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東京地下鉄株式会社

-ベテラン社員が安心して長く活躍できる仕組みを構築-

  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善

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  • 65歳定年制
  • 賃金制度の改訂
  • 選択定年
東京地下鉄株式会社のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    2004年
  • 本社所在地
    東京都台東区
  • 業種
    鉄道業
  • 事業所数
    グループ14社

導入ポイント

  • 従来の65歳継続雇用をやや上回るよう賃金カーブを見直し
  • 下位職が上位職の賃金を上回る年功主義型の賃金を改定し昇進意欲を喚起
  • 従業員の状況
    従業員数 約9,500名 / 平均年齢 37.4歳 / 60 歳以上の割合 (未入力)
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 無 / 期待する役割 同じ / 定年後の賃金体系 4割減少 / 戦力化の工夫 同じ
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 無 / 内容 該当せず
2018年04月01日 現在

同社における関連情報

企業概要

概要

東京地下鉄株式会社(東京都台東区)は1920年(大正9年)設立の東京地下鉄道株式会社を祖とし、2004年(平成16年)に民営化された。東京都区部を中心に9路線195.1キロ(全179駅)で地下鉄を運営している。うち7路線では他社と相互直通運転を実施、営業路線全体では539.4キロに及ぶ巨大な鉄道ネットワークである。1日の利用客は742万人、「東京圏の交通ネットワークのつなぎ役」という重要な役割を果たしている。
東京地下鉄の2017年度の営業利益は単体で891億円(グループ全体の連結で972億円)、経常利益は単体で814億円(連結で877億円)であり、近年は大幅な変動はない。新規路線が建設される予定は今のところないが、利便性向上や訪日観光客増加による利用者増加が見込まれる他、駅構内の商業施設による流通事業、車内や駅構内を利用した多様な広告媒体提供による広告・情報通信事業などグループ企業を通した展開、また、東南アジア各国の都市圏交通問題解決のための鉄道建設に関する技術的協力や支援などコンサルティング事業を多角的に事業展開しており、今後の成長の原動力としている。

従業員数と年齢構成、職種

東京地下鉄の従業員は約9,500人、平均年齢は37.4歳である。年齢別でみると20代から40代は各年次で300人前後、40代後半から50代前半は年次によって50人前後から150人前後と差が大きい。50代後半にも300人前後の年次がある。相対的に40代の中堅社員が少ないため次の世代である30代が育つまでの間、50代を中心としたベテラン層による技能伝承が必要となっている。
職種は総合職(事務系と技術系)とエキスパート職(運輸職種と技術職種)に分かれる。エキスパート職の中の運輸職種とは駅係員、車掌、運転士を、技術職種は車両、電気、土木、建築関係の業務に当たる社員を指し、エキスパート職は現場で業務にあたる。

人事管理制度

東京地下鉄の賃金は基準賃金(本給と都市手当)と基準外賃金(役職手当と教育手当他)からなる。
基準賃金のうち本給は職能給と基礎給(生活給)に分かれる。職能給の前提となる職能資格はAからIまでの9段階あり、一般職グループ(A、B、C)、指導職グループ(D、E)、監督職グループ(F、G、H)、管理職グループ(I)に分かれる。これまで職能給は年功主義的に運用され、下位職の賃金が上位職の賃金を上回ることもあった。一定の資格に留まる者でも半額昇給制度が適用されるため、実質的には青天井で昇給が続く。上位職に上がらなくとも賃金は年功的に上がっていくため、昇進昇格の意欲を阻害する恐れもあった。基礎給は生活給であるが、各年代における標準生計費に必ずしも合致していなかったため、その乖離が問題とされていた。
なお退職金については勤続ポイントと資格ポイントという2種類のポイントの累積で金額が計算される。勤続ポイントは勤続40年以上の社員にはポイントを付与しないが、新卒者も中途採用者も一定の水準に達するように設定されていた。また、資格ポイントは60歳の定年時まで付与されるようになっていた。
ちなみに東京地下鉄のこれまでの継続雇用制度は管理職と非管理職では異なる。管理職(指定職、補佐・現業長級)は定年後に特別嘱託として本体に残ってスタッフ職(給与は個別設定)を務めるか、グループ会社に再就職(給与は定年時の職位に応じて一律設定)するかのいずれかであり、後者がほとんどである。非管理職(主任・助役以下)は特別嘱託として本体に残るケースとグループ会社再就職がほぼ半々であり、どちらも賃金は一律に設定されていた。いずれの場合でも定年以降の賃金水準は4割程度減少していた。

採用状況

新卒採用は毎年300名前後、中途採用は毎年100名前後である。中途採用では運輸が約4分の3、技術が約4分の1程度の割合であるが、前述のように中堅の年齢層が相対的に少ないため、年齢層のギャップを埋めて技術・技能伝承を円滑にする効果が期待されている。

定年延長の背景

東京地下鉄は2018年4月から定年を60歳から65歳へ延長した。新制度導入により「労働力人口の減少を見据え、ベテラン社員の技術・技能を最大限引き出せる制度を整え、労働力を確保する」、「努力している社員に報いる制度を整え、社員一人ひとりの成長・挑戦をささえる」のふたつの効果を期待している。
前述のように東京地下鉄では若い社員が多い一方で40代の中堅社員の割合が相対的に低く、50代社員の役割は大きい。次世代が育つまでの間、50代社員には引き続き活躍してもらうことが会社の成長を支えるからである。
また、50代社員はもちろん、全社員が職務遂行能力を高めるためには常に上位の仕事を目指して頑張れる仕組みづくりが必要となる。そこでそのインセンティブになるような制度設計が求められたのである。

65歳定年制度の内容

制度の内容

東京地下鉄の新しい定年制度の内容は以下のとおりである。
・定年を60歳から65歳へ延長する
・管理職は主に61歳以降65歳まで東京地下鉄に在籍しながらグループ会社で就労
・非管理職は主に61歳以降65歳まで東京地下鉄に在籍して本体で就労
・60歳以降の働き方はフルタイム勤務のみ
・現行の継続雇用制度対象である60歳以上の者は今回の定年延長の対象としない
定年年齢引き上げについては2011年頃から労働組合との間で協議を進めていた。会社にとっては将来の労働力確保、労働組合にとっては組合員の生活保障が課題であったが、望ましい制度の設計とそれを実現させるための準備について長期にわたって検討していた。
なお今回の制度改定では65歳定年以降の継続雇用制度は計画されていない。

60 歳以上の社員に求める役割・職務内容

管理職の場合、多くの者は60歳以降にグループ企業へ出向してそれまでの経験を出向先企業で活かしてもらう。
非管理職の者はその多くが60歳以降も本体で就労し、それまでの仕事をその職場で行なう。

賃金・評価制度

定年延長では賃金設計を大きく見直した。見直しの方針は、①昇進意欲を喚起する仕組み、②標準世帯における標準生計費を目安とした賃金カーブ設定(基礎給の見直し)、である。
昇進意欲を高める賃金設計として職能給と役職手当を見直した。下位資格は上位資格の初号を超えないよう上限を設定し、下位資格者の金額が上位資格者のそれを上回ることがないようにした。役職手当も管理職と監督職では増額となっている。
賃金カーブの設定では「基礎給」のカーブを見直して標準世帯における標準生計費に近いカーブとした。具体的には18歳から35歳までは昇給ピッチを減額し、55歳以降は基礎給そのものを減額した。
この結果、従来の継続雇用時の処遇も含めた賃金カーブは60歳まで年功的に上昇した後に継続雇用を期に急激に下がるカーブから、50代前半まで上昇した後、後半から緩やかに下降し、その後60歳時点の水準が65歳まで続くものとなった。65歳までの生涯賃金で見れば、60歳定年後に65歳まで継続雇用された場合の水準をやや上回る。
退職金制度では計算の前提となる勤続ポイントと資格ポイントは65歳の退職時まで付与されるようになった。
評価制度は60歳以前と仕組みは変わらず、上司との面談で目標達成度を確認する。
65歳への定年延長が実施されるなか、現在60歳以上の者はそれまでの継続雇用制度の下で勤務しているが、彼らは定年延長の対象にはならず、東京地下鉄に正社員として復帰することはない。なお、これまで60歳定年以降の者を対象としていた継続雇用制度は廃止された。

今後の課題

新しい制度では職能給の各資格で金額に上限が定められ、下位資格者と上位資格者の金額の逆転がなくなった。昇給のためには上位資格に昇格しなければならないが、昇格出来ない者が滞留した場合、賃金が上昇しないことで士気が低下する恐れがある。会社としては、従業員一人ひとりが上位の仕事を目指そうとする風土づくりを進めている。
また現実に60歳以上の者が職場の各所で増加するが、安全が特に求められる公共交通機関において、体力や気力、五感の低下が実際に現れた高齢者が出た場合、それまでと同様に職務につけておけるのか、またそれまで担当していた業務の遂行が難しくなった場合の配置転換先の確保、それにともなう再教育が近い将来の課題となる。会社としては各部門でどういった働き方を用意する必要があるのかを見極めていく必要がある。

図表1 新制度における賃金カーブ(イメージ) 新制度における賃金カーブ(イメージ)
(出所)東京地下鉄株式会社の提供資料をもとに執筆者作成。
図表2 職能給改定のイメージ 職能給改定のイメージ
(出所)東京地下鉄株式会社の提供資料をもとに執筆者作成。

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