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本田技研工業株式会社

-労働条件全体を見直す中で、2017年4月に65歳に定年を引上げ-

  • 人事管理制度の改善
  • 賃金評価制度の改善
  • 能力開発制度の改善

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  • 人事制度の総合的改定
  • 高齢社員のモチベーション向上
  • 選択定年制
本田技研工業株式会社 のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1948年
  • 本社所在地
    東京都港区
  • 業種
    輸送用機械器具製造業
  • 事業所数

導入ポイント

  • 将来のホンダのため、労働条件全体を大きく見直す中で、定年を65歳に引上げ。
  • 各種手当を働き方に合ったメリハリのあるものとすることにより、総人件費の増加を抑制。
  • 従業員の状況
    従業員数 21,593名 / 平均年齢 44.9歳 / 60 歳以上の割合 (未入力)
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 有 / 期待する役割 現役プレーヤー / 定年後の賃金体系 約8割 / 戦力化の工夫 役職者節目研修
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 無 / 内容 該当せず
2017年04月01日 現在

同社における関連情報

企業概要

本田技研工業は、二輪車、四輪車等を製造する世界的な自動車メーカーである。
同社の人事制度の対象となるのは、本田技研工業のほか、一部グループ会社に勤務する、正社員約44,000名である。職種構成をみると、大まかに、営業・研究開発・管理部門等 約20,000名、生産部門 約20,000名となっている。60歳到達者は、年間約1,000名おり、うち管理職は約200名である。
採用者数をみると近年、新規大卒は年400~560名、中途採用は年180~280名で推移している。電動化・自動運転などに対応するため、技術者の採用を拡大しているところであり、定年引上げのために抑制することは予定していない。
同社では、1992年に、役職者に対し、成果型の年俸制を導入している。その10年後の2002年には、一般社員の賃金・評価制度を見直し、専門性の高さをもとに、「能力開発ステージ」(概ね30歳まで)と「能力発揮ステージ」に分けるなど、仕事ベースの考え方を取り入れたものの、半ば自動的に昇格する部分もあった。これを、定年引上げ後は、評価に応じて昇格する仕組みに改めた。

定年引上げの背景

同社は、2017年4月、労働条件全体を大きく見直す中で、定年を65歳に引き上げた。
この背景には、自動車業界を取り巻く環境の変化と社員構成や社員ニーズの変化のほか、「Hondaフィロソフィー」がある。
国内の四輪市場は縮小傾向にあり、競争は激化している。自動運転の技術開発なども進んでいる。新たなビジネスモデルを構築していくことが必要だが、そのためには、社員一人ひとりの生産性を上げていかなければいけない。「人」総合力強化のため、労働条件を総合的に見直すことが必要になったのである。
一方、「Hondaフィロソフィー」は基本理念、社是、運営方針からなるが、運営方針の中に、「常に夢と若さを保つこと」という文言がある。もともと、社として、年齢にかかわらずチャレンジできる職場をつくっていこうという考えがあった。
2013年より、労使で検討を開始し、3年がかりで、①定年の引上げや在宅勤務制度の新設など安心して仕事に専念できる環境を整備することや、②仕事・成果・発揮能力に応じて処遇を充実・適正化させていくこと、③育児・介護手当を充実させること、その一方で、④時間外割増率については見直しを行うこと-などの方針を決めた。
これらのうち、定年の引上げは、高齢社員のやる気を引き出し、年齢にかかわらず活躍してほしいとの経営サイドの思いと、年金の支給開始年齢が引き上げられる中、安心して働き続けたい、という社員の思いから、実現に至った
同社では、それまでは、60歳で定年を迎えた後は、希望者全員を65歳まで継続雇用していた。しかしながら、継続雇用下では、賃金が59歳時に比べ、ほぼ半減してしまうため、社員のモチベーションの維持に課題があったのである。
総合的な労働条件の見直しが行われる中では、処遇の充実・適正化や手当の見直しも行われた。育児介護手当を充実させる一方で、昇格の方法を見直したり、世間相場より高かった時間外手当の割増率を見直すことなどを決めた。これによって、定年引上げの原資を捻出して総人件費の増加を抑えることができたため、59歳以前の賃金カーブの見直しは行わないこととした。
労働条件全体に影響する大きな見直しであったことから、2016年初めの段階では、総論では賛成だが、各論では賛成できないという社員も少なくなかった。若手社員の中には、定年は先の話であり、生涯賃金は増えるにせよ、時間外手当の割増率が減るのは望ましくないという声もあった。
制度改定について説明することの必要性を感じた同社では、その後、人事部の社員が手分けして、国内・海外の全事業拠点を訪問し、社員への説明会を250回以上開催した。平行して、労働組合執行部も、組合員の理解促進に向け、積極的に働きかけを行った。労使が力を合わせ、現場を巻き込みつつ、制度改定を進めたのである

定年制度の内容

社員への説明に時間をかけたため、当初目指していた2016年よりは少し遅れたものの、2017年4月に、65歳に定年が引き上げられた。
対象者は、2017年4月2日以降に65歳に達する管理職を含む正社員である。
引上げにあたっては、60歳から65歳の間で定年退職時期を選択できる選択定年制とした。具体的には、55歳時点で定年退職時期について意向を確認し、59歳時点で具体的な時期を決定する。その後も年1回、変更の申告を受け付けており、定年退職日まで1年以上ある場合は、定年退職時期を変更することも可能である。
定年退職日は、誕生月の月末のほか、その半年後の月末とすることができる。すなわち、60歳、60.5歳、…64.5歳、65歳と11通りの中から選ぶことができる。
これまでのところ、65歳での定年を選択した者が約6割と大部分を占める。これに、公的年金の支給が始まる63歳を選択する社員が続く。
なお、定年引上げ後の継続雇用制度は設けていない。

60歳以降定年までの役割・処遇

定年引上げ前、一般社員は、定年後、継続雇用社員として、1年ごとの有期雇用契約となった。基本的には、59歳時点の職務を継続するものの、決裁的な仕事を担うライン長の業務からは外れ、海外出張・出向はできなくなるといった制約があった。賃金水準は59歳時点の約50%となった。
定年引上げ後は、59歳時点と同じ職務につき、海外出張や出向なども可能となった。賃金水準も59歳時点の約8割に引き上げられた。
一方、役職者については、定年引上げ前は、60歳で定年を迎えた後、「シニアエキスパート」として継続雇用され、スタッフとして技能伝承や研究など専門性の高い業務を担当していた。給与は、役職者の下位等級のランクの半分であった。
定年引上げ後は、新たに60歳で役職定年が導入され、60歳以降は「准役職者」という位置づけとなる。部下を持たなくなり、役職からは外れるが、引き続き「現役」として働くことを期待される。必要な場合は、海外を含めて転勤の対象となる。賃金は、准役職者としての格付テーブルとなる。
同社の現役社員に対する評価制度は、実績・行動に基づき6段階(S、A、B1、B、B2、C)で行われる、定年引上げ前は、継続雇用社員に対しては、3段階(A、B、C)で評価し、結果を賞与には反映していたものの、賃金への反映は行っていなかった。
定年引上げ後は、60歳以降も6段階評価とし、成果に応じて、賃金や等級にも反映できる仕組みとした。

退職金の見直し

定年の引上げに伴い、退職金制度も見直した。それまでは確定給付年金のみであったが、確定拠出年金を導入し、1割程度を確定拠出年金に移行するとともに、ポイント制を導入することとした。また、退職金カーブの頂点を60歳から65歳とした。
65歳で定年退職する場合、支給時期が5年後ろ倒しになるが、もともと一定年数以上は頭打ちとなる仕組みであったこともあり、支給額は変えなかった。
60~64歳での定年を選択した場合は、65歳で定年退職する場合に比べ、支給総額が下がらないよう、差額分を一時金として支給する。

高齢社員を活用するための工夫

「役職者節目研修」の実施

同社では、59歳になり、定年退職時期の最終申告を行った役職者を対象に、「役職者節目研修」を実施している。研修では、これまで身につけた能力を棚卸しした上で、今後のキャリアを考えるほか、役職を外れて年下の上司のもとで働く際の心構えについても学ぶ。

定年引上げ以外の主な見直しの内容

同社は、定年引上げだけでなく、労働条件を総合的に見直した。手当についても、その必要性を改めて精査し、現状に合わなくなったものを見直す一方で、必要なものについては、拡充した。主なものは、以下のとおりである。
① 家族手当から育児・介護手当へ
従来の家族手当は、家族を扶養するための費用の補填という位置づけであった。しかしながら、共働き家庭や育児や介護を抱える員が増加する中で、時代に合わない部分が出てきた。このため、2016年10月より、家族手当を廃止し、育児・介護手当を新設することとした。
家族手当では、一人目の扶養者に16,000円、二人目以降4,800円を支給していたが、育児・介護手当では、18歳未満の子供や介護認定を受けた扶養親族一人につき、人数の制限なく、20,000円を支給することとなった。
② 時間外割増率の見直し
同社では、制度改定前は、時間外割増率を、他社に比べ、高めの水準に設定していた。
具体的には、30時間まで35%、30時間超を40%としていたが、制度改定後は30時間まで30%、30時間超35%に引き下げた。その一方で、45時間を超える区分を新たに設定し、これについては従来よりも高い水準とした。休日出勤時の手当についても、引き上げるなど、メリハリのあるものとした。
③ その他
このほか、国内出張の日当を廃止したり、事由を問わず単身赴任手当を支給することとするなど、各種手当の適正化を行った。

定年引上げ後の状況と今後の課題

定年引上げ実施後、まだそれほど時間が経過していないが、同社では、現在までのところ、好意的に受け取られているとみている。
同社は、制度改定に至るまでの間、労使で取り組むとともに、現場を巻き込み、丁寧に進めてきた。今後は、制度を確実に運営していくとともに、新たな課題の把握や現場の意見の聴取を進めていくこととしている。

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