念である仏教の教えや行事に詳しい高齢保育士から若手保育士への伝承の円滑化
- 高齢職員配置基準として職務を「高齢者にもできる」、「高齢者に向いている」、「高齢者にしかできない」に3分類
- 早朝から深夜までの長時間の開園時間帯を若手職員と高齢職員で分担、早朝と夜間は高齢職員が主に担当
- 園内清掃や保護者の送迎車両誘導は新規採用した高齢職員が担当
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従業員の状況従業員数 65人 / 平均年齢 53.7歳 / 60 歳以上の割合 60~64歳 (1.5%)、65歳~ (25.7%)
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定年制度定年年齢 65歳 / 役職定年 なし
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 定年後は、希望者全員を上限なしで継続雇用
同社における関連情報
沿革・理念
1948(昭和23)年に高松保育園、1989(昭和64)年に高松第二保育園を設立。2020(令和2)年に高松保育園から幼保連携型認定こども園「高松和貴こども園」へ移行した。園のテーマとして仏教語の「和顔愛語」を掲げている。

雇用制度改定の背景
Q.保育園とこども園を紹介して下さい。
高松市内中心部にある「高松第二保育園」、郊外にあり高松保育園から幼保連携型認定こども園に生まれ変わった「高松和貴こども園」のふたつがあります。1947(昭和22)年創立で77年の歴史があります。生後2ヶ月から小学校就学前の子どもたちを預かっています。お寺の経営する保育園で「和顔愛語」(わげんあいご、穏やかで温和な表情や言葉づかい)を理念としています。保育方針はニコニコ、ワクワク、テクテク、ハキハキです。仏教の行事や食事を取り入れて挨拶や言葉使いなどの礼儀、和式の生活を子どもたちに身につけてもらいます。園児が祖父母の家に行くと仏壇に手を合わせるのでビックリされるそうです。
Q.制度改定のきっかけは何でしたか。
保育士不足の解消が目的でした。働く女性が増え、本園に子どもを預けたいと入園希望者が増えました。また、保護者の要望に応えて1989(平成元)年から深夜保育を開始しました。現在は深夜1時まで預かっています。こども園や保育園には保育士の配置基準があります。運営のためには多くの保育士が必要です。ところが少子化で若手保育士の新規採用が難しくなっています。女性の多い職場ですので結婚や出産で退職したり、休暇を取得する者が多く、若手の代替要員確保が困難です。そこで本園で働いているベテランに長く働いてもらおうと考え、60歳から65歳への定年延長を決めました。
Q.どのように制度改正を進めていきましたか。
定年延長は社会保険労務士に相談しながら検討しました。いろいろなアドバイスをもらって制度設計しました。実施する前には経営者や管理職と職員の話し合いの場を設けました。社会保険労務士も同席し、保育士などから要望を聴きました。2013(平成25)年に65歳定年制(その後は上限年齢なく再雇用)になりました(図表参照)。この時に就業規則の内容が充実し、他園を定年退職したベテラン保育士の採用にも対応できるようになりました。
Q.高齢職員の強みを教えて下さい。
高齢職員は昔ながらのことや伝統行事をよく知っています。門徒さんと同じ食事を体験する「報恩講のおとき」は大根を炊き、汁物と酢の物の精進料理を4つの黒い食器で出しますが若手職員には作れません。七夕の笹に付ける飾りも付け方の順番があります。仏教の歌のなかには楽譜がなく、口伝えのものもあります。仏の教えや折り紙も高齢職員にはかないません。教室で高齢職員が若手職員に手本を見せ、研修では講師として教えています。
Q.制度改定後どのような効果がありましたか。
高齢保育士の指導で若手保育士の保護者への対応力が向上し、仏教行事や伝統ヘの理解が深まりました。高齢職員からは「園児たちがおじいさんやおばあさんのように慕ってくれるのがうれしい」、「自分が若返る、孫やひ孫世代の園児たちの世話が生きがい」、「自分の孫世代の若い職員といっしょに仕事をするのが新鮮」と喜ばれています。保護者からは「20 ~ 80歳代の幅広い世代の大人が園児たちの成長を見守ってくれるので安心」、「ベテラン保育士に相談して適切なアドバイスをもらえる」と好評で、厚い信頼が得られています。
人事管理制度の概要
■保育以外にも多様な職種
紹隆会の保育園やこども園では保護者相談対応、給食調理・運搬・配膳、園児送迎、設備保守点検、会計事務処理等さまざまな仕事があり、働く人々の職種は保育士、幼稚園教諭、栄養士、調理員、事務員、主幹、園長、看護師、保育助手、用務員と多彩である。年齢や経験の有無にかかわらずに高齢者が担当できる職務がある。
■経験者重視の採用
保育士の勤務経験者を即戦力として優先的に採用している。ベテランは就業意識も高い。他園勤務者だけではなく、本園勤務後に出産や育児で退職した保育士も同様である。定年延長の結果、他の保育園を定年退職した者の採用、孫育てが一段落した本園の元保育士の採用・復帰もある。
■賃金制度と評価制度
正規職員の賃金は基本給と諸手当(通勤、扶養、業務、処遇改善、超過勤務)からなる。地場水準より高く設定している。管理職の役職定年はない。定年後の継続雇用者(年齢上限なし)は準職員(保育補助、フリー職員)となり、契約した勤務時間数によって給与支給方式は月給、日給、時間給に分かれる。非正規職員にも賞与が支給される。正規職員の賃金は法人の掲げる方針や理念の実践度を評価して昇給が決定する。
高齢職員戦力化のための工夫
■職務を3種類に切り分け
高齢職員戦力化のため職務内容を精査し、「高齢者にもできる仕事」、「高齢者に向いている仕事」、「高齢者にしかできない仕事」に切り分け、それぞれの高齢者の強みが一番活きる職務に配置している。園で預かる3歳未満の子どもは、ミルクやおむつ交換時のきめ細かい配慮や子どもの気持ちを素早く読み取れる高齢職員が担当する。一方、3歳以上の子どもは、走り回るので保育士に体力が必要となり、若手職員が中心となる。夜間保育は寝ている子どもを見るので体力負担は軽いが、経験に裏付けられた注意力が必要なため高齢職員が適している。また、地元食材を使った伝統料理の調理は園に73年勤務している97歳の高齢職員が担当している。

■新しい職務の創出
保育士がさまざまな仕事に追われて本来の保育の仕事に専念できないことがあった。子どもの見守りや保護者対応に影響が出ないように、周辺業務を担う高齢職員を新たに採用した。早朝と夕方の園内清掃は卒園生の祖母が、子どもを送迎する保護者の車の交通整理は卒園生の祖父が新たに採用され担当している。誘導担当の高齢職員は前職が経理であったことから、月末繁忙期は経理事務も補佐する。
■高齢職員の要望に応える勤務形態
健康状態や家庭環境等、一人ひとりの高齢職員で状況が異なるため、毎年2回の面談で高齢職員から職務や配置に関する要望を聴いている。77歳の職員は夫の介護があるため週2回の勤務に変更した。仕事と介護が可能となっただけではなく、メリハリのある生活で仕事も介護も意欲的に取り組めている。
■高齢職員と若手職員で勤務時間をシェア
「高松第二保育園」は正規の保育時間である午前11時から午後10時に加えて延長保育や休日保育も行なっており、朝8時から深夜1時まで開園、週末も同様である。延長保育を行なう「高松和貴こども園」は夕方7時まで子どもを預かっている。子育て中の職員は深夜や週末の出勤が難しい。高齢職員は働く親に代わって平日に孫の世話をすることが多いが、週末や夜は孫の世話の必要がなく、出勤可能である。ライフスタイルに合わせた勤務形態を提供しながら、保育に手薄な空白時間を生まないように職員間で勤務時間を組み合わせている。その結果、開園時間の長い「高松第二保育園」の職員平均年齢は60.3歳と「高松和貴こども園」の47.1歳より高くなっている。

■情報の共有と技能伝承
朝夕のミーティング、主任会、月1回の職員会等の場で、現場で起こる諸問題の情報や解決策を共有する。高齢職員は同様の事例を過去に対処した時の経験や教訓を話し、そのアドバイスは経験の浅い若手職員にとって貴重な情報となる。職員間の意思疎通は子どもたちの健やかな成長や保護者との円滑な関係つくりにも不可欠なものとなっている。また、高齢職員が書いた文章や絵、写真や楽譜を整理して残すように努めており、若手職員が伝統を学ぶうえでの教材として役立てている。
健康管理・安全衛生・福利厚生
それぞれの高齢職員の体力や敏捷性を見極めて若手職員と組み合わせて配置している。高齢職員には重い物を持たせない風土があるほか、高齢職員の要望を聴き、エレベータの設置やトイレの改修、LED照明の設置を進めてきた。幼児の安全を第一に考えたフラットな床面と段差の小さい階段は高齢職員のつまずき防止など安全確保にもなっている。
今後の課題
紹隆会の保育園・こども園の保育士は20歳代がお兄さんとお姉さん、30 ~ 40歳代はお父さんとお母さん、50歳代以上はおじいさんとおばあさんとして子どもたちに接している。若手から高齢者まで揃う保育スタッフにより、子どもたちは幅広い世代とつながりができる。地域で長い歴史を持つことから、「自分が子どもの時にお世話になった」という保護者、「自分の子どもがお世話になった」という祖父母がおり、長い付き合いが園への信頼感を高めている。誰かの役に立っているという喜びが高齢職員の意欲を高め、いつまでも仕事を続ける背景となっている。今後も高齢者ならではの強みが発揮できる環境整備が課題となる。

出所:70歳雇用推進事例集2025