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広島電鉄株式会社

-定年延長、継続雇用延長、短時間正社員制度で人材を確保-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 賃金評価制度の改善

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  • 65歳定年
  • 70歳までの継続雇用
  • 職種別賃金制度
  • 短時間正社員制度
広島電鉄株式会社のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1912年
  • 本社所在地
    広島県広島市
  • 業種
    道路旅客運送業
  • 事業所数

導入ポイント

  • 2009年に、契約社員の正社員化、職種別賃金導入とともに、65歳定年制を導入
  • 2017年に、継続雇用制度を拡充して上限を70歳までとするとともに、対象職種を拡充
  • 従業員の状況
    従業員数 1,620名(正社員) / 平均年齢 48.2歳(正社員) / 60 歳以上の割合 14.8%(出向者を含む正社員)
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 有 / 期待する役割 後継者育成 / 定年後の賃金体系 月給制(60歳到達時本給の8割) 図表1参照。 / 戦力化の工夫 健康管理
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 基準該当者を70歳まで継続雇用
2023年09月30日 現在

同社における関連情報

企業概要

広島電鉄株式会社は、「広電(ひろでん)」の愛称で親しまれている、わが国最大の路面電車事業者である。同時に、中四国地方最大のバス事業者でもある。鉄軌道事業、バス事業、不動産事業を3本柱としており、輸送人員では鉄軌道事業がバス事業を上回っているものの、売上高では、鉄軌道事業6,854百万円、バス事業10,584百万円とバス事業が上回る(2019年度のデータ)。
社員数でも、鉄軌道事業620名(うち運転士246名、車掌111名)、バス事業985名(うち運転士845名)と、バス事業が鉄軌道事業を大きく上回る。鉄軌道事業とバス事業には多くの乗務員(運転士及び車掌)が必要であり、社員全体に占める乗務員の割合は、3分の2を超える。定着は比較的良いが、乗務員の採用には苦労している。バス運転士は中途採用が主力である。最も人数の多い年代層は40代後半から50代前半層である。業況が厳しかった時代に採用を抑えた影響もあり、40歳以下の社員は全体の3割程度である。

定年延長の背景

契約社員の正社員化

1994年の新交通システム開業の影響等により、同社ではバス事業の経営状況が大幅に悪化していた。2002年には乗合バス事業の規制緩和も控えており、コスト削減が急務であった。大手私鉄ではバス部門を分社化し改善を目指すところが多く、同社においても2000年にバス部門の分社化を労働組合に提案した。しかしながら議論の末、分社化はせず、さまざまな合理化策を労使で進めていくことで合意した。
2001年より、契約社員の乗務員(運転士、車掌)の採用を始めることとなった。契約社員は1年契約で賃金は一律固定給、無事故手当はあったが、家族手当などはなく、昇給や退職金もなかった。臨時給も、正社員の半分以下であった。労働組合は、採用を開始した当初から、契約社員の正社員化を要求していたが、2003年にバス事業が黒字に転じたのを受け、契約社員の中に新たに「正社員Ⅱ」という社員区分を設け、処遇改善を図った。
採用後3年経過した契約社員については雇用期間に定めのない「正社員Ⅱ」とすることとなったが、「正社員Ⅱ」となった社員からは、引き続き雇用不安や将来不安の声が上がっていた。正社員、正社員Ⅱ、契約社員という3種類の社員が存在することとなったが、乗務員に占める正社員Ⅱ及び契約社員の割合は増え続け、2009年には3分の1を上回る状態となった。運転士や車掌は、業務内容が明確であることから、仕事が同じなのに処遇が異なることへの不満もあった。
一方、正社員の賃金制度は、長年の運用でゆがみが生じ、高年齢・高勤続者に過度に偏重したものとなり、若手の正社員の賃金水準は低く抑えられていた。このため、若手の正社員運転士の中には、月例賃金が契約社員や正社員Ⅱより低い者が出るといった問題も生じた。
こうした状況を何とかするため、同社では、労使で話し合った末、正社員Ⅱ及び契約社員の正社員化を図り、賃金制度も見直すこととした。2009年10月、契約社員制度を廃止し、正社員に一本化することとなり、正社員Ⅱ及び契約社員合わせて318名が正社員となった。また、賃金制度を、年功的な制度から業務内容・役割に応じた職種別賃金制度とし、バス乗務系、電車乗務系、技術系など、職種別に賃金テーブルを作成した。リーマンショック直後で、非正規労働者の問題が社会問題となっていた時期に、同社はこのような改革を行ったのである。
職種別賃金導入の設計にあたっては、経験年数を一定程度加味する一方で、上の職責の者が下の職責の者よりも賃金額が少なくなることのないようにした。

賃金制度見直しと65歳定年

一方、高齢者雇用については、同社は、比較的早い段階から取組を進めてきた。電車やバスの運行には、資格を有する運転士が必要であることもあり、1991年には、定年退職した運転士を「シニア運転士」として65歳まで再雇用する制度を導入している。2006年からは、運転士に限らず、正社員全員を「シニア社員」として再雇用の対象とした。また、2001年からはシニア運転士・車掌の上限年齢を66歳に引き上げた。
シニア社員がなくてはならない存在になる中で、職種別賃金が導入されたが、これにより、50代社員の一部で基本給が減額となることや、年金支給時期引上げにより公的年金併給を前提としたシニア社員制度との乖離が生じていること、さらに、将来の労働力不足に備えて労働力を確保する必要があったことから、2010年1月、正社員の定年年齢を65歳に引き上げた。
新賃金制度導入によって賃金が下がる社員が100名ほどいたが、10年間の移行措置を設けたほかに、定年延長を実施したことにより、生涯年収は増えることとなった。退職金支給時期が60歳から65歳となるなど、処遇面への影響はあったが、労働組合が説明に協力してくれたこともあり、混乱などはなかった。

65歳定年制の内容

定年延長の対象は、正社員全員である。定年延長に伴って役職定年を設け、例えば運転士から運行管理者に昇職した社員も、60才以降は原則として再び運転業務に就く。60歳以降は、60歳到達時点の賃金の8割となるが、賞与も改善され、シニア社員に比べると年収は倍以上となった。
退職金制度も見直した。それまでは、最終の退職金基礎給と勤続年数によって支給額を算出していたが、職種に応じて差をつけるポイント制とし、早く上の役職になった者は退職金額が増えるようなしくみとした。また、65歳まで金額を積み増すこととした。

65歳以降の継続雇用制度と短時間正社員制度

同社では、従来から運転士と車掌を対象に65歳定年後66歳まで「シニア社員」として継続雇用する制度があったが、これを拡充し、2017年より上限年齢を70歳とし、技術職・事務職も対象とした。
また、従来、育児を理由とした場合に認めていた「短時間勤務制度」を大きく見直し、正社員であれば、職種、理由の如何を問わず、一定の要件を満たせば、短時間正社員として働けるようにした。

高齢社員活用のための工夫

雇用上限年齢の延長に伴い、これまで以上に健康管理に力を入れることとし、運転士については、35歳、40歳、45歳、50歳、55歳、60歳、65歳、67歳、69歳時に、人間ドックを行うほか、さらに、運転士には脳ドック、負荷心電図を行うこととした。また、65歳以上の運転士については、バスの場合は適齢診断(毎年)のほか、65歳時などに添乗調査を実施している。電車の場合は2年に一度、法定の適性検査のほか、運転適性度と安全運転度を把握するためにOD検査を実施している。また、注意力検査、シミュレーターを用いた危険予知訓練も行っている。

制度の利用状況

定年延長実施後に60歳となった者107名について、どのような働き方を選択したか調べたところ、98名が定年延長を選択している。その後、シニア社員となった者も含めて65歳以降も働くことを選択した者は45名である。また、19名は65歳で退職しており、34名が65歳前に退職している。
短時間正社員制度はまだ始まったばかりだが、制度開始からの利用者は22名である。うち60歳代の利用者は3名で、余暇の活用、本人の体力を理由として挙げている。

今後の課題

同社では、定年年齢を65歳に、継続雇用の上限年齢を70歳に延長しただけでなく、全正社員を対象に短時間正社員制度を導入した。どのような働き方、処遇がよいのか検討し、実行に移してきたところであるが、今後は、さらに現役世代も含めた制度の在り方を検討していく必要があるとみている。

図表1 65歳定年制の実施前後の比較
  旧制度 新制度(2010年1月~)
正社員の定年年齢 60歳 65歳(役職定年:60歳)
60歳以降の雇用形態 シニア社員(再雇用) 正社員
60歳以降の契約期間 1年 定めなし
60歳以降の職種 運転士、車掌、事務職、技術職 運転士、車掌、事務職、技術職
60歳以降の賃金
  • パート:時給制(運転士1,300円)
  • フル:月給制(運転士170,000円)
  • 奨励金:年400,000円
月給制(60歳到達時本給の8割)
臨時給は正社員と同月数(4.0月+α)
60歳以降の退職金 なし 60歳以降も積み上げ、65歳時に支給
その他 シニア社員の定年は原則65歳
本人の希望等により最長66歳まで
65歳到達後、シニア社員として最長66歳まで就業可
(2017年9月より最長70歳までに延長)

(出所)広島電鉄株式会社のヒアリング調査をもとに執筆者作成。

図表2 継続雇用延長導入前後の社員の人事管理制度導入前後の変化
シニア社員制度   延長前 延長後(2017年9月~)
上限年齢 66歳 70歳
対象者
  1. 65歳定年後、再雇用を希望する者
  2. 短時間勤務するために、定年前に退職した者
  1. 65歳定年後、再雇用を希望する者
区分等 シニア社員 シニア社員
契約期間 1年更新。特例の場合は6ケ月 6ケ月更新
職種 運転士・車掌 運転士・車掌・技術職・事務職
基本給 職種別の時給制 職種別の時給制
正社員初任給基準に引上げ

(出所)広島電鉄株式会社のヒアリング調査をもとに執筆者作成。

図表3 短時間正社員制度について
対象者
  1. 短時間正社員への転換を希望する正社員(いつでも転換可。理由は問わず)
  2. 短時間正社員として外部より採用される者

※従前は、育児短時間勤務(子が3歳まで)のみ(「短時間正社員」制度はなかった)。

職種 全職種(職種の変更はしない)。
期間・回数など 3ケ月以上(シフトを組み関係等から)。回数の制限はなし。
労働時間 社員の希望を踏まえ、1日又は週の労働時間を短縮する(制度上の縛りはないが、週20時間以上という目安あり)。
基本給 労働時間に応じて減額する。
臨時給 フルタイム正社員の8割としたうえで、労働時間に応じて減額する。
退職金 短時間期間中の積上額をフルタイム正社員の半額とする。

(出所)広島電鉄株式会社のヒアリング調査をもとに執筆者作成。

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