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日置電機株式会社

-段階的定年引上げを前倒しし、2017年から65歳定年制を導入-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 賃金評価制度の改善

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  • 将来の労働力不足への対応
  • コース別継続雇用
  • 柔軟な勤務時間制度
日置電機株式会社 のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1935年
  • 本社所在地
    長野県上田市
  • 業種
    電気機械器具製造業
  • 事業所数
    12か所

導入ポイント

  • 2013年から年金受給開始年齢に合わせ、段階的に定年を引き上げ、2025年に65歳とする予定だったが、2017年4月に前倒しで65歳定年制を導入。併せて、70歳までの継続雇用制度も導入した。
  • 従業員の状況
    従業員数 830名 / 平均年齢 42歳 / 60 歳以上の割合 約5%
  • 定年制度
    定年年齢 65歳 / 役職定年 有 / 期待する役割 同じ / 定年後の賃金体系 毎年10%ずつ漸減 / 戦力化の工夫 48歳から定年までの処遇の見直し
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 基準該当者を70歳まで継続雇用
2017年04月01日 現在

同社における関連情報

企業概要

日置電機は1935年創業、長野県上田市に本社を置き、各種電気計測機器の開発、生産、販売・サービスを行なっている。売上高は約200億円、社員数は約830名(うち男性620名、女性210名)、60歳以上者の比率は約5パーセント、社員平均年齢は約42歳である。
同社の主要製品である電気計測器は自動試験装置、記録装置、電子測定器、現場測定器の4製品群に大別される。電気計測器は産業のマザーツールと呼ばれ、電圧・電流・電力・抵抗に代表される、電気をはじめとしたあらゆる物理現象を測定するもので、電気工事・設備の保守点検、パソコンやスマートフォンに使われる電子部品の検査、電気自動車や太陽光発電のメンテナンスなどあらゆる場面で必要不可欠な機器である。
約300種類の製品はいずれも自社開発製品であり、オンリーワンの高付加価値製品として毎年30機種程度の新製品が発売される。競争力維持のため、営業部門が顧客ニーズを迅速に把握して開発部門にフィードバックして製品化、生産部門も生産技術を高度化し高品質・短納期・低コストで自社一貫生産している。このように同社は研究開発型の企業であり、社内に生産部門はあるものの、社員に占める研究開発スタッフの割合は高くなっている。全体の約3割が技術部門、営業や管理部門はそれぞれ約2割、製造部門は3割弱である。また、毎年20名から30名を採用するが、高卒は1割に満たず、社員は高学歴者が多い。
なお、これまでは長野県の企業というイメージが強かったが、東京証券取引所上場もあり、最近では全国区の研究開発型企業として県外からも認知されるようになり、採用状況は良好である。

定年引上げの背景と制度の内容

同社では1987年に55歳から60歳へ定年を引き上げた後、2005年には65歳までの継続雇用制度を開始、2011年には改正高年齢者雇用安定法を見据え、年金支給開始年齢に合わせ3年ごとの段階的引上げによる65歳定年制の導入を進めることとした。そこで2013年から61歳へ定年を引き上げた。
この間、売り上げの伸長もあり、今後労働力の不足も予想されることから、人材の一層の有効活用が求められるようになることも見込み、2017年4月に65歳定年制を前倒しし導入した。引上げ当初は、定年到達者は毎年10名程度と少ないものの、今後、徐々に増えていくことが予想され、2025年にはバブル期に大量採用した50代前半層が60歳を迎える。定年到達者が少ないうちに65歳定年制を導入したほうが混乱が少なく、かつ何か課題が生じたときも見直す余裕があると判断したことも制度導入の前倒しを後押しした。
徐々に若手に引き継いでいく部分はあるが、仕事の内容自体は、59歳以前と以後では変わらず、勤務形態もフルタイム勤務である。
同社では、定年の引上げに際し、60歳以降の賃金水準も引き上げた。旧制度では、60 ~ 65歳までの年収は定年まで段階的に漸減し、定年後は嘱託として、給与を再設定した上で、65歳まで一定額を支給することを想定していた。
一方、新制度では61歳に達する年度の4月から毎年10%ずつ漸減し、65歳時には50%程度となる。5年間の平均でみると、60歳時点の70%程度の水準となる。
制度改定前に継続雇用となった65歳以下の社員に対しては65歳定年が適用された場合の収入となるように差額を補填している。
定年引上げに伴い、従来60歳で支払われていた退職金は65歳で支給されることになった。退職金の計算式は、「基本給×勤続年数×支給率」となっているが、60歳以降に退職した場合でも、定年退職した場合と同じ最大係数で計算する。勤続年数の上限は、定年の引上げに伴い、35年から段階的に引き上げていたが、新制度では40年とした。
このように65歳定年制の導入は同社にとってはコストが増える一面もあるが、会社としてはむしろ将来の人手不足を考え、今のうちから社員のいっそうの戦力化を図るための布石と捉えている。したがって、若年者の採用を縮小する、現役社員の賃金カーブを抑制するといった「現場にしわ寄せする」方策は考えていない。

継続雇用制度の内容

同社では2005年から65歳までの継続雇用制度を設けており、2016年まで62歳だった定年の後は65歳まで継続雇用の機会(1年ごとの契約更新)が提供されていた。継続雇用者は社内では「シニアスタッフ」と呼ばれ、工場の効率化につながるアイデアを豊富に持つ生産技術者や製品開発ノウハウが秀でている技術者などが活躍している。継続雇用者を活用していた各部門からは、優秀な高齢社員には65歳以降も働いてもらいたいという要求が出され、個別事情に応じて本人と各部門の意向が一致すればそれを認めていた。
2017年からの65歳への定年引上げにより継続雇用制度も見直されることとなったが、個別契約ではなく、健康面含め一定の条件を満たした上で、70歳までの継続雇用を制度化した。社員に対して将来の安心感を与え、現在の業務に邁進してもらうためである。
70歳までの継続雇用を円滑に進めるため、同社では周到に準備を進めた。高齢社員を受け入れる各部署では今まで在籍者のいなかった65歳超の人々に与えられる仕事があるのか、また、彼らの意欲は問題ないのかといった不安があった。そこで人事部が部門長と話し合いの機会を持つなど啓発に努め、不安解消を図った。
また継続雇用の対象となる本人も不安や要望があるが、職場と定年退職者の間に入って両者の要望を聞き、マッチングする担当者を人事部内に専任で配置した。
今回改正された継続雇用制度は1年ごとの契約更新である。本人の持つスキルに応じて4つの業務種別とし、それぞれに応じて給与水準は異なる。種別は高度なものからa(技術や高度スキル保有者)、b(業務特有のスキル保持者)、c(技能・専門スキル保持者)、
d(一般的な技能スキル保持者)となる。また、高齢社員のニーズに応じた4種類の勤務形態(通常勤務週5日、1日6時間の短時間勤務週5日、短日数勤務週4日、短日数勤務週3日)を用意している。なお、継続雇用者は人事考課の対象であり、賞与が業績連動賞与として考課に応じて支給される。
なお、継続雇用されるためには条件があり、①健康の基準(人間ドックの結果の基づき必要な診察や治療を適切に受けていること、職務上必要な視力・体力が許容限度内にあること)、②能力・意欲の基準(会社が求める業務遂行基準に達しており、業務態度から遂行意欲が水準に達していること)が求められる。

48歳から定年までの処遇の見直し

同社では、定年引上げ開始に先立つ2012年4月から、48歳以降の賃金制度を見直している。同社の基本給は、能力給と年齢給で構成されるが、従前の制度では、年齢給は47歳まで自動的に昇給し、それ以降は頭打ちとなった。さらに55歳以降は毎年処遇を見直していた(図表1)。
こうした制度は社員のモチベーション低下につながっていたことから、2012年4月には定年引き上げを視野に48 ~ 55歳までの支給水準を引き上げるとともに、人事考課の結果に応じて、昇給を可能な仕組みとした。さらに今回の新制度では55 ~ 59歳についても、それ以前の賃金水準を維持、あるいは人事考課によっては昇給するようにした。

図表1 48 歳~定年までの処遇のイメージ(見直し前と見直し後の比較) 図表1 48 歳~定年までの処遇のイメージ(見直し前と見直し後の比較)
同社提供資料より作成

今後の課題

同社の定年引上げの目的は自社の競争力向上に向け、現有人員、特に経験豊かな高齢社員をより長い年数で活躍してもらうことにある。65歳への定年引上げ、70歳までの継続雇用、それに伴う処遇改善は会社にとってコスト増であるが、社員が将来の展望を抱きながら安心して職務に従事できることが、自社の業績向上につながると会社では考えている。同社ではこれまで以上の企業成長でコスト増を吸収しながら高齢社員活用を進める方針である。
とはいえ、高齢社員の体力低下等による職務遂行能力の低下の恐れ、病気等の健康リスク、また、家族介護による突然の退職も考えられる。一方、65歳以降の働き方について、現状では新制度が適用された3名全員が週3日勤務を選択し、フルタイム勤務が求められる部署での活用が可能かという問題を提起している。
"また、60歳以降の役割について、会社は後継者育成などに力点を置いて欲しいと考えているが、その意識が希薄であったり、「まもなく定年」と漫然ととらえるケースもある。従来は会社や管理職が高齢期に求められる役割について強調してこなかったが、研修等を通して本人の意識改革、特に65歳まで働くことへの発想転換を図る必要があると会社では考え、定年前の者を対象としたキャリアセミナーの定期開催を計画している。"

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