井上機工株式会社
-中途採用者を戦力として受け入れ、社内貢献を実現-
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫
- コンテスト入賞企業

企業プロフィール
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創業1966(昭和41)年
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本社所在地静岡県富士宮市
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業種空調用配管部品の製造
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事業所数
導入ポイント
- 一律だった時給制の嘱託社員の賃金を評価制度により決定するよう見直しを行った
- 再雇用後の働き方について、賃金形態(時給制、日給月給制等)、業務内容、役割について話し合いにより、柔軟に決定できるように改定した
- 働きやすさに直結する個々の希望に応じた柔軟な勤務形態
- 高い技術を持つ高齢社員を「アドバイザー」と呼び、後進の育成を任せるととともに手当を支給
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従業員の状況従業員数 189人 / 平均年齢 52.2歳 / 60 歳以上の割合 60~64歳 (4.8%)、 65歳~ (29.7%)
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定年制度定年年齢 60歳 / 役職定年 なし
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 希望者全員65歳まで再雇用、その後基準を設けて70歳まで継続雇用。以降も運用により一定条件で年齢上限なく継続雇用。
同社における関連情報
沿革・理念
熱交換器用パイプ加工事業からスタートし、現在は空調用配管部品の製造を主として行っている。「従業員に笑顔を!」をモットーに、「技術の井上」をさらに強くするため『一意専心』の精神でワンチームとなって行動し、高品質なものづくりを目指す。

雇用制度改定の背景
Q.65歳以上の社員が約3割を占めますが、経緯などはあったのでしょうか。
空調用配管部品の製造では、製品が形状変更するたびに治工具の製作が必要となりますが、その工作機械を使える技術者が減少。若手技術者の応募も少ないため、他社の定年退職者や早期退職した経験豊富な高齢者を戦力として中途採用することに発想を転換したことが一つの要因です。
Q.制度改定との関連はあるのでしょうか。
高年齢者雇用安定法の改正を受けて社会的に高齢者雇用について注目されていたこともあり、また、ノウハウを持った高齢者に長く活躍してほしいという想いもあって、2014(平成26)年に継続雇用規程を制定しました。60歳定年以降は希望者全員65歳まで嘱託社員として再雇用、65歳以降は基準を設け70歳まで有期フルタイマーあるいは有期パートタイマーとして勤務可能としております。70歳以降も運用により一定条件のもと上限年齢なく勤務可能とすることとしており、生涯現役の職場を実現しています。
Q.改定にあたって社員からの反応は。
定年を迎える半年前に面談を行い、継続雇用や時短勤務等働き方について希望を聴取しますが、これまで継続雇用を希望しない方はおらず、勤務時間についてもほとんどの方がフルタイムを希望しています。健康面でも金銭面でも家にいるより会社にいた方が良いから、身体が動く限り働き続けたいとの声が上がっています。
Q.制度改定後、どのような効果がありましたか。
70歳以降も就労可能な労働環境は、中途採用した高齢社員にとっても安心感があるようです。中途採用した高齢社員は、専門的な技術と知識、そして様々な経験を有しています。こうした高齢社員が持つノウハウを社内全体で共有し活かしていただくことで、高い技術や知識は勿論、安全と品質への意識も高まります。
さらに、社内で導入されている「改善提案制度」においても、70歳以上の高齢社員の提案が多く寄せられており、改善することにより生産性が大きく向上しています。
人事管理制度の概要
■賃金制度
社員の賃金形態は、基本給(日給月給制、賃金額は年齢・能力・役職・職務内容・成果に応じて決定される)、通勤費および家族手当で構成しており、勤続年数により昇給する。定年後65歳までは嘱託社員として継続雇用となるが、その賃金形態は日給月給制又は時間給制であり、賃金額は職務内容、経験、知識や技能、勤務成績、年齢等を考慮の上、決定され、昇給の可能性もある。
■採用
積極的に中途採用を行っており、地域で配布した求人のチラシに「高齢者活躍中」と記載したことで、定年後も働きたいと考えていた潜在的な求職者へのアプローチに成功。入社前の職場見学を実施することで、実際に活躍している高齢者を見て安心感を得られるうえ、自分の発揮できる能力を伝えやすくなるため、採用時のミスマッチの減少を実現した。採用後についても、本人の能力・希望等を鑑み、適材適所の人員配置を行うことで定着につながっている。
これらにより、高齢者が強みを発揮し、会社に貢献した事例として、製品生産に必要な治工具は汎用工作機械を扱える技術者の減少により、やむを得ず外注をしていたが、長年他社で金属加工に携わってきた高齢者を採用した結果、治工具の製作を内製化することができ、コストダウン、製作時間の短縮に成功している。
■評価制度
全社員を対象とした評価制度があり、正社員、嘱託社員、パートタイマー、アルバイトも含め年齢や社員区分に関係なく同様の評価をしている。
仲間意識や協調性についても点数で評価。具体的には、10項目の評価基準を設けて、それぞれ8点から12点までの点数を付けて合計点を算出。時給にも反映することがあり得るため、モチベーションの向上につながっている(図表参照)。
高齢従業員戦力化のための工夫
■多様な勤務形態
65歳以上の社員の勤務時間については、希望時間に応じ、短時間勤務の希望者同士のワークシェアリングや短時間勤務同士の単独ラインを作成し、多種勤務形態を実現。ワークシェアリングについては、3時間、半日、5時間、5. 5時間、6時間、7時間、7. 5時間勤務と様々な勤務体制がある。労働日数についても週3日、週4日等、多種多様な働き方を選択できる。その中で半日勤務の社員を午前と午後に分け1人としてカウントし仕事を組んで行っている。半日勤務以外の社員は正社員がフォローする等、希望に添った多様な勤務が可能。個々のライフスタイルを尊重し、会社を辞めざるを得ない状況を極力作らないようにする真摯な姿勢が、安定した労働力の確保につながった。
■ノウハウの継承
「後進の育成」を嘱託社員の主な業務内容として就業規則に定め、メンターとして活躍している。高い技術を持つ元管理者は「アドバイザー」の称号を与え、部下の育成に注力する役割を担っている。
また、技術の伝承として特殊技能等を要する業務は、高齢社員と若手社員、障害のある社員がペア就労によりスキルマップ表を用いて継承する仕組みである。
これまで感覚的に継承されてきた「職人の技」を数値化・データ化。電子機器の利用に長けた若手社員とともに優れた技術を後進にも継承すべく、マニュアルの作成・共有に成功。現在も継続中である。
他にも、20歳代の若手社員向けに月に一度開催する「プロセス会議」では、技術部長による技能伝承の勉強会が行われている。
■改善提案制度、表彰制度
生産性の向上、品質不良の防止、不良製品の流出防止等を目的とした改善提案制度を導入。優秀者は社長から表彰を受け、社内に掲示・共有され、社員のモチベーションの向上にも大きく寄与している。これらの「提案」は、知識と技術はもちろん日々の疑問点や生産性向上の発案も多く、経験豊富な70歳以上の高齢社員からのものが15%を占める。
また、改善提案制度による表彰のほか、品質・安全・環境に関する標語や永年勤続に対する表彰制度等の機会を設け、表彰状を授与している。
健康管理・安全衛生・福利厚生
■健康管理
高齢社員が多いため、入社時にアンケート方式等にて、持病や通院状況、かかりつけ医などに関するヒアリングを実施するとともに、健康診断の結果を基に再検査や健康維持の重要性を呼びかけている。普段から上長からの声掛けや社員同士のコミュニケーションにより、皆で体調を気遣うことが社内風土として浸透していることもあり、体調の異変を見つけ、帰宅を促す等、小まめに対応している。
■安全衛生
安全衛生委員会を毎月開催し、作業環境、安全、品質について話し合いが行われる。経験や知識のある高齢社員が力を発揮し、幅広い通路の確保、階段への手すり、滑り止めを設置し、機械との衝突や転倒を防止している。
作業環境改善を目的として加齢により立ち仕事が困難になった高齢社員、下肢障害のある社員については作業姿勢を見直し、座ったままで作業ができるように改善したうえ、作業時にキャスターが滑らないように、全てブレーキ付きのキャスターに変更した。
技術経験者が改善した検査装置は目視で行うため視力が低下した高齢社員は、不良品を見逃していた。そこで、技術社員が光と音で不良情報が社員に伝わるように改善。これにより、不良品の100%流出未然防止につながっている。

今後の課題
前職を定年退職し、仕事を引退していた高齢者を人手不足の時に採用したが、年数も経過し、健康面、精神面の一層のケアが必要になってくるため、産業医と連携し、心身ともに健康でいられるよう体制を強化していくことを課題と捉えている。

出所:70歳雇用推進事例集2025