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株式会社加藤製作所

-工場の365日稼働に向け、60歳以上に限定した高齢者採用を実施-

  • 70歳以上まで働ける企業
  • 戦力化の工夫
  • 能力開発制度の改善

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  • 操業時間拡大への対応
  • 土日勤務への対応
  • 60 歳以上限定募集
  • 助成金の活用
株式会社加藤製作所 のロゴマーク

企業プロフィール

  • 創業
    1888年
  • 本社所在地
    岐阜県中津川市
  • 業種
    金属製品製造業
  • 事業所数
    該当せず

導入ポイント

  • 受注の急増から工場を365日稼働させることを決め、その要員確保のため、60歳以上に限定して高齢者を採用。
  • 従業員の状況
    従業員数 109名 / 平均年齢 35歳(正社員) / 60 歳以上の割合 50.5%
  • 定年制度
    定年年齢 60歳 / 役職定年 該当せず / 戦力化の工夫 モチベーションの維持、向上
  • 70歳以上継続雇用制
    制度の有無 有 / 内容 希望者全員を73歳まで基準該当者は75歳まで継続雇用
2017年06月01日 現在

同社における関連情報

企業概要

加藤製作所は、1888年に農耕具を製造する鍛冶屋「かじ幸」として創業した。現在は岐阜県中津川市で、プレス・板金部品を製造する。絞り加工、曲げ加工、順送加工など多彩な加工技術が同社の強みである。特に一枚の鉄板を水圧(対向液圧プレス)で立体的に成型する絞り加工には定評がある。
2017年3月現在の製品別売上比率をみると、家電用電気器具部品が54%、自動車部品が31%、航空機部品が5%住宅エクステリア関連が3%、環境関連部品が1%、その他が6%となっている。
2017年6月1日現在の社員数は109名。うち、過半数(55名)を占めるのが、「キャリア社員」と呼ばれる60歳以上の非正規雇用の社員である。55名のうち35名は60歳以降に新規採用した社員で、残る20名は同社で定年を迎えた後、継続雇用された社員等である。
同社では60歳以上に限定したユニークな採用を行っている。2001年に募集を開始した当初は100名以上から応募があり、14名を採用した。近年では法律で高年齢者雇用確保措置が義務づけられた影響で、以前よりは採用は難しくなっており、応募者も65歳以上の者が多くなっている。近年の採用実績は年5人程度である。
一方、新卒者についても、大学、専門学校や工業高校の卒業生を毎年2名程度採用している。

60歳以上に限定した採用の実施

背景

2000年頃、同社ではバブル崩壊後だったにもかかわらず、受注量が増加し、工場の稼働率が追いつかない状況あった。時間外労働や休日出勤で対応しようとすれば、人件費を圧迫してしまう。そもそも、工場は住宅地に近いため、夜間の操業は困難であった。
加藤景司専務(当時・現代表取締役)が考えたのが、土日の操業であった。だが、地元の若者は名古屋で職を見つける者が多く、主婦層も土日は家事等で忙しい可能性が高い。
そこで、加藤氏が目をつけたのが高齢者である。ちょうどその頃、加藤氏と親交のあった大学教授が市内の高齢者を対象にアンケート調査を実施した。その調査結果では、就労していない60歳以上の高齢者の割合は53%で、そのうち就労を希望する者が17%もいたのだ。
経営会議で提案したところ、「高齢者に働かせるのは危険ではないか」「長続きしないのではないか」との否定的な意見も見られたが、まずはやってみようと高齢者の採用に踏み切った。

採用の実施

同社が「60歳以上」に限定したパート社員の募集を開始したのは、2001年2月のことである。「土曜・日曜はわしらのウイークデイ」というキャッチコピーを入れた求人広告を新聞に折り込み、2万部配布したところ、最終的に100名を超える応募があった。
居心地よく、長く働いてもらうことが重要と考え、人柄重視で選考した結果、製造業務未経験者ばかりが残った。
高齢社員を雇い入れるにあたっては、バリアフリー化が不可欠と考えた。冷暖房設備の整備、視力が低下した高齢社員の負荷を軽減するための半自動の箱詰め機の導入、職場ごとの休憩室の設置、溶接作業時の煙対策など計3,000万円を要した。このうち、約2,000万円は、当時、同社を訪れていた高年齢者雇用アドバイザーの助言により、「高年齢者職場バリアフリー助成金」でまかなった。
高齢者、障害者など就職が困難な者をハローワークなどの紹介で、継続して雇用する事業主に支給される「特定求職者雇用開発助成金」も活用した。

高齢社員の育成

2001年に採用した高齢社員はいずれも製造業務の経験がなかったことから、一から作業を教える必要があった。
男性社員には主にプレス作業、女性社員には組立作業を担当してもらうことを決めた。
就業前の研修では、工具の名称、作業場の清掃や使用後の工具の置き場所、保護具の着用手順といった基本事項を徹底的に指導した。その上で、高齢社員一人ひとりに現役社員を複数名付け、約10日間かけて指導した。指導においては、材料への手の添え方、道具の使い方などを手取り足取り教えた。
最初は定型業務の中でも、製品の箱詰め、ナットの溶接などあまり高い技術がいらない作業を任せ、慣れるにしたがって、難易度を上げていった。
当初は製品名や工具の名称を覚えるのに苦労していたものの、3か月を経過する頃にはサポート役が一人でも十分になるまで成長した。

求める役割

同社では、高齢社員を「現役社員のサポーター」と位置づけ、現役社員の指示に従って作業できる程度の技能水準を求めている。ただし、本人の能力・意欲によってはさらに高度な作業を任せることもある。
高齢社員の大半はモチベーションが高く、中には自主的に担当業務のリスクアセスメントや生産性の分析を行い、上長に進言した者もいる。一方で、若い時のように根を詰めて働きたくないという者も一部にはみられる。
同社としては、高齢社員の管理について、「居心地よく働いてもらうことが大事。現役社員のような厳格な管理ではやる気を失ってしまうリスクもある。とはいえ、製品の品質等、大事な部分はしっかり管理していきたい」と考えている。

処遇

高齢社員の賃金は時給制である。採用開始当初は、地域の平均的な水準を考慮して、一律に時給800円とした。現在は、年齢や仕事内容、経験を考慮して昇給を行っている。
賞与は支給しないが、会社の業績に応じて報奨金を支給している。

評価制度

同社は、後述するとおり、社員全体について、各工程における保有技能の水準を「スキルアップ教育記録」で管理しており、高齢社員も対象となっている。ただし、現役社員と異なり、技能の習得状況を賃金には直接反映していない。

勤務日数・時間

勤務日数・時間については、年金の受給額に影響しないよう配慮して決めている。「各社員の生活に合わせて、無理なく働いてもらう」との方針で、土日の昼間だけ2時間働く者もいれば、月曜日から木曜日の8—16時までフルタイムで働く者もいる。

定年・継続雇用制度の内容

同社では、60歳を定年としている。60歳以上に限定した採用を開始した2001年当時、定年退職者のうち、一定の条件を満たす者を継続雇用していた。だが、60歳以降で採用された高齢社員との公平性の観点から、運用上、継続雇者、新規採用者とも希望者全員73歳まで継続雇用することとした。
73歳を超えても本人が希望すれば引き続き雇用する。雇用上限年齢を73歳とした理由は、後期高齢者となる一歩手前の年齢でこれまでの経歴を振り返り、今後の進退を会社と相談して決めて欲しいとの意図からである。
定年を迎えた社員は、60歳以降に採用された高齢社員とともに「キャリア社員」と呼称しており、半年ごとの雇用契約となる。
継続雇用者の賃金水準は現役時代からの経験を考慮して新規採用者との間で差を設けている。

高齢社員を活用するための工夫

モチベーションの維持・向上策

高齢社員に10のことを身につけてもらうためには、 10以上言う必要がある。しかし、プライドを傷つけないよう、注意するときは人前ではなく、一対一で、責める口調にならないよう配慮した。一方、ほめるときは他の社員にも聞こえるように誉めるよう心がけている。
同社では、毎年、賞与の時期に現金を手渡す「支給式」を実施している。高齢社員には、業績に応じた報奨金を支給しているが、その際、併せて、各自の「努力の度合い」を記載した「通知表」を渡している。

作業環境の改善

同社では、改善提案制度を設け、安全、品質、生産など会社に関する改善提案を毎月1件以上、社員に義務づけている。「のうりょく委員会」という組織を設け、全社員から上がってくる提案の採否の判断をしている。高齢社員からは職場環境の改善を要望する提案が目立つという。

社員全体に対する人材育成制度

同社ではヒューマンスキル向上のため、1989年から「駒場村塾」という社員教育制度を設けている。当初は、新入社員を対象に社会人としてのマナーや仕事への取組み方を教える場としてスタートした。現在は対象を全社員に広げ、同社の経営理念などを学ぶ場となっている。同制度を開始してから、離職率が低下したという。
他方、技能伝承の場として、「かじや学校」という制度を設けている。ベテランの社員が、マニュアルや作業手順書だけでは理解しきれない作業の勘所を伝授する。プレス作業、溶接作業などの分野別にカリキュラムを作成し、「工匠」と呼ばれるベテラン社員が座学と実技を指導する。
同社では、顧客からの多様なニーズに柔軟に対応できるよう現役社員に対しては、できるだけ複数の工程で作業できる多能工として育成する方針である。そのため、各社員について、作業分野ごとに技能の水準を上長が評価し、「教育記録」に記載する仕組みを設けている。技能水準は、レベル1からレベル5までの5段階となっている。レベル1は、「該当技術の経験なし」、レベル2は「経験があるが指導が必要」、レベル3は「指導しなくても指示すればできる」、レベル4は「一人で作業ができる」、レベル5は「該当技術に優れ、指導ができる。異常事態発生時に適切な判断ができる」となっている。
現役社員の場合、この水準が賞与の額や昇格と連動する。高齢社員の場合、育成の観点から「教育記録」による管理は行うが、賃金へは反映しない。

現在の状況

高齢者の採用を開始した当時は、収入よりも働きがいを重視して同社を応募する者が多かったが、現在は、収入を求めて土日以外も働くことを要望する者も増えたため、高齢社員のみの土日操業は行っていない。

高齢社員活用の効果

同社では、高齢社員を活用することで、売上げ・利益の向上、人件費の削減、雇用を通じた地域へ貢献など様々な面で効果があったと考えている。特に人件費の削減に関しては、最初に雇用した高齢社員14人分の総人件費は、現役社員の1.3人分程度であり、メリットが大きかったとみている。
高齢社員は仕事を覚えるのは遅いものの、粘り強く、作業が丁寧であることから、同じ職場で働く若手社員が作業に対するこのような姿勢を学べるというメリットもあった。

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