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岩塚製菓株式会社

-定年引上げにより、熟練社員の大量退職回避に成功-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 賃金評価制度の改善

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  • 熟練技能者の確保・活用
  • 技術・技能の伝承
岩塚製菓株式会社 のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1947年
  • 本社所在地
    新潟県長岡市
  • 業種
    食料品製造業
  • 事業所数
    34か所

導入ポイント

  • 仕込み作業で熟練した技能をもつ高齢社員の大量退職を回避するため、定年を65歳に引上げ。
  • 従業員の状況
    従業員数 935名 / 平均年齢 41.2歳 / 60 歳以上の割合 (未入力)
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 60歳
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 基準該当者を70歳まで継続雇用
2017年03月31日 現在

同社における関連情報

企業概要

岩塚製菓は新潟県長岡市に本社を置く米菓製造業である。新潟県と北海道に5か所の生産拠点、全国11か所に支店、18か所に営業所がある。年間売上高は約220億円、社員数(単体)は2017年3月31日現在、935名となっている。平均年齢は約41歳、全体に占める60歳以上の者の割合は約10パーセントである。
近年の採用状況は、業績により変動しており、採用を行わない年度もある。2017年度の採用数は新規学卒者大卒6名、高卒21名、中途9名である。
採用後、大卒者は営業職、開発職、技術職、高卒者は製造職に配属する。ただし、採用後1年間は、研修期間として、全員が工場で勤務する。

定年引上げの背景

同社の人事労務管理制度を紹介するにあたり、社員の具体的な職務内容を説明するため、以下に会社の主要製品である「おせんべい」と「おかき」の製造工程を示す(図表1、図表2)。
3日から5日かかる製造工程は、大きく川上工程(原料の精白からねかせまでの仕込み)と川下工程(焼き上げや包装)に分かれる。川上工程では大規模な装置を運転し、最後は装置の分解洗浄作業も含めた24時間操業で力仕事もあるため、交代制(1班が12 ~13名の3班編成で3交替または4班編成で6勤2休制、1ラインに5名配置)の男性労働力が中心である。一方、川下工程は市場の需要に応じて生産量が変動するため、女性労働力を中心とした日勤や繁忙期の残業で対応している。

図表1 おせんべいの製造工程 図表1 おせんべいの製造工程
同社ホームページ掲載資料をもとに作成
図表2 おかきの製造工程 図表2 おかきの製造工程
同社ホームページ掲載資料をもとに作成

川上工程と川下工程では求められる技能レベルも異なる。とくに川上工程では、ベテラン社員が、日々納入される原料米(うるち米ともち米)の微妙な品質の違いを勘案した上で製造装置の加工条件を設定している。作業に際しては、建屋の老朽化により、室内環境の完全な管理が難しいなか、気温や湿度を勘案して装置を動かすことも求められる。
この川上工程における仕込みの良し悪しで、製品の品質の8割が決まってしまうため、担当者に求められる技能レベルは高く、その知識や技能を積み重ねるにも時間と経験が必要となる。一方、川下工程の包装は高度な技能はそれほど必要ではない。
以前は、家内工業的色彩が強く、ひとつの工場内ですべての工程を扱っていたため、工場内の異動を通じて、各工程に通じることができた。しかし、今では、工程別に分業化が進み、工程横断的な技能形成が難しくなっている。
現在60歳代以上の社員は、家内工業的色彩が強かった時代に入社し、工程間の異動を通じて、様々な工程に精通しているだけでなく、各工程間の関連性にも知見を持っている。一方、各工程の分業化が進んだあとに入社した中堅社員や若手社員は、個別の工程には精通しているものの、ベテランの持つ総合的な知識や技能には及ばない。この点において、ベテランの高齢社員から中堅・若手社員にバトンタッチする際の技術の断絶が大いに危惧されたことが、65歳への定年引上げに至った背景である。
同社では、59歳までの社員は10段階の職能資格で処遇している。60歳以後は「エルダー社員」と呼称している。教育訓練制度としては、OJTの他に、新入社員研修、年3回のフォローアップ研修、階層別研修(一般社員向け、リーダー向け、管理職向け)を整備している。現状、高齢社員の戦力化に向けて導入している研修としては、定年後の生活設計や介護に関することを学ぶ「ライフプランセミナー」がある。

定年制度の内容

同社では2008年に定年を従来の60歳から65歳に引き上げた。その背景には製造部門に欠かせない熟練技能者を確保する必要があった。
定年引上げ前、同社が今後5年間の人員構成の推移をシミュレーションしたところ、製造部門を中心に200名近いベテラン社員が定年退職することが判明した。社長にとって、これらの社員は創成期からの労苦をともに分かち合ってきた仲間であり、一人ひとりの顔も覚えている。さらに、中堅社員や若手社員の及ばぬ技能的優位性を持つ高齢者が60歳定年により大量に退職することは、同社にとっては大きな痛手であった。
こうした経緯から、社長は65歳定年制の導入を決断しており、必ずしも人手不足の解消は主な目的ではなかった。
当時、60歳定年後は1年更新で65歳まで継続雇用する制度があったが、60歳で退職する者も多く、熟練労働力の確保という点からは不安定であった。定年引上げは、社員にとってメリットが大きいため、労働組合も賛成した。
同社が60歳以上の社員に求める役割は、59歳以前と変わらず、製造部門にいた社員は製造、販売部門にいた社員は販売で力を発揮してもらうことを求め、フルタイムで勤務してもらう。深夜勤務も65歳まで対象となる。部長経験者など2名は「総監」の肩書で特命事項を担当している。また、工場長経験者など製造畑出身の3名は「技監」という肩書で現場指導にあたっている。それぞれ、賃金とは別に月4.5万円の手当を支給している。
勤務時間は工程によって異なり、これを前提に勤務する者が多いため、他の工程への異動は好まれない。たとえば、「焼き上げ」工程の場合、早朝5時から勤務が始まり、14時には作業を終了する。その後は自宅で余暇を過ごす者が多い。
60歳以降の賃金は、59歳時点の7割を原則として、上限(約26万円)、下限(約17万円)を設定しており、全社的なベースアップがなければ据え置きとなる。賞与は4か月程度であるが、3段階で行われる人事考課(製造は勤務態度評価、営業は成績達成度評価)の結果が反映される。

継続雇用制度の内容

定年引上げ前における継続雇用制度は、60歳定年後、65歳まで嘱託として、1年ごとに契約更新する仕組みとなっていた。また、55歳以降の社員を対象とした「選択定年制」を導入していた。
退職後、嘱託としての賃金水準は、59歳以前の70%程度であり、賞与は支給していなかった。
同社は社員に対し、「55歳以降はいつ辞めても会社都合退職になるのだから、とりあえず60歳まで働いてはどうか」と勧めていた。60歳定年到達時は、必ずしも全員が継続雇用を選択せず、農業やセカンドライフを楽しむため、会社を離れる者もいた。
定年引上げ後は、65歳以降の者を対象に、人事考課がB評価以上で、本人に働く意思があり、かつ、職場の上司が必要とした場合に継続雇用する。現在、10名が在籍しており、処遇は個別契約で、本人の希望する勤務形態も可能な限り反映し、フルタイムからパートタイムへの変更もある。

定年引上げの効果

同社における65歳定年制の導入は県内企業としては非常に早いものであった。しかし、定年の引上げが、新卒採用や中途採用に影響を及ぼしているとはみていない。もともと自社のベテラン労働力の確保が目的であったため、その点では十分効果があったと考えている。
65歳定年制の導入により、職場では上司と部下の年齢の逆転が生じているが、人事担当者まで報告されるようなトラブルもなく、職場内で適切に処理されているとのことであった。

同社製品

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