吉田染工株式会社
—設備改善や安全・健康対策が、高齢者が活躍する職場となる—
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 戦力化の工夫
- 70歳までの継続雇用
- 役職を継続
- 設備改善
- 技術革新

企業プロフィール
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創業1948年10月
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本社所在地和歌山県紀の川市
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業種繊維工業
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事業所数1か所
導入ポイント
- 希望者全員70歳の継続雇用制度
- 定年後も多くの社員が役職を継続し活躍
- 高齢化に伴う設備改善や安全・健康対策が、生産性向上に好影響
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従業員の状況従業員数 49名 / 平均年齢 49.2歳 / 60 歳以上の割合 24.5%
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定年制度定年年齢 60歳 / 役職定年 なし
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 希望者全員を70歳まで継続雇用
同社における関連情報
企業概要
吉田染工株式会社は1948年10月「ニット・織物・資材用糸の染色加工」として創業し、和歌山県において高い技術力と長い伝統を持った企業としてその名を馳せている。同社は技術の研鑚に努める土壌を大切にしてきた企業であり、同社の特色は卓越した染色技術を持つ。
1990年からは生産ラインの自動化に着手し、高品質、多品種、小ロット、短納期を実現している。また、出荷までの全工程を自社内で完結できる。特に同社の染色システム最大の特色が、1992年に実施したチーズ染色の無人化プラントの導入である。これは蓄積したノウハウと先端技術の融合であり、染色技術の科学化を図ると共に技術ポテンシャルを高めた。
「チーズ染色」とは、染色ボビンというものに糸を巻き返し染める際、その形状がチーズに似ているところからそう呼ばれている。同社は天然繊維から化学繊維まで全ての繊維を染めるノウハウを持ち、染色している糸の9割はポロシャツ、Tシャツ、インナー等向けなどの丸編み素材となる。
また、資材など他用途向けの染色にも取り組んでいる。現在はニット生地、ニット製品の開発・生産などにも取り組んでいる。
社員構成
同社の常用雇用労働者数は49名で、年齢別 の 内 訳 は 図 表1の と お り(2019年6月20日現在)。全社員に占める60歳以上の割合が30%近く、50歳代も16名おり、今後さらなる高齢化が見込まれる。現在の最高年齢者は77歳である。
新規採用の募集をしているが、近年は応募が少なく、中途採用も随時行っている。
年代 | 人数 |
---|---|
44歳以下 | 13名 |
45 ~ 49歳 | 8名 |
50 ~ 54歳 | 8名 |
55 ~ 59歳 | 8名 |
60 ~ 64歳 | 2名 |
65 ~ 69歳 | 7名 |
70歳以上 | 3名 |
合計 | 49名 |
継続雇用制度改定の背景
同社は60歳定年後、65歳まで希望者全員を再雇用する継続雇用制度となっていた。慣習として、さらに70歳程度まで再雇用していたが、2018年10月に継続雇用制度を「希望者全員70歳」に改定、明確に制度化した。
制度改定の背景としては、人手不足が挙げられる。若手の採用が難しい中、同社にとって高齢社員は業務上必要不可欠な存在である。65歳以上の社員は現在10名いるが、皆豊富な経験と知識を有する優秀な社員であり、彼ら(彼女ら)は重要な戦力である。また、技能・技術の伝承についても重要な課題のひとつであり、そのためにも、高齢社員には健康に留意したうえで、後進指導に当たってもらいたい気持ちがあった。
さらに経営者の考えとして、「定年後も健康であれば、働きたい者へ機会を提供し、共に歩んだ社員の生活基盤の安定に寄与したい」という想いがあった。こうした事情や考えを背景として、継続雇用年齢の引上げに踏み切った。
継続雇用制度改定の効果
高齢社員には、退職後の生活への不安や「元気なうちは働きたい」という意欲があり、制度改定によって不安を軽減し意欲に応えることができた。この効果は非常に大きく、豊富な知識・経験を有する高齢社員が高いモチベションで仕事をしていることが、会社全体の士気に好影響を与えているという。若手社員と高齢社員のコミュニケーションについても良好であり、大きな目的のひとつである「技能・技術の継承」についても、効果を発揮していると考えている。
また同社では、新人社員にまず高齢社員とマンツーマンで仕事をさせている。これは会社として高齢社員のノウハウ、指導力を信頼しているためである。共に仕事をする中で、新人社員は高齢社員の技術を学び経験を積み、独り立ちしていくのである。
人事管理制度
■働き方の変化
59歳までは全員が正社員であるが、60歳定年以降は継続雇用制度で1年更新の嘱託社員に移行する。
基本的にフルタイム勤務を継続し、仕事内容も定年前と変わらない。体力面などに不安のある場合は、短時間勤務にする等配慮しているが、実際にはフルタイムのまま勤務し続ける者がほとんどである。なお、役職者であった場合は定年後も継続する場合が多いが、一律ではなくケースバイケースで判断している。
■賃金の変化
給与形態について、定年前は月給制であるが、定年後は原則日給制に変わる。なお、定年後の賃金額は定年前と比較の比較で8割程度となる。
諸手当について、家族手当や住居手当といった生活関連手当の支給は定年後なくなるが、役職手当、ボイラー技士等の資格手当、通勤手当は支給している。
賞与支給は定年後にはないが、年2回、寸志程度の金一封を渡す慣行がある。現役社員には年1回の人事評価制度があるが、定年後の人事評価は行っていない。高齢社員の人数も増えているので今後は実施する考えである。
最後に退職金制度について、60歳定年時に一時金として支給している。積立てには中小企業退職金共済制度を利用している。
高齢社員戦力化のための工夫
■作業環境の改善
冒頭述べたように、同社は早い段階で工程の機械化・自動化に着手していた。それが高齢社員が働きやすい環境作りにも繋がっており、単なる作業負担軽減に止まらず様々な効果をあげている。
一例として、染料の計量ミス防止が挙げられる。計量に際しては0.1g単位で正確に計らなければならならず、間違いがあると別製品になってしまう。高齢社員に限らないが、記憶違いや、視力の低下によって計器を読み間違えるといったミスがたびたび発生していた。これを防止するため、量りにチェック機能をつけてパソコンに繋げ、分量の間違いがないかチェックする機能をつけたことにより、間違いを無くすことができた。
こうした取組を進めるに当たってのポイントとして、同社は「高齢社員は仕事ができるが、もの忘れや体力面の心配もあるので、それを補う設備を準備することが非常に重要である。このことが、生産性の向上にも大きく寄与すると考えている」としている。
■安全衛生・健康管理
安全面での配慮について、階段でつまずく怪我が多くなっているため、階段に黄色いテープを張り注意喚起している。
健康面では、健康診断は年1回だが、夜勤者など、より健康状態に注意が必要な就業体制の者については、年2回受診してもらっている。同社は、高齢社員は普段から健康への意識が非常に高いと感じている。
今後の課題と展望
同社は、少子高齢化による人手不足が進む中、今後の課題として若年者の採用と高齢社員のより効果的な活用を挙げている。前述のとおり、現在は定年後の社員に対する人事評価は実施していないが、高齢社員の人数が増えているため、今後は賃金との関連を含め取り組む方向である。
また、染色の自動化、機械化は進んでいるものの、まだまだ人間の感覚や経験が必要であることは間違いない。高齢社員には、若手社員への技能・技術の伝承を引き続き期待したいと考えている。
継続雇用制度 改定前 (~2018年9月) | 継続雇用制度 改定後 (2018年10月~) | |
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上限年齢 | 65歳 | 70歳 |
社員区分 | 嘱託社員 (正社員が60歳で定年後、 嘱託 社員となる) |
変更なし |
対象者 | 嘱託社員全員 | 変更なし |
契約期間 | 1年更新 | 変更なし |
役職 | 60歳までの役職を継続する場合が多い | 変更なし |
仕事内容 | 原則60歳までの業務を継続する | 原則60歳までの業務を継続する |
基本給 | 日給制 | 変更なし |
昇給 | 無し | 変更なし |
手当 | 役職手当、 資格手当、 通勤手当 | 変更なし |
賞与 | 無し (年2回、 金一封有り) | 変更なし |
人事評価 | 無し | 変更なし |
退職金 | 無し (60歳定年退職時に支給有り) | 変更なし |
労働時間 | フルタイム勤務 | 65歳以降は個別対応 (フルタイム勤務が多い) |
配置転換 | 原則なし | 変更なし |