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富士特殊紙業株式会社

-高齢社員の技能により、食品パッケージへの水性グラビア印刷技術開発に成功-

  • 戦力化の工夫

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  • 熟練技能者の確保・活用
  • 技術・技能の伝承
  • 継続雇用者への肩書の付与
  • 柔軟な勤務時間制度
富士特殊紙業株式会社 のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1950年
  • 本社所在地
    愛知県瀬戸市
  • 業種
    印刷・同関連業
  • 事業所数
    9か所

導入ポイント

  • '定年によるベテラン技術者の退職を防ぐため、1994年に66歳定年制を導入。
  • ベテラン技術者の力を借りて、2003年食品パッケージへの水性グラビア印刷技術の開発に成功。
  • 従業員の状況
    従業員数 582名 / 平均年齢 約39歳 / 60 歳以上の割合 10.4%
  • 定年制度
    定年年齢 66歳 / 役職定年 有 / 期待する役割 後継者育成 / 定年後の賃金体系 約8割 / 戦力化の工夫 柔軟な勤務制度
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 無 / 内容 該当せず
2021年05月12日 現在

同社における関連情報

企業概要

富士特殊紙業は、1950年にキャラメルなどを包装する「ロウ紙」(パラフィン紙)のメーカーとして、静岡県富士市で創業した。その後、愛知県に移転、瀬戸工場などでプラスチックや紙を使った食品パッケージを製造している。売上高は年間約150億円である。
同社の強みは、高い技術開発力に支えられた印刷技術である。印刷業界では、有機溶剤を使用した油性グラビアインキによる印刷が主流であるが、これに使用する洗浄剤、インキ等の資材には様々な化学物質が含まれている。このため、その成分の有害性や臭気が社員に対し、健康被害や劣悪な職場環境をもたらす恐れがあった。
そこで、同社が着目したのが、臭気が少なく、人体に優しい水性インキを用いた水性グラビア印刷だった。
しかし、この水性インキは、食品パッケージなどによく使われるプラスチックフィルムに印刷することは難しく、同社が開発する以前は、技術として確立されていなかった。
同社は1996年に社内プロジェクトを立ち上げ、水性グラビア印刷技術の開発に取り組んだ。
その中で中心的な役割を担い、開発を成功へと導いたのが1994年の定年引上げによって、社内に留まることとなった高齢のベテラン技術者たちだったのである。

社屋外観

定年・継続雇用制度の内容

66歳定年制の導入

1994年、同社は、それまで60歳だった定年年齢を66歳に引き上げた。
その背景には、当時、発展途上段階にあった水性印刷技術の開発と社内の若手社員に対する技術指導を担っていた熟練技術者・技能者を定年で失いたくなかったことがある。
また、中京圏においては、地元有力企業が採用を有利に進める中、他社より一歩先んじた人事労務管理制度を導入し、人材確保に役立てたいとの考えもあった。定年を引き上げる際に、65歳でなく、66歳としたのも、この考えによるものであった。
同社の役職定年は61歳である。以降は「参与」などの肩書を与え、後継者育成などに重点的に取り組んでもらうこととしたが、それまでと役割が変わることから、新しい任務の重要性を丁寧に説明し、新たな役割を十分理解してもらうようにしている。
定年引上げに伴い、賃金制度も見直し、61歳以降66歳まで、基本給は61歳時点と同じ水準を66歳まで維持することとした。ただし、役職手当が減額されるため、年収は1割ほど低下する。

前払い退職金制度

同社のユニークな制度として、「前払い退職金制度」があげられる。これは定年時に支給される退職金を分割し、35歳、45歳、55歳、そして定年退職時の66歳の4回に分けて支給するというものである。勤続3年以上の社員が対象である。
最初の3回は税法上、退職所得控除を受けられないため、手取額は少なくなるが、マイホーム取得や子供の大学入学費用などライフステージの各段階で必要な費用がまかなえることから、社員には好評である。「次の退職金支給までまたがんばろう」という意欲向上にもつながっている。同社側にとっても、定年時に支払う金額が減るため、引当金負担が軽いという財務的メリットがある。

継続雇用制度

同社では、66歳定年後の継続雇用制度は定めていないが、必要な人材については、定年前に打診し、了解を得たうえで、継続雇用している。雇用契約期間は、半年または1年で、必要に応じ、契約更新する。現在、13名の継続雇用者が働いている。
処遇については、時給制の場合もあれば、月額の報酬を取り決めている場合もある。高い技能を持つ高齢社員を定年後も継続雇用し、後継者への技能伝承を行わせている。

高齢社員の活躍

定年引上げにより社内に留まったベテラン技術者たちは、水性グラビア印刷技術の開発に大きく貢献した。
水性インキは、臭気が少なく、人体に優しい一方で、フィルムに定着しにくく、乾燥するのに時間がかかるという欠点がある。
この欠点を克服し、食品パッケージに水性インキで印刷をすることは、同社の長年の夢であった。何とかこれを実現したい、との思いから、同社は、1996年、社内にプロジェクトを立ち上げた。経営トップも、このプロジェクトには力を入れ、フィルム、インキなどのメーカーとともに、技術開発に向け、粘り強く取り組んだ。
熟練技能を有する高齢社員たちもこれに加わった。同社には、過去にも新素材にインキをうまく載せるために、インキの載せ方や乾かし方を工夫し、これを成功させた経験があった。この経験を、水性グラビア印刷技術の開発に活かそうとしたのである。
インキの扱いに詳しい高齢社員たちの力を借りつつ、試行錯誤を繰り返した結果、印刷の際のドットを小さく、浅くすることで、インキの量を減らし、乾きを早くするという技術を開発した。
さらに2003年に、世界で初めて、国産の水性インキ専用の印刷機を完成させた。
現在、同社は、業界で唯一、水性インキで食品フィルムに印刷して包装資材を提供できる企業となり、多くの関連特許も保有している。(一社)健康ビジネス協議会の「水性印刷商品認証制度」も取得し、環境に配慮した企業として広く認知されている。
こうして、プラスチックフィルムへの水性グラビア印刷技術の開発に成功したが、現状では、まだ改良の余地がある。水性インキでは一部外気や日光を遮断するフィルムとの接着強度が十分とは言えないケースもある。
こうした技術開発の業務は、苦労も多いが、「どこの会社でもできないこと」にチャレンジし、「うちの会社しかできない技術」を発することは、社員の誇りでもあるという。「自分の人生をかけられる会社」という認識にもつながっている。

水性グラビア印刷による印刷例

高齢社員を活用するための工夫

柔軟な勤務制度

同社では、60歳以降も、戦力として期待されており、フルタイムで働くだけでなく、製造現場では交替制勤務などもある。
その一方で、個々の状況に応じて、問題なく働けるような配慮も行っている。
高齢社員だけでなく、一般社員も対象で、例えば、家族の介護を行う者、健康面で問題がある者については、申告があれば、交替制勤務から外し、昼間のみの勤務とするなどの柔軟な対応を行っている。
作業を行ううえでの負担に対する配慮も行っている。

身体的負荷の軽減

印刷済みのプラスチックフィルムのロールを扱う製品梱包作業でも、多くの高齢社員が働いているが、フィルム構成の中にはアルミ箔が使用されていることで重量があり、持ち上げることが大変なものがある。このため、補助器具を導入し、負担軽減を図った。これにより、高齢社員の負担が軽減されただけでなく、女性や障害者でも業務を担当することができるようになった。

マンツーマン指導制度

同社では、目標管理制度と組み合わせたマンツーマン指導を行っている。
期首に上司と部下が半期の目標を設定し、その内容を工場内に社員の顔写真付きで貼り出す。周囲に目標を公言することになるので、本人も強く自覚するようになる。
そのような中で、各現場では、先輩社員が若手社員にマンツーマンで教育する
インキの量を数滴単位で調整する方法や、当日の湿度や温度に応じた機械の操作、インキを掻き取る刃の角度や置き方、印刷するフィルムを装置へ張る「テンション」の技法など、熟練技能者が日ごろの作業で何気なく行っていることを、実際にやってみせながら、若手社員に伝承している。
70代の高齢社員が10代の若手社員に技能伝承しているような例もある。

事業所内保育所の設置

同社では2017年4月より事業所内に保育施設を設置している。同社社員の子供はもとより、継続雇用者やパートタイマーの孫も預けることが可能となったことで、より長く働けるようになった。

OB会の開催

年に数回、定年退職者を中心としたOB会「富嶽会」を開催しており、現役社員の参加もあって盛況である。同会では、現役社員はOBから仕事に役立つ様々な話を聞けるだけなく、自分の将来の姿を重ね合わせることができ、将来の安心感につながっているという。

今後の課題

前述のとおり、同社では事業環境の変化に対応した技術開発に取り組んでおり、従来にも増して、熟練技能者・技術者の活用が求められる。今後は定年を70歳に引き上げることも検討しており、高齢社員が60代後半になっても、高い意欲を維持したまま、活躍できる雇用環境の整備が課題となっている。

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