本文へ
背景色
文字サイズ

事例検索 CASE SEARCH

澁谷工業株式会社

-高齢期までの人材活用で企業競争力を強化-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫

下階層のタブがない場合、項目は表示されません

  • 70歳までの継続雇用
  • トップ主導で制度改正
  • 高齢者で競争力強化
  • 熟練技能の見える化
澁谷工業株式会社のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1931年
  • 本社所在地
    石川県金沢市
  • 業種
    生産用機械器具製造業
  • 事業所数
    国内8拠点、グループ企業15社

導入ポイント

  • 技術集約型企業に欠かせない、かつ簡単には育成できない技術者や技能者を長期間にわたって雇用し、自社の競争力を強化
  • 従業員の状況
    従業員数 約1,800名(グループ3,500名) / 平均年齢 39歳 / 60 歳以上の割合 3%
  • 定年制度
    定年年齢 60歳 / 役職定年 有 / 期待する役割 後継者育成・技術技能の伝承 / 定年後の賃金体系 60歳定年時の60%から100%の間で設定した額を支給 / 戦力化の工夫 健康管理
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 希望者全員を70歳まで継続雇用
2018年10月31日 現在

同社における関連情報

企業概要

澁谷工業(石川県金沢市)は、清涼飲料や清酒、シャンプーなどの液体を容器に充填するボトリングシステムの国内トップメーカーである。創業は1931年、清酒の酒米を蒸す工程で必要となる燃焼装置の部品を製作するなど醸造業を顧客とする企業として誕生した。その後、醸造業では清酒の製造工程を自動化するようになり、澁谷工業も1950年頃に醸造機械の事業を始め、以後自動化設備の製造が主力事業となっている。
現在では清酒や各種飲料に限らずカップ麺や納豆など多様な食品を包装する装置を製造するパッケージングプラント事業、切断加工システムや半導体製造システム、医療機器を製造するメカトロシステム事業、農産物の選果・選別システムなどを製造する農業設備事業へと事業分野は拡大している。また細胞培養・加工のための各種装置製造など再生医療ビジネスにも参入しており、時代ニーズをとらえてさまざまな方面に事業展開している技術志向の会社である。
澁谷工業の顧客企業は、多くが人手不足への対応として工場の省力化や自動化を進めている。そのためパッケージングプラント事業を始めとした各事業では受注が伸びており、売上高も好調に推移している。2018年6月期のグループ全体の売上高は981億円であったが、2019年6月期は1,000億円超を予想している。

ロボット細胞培養システム
ロボット細胞培養システム

従業員数と年齢構成、職種

従業員数は、澁谷工業単独では約1,800名、グループ全体で約3,500名である(臨時雇用者含む)。平均年齢は約39歳となっている。年齢構成で見ると30代が年齢層では一番多く、毎年20 ~ 30人が定年の60歳を迎えている。高齢化のピークが到来するのは10年後からと想定している。なお、理工系大卒・高専卒が7割を占めており、技術開発力の強化が指向されている。
澁谷工業で製造される多くの自動化設備は「一品料理」であり、受注して製作・納品するものには同じものはない。受注した設備を納入する工場の大きさやそこで生産される製品によって、設備のサイズや多品種製造などに対応しなければならないケースもある。また、食品関係や医薬関係の衛生基準が厳しい顧客が多いため、無菌状態を保つといった機械も必要となる。これら多様な要求に応える設備を設計・開発することが澁谷工業の競争力の源泉となるため、全社員の4割が設計・開発人員である。
また、澁谷工業では、機械を構成する各種部品の3割以上を自社で製造している。大規模な食品ラインの充填設備では大型の円形部品が必要となり、大型の金属工作機械で加工する。顧客の衛生基準に合致させるには機械部品をステンレスで製造する必要もあるが、ステンレス加工は鉄やアルミの加工以上の技術力(そしてそれができるベテランの存在)が要求され、大型工作機械を持ち、高度な加工ノウハウがある企業でなければ製造できず、実際には外注が難しい。そこで澁谷工業では自ら大型の工作機械を所有し、自社で内製している。従業員の約3割は製造・工作部門に所属しており、機械設備の製作や部品加工、客先での据付調整、メンテナンスなどの業務に従事している。
他の約3割が営業や管理部門所属である。

採用状況

澁谷工業の立地する北陸地方には全国的に有力な機械・電機メーカーが多く、採用活動には困難も伴う。毎年の新卒採用は約60名程度、また30代を中心に中途採用も行なっており、10名程度入社している。ちなみに後述の新制度によって70歳までの雇用が制度化されたことで、大手電機メーカーなどを定年退職したエンジニアが「住みやすい場所でこれからも働きたい」、「年をとってもやりがいが欲しい」と応募してくることもあるという。

主力製品のボトリングシステム
主力製品のボトリングシステム

継続雇用制度改定の背景

澁谷工業は1959年に60歳定年制を採用し、55歳定年が主流だった当時では画期的であった。
「よろこんで働く」を社訓(日訓)の第一に掲げている澁谷工業が70歳までの雇用を志向する新制度を創設した背景には、この先の業容拡大や開発力強化に向け、自社で開発や製造にあたる社員を長期的に有効活用したいという考えがあった。
設計でも製造でも高い技術力が求められる職場であるが、1970年代以降の事業多角化により各部門の専門領域での人材育成に注力したため、部門間の異動は少なくなった。技能習得には時間が掛かり、短期間で技術者は養成できない。会社では技術の標準化やマニュアル化を進めているが、設計や製造の現場では熟練者の「勘どころ」に頼る部分がまだまだ多い。例えば、機械組立ての現場では設備が発する異音を聞いて原因を特定し修復する力は、若手とベテランとの間で相当なギャップがある。
一方、設計や装置組立て担当の高齢期のエンジニアは、肉体的にはまだまだ仕事を続けることは可能であり、定年退職後も働き続けたいという希望が強かった。そこで澁谷工業は人事制度を改定し、70歳まで働ける仕組みである「At Will(アット・ウィル)システム」を創設した。
今回の制度改正では、トップダウンで社長の方針が示された。実際に制度化を進める中では「そこまでやって良いのか、本当に大丈夫か」という声もあった。現状の受注の大幅な伸びやそれに対応する中での人手不足を考えれば必要ではあるものの、この先の経営環境の不透明さや10年後の定年退職者・継続雇用者の大幅増加による人件費増加が会社に与える影響が懸念されたためである。しかしながら、制度改正で従業員の安心感や会社への信頼感が増し、能力発揮が向上すれば企業業績の向上にもおおいに資するとの結論に達し、制度改正が実現している。

創業者自筆の社訓
創業者自筆の社訓

継続雇用制度の内容

従来の継続雇用制度の内容

これまで澁谷工業では60歳定年後の措置として、管理職の一部に対しては65歳までの継続雇用制度、その他の従業員に対してはグループ内の派遣会社への転籍制度があった。毎年20 ~ 30人の定年退職者はいずれかの制度の対象となり、実際に多くの者が60歳以降も澁谷工業で就業機会を得ていた。
前者の継続雇用制度では、所得水準は6割に低下、ただし役職については65歳までその職に留まれることになっていた。ただし例外もあり、特殊技能者や有資格者は65歳を超えても役職に留まり再雇用されているなど制度運用にあいまいな部分もあったという。
グループ内の派遣会社転籍では、派遣社員として澁谷工業の業務を引続き行っていた。しかしながら会社が変わり書もなくなり、「澁谷工業の社員を名乗れないので肩身が狭い」など、転籍者の意欲に影響することがあった。
従来の継続雇用制度や派遣会社転籍にあったさまざまな課題を解消するために、全社員を対象に一元的なルールで運用される新制度が必要とされ、2017年7月から制度改定されたのが現在の「At Will(アット・ウィル)システム」である。

対象者

定年退職予定者に対して半年前に意向調査や上司との面談を行い、職場や職種に要望があるかなどを聞いている。その後会社側から定年後の継続雇用時に本人に期待する職務や処遇を提示し、本人が合意すれば継続雇用が決する。これまでも多くの者が継続雇用を希望したが、これからもほとんど多くの者が希望すると会社では想定している。お本制度では、希望者全員を継続雇用の対象としている。

60 歳以上の社員に求める役割・職務内容

定年後の高齢社員に会社が求めるのは、後継者育成や技術・技能の伝承である。若手や中堅に直接教えるだけでなく、高齢社員の持っている知識や技能を「見える化」するためにマニュアル整備に従事してもらいたいとする。前述のように顧客に納入する設備やシステムは多くの機械から成り立っており、組立や調整、試運転時の良否の状況判断には音や振動で判断するなどベテランの勘に大きく依存している現状があり、一刻も早いノウハウの「見える化」が求められているからである。

賃金・評価制度

新しい制度では、月給は60歳定年時の60パーセントから100パーセントの間で設定した額を支給、賞与は60歳定年時に設定した本給に一定の支給率を掛け計算、65歳以降の月給はその時点で改めて支給額を決めるというものである。旧制度と比較して給与の減額幅が小さくなり、定年後の年収は大幅に上昇した。継続雇用は1年更新であるが、特段の事情がなければ65歳まで月給額は維持する。
"また、従業員の職能を示す資格名称は、60歳定年時の肩書きを名乗れるようにしている。
(エンジニアは技師、技能者は工師など)"
年2回の評価では、本人の立てた目標の達成度を上司とともに確認し評価する。この評価が賞与に反映される。
旧制度同様、新制度でも原則としてそれまでの職場でのフルタイム勤務であり、所属によっては高齢社員も出張することがある。

制度を運用するうえでの工夫

前述のように、澁谷工業の「At Will(アット・ウィル)システム」は旧制度の反省に立って構築されたものであり、職種・役職を問わず公正に処遇しようというものであり、役職定年の順守などルールの徹底が図られている。澁谷工業は社員の健康管理に日々注力しており、59歳以下の正社員だけではなく継続雇用者にも徹底している。
また、機械加工工程など製造現場を持つ会社であり、日常から安全管理を進めているが、今後は高齢社員が増加する製造現場において、その特性に応じた職場環境の改善を進める予定である。

今後の課題

澁谷工業が新たに創設した70歳まで働ける制度は、現状はまだ始まったばかりで対象者は少なく、当面は毎年の定年到達者も少ない。しかしながら5年後には継続雇用者数が4倍となり、社員全体の1割を超える。また現状では60歳以の研修は制度化されておらず、定年後に活躍する社員の意欲向上策の構築も課題であり、会社として取り組むべきことは多い。
高齢社員に対してはしっかり働いてもらうための仕事の目標が必要となる。頑張りに報いるために実績を残す高齢社員に「マイスター」の様な称号を授与することも選択肢となる。一方で若年・中堅社員に対する配慮も欠かせない。こから高齢社員が増えても彼らのやる気を維持できる仕組みが必要となる。昇進スピードが今までより遅くなる、高齢社員がポストを占めて昇進できなくなるといった問題が生じないように配慮し、現在の若手・中堅社員が大きな仕事、達成感が高まる仕事を経験する機会を維持できなければ、会社の成長も阻害される。
右肩上がりで創業85周年を迎えた澁谷工業が100周年の時も高業績で成長を続けていくためにも、若年・中堅と高齢社員の間で業務やポストをどのように配分するかが重要な検討課題であり、人事部門では「これからが本番」と覚悟しつつ、環境変化に対応した制度改善も視野に高齢者雇用施策を進めている。

事例内容についてお役に立てましたか?

役に立った

関連情報
RECOMMENDED CASE