株式会社ウイング神姫
-シニア正社員制度を創設し、継続雇用時の処遇を改善-
- 70歳以上まで働ける企業
- 戦力化の工夫
- コンテスト入賞企業
- 高齢社員のモチベーション向上
- 高齢社員の役職への登用
- 職域拡大・職場創出
- 安全・健康管理

企業プロフィール
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創業1996年
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本社所在地兵庫県相生市
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業種道路旅客運送業
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事業所数3か所
導入ポイント
- 60歳以降の社員のモチベーション低下を防ぐため、2017年に「シニア正社員制度」を創設。
- 60歳定年後65歳まで契約更新なしに継続雇用。定年到達時に近い賃金水準で賞与も支給。
- 高齢期の身体機能の低下に対応し、コミュニティバスの運転など新たな職務を用意。
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従業員の状況従業員数 201名 / 平均年齢 53.6歳 / 60 歳以上の割合 29.9%
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定年制度定年年齢 60歳 / 役職定年 有 / 戦力化の工夫 シニア社員制度の創設
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70歳以上継続雇用制制度の有無 有 / 内容 希望者全員を70歳まで継続雇用
同社における関連情報
企業概要
令和4年10月1日より旧神姫グリーンバス、旧ウエスト神姫が合併して新たに株式会社ウイング神姫が発足しました。 当記載内容は、合併前のウエスト神姫の内容になります。
ウエスト神姫は兵庫県を地盤とする神姫バスの子会社である。乗合バス、貸切バスの運行を行っており、地域の足としての重要な役割を果たしている。
設立当初は16名のみで、大型路線バス中心の会社としてスタートしたが、2017年に、宍粟(しそう)市の公共交通再編に伴い、市内に126ある地域自治会をくまなく回る小型のコミュニティバス事業を行うこととなった。これが追い風となり、現在は、140台近いバス車両を有し、社員数も200名を超えるまでとなった。
だが、運輸業界の例にもれず、同社においても、若年者の採用は困難であり、新規採用者の多くは50歳を超えていた。このような中、高齢者をいかに戦力化していくかが課題となっており、様々な取組みを行ってきた。
同社では、女性活躍推進法に基づく一般行動計画を作成し、女性ドライバーの活躍推進や、有給休暇取得促進にも力を入れており、2016(平成28)年度には、「ひょうご仕事と生活のバランス企業」として表彰されている。
制度改善の背景
高齢者の戦力化が課題となる中で、同社は、2014年、厚生労働省の委託事業である「地域別生涯現役社会実現モデル事業」に応募し、近畿地区のモデル事業に選ばれた。この事業は、①定年制の廃止、②70歳以上の定年制の導入、③70歳以上までの継続雇用制度-のいずれかを導入する企業に対し、厚生労働省の委託を受けた産業雇用安定センターが支援するというものである。
当時、同社では、定年を60歳としており、定年後は嘱託として67歳まで1年更新で継続雇用していた。
社員一人ひとりに対し、高齢期の働き方について意見を聞いたところ、大半が「70歳まで働きたい」と考えていることが明らかになったことから、継続雇用の上限年齢を70歳に引上げた(図表1)。
しかし、定年後、賃金が大きく減額されることによるモチベーションの低下や1年ごとの契約更新という雇用の不安定さが依然課題として残っていた。
そこで、同社では、モデル事業終了後も、65歳までの定年引上げを視野に入れ、労使で検討を進めた結果、後述する「シニア正社員制度」の創設に至った。

継続雇用制度の内容
継続雇用制度
同社では、60歳に達する日が属する月の月末に定年を迎える。さらに、社員が希望する場合は、引き続き70歳まで継続雇用する。
具体的な仕組みは、以下のとおりである。
- 定年を迎える半年前に、継続雇用を希望する社員は、「再雇用(継続雇用)に関する調査書」を提出する。調査書には、継続雇用を希望する旨のほか、継続雇用時の勤務日数、勤務時間、職務内容についての希望も記載する。
- そのうえで、「健康状況自己申告書」を提出する。
- 所属長は社員と面談し、「継続勤務援助計画書」を作成する。
- 定年の1か月前に、所属長と継続雇用希望者とで再度面談を行い、60歳以降の雇用契約内容を確認する。
- 以降、1年ごとに継続雇用の評定基準に基づき、契約を更新する。
シニア正社員制度の創設
継続雇用制度に加え、2017年4月より、新たにシニア正社員制度を設けた。
これは、本人がシニア正社員になることを希望し、かつ家族も同意した場合、60歳定年後65歳までの間、シニア正社員に登用し、契約更新なしに継続雇用するというものである。
シニア正社員には、定年到達時に近い水準の月給に加え、賞与も支給する。また、定年前に役職者だった場合、60歳以降も役職を継続する。さらに、60歳以降に、新たに役職とすることができるよう、任命基準も改定した。
2019年1月よりシニア正社員の登用を開始する。
高齢ドライバーのための新たな職場の開拓
同社では、路線バスに乗務させるのは、60歳前後までと考えている。路線バスは、午前5時から午後11時まで毎日、運行しており、交替勤務となることから、体力的な負担が大きい。さらに、ラッシュ時には、定員いっぱいの乗客を乗せ、安全運転と定時運行を両立しなければならないというプレッシャーも伴う。
このため、同社では、高齢ドライバーには、コミュニティバスのドライバーなどに転向してもらっている。コミュニティバスの乗務は午前6時半から午後7時までと、路線バスに比べてかなり短く、かつ平日のみの運行である。また、車体が小さいため、運転に伴う負担も小さい。
このほか、運行管理者補助者に異動するケースもある。運行管理者補助者の職務内容は、各事業所における、バスの出庫前のドライバーへの点呼や健康状態の把握である。

高齢社員を活用するための工夫
新規採用者の育成
同社は、50代以上の者を含め、幅広い年齢の者を採用している。年齢だけでなく、経歴も様々で、中にはドライバーとしての勤務経験がない者や、バス業務に必要な大型二種免許をこれから取得するという者もいる。
そのような社員に対しては、年齢にかかわらず、入社後2か月間の集合研修を行い、さらに2か月間、先輩ドライバーの直接指導により実技を学ばせている。
安全衛生管理
2014年より、継続雇用した高齢社員に対しても、人間ドック並みの血液検査や大腸がん検査など、法定の項目を超える健康診断を実施している。さらに、2017年には、脳ドック検査、心疾患検査も実施している。
また、健康であっても、加齢によって身体機能は低下するため、安全に運転をしてもらうためには、見え方や反応速度など身体能力の低下を意識してもらうことが重要である。
このため、60歳以上の高齢ドライバーが安全に運転業務につくことができるよう、独自のチェックリストを作成し、その結果を用いた研修を開催している。研修では、神姫バスの安全監理官を講師として、各自がチェックリストに回答した結果をもとに、どのような点に気をつける必要があるかについて議論する。
さらに、兵庫県立大学と共同でドライバーの健康や疲労に関する調査を行い、その結果をドライバーにフィードバックするほか、疲労や腰痛を防ぐための正しい運転姿勢の講習も行っている。
仕事と介護の両立への対応
社員を対象にアンケート調査を実施したところ、家族の介護で悩んでいる者が多いことが明らかとなった。このため、同社では、仕事と介護の両立に向け、管理者を対象に、無理なく柔軟な勤務シフトを作成するためのセミナーを実施したほか、社内に相談窓口を設けた。
職場環境の整備
同社では、環境の整備にも取り組んでいる。
社員に対するアンケート調査結果をもとに職場を点検したところ、屋内車庫が薄暗い、車両のヘッドライトの照度が低いといった問題点が明らかとなった。
これに対し、車庫の照明をLEDに変えたほか、車両のヘッドライトを照度の高いものに取り替えるなど改善を図った。
さらに、社員の健康の維持・促進の観点から、物置部屋を改修し、横になって休める畳敷きのスペースやトレーニングマシーンを備えた休憩室を新設した。

今後の課題
同社では、70歳まで働ける環境を整備するための第一段階として、シニア正社員制度を導入した。
できるだけ多くの社員にシニア正社員として働いてもらいたいと考えている。
今後は、いかに高齢社員が無理なく働けるようにしていくか、そのためにいかに高齢社員向けの職域を開発していくかが課題となっている。