弥生交通株式会社
-ドライバーの安全を第一に安心して勤務できる環境を実現-
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫
- コンテスト入賞企業

企業プロフィール
-
創業1961(昭和36)年
-
本社所在地東京都中野区
-
業種タクシー業
-
事業所数
導入ポイント
- ベテラン乗務員が安心して勤務できるよう雇用制度を改定(定年年齢の引き上げ、賃金制度、評価制度の見直し、多様な勤務形態・短時間勤務の導入)
- 加齢に伴う安全面を配慮し、定年後の雇用契約期間を上限年齢の区分ごとに短縮
- 賃金委員会を立ち上げ、業務評価を反映させた賃金、評価基準の体系を整備
- 接客接遇マニュアルの作成、指導教育
- タクシー車内設備のデジタル化
-
従業員の状況従業員数 98人 / 平均年齢 56歳 / 60 歳以上の割合 60~64歳(14.3%) 65歳~ (29.6%)
-
定年制度定年年齢 65歳 / 役職定年 なし
-
70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 定年後、基準該当者を年齢の上限なく継続雇用
同社における関連情報
沿革・理念
1961(昭和36)年にタクシー 15台、ハイヤー 5台で創業。1989(平成元)年にKmグループに加入。Kmグループのモットー「ホスピタリティ・ドライビングKm ~お客様の笑顔を、私たちの喜びとして」、弥生交通のモットー「安全安心運行」に沿って、様々なタクシーサービスを提供し事業を行っている。

雇用制度改定の背景
Q.きっかけは何でしたか。
タクシー業界は乗務員の高齢化が進んでおり、当社も従業員の平均年齢が60歳に近い状態でした。制度改定前までは心身的に問題がなければ実質的に年齢の上限なく再雇用をしておりましたが、制度自体は古く、問題意識を持っていました。やはり、高齢者の方々に長く働いてもらうなかで今の時代にあった雇用制度や賃金制度への改定が必要と感じ、2019(平成31)年4月に改定を行いました。
Q.改定のポイントはなんでしょうか。
一つは雇用契約期間です。今回の改定で70歳以降の雇用契約期間を1年から半年へ、75歳以降については3か月にしました。長く働いていただくことも大切ですが、安全面も大切です。年齢を重ねるごとに体力等の身体能力が低下することは避けられません。更新の際の話し合いをする機会を増やしました。
もう一つは賃金制度です。以前は累進歩合制を採用していましたが、過重労働の要因になると言われていたので改定しました。改定にあたっては、委員会を立ち上げ進めました。乗務員の方にも委員になっていただき、なるべく意見に沿う形にしました。最終的に全乗務員にご自身の賃金シミュレーションを提示し、納得いただいたうえで改定しました。
Q.改定で苦労したことは何でしたか。
改定には同業他社等へのヒアリングや素案の作成、社会保険労務士、弁護士との調整等、時間と労力がかなりかかりました。
Q.改定にあたっての反応は。
雇用制度を改定したことにより採用募集への応募が増えました。従業員からは「心身ともに良好であれば長く働くことができるので、より一層、健康に気を付けて頑張りたい」などの声がありました。
また、賃金制度改定について「仕事をする際のストレスやプレッシャーが軽減された」などの意見がありました。
人事管理制度の概要
■雇用制度改定に伴う人事管理制度の対応
今回の雇用制度の改定にあわせて、同社は乗務員の賃金制度と人事評価制度の見直しを進めた。なお、定年制度の見直しに伴い正社員となる60歳台前半の人事管理制度は60歳以前の制度が適用されている。
■正社員
乗務員の人事管理制度を確認する。まず雇用制度について、定年年齢は60歳から65歳に引き上げられた。
つぎに賃金制度について、基本給は「時間給×労働時間」によって決まり、時間給の単価は乗務員全員、同一金額である。昇給は実施していない。賞与は業績評価と業務評価の結果に対応した金額が支給される仕組みである(図表2参照)。手当については従前の精勤手当を廃止し、賞与評価に無事故、無欠勤等の評価を分類、未達成による手当不支給をなくした。これにより、モチベーションを低下させることなく仕事に取り組むことができるようになった(図表3参照)。
■継続雇用制度
乗務員の継続雇用制度は65歳の定年に到達した一定の基準を満たした者を対象とする再雇用制度と、70歳に到達した継続雇用者を対象とした勤務延長制度が設けられている。再雇用制度の契約期間は1年で、業務は定年前の業務を引き続き担当する。勤務形態、賃金制度、人事評価制度については定年前と同じ仕組みが適用される。勤務延長制度の契約期間は74歳までが6か月、75歳以降は3か月としている(図表1参照)。担当する業務は再雇用制度と同じ業務を引き続き担当する。勤務形態は74歳までフルタイム勤務を原則としているが、75歳以上は短時間勤務としている。賃金制度、人事評価制度は正社員と同じ制度が適用されるが、75歳以上は短時間勤務となるため、賃金水準は勤務時間に応じた水準となる。
高齢従業員戦力化のための工夫
■多様な勤務形態・短時間勤務の導入
乗務員の勤務形態は「隔日勤務」「昼日勤勤務」「夜日勤勤務」の3形態があり、これまで各形態の始業時刻・終業時刻は1種類のみであったが、各自の事情に合った時間で勤務できるように、始業時刻・終業時刻を複数(「隔日勤務」と「昼日勤勤務」は12種類、「夜日勤勤務」は8種類)設定した。また、定年後は本人の希望により短時間勤務(週20時間未満)に変更することも可能にしている。
■若手乗務員の相談役
高齢乗務員に若手乗務員の相談役を担ってもらい、これまで蓄積してきた経験やノウハウなどを伝えたり、サポートをしてもらうことで若手乗務員のレベルアップと離職防止につながっている。高齢乗務員にとっても新たな役割の付与によりモチベーションアップになっている。
■接客接遇マニュアルの作成、指導教育
タクシー業務の中でお客様とのコミュニケーションは最も大事で最も難しい業務であるため、同社は独自に作成した接客接遇マニュアルをもとに指導教育を実施している。この教育によって乗務員が質の高い接客を実施している。
■車内機器を車両タブレットに一元化
これまでは様々な機器の操作方法を覚えなければならなかったが、タブレット端末の導入により車内機器を一元化。タブレット画面一つで様々な操作が出来るようになったため、負担軽減につながった。

健康管理・安全衛生・福利厚生
■健康管理
同社は乗務員の点呼を毎日必ず対面と集団により実施し、体調の変化をチェックしている。健康診断は年に2回、全従業員に実施している。
■事故防止対策と認知症等の早期発見
同社は月2回行う全体補習教育で事故防止の徹底に取り組んでいる。ドライブレコーダーの映像や年齢別の交通事故要因の分析、実際の交通事故の解説など多彩なプログラムの教育を実施し、安全・安心への気づきを喚起している。
また、65歳以上の高齢乗務員を対象に、契約更新時に、産業医から運動機能と認知症に関する質問票の提供を受けて、健康状態を確認している。これにより自分では気づかないことも改めて考えるようになり、認知症等の早期発見につなげることができるようにしている。
今後の課題
健康リスクは高齢者ほど高くなる。病気が原因で事故につながる可能性もあり、事故を起こした本人だけでなくお客様や双方の家族に影響を与えてしまうことから、同社は健康管理と安全管理の徹底を今後の課題としている。

図表2.乗務員の定年制度改定に伴う人事処遇制度の比較
改定前 | 改定後 | |
---|---|---|
定年年齢 | 60歳 | 65歳 |
支払形態 | 日給月給制 | 変更なし |
昇給 | 実施せず | 変更なし |
賞与 | 年3回支給(営業収入によって変動) | 年3回支給(営業成績、勤務状況、善行、 違反等を総合的に評価して支給) |
人事評価 | 業績評価、乗務評価 | 変更なし |
勤務形態 | フルタイム勤務(「隔日勤務」「昼日勤勤務」 「夜日勤勤務」の3形態) ※始業時刻・終業時刻は各形態1種類 |
フルタイム勤務(「隔日勤務」「昼日勤勤務」 「夜日勤勤務」の3形態) ※始業時刻・終業時刻は隔日勤務」「昼日 勤勤務」は12種類、「夜日勤勤務は8種類」 |
退職金 | 支給しない | 変更なし |

出所:70歳雇用推進事例集2025