川之江港湾運送株式会社
-65歳定年制実施に併せて、継続雇用の上限年齢を70歳に-
- 70歳以上まで働ける企業
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫
- 65歳定年制
- 70歳までの継続雇用

企業プロフィール
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創業1887年
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本社所在地愛媛県四国中央市
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業種道路貨物運送業
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事業所数3拠点
導入ポイント
- 65歳定年制実施に併せて、継続雇用の上限年齢を70歳に引上げ
- 日常的な安全衛生活動を通して、高齢社員も働きやすい環境づくりを展開
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従業員の状況従業員数 156名 / 平均年齢 47.0歳 / 60 歳以上の割合 20.5%
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定年制度定年年齢 65歳 / 役職定年 無 / 期待する役割 経験やノウハウの承継 / 定年後の賃金体系 59歳以下の正社員と同額(図表1参照) / 戦力化の工夫 日常的な安全衛生活動
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 希望者全員を70歳まで継続雇用
同社における関連情報
企業概要
川之江港湾運送株式会社は、地元製紙産業のニーズを受けて1887(明治20)年6月に創業した総合的な港湾運送事業を行う企業である。1949年12月に株式会社に改組し、現在に至る。同社の主力事業は海運事業、倉庫事業、陸送事業、国際物流事業、内航船舶事業の5分野で、国内に阪神(神戸)、東京の2拠点、海外のカンボジアに子会社の1拠点の事業所を運営している。
同社の従業員数は151名(平成30年4月現在、役員を含む)で、雇用形態別には正社員107名(再雇用者1名を含む)、有期契約社員(パート・アルバイト)44名である。平均年齢は43.2歳(2018年8月2日時点)で、年齢別構成は60歳以上が30名(役員3名のほか、正社員3名、再雇用者1名、有期契約社員26名)で、70歳以上はいない。
過去3年間の採用状況は2018年3名、2017年3名、2016年2名である。同社は3年前から3名程度の新卒採用に注力。それまでは中途採用が主であった。
65歳定年制実施の背景
2017年5月までの同社の定年制度は「60歳定年、65歳までの継続雇用(再雇用制度)」であった。65歳以降も引き続き働くことを希望する場合、パート・アルバイトの雇用契約に切り替わった。
現場の人員確保(定年退職者の離職抑制、50代の中途採用者対応)と早期導入による他社との差別化を背景に、年金受給開始年齢が引き上げるなかで社員が安心して、引き続き戦力としてこれまでの経験を活かして働いてもらうことを目指して創業130周年の一環として2017年6月に65歳定年制を実施し、併せて継続雇用の嘱託社員として雇用契約の上限年齢を70歳まで引き上げ、これまでの65歳以降のパート・アルバイトの雇用契約を廃止した。(中途採用者はアルバイト)
65歳定年制実施について
対象者
対象者は65歳定年制実施以降に60歳に到達する従業員と、それまで嘱託社員として再雇用されていた高齢社員である。
60歳以上の社員に求める役割・職務内容
高齢社員に求める役割について、現場には65歳まではこれまで通り戦力として働いてもらい、65歳以降の再雇用者に切り替わってからは、経験やノウハウを次世代に承継することを期待している。中途採用者をベテラン社員とペアを組ませて、仕事の進め方などの指導を担当させている。
同社は役職定年制を実施していないため、役職者は60歳以降も引き続き役職者としての責務を努めてもらうことにしている。なお、同社の基本的な職制は、「班長-主任-係長-課長代理-課長-次長-部長代理-部長」の8ランクである。
65歳定年制実施の効果
同社の立地する地域において、同業他社に先駆けて65歳定年制を実施したことにより、50代の中途採用希望者の増加、60歳以上の従業員のモチベーションの向上がみられた。

65歳定年制実施後の雇用
65歳定年制実施による60歳以上の正社員の実績2名で、そのうち再雇用者から正社員に切り替わった社員は1名である。
人事管理制度
60歳以上の社員の人事管理(65歳定年制実施前)
図表1は60歳以上の高齢社員の人事管理制度を65歳定年制実施前と実施後の変化を整理したものである。同社の65歳定年制実施前の人事管理制度は継続雇用制度(再雇用制度)であり、高齢社員の身分は再雇用者(嘱託社員)であった。
継続雇用の上限は65歳までで1年ごとの契約更新が行われ、65歳以降も継続雇用を希望する場合はパート・アルバイトの雇用契約に切り替わった。
賃金制度について、基本給は定年到達時の賃金水準の一定率を減額した金額が支給された。なお、昇給は人事評価が行われなかったため実施されなかった。賞与は支給無。
定年直前の仕事を継続雇用後も継続して担当し、59歳以下の正社員と同じフルタイム勤務でその仕事に従事していた、継続雇用終了時の一時金等の退職功労金は支給されなかった。
60歳以上の社員の人事管理(65歳定年制実施後)
65歳定年制実施後については、継続雇用時の人事管理制度との変化を確認する。
まず再雇用制度の下で嘱託社員であった高齢社員の身分は正社員となり、賃金などの処遇制度、評価制度は59歳以下の正社員と同じ扱いになるものの、昇給は継続雇用時と同じように行われず、60歳到達時の水準が65歳まで継続される。福利厚生については59歳以下の正社員と同じ扱いになる。
仕事内容は60歳以降もそれまでの仕事を引き続き担当し、役職者は60歳以降も役職を継続する。配置転換は59歳以下の正社員と同じように業務上の必要性に応じて行われる。
退職金の支給はこれまでの定年到達年齢60歳から65歳に変更された。
59歳以下の正社員の人事管理
59歳以下の正社員の人事管理制度について、まず賃金制度を確認すると、賃金体系は基本給と役付手当からなる。基本給は初任給に定期昇給を積み上げる方式がとられ、人事評価によって昇給額が決められる。役付手当は役職別定額給で役職ランクに応じた金額が支給される。賞与は夏季賞与、冬季賞与、決算賞与(4月)の年3回支給される。夏季と冬季の賞与は「基本給×月数」によって決める金額が支給される。決算賞与は業績が好調の時に支給される。今期(68期)初めて支給された。
人事評価は行動評価が年2回行われ、評価結果は昇給、賞与、昇進等に活用される。
労働時間はフルタイム勤務で、本社と阪神・東京の営業所では始終業時間が異なる。
配置転換は事業拠点間で実施されているが、阪神と東京の事業所の拠点機能は事務・営業なので、事務と営業部門で行われる。一方、現業部門は本社だけなので配置転換は実質的に行われない。
制度を運用するうえでの工夫
日常的な安全衛生活動
同社は65歳定年実施に関連する取り組みを実施していない。普段から安全衛生活動を行っていることがその理由である。港湾運送業務の特性上、事故・災害の未然防止が不可欠であり、安全衛生活動が日常的に取り組まれている。例えば、ヒアリハットを含めた事故・災害の未然防止として、災害対策案を毎月募集し、採用された案を考えた社員に報奨金の支給等である。こうした取り組みを通して、従業員に普段からの安全衛生への意識づけや啓蒙を同社は進めている。
今後の課題
今後の課題として、同社は70歳以降の雇用管理を挙げている。先に紹介したように、今回の65歳定年制実施に併せて、再雇用制度の継続雇用の上限年齢を70歳まで引き上げた。70歳以降の雇用について、同社はパート・アルバイトでの雇用を考えている。その際には加齢に伴う健康問題への配慮がこれまで以上に必要となる。とくに現場の港湾・運送作業は肉体的負荷が大きいので健康に配慮しつつ、70歳以降も雇用管理のあり方を検討していくことを今後の課題としている。
