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社会福祉法人合掌苑

-実態に合わせ、就業規則を改定し定年制を廃止-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 戦力化の工夫
  • コンテスト入賞企業

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  • 定年制廃止
  • 再雇用者の正社員化
  • 限定正社員制度
  • 夜勤専門スタッフの配置
社会福祉法人合掌苑のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1960年
  • 本社所在地
    東京都町田市
  • 業種
    特別養護老人ホーム、通所介護、訪問介護、有料老人ホーム、障害者支援センター
  • 事業所数
    3事業部、20施設

導入ポイント

  • 65歳以降も社員が希望する限り、雇用していた実態に合わせて、就業規則を改定し、定年制を廃止
  • 定年制廃止に合わせ、柔軟な働き方を可能にするため、限定正社員制度を導入
  • 従業員の状況
    従業員数 549名 / 平均年齢 正社員:42.8歳、パート:55.9歳 / 60 歳以上の割合 33.5%
  • 定年制度
    定年年齢 定め無し / 役職定年 無 / 期待する役割 豊富な人生経験による若手の指導 / 定年後の賃金体系 60歳到達時の賃金水準のまま(70歳まで) / 戦力化の工夫 夜勤専門スタッフの配置
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 該当せず / 内容 該当せず
2020年10月31日 現在

同社における関連情報

企業概要

社会福祉法人合掌苑は、1960(昭和35)年に創業。その6年後の1966(昭和41)年に社会福祉法人に改組した。現在、同法人が立地する東京都町田市周辺に3カ所の事業部を設置。その下で特別老人ホーム(1ヶ所)、介護付き有料老人ホーム(1ヶ所)、居宅介護支援施設(3ヶ所)、訪問介護施設(3ヶ所)、通所介護施設(3ヶ所)等の施設を20 ヶ所運営している。
同法人の従業員数(2018年3月末現在)は570名で、その内訳は雇用形態別には正職員(以下「正社員」)230名、パート職員(以下「パート社員」)340名である。また、同法人は定年制廃止とともに限定正社員制度を導入しており、現在正社員230名のうち、44名が限定正社員である。また、年齢別構成は60代108名(うちパート社員87名)、70代以上55名(うちパート社員53名)であり、60歳以上の社員の比率は、28.6%である。70歳以上の正社員は2名で、ケアマネージャー、事務職として同法人で勤務している。
採用について、同法人は新卒採用を毎年10名程度行っており、その実績は2017年度は3名、2016年度は7名、2015年度は6名である。このほか中途採用を職種別(ケアマネージャー、看護師など)に実施している。中途採用の応募状況を年齢別にみると、定年後も働くことを希望する50代後半から60代前半の応募者が多い。70代や80代の応募もあり、本人が元気でやる気があれば、パート社員として採用することを同法人は考えている。

定年制廃止の背景

2017年3月までの同法人の定年制度は「60歳定年、65歳までの継続雇用(再雇用制度)」で就業規則に明記されていたが、実際には高齢社員が希望すれば65歳以降も継続雇用していた。こうした就業規則と実態の乖離と、65歳以降も同法人で働いている社員の不安定な雇用状況をそれぞれ是正する必要があったことが背景にあった。介護業界全体が人手不足状態のなか、高齢社員が安心して働き続けられる環境を整えることを目的に2017年に定年制、および継続雇用制度(再雇用制度「シニアスタッフ制度」)を廃止した。
また、定年制廃止に併せて、同法人はそれまでの準社員と嘱託社員の位置づけを見直し、より正社員に近づけるとともに、正社員の柔軟な働き方を可能にするために短時間、短日勤務が可能な限定正社員制度を導入した。限定正社員は週32時間以上の労働時間を条件にするとともに、週末の勤務が免除される。正社員は自身のライフスタイルに合わせて限定正社員に変更したり、その後正社員に再び戻ったりすることも可能である。先に紹介したように現在、44名が限定正社員を選択しており、その1割が高齢社員である。なお、パート社員には定年年齢を就業規則に設けておらず、実質的に定年なしの状態にある。

定年制の廃止について

対象者

対象者は定年制廃止以降に60歳に到達する正社員と、それまで嘱託社員として再雇用されていた60歳以上の継続雇用者である。


60歳以上の社員に求める役割・職務内容

高齢社員に求める役割について、同法人は資格を活かして体力が続く限り働いてもらうこと、そして、人生経験を若手社員にも伝えてもらうことをあげている。
役職定年については、制度としてはない。それは同法人では、管理職の役職は任命制(1年任期)を採用していることがその背景にある。人事評価をもとに毎年、役職の任命を行っており、手続き上、当該期間の人事評価で任命されていた役職が適任ではなくなった場合、次はその役職は任命されなくなることになる。
同法人の職制は、本部が「戦略推進本部長-マネジャー」、施設は「統括マネジャー-マネジャー-統括リーダー」である。

定年制廃止の効果

定年制廃止によって、50代を中心に経験者(ケアマネージャー、看護師等)の応募が増加した。

60歳以上の社員数

定年制廃止による60歳以上の正社員の実績は、60代が21名、70歳以上が2名で、その2名はケアマネージャーと事務職である。

人事管理制度

60歳以上の社員の人事管理(定年制廃止前)

図表1は60歳以上の正社員の人事管理制度の定年制廃止前と廃止後の変化を整理したものである。同法人の定年制廃止前の人事管理制度は継続雇用制度(再雇用制度)であり、高齢社員の区分は嘱託社員であった。継続雇用の上限は65歳までで1年ごとの更新が就業規則では定められていたが、先に述べたように実態として65歳以降も高齢社員が希望する限り継続雇用を続けていた。
賃金水準は60歳到達時の水準が適用されていたが、昇給は行われず60歳到達時の賃金水準が継続されていた。賞与については、決め方は正社員と同じ「基本給×支給係数(月数)」であるが、支給係数が正社員は人事評価結果によって決められるのに対し、再雇用社員は人事評価が行われないため、支給額は固定されていた。手当は正社員に支給された家族手当、住宅手当が不支給となる。その理由を同法人は一般に家族手当は子育てが、住宅手当は住宅ローンの返済が終わっていることを同法人はあげている。福利厚生は正社員と同じものが適用されていた。
仕事内容は定年前の仕事を継続し、役職者は継続雇用を機に役職を降りずそのまま継続するが、正社員と同じ扱い(任命制)となる。配置転換は行わない。労働時間は正社員と同じフルタイム勤務となるが、短時間・短日勤務を希望する場合、パート社員待遇となる。

60歳以上の社員の人事管理(定年制廃止後)

定年制廃止後について、継続雇用時の人事管理制度の変化を確認する。まず区分は再雇用制度の下で嘱託社員であった高齢社員は正社員となるものの、それ以外の人事管理制度は継続雇用時のそれが原則、適用される。例えば、賃金水準は継続雇用時と同じ60歳到達時の水準が正社員変更後も適用され、定年延長後も変わらない。なお、60歳時の賃金水準は70歳まで維持することとしている。その理由について、現場の高齢社員は70歳まで正社員(あるいは限定正社員)として働き続けるのは肉体的に厳しく、途中でパート社員に変更しているのが現状であることを挙げている。しかし、正社員として働き続けることができる人事管理制度等の環境を整えることを同法人は重視している。
しかし、10年が経過し、社員の年齢構成も変化した。40代後半から50代がボリュームゾーンとなり、管理職への昇格年齢も高くなってきた。中高年社員から大いに評価された65歳定年も、今や社員にとって「当たり前」となっていることもあり、同社では、見直しが必要ではないかとみているようである。
この他、継続雇用時に行われない人事評価が実施するようになった。配置転換については、正社員と同じ扱いになるので、施設間の異動は行われるが実際にはあまり行われていない。正社員の中には慣れた施設で働きたいという社員が多いことがその理由である。

正社員の人事管理

正社員の人事管理制度について、一般社員の賃金制度を確認すると、基本給(同法人では「本俸」と呼称)は職種別賃金の職責給と勤続給の2つからなり、人事評価結果によって職責給の昇給が決められる。賞与の決め方は「基本給×支給係数(月数)」で、支給係数は業績をもとに決められる。人事評価は仕事ぶりと態度からなる「職能評価」が行われている。
配置転換について、制度上は施設間の配置転換を実施することにしているが、介護事業は利用者との関係が重要視されるので、実際はあまり実施していない。また、限定正社員の配置転換は実施していない。このほか、退職金は支給していない。

制度を運用するうえでの工夫

夜勤の専門スタッフの採用

こうした定年制の廃止をはじめ高齢社員の人事管理の運用に関連する同法人の取り組みに、「夜勤専門スタッフの配置」「安全管理と健康管理」「キャリア支援」がある。まず夜勤専門スタッフの配置について、労働時間を短縮しつつ、高齢社員が長く勤められることを目的に夜勤専門の夜勤専従スタッフを採用し日勤と夜勤を分けた勤務体制にしている。
まず夜勤専門スタッフの配置について、労働時間を短縮しつつ、高齢社員が長く勤められることを目的に夜勤専門の夜勤専従スタッフを採用し日勤と夜勤を分けた勤務体制にしている。

安全管理と健康管理

同法人は、労働災害の防止及び社員の健康の維持・増進を図ることを目的として、安全衛生に関する方針を定めている。環境チームを中心とした「5S活動」を通じて、社員が職場内における労働安全衛生上の課題と改善策を出し合い、日々安全な職場環境作りを進めている。
健康管理について、全社員に健康診断を実施しているほか、40歳未満の社員についても希望者に対しては法定外の血液検査を実施している。また介護業務でみられる腰痛対策として体操を行うほか、中腰姿勢の維持や重量物の持ち上げによる身体への疲労と負担を軽減させ腰痛等の疾病リスクを予防するスマートスーツを購入している。

キャリア支援

キャリア支援について、同法人では介護支援専門員、介護福祉士、介護職員初任者研修に対する受験日の職務免除、受験費用の補助などの資格取得支援、そして介護福祉士、介護職員初任者研修等の資格取得への一時金支給を、高齢社員にも実施している。

今後の課題

60歳以降も正社員として働き続けていくために、肉体的負担の大きい介護現場の仕事内容を見直していくことを同法人は挙げている。

図表1 60歳以上の正社員の人事管理制度の変化 60歳以上の正社員の人事管理制度の変化
(出所)社会福祉法人合掌苑のヒアリング調査をもとに執筆者作成。

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