株式会社髙根運送
-安全対策と負担軽減を徹底し定年のないドライバーが活躍-
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 戦力化の工夫
- コンテスト入賞企業

企業プロフィール
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創業1957(昭和32)年
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本社所在地山梨県北杜市
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業種一般貨物自動車運送事業・第一種貨物利用運送事業
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事業所数
導入ポイント
- 就業規則を改正、定年なしを明記
- 安全教育徹底で事故防止、リアルタイムでドライバーの運転状況が把握できる通信型ドライブレコーダー装備
- ドライバーの負担感や要望に応じて担当車両(大型・中型)や配送範囲(遠距離・中短距離)を調整
- 会社の成長に貢献した高齢ドライバーにこれからも長く仕事を与えたいと考えた経営者の強い思い
- 会議や研修は必ずドライバー全員を集めて実施、風通しの良い職場風土つくりを徹底
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従業員の状況従業員数 41人 / 平均年齢 52.8歳 / 60 歳以上の割合 60~64歳(15.6%)、65歳~(17%)
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定年制度定年年齢 定め無し / 役職定年 なし
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70歳以上継続雇用制制度の有無 該当せず
同社における関連情報
沿革・理念
1957(昭和32)年に有限会社高根運送として法人設立。日帰りの定期便から長距離の配送等を担っている。経営理念として「お客様至上主義」を掲げている。

雇用制度改定の背景
Q.定年廃止のきっかけは何でしたか。
2008(平成20)年に定年制を廃止しました。それまでは65歳定年でした。少子高齢化で運送業のドライバー不足が深刻です。ベテランの高齢ドライバーは重要な戦力です。当社がここまで発展できたのも現在の高齢ドライバーの存在抜きに語れません。安全かつ健康に業務が遂行でき、働く意欲のある限りはその意思を尊重し、年齢による処遇変更や働ける上限年齢を定める必要はないと考え定年廃止を決断しました。
ドライバーは普段一人で仕事をしています。定年後に慣れない職場に転職して苦労するよりは、ドライバーとして仕事を続ける方が幸せではないかということも考えました。
Q.定年廃止以外の方法は考えましたか。
65歳定年の時は本人の希望があれば継続雇用していました。定年廃止のかわりに継続雇用で年数を延ばす方法もありましたが、これでは給料が保証されません。やはり正社員として処遇を良くして働いてもらうことが重要だと思います。従業員に余裕がないと事故も多くなるのではないでしょうか。
Q.定年廃止で課題となったことは何ですか。
高齢ドライバーが事故を起こさないように対策を徹底しました。高齢者の運転では注意力低下からバックした時にぶつける、車体をこするといった小さな事故が起きがちです。そこで安全運転教育を徹底しました。また、全車両に通信型ドライブレコーダーとデジタルタコグラフを装備して運転中に急加速や急発進、急ブレーキがあれば会社がリアルタイムで把握できるシステムを取り入れました。

Q.高齢者の優れている点を教えて下さい。
ベテランの高齢ドライバーは荷物の取り扱いやお客様への対応も配慮が行き届いているので評判が良く、「これからも○○さんに来て欲しい」とご指名がかかる場合があります。
また、同じ現場に当社のトラックが同時に数台出かけて荷物を積み込むことがありますが、高齢ドライバーは荷物を丁寧に取り扱う技術が高く、荷物を雨風から守るシートの掛け方、走行中の揺れで荷物が傷まないように隙間に挟むパッキンの置き方などのコツを若手に教えながら仕事をしてくれます。
Q.高齢者の実際の働き方を教えて下さい。
65歳のドライバーは週5日の勤務、中・長距離の配送にも対応しています。75歳のドライバーは大型車から中型車への車種変更を選びました。最高齢の77歳は短時間勤務の近距離を配送しています。自分のペースに合わせて勤務日数を選べることでいつまでも仕事を続けることが可能です。
Q.高齢者に対する配慮を教えて下さい。
高齢ドライバーには長く働いてもらいたいので仕事で無理はさせないようにしています。往復で6日かかる九州への長距離配送では片道だけ荷物を運ばせます。往復で荷物を積んだ方が収益は上がりますが、行きのスケジュールが乱れた場合は帰りの仕事に無理が出かねないからです。また、本人の体調不良や急用の時は躊躇なく連絡してもらいます。役員も含め代わりの者で荷物を運びます。
Q.定年廃止に対する従業員の反応は。
従業員からは定年廃止が喜ばれました。若手や中堅従業員からも歓迎されました。いつまでも働けて収入が得られることが評価されたと思います。
また、定年廃止を含む様々な取組が高年齢者活躍企業コンテスト理事長表彰特別賞の受賞という成果になったと思います。
人事管理制度の概要
■職種構成
同社のドライバーは30名、荷主の工場や倉庫で荷物の搬入搬出を行なう作業員が4名、事務職が4名である。営業は経営者が担当する。
■賃金制度
賃金体系は年功序列型ではなく年齢、勤続年数に関係なく同一労働同一賃金制である。
基本給は作業内容に応じた日給と歩合が日給月給で支給され、これは定年廃止後も変わらない。一方、諸手当は変更があり、定年廃止後は「エコ運転手当」と「安全手当」を創設した。前者は省エネ運転の実績に応じて、後者は無事故運転の実績に応じて支給される。エコ運転や安全運転の継続を促すための奨励金も支給している。高齢ドライバーは給与に占める手当の割合が高くなる。会社の業績に応じて特別賞与も支給される。なお、定年廃止を機に退職金制度は廃止され、退職金相当分は毎月の賃金に上乗せされている。
高齢従業員戦力化のための工夫
■負担を軽減してドライバー業務継続
同社の役員は取引先に赴いて高齢ドライバーの仕事の様子や評価も確認している。高齢者の仕事ぶりに変化が現われれば迅速に対応している。75歳のドライバーの場合は長距離運送の大型車から中短距離の中型車に変更して仕事量を減らし、負担を軽減している。
■高齢者向けの職域拡大
同社ではフォークリフト運転技能講習の費用を会社で負担している。ドライバーは荷物を運ぶだけではなく荷下ろしも担当することが多い。フォークリフトが運転できれば荷役作業は効率化し体力負担が軽減できるだけではなく、ドライバーの仕事が続けられなくなってもフォークリフトでの作業が可能になる。
■全員参加の会議で情報伝達、課題を解決
ドライバーは一人での仕事が多く、他の従業員とコミュニケーションを取る機会が少ないため、ベテランが中途採用者にアドバイスすることも難しかった。
従業員が一堂に集まれる大会議室がある事務所に移転したのを機に、月に数回の定期会議や年4回の講習は必ず全員を集めて開催している。当日はドライバーに運転の仕事をさせず、日当を払って招集する。講習では安全教育等をテーマに講師を招く。また、会長や社長から会社の方針を伝え、従業員の要望を聴いて全員で解決策を話し合う。
以前の制服は上着が白、ズボンが黄色であった。汚れが目立つという意見があり、全員出席の会議で話し合い、色を黒に変更した。また、顧客からドライバーの仕事ぶりを褒められた時は、会社からの感謝の気持ちも込めて皆の前で本人に知らせている。
健康管理・安全衛生・福利厚生
■健康経営の推進
社内に体温計、血圧計、体重計を置き、出社退社時の測定結果を各自の「健康管理表」に記録することで健康への関心を高めている。契約している生命保険会社の健康サポート支援を活用して「健康経営ワンポイントサービス」を給与明細に添えて配付している。
健康診断には脳ドックもメニューに含め、健診バスでは実施できない胃カメラ診断を希望する従業員には会社から病院での受診に変更している。再検査が必要になれば必ず行くように促し、健康状態が悪い場合は回復まで仕事量を抑える。
熱中症対策として夏場は3か月間、麦茶をドライバーに配布、寒さの厳しい冬期は蓄熱式ウォームマットを寝台に装着している。
これらの取り組みが評価され、経済産業省の「健康経営優良法人」、山梨県の「やまなし健康経営優良企業」に認定されている。
■待機時間に受講できる安全教育システム
同社は公益社団法人全日本トラック協会の「安全性優良事業所」(Gマーク)認定企業である。
2024(令和6)年からは安全意識向上のためドライバーを対象にクラウド型のeラーニングを開始した。1課題30分程度のプログラムを毎月1課題、年間12課題分用意し、ドライバーが待機時間中に事務所の専用パソコンで受講できる。動画を使った危険予測トレーニングも可能である。自習形式で学べるため、理解が難しい部分を繰り返し見ることで内容を習得できる。また、プログラム内で行なった小テストの結果を会社がデータとして活用できるため、受講後に本人へアドバイスできる。当初はパソコン操作に戸惑う高齢ドライバーもいたが、全従業員を集めた講習の場で若手が高齢者に操作方法を教え、現在は誰でも受講できるようになった。

■安全衛生標語の募集
全従業員から翌年の安全衛生標語を募集し、全員の投票審査で優秀作3編を決定、1年間社屋玄関に掲示している他、毎月の標語計12編も表彰し、給与明細に印字している。

今後の課題
少子化による労働力減少に加え、運送業は2024(令和6)年に残業時間規制が大幅に強化されたこともあり、ドライバー不足は今後も深刻である。そのため高齢ドライバーに対する期待は高い。
ドライバーの労働時間削減は健康増進と事故防止が期待される一方、収入減にもなりかねない。同社は経営力強化により業績向上と収益拡大を図り、その成果は高齢ドライバーを始めとする全従業員に還元し、すべての従業員が活躍できる職場環境つくりを推進している。
出所:70歳雇用推進事例集2025