社会福祉法人フェニックス
-高齢者は「介護助手」の仕事に移って無理なくいつまでも勤務-
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫
- 能力開発制度の改善
- コンテスト入賞企業

企業プロフィール
-
創業1988(昭和63)年
-
本社所在地岐阜県各務原市
-
業種トータルヘルスケア(医療、介護、障がい福祉、健 康サービス)
-
事業所数
導入ポイント
- 新しく制度化された「介護助手」に対する現場で働く職員の理解促進と具体的な役割分担の実施
- 「介護助手」に起用された高齢者が負担を感じることなく仕事を続けられる環境の整備
- 「介護助手制度」定着のため経営側から職員に意義を継続的に説明、研修を通じてダイバーシティを促進
- 高齢職員の負担軽減のため介護ロボットや介助補助機器を導入、誰もが理解しやすい業務マニュアルを整備
-
従業員の状況従業員数 208人 / 平均年齢 50.6歳 / 60 歳以上の割合 60~64歳(9.6%) 65歳~ (23.1%)
-
定年制度定年年齢 60歳 / 役職定年 なし
-
70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 定年後は、希望者全員70歳まで継続雇用、以降も基準該当者を年齢上限なく継続雇用
同社における関連情報
沿革・理念
1988(昭和63)年に有床診療所を開設。グループの理念「フェニックスウェイ」を掲げ、「スタッフおよびその家族は大切なファミリーであり、私たちの財産」であるとし、「スタッフの持てる力が充分発揮できるよう全力で応援・支援」することを表明している。

雇用制度改定の背景
Q.制度改定のきっかけはなんでしたか。
2007(平成19)年に特別養護老人ホームを開設しましたが職員の採用が困難でした。そこで誰もが長く働ける仕組みづくりに取り組んできました。雇用制度については、希望者全員の継続雇用上限年齢を65歳までとしていましたが、これ を70歳 に引き上げました。さらに、70歳 以 降 についても基準該当者については75歳まで継 続雇用することを就業規則で定めました〔2020(令和2)年〕(図表参照)。
Q.「介護助手制度」がユニークです。
2017(平成29)年に導入しました。体力も必要な介護の仕事が難しくなった高齢職員でも無理なくできる仕事をつくり、介護業務の機能分化と質の向上を目指しました。仕事は調理補助や配膳、掃除や洗濯など限定的で負担も軽くしています。介護助手が周辺の仕事をしてくれるので介護職員は利用者の身体介護に専念できます。勤務はフルタイムもパートタイムも可能です。高齢職員には「この仕事は一生できる」と伝えています。
Q.「介護助手制度」導入で工夫したことは。
高齢職員が介護助手として入る職場に、そもそも介護助手は何をする人なのかを理解してもらうところから始めました。介護助手のユニフォームも作りました。「何でこの仕事をやってもらえないのか」など、初めのうちは身体介護を担当する職員と介護助手の間で役割分担について戸惑いや混乱がありました。経営側が繰り返し説明するうちに職場全体で「受け入れていく」組織力が次第に定着しました。今も新人職員に制度の意義を説明しています。
Q.「介護助手」の公募も行ないましたね。
2018(平成30)年には「介護助手お仕事相談会」、2019(令和元)年には「介護助手・厨房スタッフ体験型企業見学会」を開催しました。ともに高齢者を対象に開催し、5人の介護助手と2人の厨房スタッフを採用しています。この取り組みのノウハウは、2019(令和元)年度の岐阜県「高齢者等介護助手新規参入促進事業」のマニュアルにまとめられ、広く活用されています。
Q.「介護助手」の高齢職員を紹介して下さい。
82歳の職員は仕事の日、朝5時半に起きてお弁当を作る時、気持ちがシャキッとするそうです。自分を待っていてくれる人がいるのでやりがいがあって仕事を続けられ、働くこと自体が健康の源と言います。人生の先輩である利用者には教わることが多く、自分で漬ける梅干しのことが利用者と共通する話題になるそうです。

Q.高齢者活用の背景に理念があると思います。
われわれは「世の中には一方的に支える人もいなければ、一方的に支えられる人もいない」、「誰もが役割を持ちながら互いに支えあっている」と考えています。そして「気がつけば入所者」、つまり利用者のお世話をしていたら、いつの間にか世話をされる側になるというのが理想ではないでしょうか。「スタッフよし、ご利用者よし、地域よし」の「三方よし」を経営方針として日々、取り組んでいます。
Q.職員の皆さんの受けとめ方はいかがですか。
近年はほとんどの職員が70歳程度まで就労を希望しています。職員からは「介護助手」が「介護」の次のキャリアとして前向きに認知されており、「年をとって介護の仕事ができなくなっても、次には介護助手があるので長く仕事を続けられるから安心」と好評です。最高齢82歳の職員は「この歳になってもできる仕事があるのはうれしい」と言ってくれます。
人事管理制度の概要
■人事制度
職種は医師、薬剤師、保健師、看護師、管理栄養士等、多岐にわたる。正規職員は9等級からなる職能等級のいずれかに格付けされる。1~3等級は一般職、4~9等級は管理職(初級、中級、上級)である。採用時は職務経験の有無に関係なく1等級からスタート、人事考課をもとに昇級する。
■人財育成
若手の職員を対象としてライフデザイン研修を実施し、子育てや親の介護、年金について情報を提供している。若いうちから自身のキャリア設計を真剣に考えてもらうきっかけを与えるだけではなく、中高年齢時の働き方を知ることで周囲の同僚を自分に置き換え、高齢者や外国人等の多様な人々への配慮や複眼的思考を身につけさせることを目的としている。受講者は「これからの働き方を考える機会になった」、「人生にはいろいろな役割があることを理解した」と感想を述べている。
■賃金制度と評価制度
基本給は1等級から9等級までの職能等級を基準とし、法人で働く多様な職種に応じて手当が支給される。年2回の人事考課では、所属長による一次評価と部門長による最終評価を行ない、評価結果は基本給と賞与に反映される。昇給は定年まで続く。継続雇用者の賃金は定年時の水準が維持され、この結果、定年後も働く高齢職員のモチベーションは維持されている。
高齢従業員戦力化のための工夫
■高齢職員をスーパーバイザーに任命
管理職を経験した高齢職員のなかから管理指導能力に優れた者がスーパーバイザーに任命される。介護業務に携わりながら後進リーダーの相談相手となって指導と教育にあたる。これまで17人が就任、処遇は年俸制となる。長年勤務し法人の歴史や現場での苦労を熟知した高齢のベテラン職員は指導役として適任であり、本人も新しい役割や任務にやりがいを感じているという。
■分かりやすい業務マニュアルの整備
高齢者だけではなく障害者や外国人も多く働いており、年齢や職種、経験の有無にかかわらず理解しやすい業務のマニュアルやルールを整備し、高齢のベテラン職員のアドバイスのもとで随時更新している。マニュアル化により業務手順の間違いが減少し、サービスの質が向上している。
■自動化・機械化設備の積極的導入
医療介護記録を音声入力化するなど設備投資を積極的に進めている。介護現場では介護ロボットやシャワー入浴装置、見守りセンサーの導入、周辺業務でも食器洗浄乾燥機導入により職員の体力負担軽減に努めている。なお、IT機器は高齢職員にとっても操作しやすいように改良を加えている。

■介護助手チーム内で勤務シフト調整
介護助手はチームを編成しており、チーム内で勤務シフトを調整している。従来は部門長が行なっていたシフト作成を代行し、部門長の負担を軽減している。
■フレックスタイムとテレワーク制度の導入
ケアマネージャーが在籍し、外部からの問い合わせに対応することの多い相談部門(所属12名のうち半数の6名が60歳以上)では、フレックスタイムやテレワークが選択可能となっており、通勤負担を軽減している。
■中高年齢からのキャリア支援
全ての職員を対象に「介護職員実務者研修」と「介護福祉士対策講座」を毎年実施。これまで中高年齢職員では16名が受講している。また、中高年齢職員のキャリア形成支援として、「ケアマネージャー受験対策講座」も毎年実施している。
■孫を預けられる託児サービス
働きやすい環境づくりとして子育て支援を強化し、2010(平成22)年に事業所内託児所を設置。若手職員は子どもを、高齢職員は孫を預けることが可能となり、多様な年齢層の職員の就労環境を向上させている。
健康管理・安全衛生・福利厚生
■健康相談とワーク・ライフ・バランスの推進
高齢職員を対象に定期的に健康相談員(法人所属の産業医、歯科医師、薬剤師、保健師、看護師、管理栄養士等)が面談する。その結果をもとに体力や健康状態に応じて働き方等を調整する。お盆や子どもの夏休みが重なる8月はワーク・ライフ・バランス推進月間として残業縮減や休暇制度活用を推進している。
■内部監査による職場環境チェック
さまざまな部署の職員がグループで月一回定期的に各部署を巡回、20項目からなる環境整備チェックシートを用い、誰もが働きやすい環境が整備されているか内部監査する。
今後の課題
フェニックスでは「Yes, we can!」(何でも言ってください。私たちも一緒にがんばります。)を経営理念に、長年ダイバーシティ型人財確保・育成・定着の仕組みづくりに取り組んできた。多様な人々が活躍できる環境整備に向けて今後も職場環境チェックを推進し、さらに働きやすい職場づくりの実現をめざしている。

出所:70歳雇用推進事例集2025