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ナガイ白衣工業株式会社

—後継者育成意欲がある高齢者は「年齢上限」なく再雇用—

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 戦力化の工夫

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  • 上限なしの継続雇用
  • 社内縫製技術検定制度
  • 多能工育成
  • 職場環境の工夫・配慮
ナガイ白衣工業株式会社のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1969年
  • 本社所在地
    秋田県大仙市
  • 業種
    繊維工業
  • 事業所数
    7か所

導入ポイント

  • 健康で技術力のある高齢者は協力社員として年齢上限なく再雇用
  • 多能工育成のために社内縫製技能検定を実施、高齢者が指導役
  • 従業員の状況
    従業員数 410名 / 平均年齢 46.6歳 / 60 歳以上の割合 25.6%
  • 定年制度
    定年年齢 60歳 / 役職定年 なし
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 基準該当者:上限なし (希望者全員:65歳)
2024年01月29日 現在

同社における関連情報

企業概要

ナガイ白衣工業株式会社は1969年創業、親会社で白衣業界のリーディングカンパニーであるナガイレーベン株式会社の子会社として製造・物流部門を担っている。自社の3工場、国内協力工場10社、海外協力工場5社(中国1社、ベトナム2社、インドネシア2社)で年間600万着を生産している。国内工場では200万着を生産している。

社員数は410名、内訳は正社員289名(男76名、女213名)、契約社員18名(男9名、女9名)、嘱託社員(60歳以上)55名(男11名、女44名)、協力社員(65歳以上)34名(男1名、女33名)、パートの臨時社員14名(女性)である。(2024年1月末現在)

秋田県の誘致企業として当地で設立されて以来、同社は周辺の豊富な労働力で業績を拡大してきた。進出当時は工場周辺に兼業農家が多く、農家の繁忙期と農閑期が同社の繁閑のタイミングと逆となるため求職者も多く、容易に労働力が確保できた。現状では協力工場(100名から10名規模)を含め人手不足が課題である。同社も新規採用に努めているものの、この数年は予定人数までなかなか届かないという。同社ではインターシップや工場見学の申込みについて、繁忙時期以外は基本的にすべて引き受け、会社に興味を持ってもらい、先々の人材確保に備えている。

一方、同社は海外拠点とも共存している。現在、全体の3分の2は海外で生産されており、日本生産品と遜色ない製品ができるようになった。グループ全体の利益を考えた場合、納期に余裕のある製品はコストが安い海外生産が主軸となって国内生産が圧縮される可能性もあり、納期短縮と技術力向上が国内工場の存続に欠かせない。そのためにも人材育成は喫緊の課題である。同社における白衣製造プロセスは以下のようである。

親会社のナガイレーベンから注文品のデータが送られてくる。そのデータをもとに生産が始まる。多品種少量生産が主流の現在、多種多様な製品のデータが送られてくる。医療用白衣は医療機関ごと、同じ医療機関でも職種ごとにデザインが異なる。一着から注文を受け付けており、いかなる注文にも迅速に対応・生産・出荷することが求められている。国内繊維メーカーから調達した布がエアーテーブルに数十枚まとめておかれ、これを延反、自動裁断機が裁断する。裁断された布は業界で初めて導入された高生産性のイートンシステムにより、襟や袖などのパーツごとに完全分業で縫製される。人為的作業時間を大幅に短縮したシステムであり、生産性向上とコスト削減に大きく貢献している。仕上げの後、全品を検査し出荷される。

人事管理制度

同社の社員平均年齢は46歳で、30代、40代が少ない。会社の業務の中心となっている縫製部門では当地に立地して54年ということもあり、30年から40年働いているベテランが多い。毎年の採用者は、新卒・中途含め10名~20名ほどである。グループ企業には海外拠点があり同社からの海外出張者が品質管理を行っている。現在、海外からの技術研修生はいない。

正社員時の賃金は勤続給の構成部分が中心である。管理職は50名ほどで、主任補、主任、係長代理、係長、課長代理、課長、次長、部長からなる。工場内では制服の色で管理職と一般職を区分している。

同社では日常から残業はほとんどなく、働きやすい職場となっている。労働時間は1日7時間40分、年間稼働日270日で年間休日は95日である。迅速な顧客対応を重視していたことから、従来は1日当たりの稼働時間を減らしても稼働日数を増やす選択をしていたが、人手不足への対応から応募者を増やすため、1日8時間、土曜日の休日を増やすことも検討している。

定年は60歳、その後、希望者全員65歳まで一年更新で継続雇用される。65歳以降は会社の基準に合った者を対象としているが、実際は本人が希望すれば雇用は続く。一部の者が定年退職後は家庭の事情で継続雇用を辞退するが、ほぼ全員が継続雇用である。定年3か月前に「御届書」を交付して定年後の意向確認をしている。なお、定年前の退職準備プログラムなどは行っていない。

65歳への定年延長は現在検討されていない。社員の意向も様々であり、定年を65歳にした場合は、退職金を受け取れる65歳まで働き続けなくてはならないことに抵抗のある者もいるようである。

同社では社員の技能向上と多能工育成のため、社内縫製技能検定制度を設けている。1種から3種まであり、1種はDCブランド品、2種がハウスブランド品、3種はヘルスケアー品と介護ウエアー、手術・患者ウェアーである。各種とも求められる技術や技能基準を「見える化」、明確化しているため、実際に若手を教育する高齢者にとっても指導しやすいものとなっている。実技試験と学科試験があり、合格者は一着すべてを作り上げられる技能レベルとなる。1種が一番難しい。合格すると資格認定され手当がつく。1種で月3千円である。検定合格者は現場でも高度な仕事につけるようになり、実際にその後昇進し現場を管理する立場の者が多い。この技能検定は若手にも高齢者にもメリットが大きい。若手は技術を習得でき、処遇も向上する。高いレベルの仕事ができることで仕事のやりがいにつながる。同様に高齢者も自分の持つ技術を教えることが仕事のやりがいとなって意欲向上に結び付いている。

継続雇用延長の背景

同社の業績は好調であるが、少子高齢化が進む秋田県では次世代を担う人材の獲得は難しくなっていく。現在働いている社員には長く勤めてもらう必要があり、それは高齢者に対しても同様である。また、海外工場とも共存していくためには人材育成が課題となり、その担い手としても高齢者の存在感が高まっている。定年延長については検討すべき課題も多く、すぐには実行できないものの、定年退職者に対する雇用機会提供は比較的容易である。そこで同社では継続雇用上限年齢引き上げから開始し、上述の課題解決に向けた取り組みとしている。

継続雇用延長の内容

同社の継続雇用者は65歳までは「嘱託社員」と呼ばれ、65歳を超えると「協力社員」となる。ともにフルタイムが基本である。パートタイムの選択はいまのところないが、今後、希望者が出て来れば検討の余地があるという。現在の最高年齢は73歳である。

製造に従事する高齢者の仕事は定年後ある程度軽減される。工場の管理職は原則として定年後は役職を離れる。その後、課長経験者は「参事」、次長経験者は「参与」と呼称が変わり、後任の指導を行う立場になる。一般職になっても戸惑いはないようである。縫製から物流へなど他部門への異動もない。なお、縫製や倉庫など部門によって終業時間が違う。

賃金は日給制、金額は個別に決定している。各部長や課長、工場長が個別に面談し条件を決定する。多くの者は定年前の5%ほど減となる。定年後も工場長を務める者は経験豊富で職務遂行能力も高く、定年後の賃金は以前とそれほど変わらない。

定年後の人事考課は行っていない。賞与は規程においては、支給しないとなっているが、年2回の支給実績がある。賃金低下による意欲低下が見られる者も若干見受けられるが、部長などが個別に面談し、やる気を促している。

継続雇用者を対象とした研修などは特段行っていないが、管理職に留まる者を対象にメンタルヘルス関連の外部講習など受講させている。

65歳以降も働く協力社員はフルタイム勤務であるが、健康状態も良く、働く意欲もそれまでと変わらない者が多く、人手不足のなか、会社にとって心強い存在である。協力社員の賃金は65歳以前と同額となる場合が多い。

なお、65歳を過ぎて退職する理由は介護が多いが、配偶者とのんびり暮らしたいと考える者、体調が理由の者など様々である。

高齢社員戦力化のための工夫

同社では高齢者が働きやすい職場環境つくりに取り組んでいる。視力が低下する高齢者もいるので天井やミシンの近くの照明を明るいものに改善している。

また、勤務時間中の途中外出を認めており、通院などに便宜を図っている。外出理由は問わない。個人ごとのカードをスキャンして記録し、抜けた時間の賃金は自動的に計算され差し引かれる。なお、健康診断の二次健診のための外出は賃金から差し引かない。

最新の縫製工場であるソーイングセンター2階の福利厚生室への階段は段差が小さく高齢者にも優しい設計である。
インフルエンザの予防接種は全額会社負担で全員が受けている。人手不足のため、罹患者の欠勤を減らすためである。

今後の課題と展望

同社で長年にわたって働いてきた一部の高齢者にも課題はある。これまでの作業分担や組織は作業工程を細分化して分業で効果を上げる仕組みであり、襟(難易度が高い)、ポケット、ファスナー付け、裾上げ、袖付け、脇入れ、端切れ縫い合わせ等の工程に特化して担当していた。今後の人材育成の方向は複数工程をこなせる多能工化である。若い人は多工程を抵抗なくこなせる一方、これまで単一工程で働いてきた一部の高齢者にとって多工程は馴染みが薄く、戸惑いも大きいようである。現在、ОJTを通して作業を覚えてもらえるよう会社として取り組んでいる。

図表 高齢社員の人事管理制度改定の概要

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